19話 前半
「やった・・・! すごいよゼル!」
ついにエギルの魔法を撃ち破り、祭壇に根を張っているデカい木の幹までエギルを押し込んだゼル。衝突した部分からは煙が上がっていて、いまいち記念撮影が決まらない。
「そうだ、ドローンなら・・・っ!?」
名案とばかりに思い付き、アプリを起動しようとした所で、静かに佇んでいたエイミス様が動き出したのが見えた。
エイミス様はゼルの居る方へとゆっくり振り向き、右手を掲げて何やら魔法を唱え始める。
「ちょっ、待ってエイミス様!?」
自分の心臓が痛いほど脈打ったのを合図に、あーしは考える間もなくエイミス様へ向かって飛び出していく。危ないけど、あれを止めないとゼルも危ない!
ぬかるんだ地面に足を取られながら進んだものの、エイミス様の方が一歩速く、右の手のひらに青い魔法陣が浮かび上がる。それでも狙いさえ逸らせればと諦めずに進んでいると、エイミス様の傍らからぬるりと黒い影が現れた。
「させない」
「っ! ルビーちゃん!」
姿を現すなりエイミス様の右手を絡め捕ったルビーちゃんは、そのまま流れるように巴投げを繰り出した。しかしエイミス様はモロに背中から叩きつけられたにも関わらず、何事も無かったかのように迎撃の魔法を唱える。お姫様にしては体頑丈過ぎない!?
「『クリスタルピラー』」
「っ」
自身の周囲を埋め尽くすほどに青い魔法陣が浮かび上がり、そこから同時に鋭い氷の柱が突き出してきた。それをルビーちゃんは間を縫うように体を捻ってかわしつつ、巨大な蛇に変身してエイミス様の体を締め上げる。
そこからエイミス様を空中へと放り投げると、四方八方から糸という糸が浴びせかけられ、さっきよりもガッチリとした繭の形に固められた。
その一部始終を見届けてから、あーしは改めて眠っていたはずの二人へと声をかける。
「ルビーちゃん! ネク! 大丈夫!?」
「平気。それに不思議なくらい力が湧いてくる」
「王女様も抑えておけそうなくらいには絶好調よぉ。恐らくだけどこれは・・・」
今の状況に思い当たる節があると喋りかけたネクの言葉を、祭壇の樹の方から聞こえてきた爆発音が遮った。
風と音の圧に顔を覆いながらも確認しようと目を向けると、より激しく巻き上がった煙の中から、精霊槍を抱えたゼルが大きく飛び退くように現れ、くるくると回転しながらあーしたちの下へと戻ってきた。
「ゼル、大丈夫!? ていうかそれ・・・」
「命の代わりに貰ってきた。ほらよ」
「ちょっ、何であーしに!?」
「俺は武器使わんからな」
「じゃあ二人のどっちかに・・・」
「槍は少し苦手」
「貰っても投げつける位しか使い道無いわねぇ」
「えぇ・・・」
シルヴァさんもそうだったけど、何でみんなこの槍に対して扱い悪いの? かなり重要な武器だと思うんだけど。ファンタジー的に。
相変わらずのグダグダ異世界っぷりに呆れていると、爆発と同時に舞い上がっていた煙が勢いよく吹き飛ばされたのを視界の隅に捉えた。
否が応でも引き寄せられる光景に視線を向ければ、宙に浮いたままあーしたちを見下ろすエギルの姿が。
「フッ、フフフハハハハハハハハハ!! ハハハハハハハハハハハ!!!」
思わず後ずさってしまうほど気味の悪い高笑いを上げながら、エギルはあーしたちの近くへとゆっくり降りてくる。さっきゼルに腹を抉られたにも関わらず、着地と同時に向けられた顔にはこれ以上ない程の笑顔が浮かんでいた。なにやっぱコイツMなの?
「素晴らしい! まさかこの土壇場で風神に認められるとは! 恐れ入ったよ!!」
「やっぱりそうだったのねぇ・・・」
「えっ、どういうこと?」
「今の私たちは、風の大精霊の加護を受けている」
「えっ!? そうなん!?」
「アタシは魔王様の加護で覚えがあるからねぇ。どうりで調子が良いはずよぉ」
二人は確かめるように自分の体を確認しながら、あーしを庇うように一歩前へと進み出る。内にみなぎる力に自信があるのか、その表情に恐怖の色は見当たらない。
ていうかそれならあーしも強くなってたりするのかな? 特に実感はないけど。
あーしも二人に倣ってあっちこっち確認している間に、先頭に立っていたゼルが発破をかける。
「風神サマも俺たちを応援してくれてるってこった。こんだけ期待されて、負ける訳にはいかねぇよなァ!!!」
「当然」
「ウフフ、負ける気がしないわねぇ」
ゼルの発破に慌てて前を向けば、あーしの前に立ってくれる頼もしい三人の背中が目に入り、一気に心が引き締まった。
大丈夫、あーしはあーしに出来ることを。まずはその雄姿を全て写真に収めよう。
それが、あーしたちのパーティだから。
「フフハハハハハ・・・訂正しよう、やはり君たちは特別だ!! もっと私を楽しませてくれ!! 『インフェルノ』!!!」
あーしたちと同じようにヒートアップしたエギルは、両の手から視界全てを覆いつくす程の炎の波を生み出した。
地面に残っていた水たまりは一瞬で蒸発させ、ところどころに生える草葉を灰に変えながらあーしたちを飲み込もうと押し寄せてくる。
「任せていいのよねぇ?」
「誰にもの言ってやがる。見せてやるぜ、俺様の新境地!!」
ネクに煽られたゼルは妙なポーズを取りながら、迫る炎の波に向けて聞き覚えの無い魔法を唱えた。
「レイヤードマジック『三重シェル』!!!」
「!?」
えらく仰々しい名前から繰り出されたのは、三重に張り巡らされた壁の魔法。しかしカッコつけたぶん性能は申し分ないようで、エギルから放たれた炎の波を完璧に防ぎきってみせた。更にそれだけに留まらず、ゼルは次の魔法へと繋げていく。
「反撃開始だ! 『アドバンスシェル』!!」
「ブハッ!?」
なんとゼルはあーしたちを包む壁の魔法をそのまま撃ち出し、炎の波を弾きながら壁の魔法をエギルへとぶつけてみせた。自分もまた視界を塞がれていただろうエギルはそれをまともに喰らい、大きく後ろへと吹っ飛ばされる。
「すごいじゃんゼル!!」
「その調子で褒め続けろ。続けお前ら!」
「もうやってるわよぉ!」
風神様の加護のおかげか、ネクから発射された糸は今までと比べ物にならない量とスピードでエギルに這い寄っていき、空中でその手足を縛り上げて完全に固定する。
続いてその周囲に翼を広げたシルエットが影となって写り込み、まさかと思って見上げた先では、グリフィンに変身したルビーちゃんがエギルに向かって急降下していた。
次の瞬間にはエギルは盛り上がる地面の中へと沈み込み、悲鳴すらも地面を砕く轟音にかき消される。うわぁえげつない・・・。
「『プロミネンス』」
「っ!」
砕けた地面からひび割れに沿って赤い光が激しく漏れ出し、飛び退いたルビーちゃんから一拍遅れて地面が大爆発を起こす。そうして吹き上げられた瓦礫と共に飛び出してきたエギルは、周囲の瓦礫を利用した魔法をあーしたちにぶつけてきた。
「『シューティングデブリ』!」
巻き上がる瓦礫の一つ一つに赤い魔方陣が浮かび上がり、流星群となってあーしたちに襲いかかる。それを何事でも無さそうにゼルは壁の魔法で防ごうとすると、その表面にネクの糸が張り巡らされた。
「オイ、何のつもりだテメェ」
「ウフフ、まぁ見てなさいなぁ」
ネクはいやらしい笑みを浮かべて流星群を待ち受けていると、なんと壁の魔法に衝突した流星群は弾かれること無く、全てネクの糸が吸着してしまっていた。
さらにネクはそれらをくっ付けたまま弓なりにしならせ、お返しとばかりに落下中のエギルへとお見舞いする。
「くっ、『シェル』!」
全弾撃ち返された流星群を壁の魔法で防ぎながら、エギルは危なげなく地面へと着地する。しかしこちらは休む暇も与えまいと、ゼルは追撃の魔法を唱え、ルビーちゃんはそれを合図に姿を消す。
「レイヤードマジック『キャニスターシェル』!!」
ゼルは自分の正面に赤と無色の魔方陣を重ねるように呼び出し、そこから小さな火の玉をマシンガンのように撃ち出した。しかし攻撃魔法を無力化できるエギルは当然のように黒い霧を生み出し、迫る火の玉を阻むように漂わせた。
だが。
「グハッ!? ・・・な、に?」
撃ち出された火の玉は全て黒い霧を突き抜け、そのまま何故か形を保ったままエギルの体へとめり込んだ。・・・どういうこと?
そんなあーしとエギルの疑問に、それはもう気持ち良さげにゼルが解説してくれる。決まって嬉しかったんだね。
「今のは攻撃魔法をシェルで包んだ、俺様開発の対カオスロード用の新技だ」
「おお! すごいじゃんそれ!」
「サラっと言ったけど、何気にすごいことしてるわねぇアナタ」
「世界最強の武闘派魔法使いなら、これくらいは出来ねえとなァ。そして当然、中身だって生きてるんだぜ」
「ッ!?」
エギルが反応した頃にはもう遅く、体にめり込んでいた火の玉は次々に爆発した。そのまま更に大きく後ろへ吹き飛ばされると、待ち伏せていたルビーちゃんが腕だけをサイクロプスに変身させ、迫るエギルへ向けてその巨大な拳を叩き込む。
「甘い、『シェル』!」
「『パワーライズ』!」
「なにっ!? ぐっ・・・!?」
ゼルの魔法で強化されたルビーちゃんのサイクロプスパンチは、王都で刀を砕かれた壁の魔法に見事ヒビを入れてみせた。しかしそれでも打ち破るまでには届かず、互いに拮抗したぶつかり合いが続く。
その均衡状態を打ち破るべく、第二の巨大な腕が猛スピードで組み上げられる。
「ネ、ネク!? 何それ!?」
「見ての通り筋肉よぉ。ラクティスの頃より出来ることが増えて楽しいわぁ」
「口より手ぇ動かせやクモ女」
「そっくりそのままお返しするわぁ」
糸を使ってみるみるうちにリアルな筋肉を作り出したネクは、皮膚の代わりに岩で覆って巨大な腕を完成させた。更にそれをゼルが魔法で強化し、未だぶつかり合っているエギルの頭上へと降り下ろす。
「ぐっ・・・ぐあああああああ!?」




