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異世界インスタ  作者: 五寸
第3章 精霊と混沌
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エピローグ

 人通りがまばらなアルフィノエの早朝。

 眠らない街と言われるアルフィノエがわずかに見せる静かな時間に、あーしは大通りを進んで東に広がる海岸へと向かう。


 風神の社での、エギルとの決戦。

 あれから一週間の時が流れ、あーしたちはようやくアルフィノエに戻って来ていた。


 あの戦いの後、あーしたちは応援に駆け付けてくれた騎士団に保護され、後日ギルドを通して王族から表彰されることになった。エギルを撃退して社を守った事と、精霊槍を取り返した事が評価されたらしい。


 本来ならお城で行われる行事らしいけど、今は状況だけにギルドでの表彰になって申し訳ないとルークさんから、そして自分の不手際で危険な目に合わせてしまったとシルヴァさんの二人にそれぞれ謝られた。

 何一つ謝られる事なんてないのに律儀な人たちだなぁと、二人が尊敬される理由の一つが分かった気がした。


 その後はすぐにアルフィノエに戻り、あまりにも激動の時間を過ごした事もあってしばらく休みを取る事に。・・・まぁアセムたちに捕まってずっと宴に巻き込まれてたんだけど。

 それでも、そういう日常からしばらく離れていた反動からか、あーしはその貴重な時間を噛みしめるように楽しんで過ごすことが出来た。体の疲れは抜けなかったけどね。


「よいしょっと・・・」


 まだ人の居ない早朝の海辺。

 心地よい潮騒に耳を傾けながら、あーしはちょうど良さげな石段に腰かける。

 アセムたちはもう海に出たかなー、なんて考えながら、あーしは水平線から視線を外してスマホを見つめる。


 画面に映るのは、あーしが王都に出発してから今日までインスタに上げた記事の数々。

 あれだけの事があったせいか、フォロワーはついに一万の大台を超え、記事にカウントされた『いいね』やアクセス数もそれに比例して多くなっているのが分かる。


 あーしは王都に付いた頃の記事を開き、そこから順に流して今までの出来事を振り返る。

 黄金橋から砦、王都での襲撃から妖精の里への大移動、風神の社にそびえ立つ巨大な樹と、エギルとの再戦。

 最初はただ王女様にお呼ばれしただけだったのに、気づけば随分と大変な事になってしまっていた。まぁあーしは最初っから緊張して大変なことになってたんだけど、それすらも懐かしく感じる。


 そうしてインスタに記録された時間の中で、ぽっかりと飛ばされた空白がある。


「エイミス様・・・」


 パレード中に撮ったエイミス様の写真を、右から左へとスワイプさせる。

 未だフォルダの中で眠ったままのパレードの写真は、華やかな絵でありながら、あーしの心を少しずつ曇らせた。


 ルークさんもシルヴァさんも、何も言わなかった。

 あーしたちはエギルに勝ったけど、エイミス様を連れ戻す事は出来なかったのに。

 

 いつになったら、約束を果たすことができるんだろう・・・。



「何シケた面してんだよ」

「わっ! ゼル」



 不意に聞こえてきた声に顔を上げれば、怪訝な表情を浮かべたゼルの顔がそこにあった。


「何でここに・・・てかいつから?」

「朝練だよ。なぜか知らんが風神サマの加護が続いてるからな。あれやこれやと試し撃ちしてたんだよ」

「あー、そういう事ね」


 簡単に説明を終えると、ゼルはあーしの隣に座ってぼんやりと水平線を眺め始めた。

 ゼルの言う通り、なぜかあーしたちのパーティは風の谷から離れても加護が消える事は無かった。おかげでアルフィノエに戻る道中も大分楽だったけど、どういう事なんだろう?


「お前さんもなんか新しいスキル出てたじゃねえか。あれはもう使いこなせるようになったのか?」

「あー、あれね。まぁある程度は・・・」


 あーしはドローンを呼び出した後、【P,Magic】を起動する。

 すると前と同じようにドローンから光が放たれ、あーしはそれを浴びながら、頭にある人物を思い描く。

 あーしは自分の姿が変わった事を確認すると、声を作ってゼルの方に振り向いた。


「ダーリン久しぶりっ!」

「どぅおッ!? クソ女テメェ・・・どうなってんだ!?」

「クソ女って・・・それあーしに言ったんじゃないよね?」


 【P,Magic】の効果でシルヴァさんと瓜二つの姿に変わったあーしは、ゼルの反応に若干不安になりつつも、あえてその姿のまま説明する。

 

「たぶんこれ、あーしの頭に浮かんだ映像を張り付けるスキルみたい。つまり今はシルヴァさんを思い描いたからこうなってるわけ」

「何でそいつをチョイスしたんだよ。嫌がらせか?」

「ビックリするかなーって」

「いい性格してやがるぜ・・・」


 皮肉たっぷりに笑ったゼルに対して、あーしは苦笑しながらアプリを閉じる。

 さっきゼルに説明した通り、このアプリはあーしが思い描いたものをドローンが投影してくれるらしい。たぶんプロジェクションマッピングの魔法版って解釈すれば合ってると思う。名前もたぶんそれだろうし。

 

「しかしあれだな。それだとルビーの出番無くなっちまうんじゃねえか?」

「それは困る」

「うわっ!?」

「うおっ!?」


 何気ないゼルの呟きに、ルビーちゃんが突然現れて反応してきた。・・・ひっさしぶりだわこのドッキリ。


「ごめんなさい。朝練終わりに見かけて、ビックリするかなーって」

「聞いてたのかよ。で、どうなんだアカネ」

「あぁー、ビックリしたぁ・・・ンンッ、その辺は大丈夫だよルビーちゃん。これ写す相手が居ないと意味ないから。ていうか別に変身させてるわけじゃないし」


 そう、あくまでこれは映像を写すだけ。別にそんな便利機能は無い。・・・つくづく戦闘に役立たないなあーしのクラス。


「つまり・・・ハァッ・・・見た目を整える・・・だけの、ハァッ・・・スキルってことねぇ・・・ウップ」

「ネク!? どうしたの!? ていうか何でネクもここに!?」


 今度はネクが息切れしながら会話に参加してきた。気づいたら全員集合してるし、どうなってんのコレ。

 到着するなりがっくりと膝をついたネクは、ルビーちゃんに背中をさすられながらいきさつを語る。


「ルビーに無理矢理・・・連れられて・・・」

「一緒に朝練してた」

「あー、そういや言ってたね・・・」


 たしか走り込みに誘われて、割と本気で嫌がってたような覚えがある。その上で捕まっちゃったんだろうけど。

 ていうかみんな休みの間でもちゃんと朝練してて、一人黄昏てたあーしがなんか恥ずかしくなるな。


「んだよお前らもやってたのか。どうよ調子は」

「変身の制限がかなり解消された。この前みたいな大物でもない限りほとんど大丈夫」

「アタシは・・・幹部やってた頃に戻った感覚ねぇ・・・」

「体力は増えなかったみてぇだがな」

「うるさいっ・・・わねぇ・・・今のアタシなら・・・アナタを始末するくらい訳ないのよぉ・・・?」

「お互い様だぜクモ女」


 ゼーゼー言いながらもケンカを吹っ掛けるネクに容赦なく喰いついていくゼル。あー、また始まった。

 そんな二人の仲良しごっこをぶち壊すためか、ルビーちゃんがさっさと話題を変える。


「しばらくはお休みだけど、それが明けたらどうするの?」

「アタシは・・・全然休めてないんだけどぉ・・・」

「冒険者なんだから冒険だろ。金も稼がねえとだしな」

「アカネさんは?」

「あーしは・・・」


 もちろんインスタ映えを狙って冒険・・・だけど、ルビーちゃんの目を見るに、聞いているのはそっちじゃないんだろう。ほんと、いつからあーしのこと見てたんだか。


 あーしは手元のスマホに視線を落とし、もう一度パレードの写真に目を通す。

 スワイプする度に流れるエイミス様の笑顔を見るたび、社で向けられた無機質な無表情が脳裏に浮かんで、胸がチクりと痛む。


 あーしは。


「エイミス様を、助けたい・・・」


 波の音にすら浚われてしまいそうな小さい言葉を、みんなはしっかりと聞き届けてくれていた。


「約束、したから」

「・・・ハッ! 見た目の割に律儀なやつだなお前さんは」

「なっ!? どういう意味だし!?」

「そうは言っても、頑張るのはアタシたちなのよぉ?」

「うっ・・・そうだけど」

「いじわるしない」

「ハイハイ」


 思わず言葉を詰まらせたあーしを庇うように、ルビーちゃんがネクをめっと叱りつけた。いやまぁ、それ言われるとあーし何も言えなくなるんだけど。


 そのまま続きの言葉に詰まってしまったあーしの背中を、小さな手がバシッと思いきり叩いてきた。いったぁ~・・・。


「だからそうシケた面するんじゃねぇよ。第一インスタだろうが王女サマ救出だろうが、俺たちのやることは変わんねえだろうが」

「ゼル・・・!」

「それに俺様は元々魔王をブッ殺す予定だからな。ついでに拾って帰るもんが増えるだけだ」

「言い方」


 相変わらずのゼル節に苦笑しながらも、その変わらなさに安心するあーしがいる。

 言われた通り、確かにやることは変わらない。ゼルたちが戦って、それをあーしがインスタで広める。冒険でも、王女様の救出でも。


 そして今のあーしたちは、それが出来るだけの力を手に入れることができた。


「私たちは名実ともに駆け出しを抜けて、一流を名乗れる冒険者になった。風の谷で危惧した、自衛できるだけの力も十分にある」

「まぁ、借りを作ったままっていうのも気に入らないしねぇ」

「魔王を打ち倒し、王女サマを救った英雄。冒険譚にピッタリじゃねえか。よろしく頼むぜアカネ」

「それはゼルの活躍次第だから。よーっし、じゃあ行こっか!」


 新たに明確な目標が決まり、あーしは立ち上がってもう一度水平線の方を見る。

 朝を告げる太陽は完全に顔を出し、街の方から吹き抜ける風に人のざわめきが混じり始めた。


 始まりの朝、なんて使い古された言葉を思い浮かべ、心の中で太陽に向かって宣言する。

 あーしたちは魔王軍を倒して、エイミス様を助け出す!


「盛り上がってるとこ悪いけど、王女様の奪還作戦は騎士団の召集待ちよぉ」


 背中に投げ掛けられたネクの気の抜けた言葉に、あーしは大きく前にズッコケた。


「表彰式の後、騎士団長が教えてくれてたじゃないのぉ」

「コイツあん時もガチガチだったからな。頭に入ってなかったんだろ」

「大丈夫アカネさん?」

「・・・あんまり大丈夫じゃないかも」


 どこまで行ってもあーしたちクオリティは健在だった。ほんとに一流名乗っていいのあーしたち?


「焦ってもしょうがねえよ。目処が立つまでは冒険者稼業してりゃいい」

「アナタが言うと説得力あるわねぇ」

「うるせぇ」

「冒険かぁ・・・まぁまずは地に足つけてそこからだよね。それじゃあ何かオススメの所ある?」

「それなら私に提案がある」


 あーしの質問にビシッと手を挙げたルビーちゃんに全員の視線が集まる。


「魔物のレベル帯を考慮して、温泉街に行くのがいいと思う」

「温泉!?」

「いいわねぇ! 湯治ならアタシも大歓迎よぉ」

「冒険者稼業つってんだろ」

「あそこの温泉卵を食べてみたい」

「おい」


 誰一人冒険を考えていないあーしたち女子三人に、ゼルが大きくため息をつく。ごめん、でも温泉となるとしゃーないよ。


「いいじゃなぁい。魔物の強さも丁度いいし、王都の前はあそこで腕を磨くって聞くわよぉ?」

「まぁ、チョイスとしては悪くねえがな」

「ちなみにそれってどこにあるの?」

「アルフィノエから北東。王都への道の途中で分かれ道がある」

「あ、じゃあ結構近いじゃん。いつ行く? 明日?」

「気が早えな」

「賛成」

「賛成よぉ」

「聞けよ」


 すっかりテンションが上がりきったあーしたち女子陣は、呆れるゼルそっちのけで温泉街行きの予定を立て始める。ギルドもあるみたいだし、温泉のある場所が拠点とか、これでテンション上げるなって言う方が無理があるよね。


 そうしてあーしたちは急遽明日に決まった温泉旅行の準備を済ませるべく、海水浴にやってきた人たちとすれ違いながら、活気づいてきたアルフィノエへと戻っていった。

今回で第3章が終了となります。

第3章までお付き合い頂いた皆さま、本当にありがとうございます。皆さまに読んで頂けているという事がとても励みになります。


物語もついに折り返し地点となりました。今後ともお付き合い頂ければ嬉しい限りです。


よろしければ下部から、作品への評価や感想が頂ければ幸いです。

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