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異世界インスタ  作者: 五寸
第3章 精霊と混沌
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19話 後半

 二つの巨大な拳に殴り付けられた壁の魔法はついに砕け散り、エギルをもう一度地面の中へとめり込ませた。更にネクは作った腕を分解して糸を取り出し、エギルを押さえ込んだ地面の上に張り巡らせてガッチリと封じ込める。


「アタシはこのまま魔力を吸い取るから、トドメの方は任せ・・・ッ!?」

「んだよクモ女、ふざけた顔しやがって」

「一言余計なのよぉ! ・・・手応えが無くなったわぁ」

「っ! それって!?」

「さすがはネクだ。糸の感覚は鈍ってないね」


 地面の中に封じ込められているはずのエギルの声が、何故か祭壇の方から聞こえてくる。

 慌てながら声の方へと視線を向ければ、突如現れた黒い霧の中からエギルが歩き出てきた。そういやアイツワープじみた技使えたんだっけ・・・。


「まさか私がここまで追い詰められるとは、完全に想定外だったよ」


 エギルはあーしたちを見下ろしながら拍手と共に称賛の言葉を送ってくる。どこまでも見下した態度に腹が立つけど、身体中に傷が出来ているのを見るに、本当にゼルたちが追い詰めているんだと実感する。


「だが、それもここまでだ」


 いきなりトーンダウンしたエギルの言葉に続いて、あーしたちの背後から何かが砕けるような音が聞こえてきた。

 その音の発生源は、またも繭を氷漬けにして砕き割ったエイミス様。


「そんなっ!?」

「君の実力は認めるが、ネク、あまりユニーククラスの力を見くびらない方がいい」


 エギルは黒い霧を通してエイミス様を自分の隣へと呼び寄せると、祭壇中を覆い尽くすほどの巨大な青い魔方陣を浮かび上がらせた。

 その魔方陣の至る所から天に昇る龍のように水が飛び出し、やがてそれはエギルとエイミス様を包み込みながら、見上げるほどに大きな水の巨人へと姿を変えた。

 パッと見だけでも余裕で二十メートルは越えてそうなその巨体を前に、さすがのあーしたちも少し気圧されてしまう。


「ど、どうすんのこれ・・・?」

「同じユニーククラスなら何か思い付かねえか」

「何その無茶振り!?」

「ふざけてる場合じゃない! 来る!」


 何も対策を考える間もなく、あーしたちの頭上から巨大な水の足が降ってきた。水を完全に固定しているわけではないのか、結構な量の水が雨のように降り注いでくる。いや今はそんな事気にしてる場合じゃない!


「『三重シェル』!! うおっ!?」

「きゃあああああ!?」


 水の巨人の踏みつけ自体はゼルが防ぎきったものの、衝撃と同時に発生した小規模な津波に飲まれ、あーしたちは壁の魔法ごと押し流されてしまった。

 

「ヤ、ヤバいよアレ!?」

「踏みつけだけでこれだと、反撃どころじゃ無いわよぉ」

「それでもやるしかない。どうする?」

「決まってんだろ、俺たちも巨人を作るんだよ」

「「「は?」」」


 えらく真面目くさって意味不明な提案をしたゼルに、あーしたち三人は疑問の視線を差し向けると、それに一切怯むことなくゼルは説明を始めた。


「まずはルビー、お前の変身で」

「待ってゼルさん。さすがにあのサイズは加護を受けた状態でも無理」

「最後まで聞け。お前が変身するのは骨組みだ。で、クモ女が糸で肉体を作る」

「はぁっ!?」

「なるほど、それなら」


 突然の指名に驚愕の表情を浮かべたネクに対し、少し考え込みながら小さく頷いて納得するルビーちゃん。え、いけんの?


「さっき腕作ってたんだからいけるだろ」

「出来っ・・・無くはないけどぉ! 水の体が相手じゃどうしようもないわよぉ?」

「そこで俺様の魔法が輝くんだろうが。時間もねぇ、さっさとやるぞ! 撮影頼んだぜアカネ!」

「う、うん。頑張ってみんな!」

「了解」

「あぁーもう! しょうがないわねぇ!」


 迫りくる水の巨人を前に、あーしたちは最後の決戦に向けて突貫で準備を進める。

 まずはルビーちゃんが超巨大なガイコツに変身して、その体を肉付けするようにネクが大量の糸を生み出す。下半身から上半身へとどんどん肉体を作りつつ、ネクは途中であーしたちを連れて頭蓋骨の中へと入り込み、その周囲を糸で覆ってついに巨人が完成した。


 その姿はと言うと。


「・・・気持ち悪っ!?」

「しょっ、しょうがないでしょう!?」


 撮影のために飛ばしていたドローンが映し出したのは、全身真っ白の巨大な人体模型のような姿。糸で肉付けしただけだからしょうがないとはいえ、これはあまりにも、その・・・気持ち悪すぎる。


「んだよ気がノらねえなぁ。どうにか出来ねえのかよクモ女」

「無茶言わないでくれるかしらぁ!? こんなに大きな服なんてすぐに編める訳ないじゃないのぉ!」

「出来はするんだ」

「ふざけてる場合じゃない。来る!」

「「「っ!!」」」


 サイズに合わせて大きくなったルビーちゃんの声が耳に響き、あーしたちは揃って前を向く。

 目の前には大きさに見合った鈍重な、しかしその分とんでもない威力を予測させる水の拳が打ち出されていた。


「どっ、どうするの!?」

「任せとけ! 『三重シェル』!! ・・・あっ」

「大きさ足りてないし!?」


 自信満々で唱えた壁の魔法は、ヘルメットのようにルビーちゃんの顔面周りを覆っただけだった。当然水の巨人側は顔面をスルーし、がら空きのボディに向けてその拳を叩き込む。


「ぐはッ・・・!?」

「ルビーちゃん大丈夫!?」

「問題ない・・・それよりも次が、ネクさん!」

「分かってるわよぉ!」


 続いて向かってくる水の巨人の左ストレートを前に、今度はルビーちゃんとネクが共同で回避行動を取ろうと体を動かす。しかし。


「「ちょっ、逆!?」」


 二人三脚でありがちなミスをここぞとばかりにブチかまし、見事水の巨人の左ストレートがボディにクリーンヒットした。


「ふぐぅっ・・・!?」

「オイオイ何やってんだテメェら」

「だってネクさんが」

「だってルビーが!」

「もうこんな時までケンカしない! パレードの時みたいに合わせたらいいんじゃないの!?」

「なるほど」

「その手があったわねぇ」


 この期に及んでグダグダっぷりをかますあーしたち。まぁでも、いつもの調子を取り戻した感じで悪い気がしないでもない。やっぱ悪いかな。

 そして当然、敵はそんなのお構いなしに攻撃してくるわけで。


「三発目来るぞ! ここいらでカウンターをお見舞いしてやろうじゃねえか!」

「動かすのはアタシなんだけどぉ」

「俺が盾を作る。それで旨いこと攻撃を逸らせ」

「ほんと無茶振りがひどいわぁこのパーティ」


 ぶつくさ言いながらもネクは巨人の体を動かし、再び打ち込まれた右ストレートに対して左手を添えるように差し出す。すると壁の魔法がグローブのように左手を包み込み、迫る水の巨人の右ストレートを完璧に弾いてみせた。

 そうして水の巨人が曝した隙を逃すことなく、今度は右手を壁の魔法で包み込み、渾身のカウンターをその顔面にお見舞いする。


 特に防いだり避けたりすることも無くモロに喰らった水の巨人は、水らしく顔面を思いっきり崩しながら大きく後ずさる。


「やった! 決まった!!」

「・・・なんかノりきれねぇんだよなぁ」

「何よぉ、まだ文句があるわけぇ?」

「当たりめーだろ。俺たちゃインスタグラマーがパーティにいるんだぜ? こんな大舞台で見た目に気ぃ使わねぇでどうするよ」

「それ分かる」

「アカネちゃんまでぇ!? だ、だってしょうがないじゃないのぉ・・・」


 あーしまで敵に回ったと感じたのか、涙目になりながらしょんぼりとするネク。あ、ちょっとやりすぎたかな・・・。

 そんなあーしの罪悪感を的確に感じ取ったのか、全ての責任を押し付けるようにゼルが突っついてきた。


「オイオイ泣かすなよ。インスタグラマー様ならどうにか出来ねぇのか?」

「ここであーし!? いやさすがのあーしでも・・・何かある」

「あるのか!?」


 自分で言っておきながらツッコんだゼルは、あーしが怪訝な表情を向けるスマホの画面をのぞき込んでくる。

 ダメ元で確認したホーム画面には新たにカメラっぽいアイコンが追加されていて、【IsekaInsta】と【GoDrone】に続いて【P,Magic】なるアプリがいつの間にかインストールされていた。・・・何これ?


「何だろこれ・・・いつの間に?」

「そりゃお前、風神サマの加護のおかげなんじゃねえのか?」

「あーしじゃなくてスマホが加護受けんの!? ・・・いやまぁ、クラス的には間違ってないか。複雑だけど」

「とりあえず使ってみろよ」

「わ、分かった」


 色々と渦巻く感情を乗せた指でアイコンをタップすると、突然ドローンから謎の光が発射され、あーしたちの乗る巨人の体を照らし出した。しばらく全身をスキャンするように光が当てられた後、白い人体模型のようだった体が全く別物へと変化し、それをドローンのカメラがスマホの画面に映し出す。

 そこに映っていたのは。


「何であーし!?」

「おぉ、でっけぇアカネに変わりやがった。すげーなユニーククラス様はよ」

「いやいやいやいや」


 ドローンが映し出したのは、今のあーしと全く同じ姿格好をした巨人の姿。髪や顔に体から服装に至るまで全部一緒で、なんなら少し近寄っただけで肌とかしっかり見えちゃいそうなくらいにはクオリティが高い。いや何これ!?


「一応聞くけど、これなら満足なのかしらぁ・・・?」

「どうせなら俺様の見た目が良かったが、今回は譲ってやるよ」

「いやいやいやいや! 求めてないからあーしこんなの!!」

「何でもいい。それよりも戦いに集中!」


 ルビーちゃんに注意され黙るしかなくなったあーしは、水の巨人と激闘を繰り広げるデカイあーしという、意味不明な光景を撮影する羽目になった。

 時に殴り時に殴られ、水に濡れればきちんと服が透けるという要らん仕様に顔を熱くしながら、あーしはそれでも自分の役目を全うするべく一部始終を写真に収める。何なのこの罰ゲーム? 魔王の息子との決戦じゃなかったっけ?


 そんなあーしの事はお構いなしに、三人は時が経つにつれてデカいあーしの操縦がうまくなっていき、徐々にエギルの操る水の巨人を押し始めた。

 その最中、お互いが放った拳がちょうどクロスカウンターとして決まり、衝撃のせいかしばらくそのポーズのまま動かなくなる。


「チャンスだ! アカネ、精霊槍貸せ!!」

「えっ、何するの!?」

「まぁ見てろ! てか撮ってろ!」


 あーしから精霊槍をひったくったゼルは、未だ水の巨人に打ち込んだままの右腕の方へと疾走し、そのまま精霊槍を抱えながら突撃魔法の準備を始めた。


「さっきはブチ抜けなかったからなァ・・・今度こそ決めてやる!!」


 さっきと同じく火と風の魔法陣を呼び出したゼルは、荒ぶる炎を突風で更に煽り立てるように魔力を高め、やがて精霊槍を前に突き出しながら、デカいあーしの右手付近から飛び出して行った。


 炎の推進力と風の回転が加わった新たな突撃魔法に、更に光の力が宿る精霊槍が追加されたその攻撃は、水の巨人の顔面を容易く突破するどころか、中でそれを操っていたエギルの胴体にすらも風穴を開けた。

 次の瞬間、水の巨人は一気にその体を崩し、大規模な波となって谷底へと流れ落ちていく。


 致命傷になり得るダメージを負ったエギルは、それでもなお笑顔を浮かべ、あーしたちを視界に捉えながら口を開いた。


「見事、だ・・・」


 最後にそれだけ言い残すと、落下するエギルをエイミス様が抱え上げ、そのまま黒い霧の中へと消えていく。


 それきり二人が姿を現す事は無く、ただただ風のざわめきだけが、あーしたちを癒すように体を撫でつけていた。

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