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異世界インスタ  作者: 五寸
第4章 狂宴のモンテローエ
73/117

プロローグ

 温泉。

 それは時代や種族、果ては世界すら越えてなお愛される、癒しの代名詞。

 疲労回復に美肌効果、さらには病気の療養となんでもござれなその存在は、そこから連想して綺麗な旅館や美味しい料理に風情ある街並みと、単語一つで幸せ空間へと誘ってくれる、まさに魔法。


 そんな癒しスポットがひしめき合う異世界の温泉街に、今宵あーしたちは湯治のために馳せ参じる事になった。あと冒険者稼業。


「いざ湯かん! 温泉街へーーーーー!!!」

「「おおーーーーー!!」」

「うるせぇなオイ」


 海岸での旅行計画、もとい次の拠点を決めた翌日。早朝のアルフィノエをそんなテンションで出発したあーしたちは、王都への道をやや東にそれて、温泉街へと続く道を馬車に揺られて進んでいた。

 

「いやー、温泉とか超久しぶりー。さすがのアルフィノエでもそこまではカバー出来てなかったしねー」

「代わりに海があるからな。むしろアレでも充実してる方だろ」

「全部を求めるのは贅沢。でも、こうやって自由に移動できるのは冒険者の特権」

「幹部じゃこうはいかないものねぇ。はぁ~辞めてよかったわぁ~」

「アハハ・・・」


 しみじみとした元幹部の呟きに乾いた笑いが漏れ出る。辞めるまでの経緯はアレとして、やっぱ幹部の仕事ってキツイんだろうか。


「魔王城にはそういう施設無いの?」

「あるわよぉ。露天風呂にエステ、バーに娯楽施設が各種族に対応できる数だけ置いてあるわぁ」

「へーすごいじゃん! ちょっと見てみたいかも」

「アカネちゃんらしいわねぇ。・・・まぁアタシは忙しすぎて全然使えなかったんだけどぉ」

「・・・なんかゴメン」


 遠い目をして語るネクに思わず謝ってしまった。もしかしてネクがエステとかマッサージが好きなのって、その反動だったりするんだろうか。・・・イヤなファンタジー事情だなぁ。

 そうしてちょっとどんよりしてしまった空気を打ち破るように、ゼルが前向きな話題に変える。


「んな事より、もっと幹部連中についての情報とかはねえのかよ」

「そういえば、魔王軍の幹部って全部で何人いるの?」

「今はどうか知らないけど、アタシを抜いて三人のはずよぉ」

「アイシア、バルバディア、イーライ、ネクリア。この四人が各部門の総責任者として、幹部の座に就いていた」

「部門? なにそれ仕事ってこと?」

「平たく言えばそうなるわねぇ」


 道中の暇つぶしがてら、ネクは思い出す様にして魔王軍幹部の事を語り始める。結構重要な話を暇つぶし感覚で聞いちゃってるなあーしたち。


「アイシアとバルバディアは戦闘部門。主に境界線付近での戦いに参加してるわねぇ」

「王都に来てたのもその二人だったっけ。アイシアは教えてもらったけど、もう一人の鬼みたいなヤツもヤバそうだったなぁ・・・」

「戦鬼バルバディア。オーガ種の魔物で、戦闘マニア。分かりやすく言うと、デカいゼルさん」

「なるほど」

「オイ」


 御者席から届けられた素晴らしく分かりやすい解説に、あーしは相槌を、ゼルはツッコミを返す。直に見たあーしとしてはこれ以上ないくらいしっくり来たんだけどなぁ。

 そんな考えを表情から見抜いたのか、ゼルはえらく真面目に反論してきた。


「俺様はマジック、ヤツはフィジカルだ。全然違うだろうが」

「そういう話してたんじゃないと思うよ」


 相変わらず締まらないゼルはスルーして、続きをネクに促す。


「黒騎士イーライ。彼の担当は魔王様の護衛よぉ」

「騎士って事は、こっちの騎士団と似たような仕事?」

「そうなるわねぇ。といっても、ほとんどは魔王様の身辺警護しかしないけどぉ」


 そう語りながら、何故かネクはうんざりした顔で大きくため息を吐いた。なんか嫌な事でも思い出したんだろうか。

 そうしてまたもどんよりしかけた空気を振り払うように、ネクはドヤ顔を浮かべて最後の幹部について語り始める。


「最後はアタシこと、ネクリアねぇ。主な任務は・・・」

「簡単に言うと雑務」

「ちょっとルビー!?」


 満を持して自分の輝かしいキャリアを語ろうとしたネクの言葉を、ルビーちゃんの無慈悲すぎる翻訳が遮った。雑務担当の幹部って何それ・・・。てかルビーちゃんも元魔王軍なのに、そんな訳し方しちゃっていいの?


「任務は諜報工作がメインだけど、他の部門の尻拭いやら城内警備に清掃もやらされてた。というか、他の部門が仕事をしなさすぎる」

「・・・まぁ、否定はしないわぁ」


 御者席から届く淡々とした語り口に、ネクがまたもうんざりした表情で同意する。・・・あぁ、だから黒騎士の時にあんな顔してたんだ。


「戦闘の指揮だって、本来はアタシじゃなくてアイシアかバルバディアの仕事なのに、二人とも前に出るからアタシに押し付けられるし」

「いいのそれで!?」

「一回気分転換に引き受けたらうまくいっちゃって、それからズルズルと・・・」


 心底うんざりした表情で語ったネク。なんか、仕事に疲れた社会人がこんな表情してた気がする・・・。てかこの上でセクハラに遭ったらそりゃ辞めるよね。


「まっ、まぁまぁ! 今はもう辞めたんだし、それこそ温泉で疲れと一緒に流しちゃおうよ!」

「・・・そうねぇ。嫌な事思い出してもしょうがないわよねぇ」

「テメェのシケた話聞かされるこっちの身にもなれってんだ。空気読め」

「アナタが要求してきたんでしょうがァ!?」

「ゼルこそ空気読んでよ!!」


 そうツッコミつつも、瞬間沸騰してゼルに掴みかかるネクを見て、ゼルなりの励ましだったんじゃないかと思ったり。いや違うか。

 いつもの仲良し二人組がワイワイし始めると、見計らったように仲裁役のルビーちゃんから声が届く。


「ケンカはそこまで。ようやく見えてきた」

「えっ、マジで!?」

「ふぉうふぁふふぁ」

「ふぁひふふぁひへふぁふぁ」

「何言ってるか分かんないんだけど」


 頬をつねり合いながら喋る二人にツッコみながら、あーしはルビーちゃんの座る御者席の背もたれから身を乗り出して前を見た。 


「うぅーーわぁーーーーデッカッ!!?」


 一番に飛び込んできたのは、視界を埋め尽くすほどの赤黒い巨大な山。

 その表面には遠目にも分かるほどにゴツゴツとした荒い岩肌が露出していて、背後に広がる澄み渡った青空とのコントラストがとても美しい。

 山頂部からはうっすらと煙が湧き出ていて、緑がほとんど無いその山も生きているという事を強く実感させられる。


「たしかあれって火山なんだよね?」

「あぁ。温泉街モンテローエの柱、モンテローエ火山だ」

「まんまだね」

「俺に言うなよ」


 ゼルの至極まっとうなツッコミに苦笑しながら、あーしはドローンを飛ばしてそのモンテローエ火山の撮影に入る。高度を上げて山頂部を見下ろしてみれば、赤々としたマグマが山の中で蠢いているのが映し出され、一瞬背中がゾクっと震える。


「すっごいね・・・なんか圧倒されちゃった」

「なにせ炎神サマの住処だからな。社も山頂部にあるんだぜ」

「火耐性防具が無いと近づくことも出来ない、最も参拝難易度の高い社として有名」

「意味分かんないんだけどそのワード・・・」


 なに参拝難易度って。そこまでしてお参りしたい人居るの?


「温泉以外に坑道ダンジョンなんかも魅力の一つだからな。ここで武具を整えて、いざ王都へ! ってのが冒険者の流れだ。そういう点では冒険者の参拝客が多いって聞くぜ」

「コウドウダンジョン?」

「武具の素材になる、鉱石が採れるダンジョンのこと。深部には危険な魔物が多いけど、そのぶん良質な鉱石が採れる」

「それを目当てにした鍛冶師も多いわぁ。だから王都に行く前の準備にちょうどいい街なのよぉ」

「なるほどー!」


 異世界青空教室のおかげで、また一つ知識が増えた。披露する機会はたぶん無いだろうけど。


 そういえば、こういうファンタジーだとレベル以外に、武器とか防具を強化したり作ったりするのも強くなる方法の一つだったっけ。ウチのパーティそういうのに全然お金使わないからすっかり忘れてた。冒険者としてどうなの。

 

「一応聞くけど、みんなは武器とか防具とか作らないの?」

「俺様は魔法で間に合ってるしな」

「アタシは糸があるし、なんなら編めるし」

「私もクラス柄、良い物よりは使いなれた物の方がいい」

「つくづく王道を行かないねあーしたち」

「お前さんが言うか」


 ゼルのツッコミに全員が吹き出す。返す言葉もございません。

 まぁ、あーしも考えなかった訳じゃないんだけどね。ただ剣は超重たくて持てないし、防具を着ると動けないから断念しただけであって。


 いっそ開き直ってスマホケースでも作ってやろうかな。あーしのスマホ全然傷つかないけど。






「おおぉ~~~!!」


 無事モンテローエに到着したあーしたちは、いつもの流れでギルドへと足を運んでいた。写真を撮りながら。


「後にしろアカネ。まずは宿だ」

「あーごめんごめん。つい」

「私が馬に変身しようか?」

「甘やかしちゃダメよぉ」


 ネクに止められたルビーちゃんを尻目に、あーしはスマホをポケットの中へとしまう。

 モンテローエの街並みは、奥にそびえる火山へと延びる坂道のようになっていて、街中を行き交う道が一段一段の間が長い階段、というよりはひな段のような作りになっていた。

 その道に沿って多くの旅館が立ち並び、浴衣のような薄い服を羽織った人が出たり入ったりする光景は、まさに元の世界でも見たような温泉街らしい光景だった。


 その中に当然のように混ざり込む、いかつい鎧や武器に身を包んだ冒険者たちを除けば。まぁ異世界らしいっちゃらしいけど。


「宿もいっぱいだねー。宿ごと巡っちゃうのもありかな?」

「んなもん金が湯水のように無くなっちまうぞ」

「温泉ジョーク?」

「違えよ!」

「たまに変えるならいいかもだけど、入浴だけに留めておく方がお財布に優しいわよぉ」

「まーそうなるよねー」


 これまで色んな臨時収入があったとはいえ、決して余裕がある訳じゃない。ていうか温泉旅館を転々とするとか、元の世界でもそんなブルジョワ少ないと思う。


「ついでにクエストの確認もしとこっか。鉱石の納品クエストとかありそうだし」

「鋭いじゃねえかアカネ。その通りだ」

「私たちが使わないぶんは、お金に変えられる」

「えぇ~、アタシ重労働はいやよぉ?」

「稼げば稼ぐほど、宿のグレードは上がる」

「腕が鳴るわねぇ」

「切り替え早っ!?」


 なんて会話を繰り広げている内に、街の中腹辺りにあるギルドへとたどり着いた。

 ちょっと大きめの広場に建てられたモンテローエのギルドは、他の街とは違って解放的でほとんど中が丸見えな上、足湯コーナーまで併設されていた。なんか海の家っぽいな。温泉街なのに。


「えらく開放的だね。一般客も普通にいるし」

「ここの足湯は疲労回復にいいらしい。山登りする冒険者はもちろん、歩き疲れた客にも丁度いいんだろ。で、それを相手に酒場で商売する訳だ」

「はー、なるほどー」

「アタシちょっと疲れたし、休んでてもいいかしらぁ」

「ネクさんはもっと歩いた方がいい。それに宿が優先」

「そんなぁ・・・」

「まーまー、ここで我慢したぶん温泉が染みると思うよ。ほら行こ」


 渋るネクをルビーちゃんと二人で引き連れ、あーしたちは大扉の無いギルドの中へと入っていった。

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