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異世界インスタ  作者: 五寸
第3章 精霊と混沌
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15話

 妖精の里に着いて早々ゼルのご両親と出会ったあーしたちは、詳しい事情を説明するまでもなく、すぐにゼルの治療に取り掛かってもらえることになった。


 定期的にあーしたちみたいな妖精以外のお客さんが来ているのか、いくつかの切り株を並べた人間サイズ用の診察所っぽい場所へ通されると、すぐにその場でゼルの治療が開始される。

 ご両親の二人は慈しむような表情から一転、真剣な表情に変わり、二人分の回復魔法がゼルの体を癒し始めた。


「大丈夫だよね、ゼル」

「大丈夫よぉ。なんたってあの二人が治療するんだものぉ」

「えっ、ネク二人のこと知ってたん?」

「アレスとピオラ。あの二人こそ、世界で最も高名なプリースト」

「えっ!? マジで!?」

「まぁ、あの二人の子供ってことまでは、アタシも知らなかったけどねぇ」


 ネクとルビーちゃんの説明を聞いて、あーしは慌てながらご両親の方へと向き直る。

 世界で最も高名なプリースト・・・そんな人が両親なら、そりゃゼルのプリーストの実力も高くなるよね。てか教えてよそういうこと。


 改めて観察してみると、確かにお母さんのピオラさんは、その赤毛がゼルとエルさんに受け継がれているのが分かる。中身まで含めるならエルさんとほとんど変わんないレベル。

 対してお父さんのアレスさんは、正直見た目が長老すぎて全然分かんない。ゼルも年くったらあんな風になるんだろうか。


「世界一ってことは、やっぱゼルよりすごいの?」

「レベル8。プリーストに限れば人類で最もレベルが高い」

「8!? じゃああれじゃん、ルークさんよりも上ってことじゃん!」

「いえいえ、そんな大した者じゃありませんよ」


 驚くあーしをクールダウンさせるように、治療中のアレスさんから謙虚な声が届く。いやそこはもう自慢してもいいんじゃないの?


「私たちがプリーストとして活躍できるのは、ひとえに風神様のご加護のおかげなのです」

「それに、単純な実力ならとっくの昔にゼルに越されていますよ」

「はっは、そうだったなぁ」


 二人は回復魔法を続けながら、本当に嬉しそうにゼルの顔を覗き込む。・・・あれ、思ったより反応いいな。勘当されてるって言ってなかったっけ? 

 まぁそれも気になるけど、レベル8なのに実力ならゼルのが上って、どういうことだろ?

 そんな疑問が顔に出ていたのか、ルビーちゃん先生が解説してくれる。


「大精霊と魔王様には、レベルの限界を突破させる力がある」

「幹部時代のアタシと同じ理屈よぉ」

「あー! そういやそうだったっけ」


 そういえばネクが幹部だった頃は、魔王に力を底上げされてたんだっけ。


「本来、常人がたどり着ける限界はレベル7。そこから先の8から10は、魔王様か伝説の勇者のような特別な存在だけが到達できる、いわば神話の領域」

「その限界を突破させるのが、大精霊と魔王様だけが扱える特殊な力。精霊、もしくは混沌の加護と呼ばれるものよぉ」

「へー」

「分かってないでしょアナタ・・・」


 失礼な、ちゃんと分かってるし。何回目だしこのやり取り。

 要するに限界突破できる力って訳ね。それでアレスさんとピオラさんはレベルが上がったと。


「それならみんなもレベル上げてもらえないの? そうすればエギルに勝てるかもだし」

「言ったでしょう? 大精霊は争いを好まないのぉ」

「妖精種も同じように、本来は争いを好まない温和な性格。だから世界で唯一、種族単位で風の大精霊の加護を受けている」

「はー、なるほどー」

「もっとも、里や風の谷に居る場合に限りますけどね」


 ルビーちゃんとネクの説明に、ピオラさんが補足してくれた。なるほど、そう上手くはいかないって訳ね。

 確かにルビーちゃんの言う通り、ご両親の二人は本当にゼルの親なのかってくらい礼儀正しくて謙虚な性格をしている。エルさんもそうだったし、里にいる妖精もおしとやかな子しかいなかった。もしかしてゼルって突然変異かなんかだったりする?


「レベルの限界かぁ。・・・となるとエギルも魔王の息子な訳だし、レベルも8以上あるカンジ?」

「魔王軍では歴代最強の資質があるって言われてたわねぇ。レベル9になっててもおかしくないし、いずれは上限の10までいくんじゃないかしらぁ」

「あれ以上に強くなるとか勘弁してよ・・・」

「さすがに緊急事態だし、大精霊たちも力を貸してくれるとは思う。といっても、騎士団長たちのような実力と実績のある人になるだろうけど」

「まぁ、その辺りが妥当よねぇ」


 そっか、ルークさんやシルヴァさんのレベルが上がれば、エギルにも対抗できるかもしれない。いやでも闇の魔法もあるし、不利な状況なのに変わりはないか。


 それに・・・。


「もっとも、彼が真っ当にプリーストとして活躍していれば、その騎士団長たちと肩を並べられたかもしれないわねぇ」

「ちょっ、ネク!?」


 今まさにそのゼルを治療中の両親に向けていきなりぶっこんだネク。確かにそうかもだけど今それ言う!?

 あーしはアワアワしながらご両親の方を見ると、二人は特に気にした様子もなく、むしろゼルに向ける笑顔が一段と優しくなったように見えた。


 なんだろう、エルさんといいご両親といい、ゼルの言っていた話とどうにも食い違うなぁ。

 少なくともその接し方は、勘当した相手に向けるようなものじゃない・・・と思う。


「良いのです。ゼルが自身で決めた道ですから」

「・・・にしては随分と甘いのねぇ。彼を勘当したんじゃなかったのぉ?」

「私たちが? そんなバカな・・・」

「あー・・・うっせぇなぁ・・・」

「「「!!」」」


 突如聞こえてきた不機嫌な声に、その場にいる全員の視線が集まる。


「あ~、背中いてぇ・・・」


 声の主 ゼルは、おっさんのように背中をボリボリと掻きながらむくりと起き上がった。

 久しぶりに聞いたその声に、あーしは我慢できずに駆け寄っていく。


「ゼル! やっと起きた!」

「あ? んだよアカネ、なに泣いて・・・ッ!」


 寝ぼけ眼をこすりながら周囲を見回していたゼルは、ちょうどご両親の二人が視界に入った所で動きを止める。

 頭を整理していたのか二、三秒ほど固まると、すぐに視線を下げて小さく舌打ちした。


「・・・そういうことかよ。クソッ」

「ゼル?」

「邪魔したな」

「えっ、ちょっと待ってって! 治療してもらったんだから二人に・・・」


 そのまま立ち去ろうとするゼルの腕を取ろうとすると、それを無言で弾かれる。


 一瞬何が起きたのか分からず、赤くなった手と小さくなっていくゼルの後ろ姿を交互に見ている内に、お腹から頭まで一気に感情が突き抜けた。


「なっ、何あれ!? 何なのあの態度!? 信じらんない!」

「落ち着いてアカネさん」

「いや無理だし。意味分かんない。何アレ」

「また面倒が増えたわねぇ・・・」


 

 おろおろとするルビーちゃんを尻目に、ネクが大きくため息を吐く。

 いや本当に意味分かんない。心配してこんな遠いとこまで連れて来たのに、なんであんな態度取られなきゃならないわけ?

 それに何があったのか知らないけど、助けてもらった相手にあの態度もおかしいでしょ。


 一気にギスギスとしだしたあーしたちの空気に、ピオラさんの優しい声音が混じる。


「ごめんなさい皆さん。お気を悪くさせてしまいましたね」

「いや、ピオラさんが謝る必要どこにもないでしょ。悪いのは百パーゼルなんだし」

「・・・いえ、あの子がああいう態度を取るのにも理由があるんです。許してあげてくれませんか?」

「・・・」


 そんな困ったような笑顔で言われると、怒るに怒れなくなってしまう。なんでゼルにこんな甘いのこの二人。






 風の谷に戻った頃には、空はすっかり暗くなってしまっていた。

 時刻に関係なく吹き付ける風は少し肌寒くなり、窓や扉の隙間から漏れる光はどこか寂しさを強調させる。


 宿に戻ったルビーちゃんとネクとは別れ、一人ゴンドラに乗って頭を冷やしていたあーしは、風の谷の一番高い所にあるゲートから降り立った。

 この場所は集落を一望できるスポットにも関わらず、ポツポツと生える枯れ木だけに彩られているせいか、どこか物寂しい。


 薄暗い足元に注意しながら進んで行くと、手すりの前に浮かぶ先客を見つけた。

 わざと足音を立てながら、あーしはその先客の隣へと歩いていく。


「手すっごい痛かったんだけど、治して」

「俺様はソーサラーだ、他を当たれ」


 わざとらしくプラプラと揺らした手首には見向きもせず、ゼルはいつも通りな言葉を返してきた。

 それっきりお互いに黙り込み、星空のようにまばらに光る集落を眺め続ける。

 

 ここしばらくの激動の時間の中で、久しぶりに感じる静かな時間。

 緩やかに吹き抜ける風だけが二人の鼓膜を揺らし、虫の音も人の喧騒もこの場所には届かない。


 そんな静寂を破ったのは、ゼルの方からだった。


「・・・悪かったな」


 ただ一言、絞り出すように呟いたゼル。

 それを皮切りに、あーしたちは顔を合わせないまま言葉を交わす。


「それってあの態度のこと? それともあーしたちに嘘ついてたこと?」

「嘘だと?」

「聞いたから。ゼル、全然勘当なんかされてなかったじゃん」

「それは・・・」


 ゼルは一瞬言葉を詰まらせると、ため息と一緒にその続きを吐き出す。


「俺にとってはそうなんだよ。もう二度と、帰る事は無いと思ってたからな」

「なんで?」

「前に言ったままだ。俺はソーサラーの道を選んで、そんでアイツらと揉めて里を出た。大見得きって出てきた以上、戻れる訳ねえだろ」


 威勢のいいセリフを吐く割には、苦々しい表情を浮かべているゼル。

 それはそうだろう。だってそのソーサラーとして完膚なきまでに負けて、挙句ケンカ分かれした両親に助けてもらったんだから。


 それはゼルもちゃんと自覚しているのか、自嘲するような笑いをこぼす。


「ハッ・・・ダッセェな俺・・・」


 力無い笑い声は、風に乗って飛ばされていく。



「あーしはそうは思わないよ」



 それをあーしは、決して逃がさなかった。



「だって、ゼルはずっとあーしを助けてくれたじゃん」

「っ!」


 ゼルの肩がぴくっと動いたのが尻目に見えた。返事を待たずにあーしはそのまま続ける。


「あーしだけじゃないよ。ルビーちゃんもネクも、農園にラクティスにアルフィノエのみんなも。インスタグラマーのあーしが保証してあげる」


 そう言ってあーしはゼルにスマホを突き出し、インスタに上げた写真を一枚一枚スワイプして見せる。

 右から左へと流れていくのは、あーしたちが過ごしてきた冒険の記録。その一つ一つにはたくさんの『いいね』がつけられていた。


「だからあーしはダサいなんて一切思わないし、誰にも言わせない」

「・・・」

「それは、ご両親の二人も一緒だったよ」

「っ!」


 そこで初めてゼルはあーしに顔を向けた。だからあーしもきっちりと向き直り、その視線をまっすぐに受け止める。


「やり方は違っても、誰かを守る活躍をしている事を誇りに思ってるって。ゼルのこと、あーしの記事でずっと見守ってたみたい」

「・・・チッ、気色悪いマネしやがって」


 舌打ち交じりにまたも視線を外したゼル。吐いた言葉とは裏腹に、そこに拒絶の意志は感じない。


 実際二人は本当にゼルの事を溺愛しているようで、大事そうにあーしの記事を抱えながら、涙ながらにゼルへの愛を語っていた。ゼルが里を出てからは心配に心配を重ねていたらしく、あーしの記事で安否が分かってからは本当に安心したとも。


 そんな風に想われているゼルが、ちょっと羨ましかった。


 だから。


「ずっと待ってると思うよ、家族のみんなは。だからいつか、ゼルが納得できる自分になったら、会いに行って欲しいな」

「・・・何でそこまで世話焼くんだよ。人ん家の事情によぉ」

「アハハ、そうだよね。・・・両親が居るゼルには、大事にしてほしかったんだ。あーしは、お父さんもお母さんも居ないから」

「!」


 ゼルが逸らしていた視線をもう一度あーしに向けてくる。しまったな、こんなこと言うつもりなかったのに。


「・・・死んだのか?」

「んーん。捨てられてたんだって」

「っ・・・悪い」

「謝んないでよ。あーしが勝手に言ったんだし」


 わざとらしく明るく振る舞って話題を締めようとしたけど、どうにもゼルにはその気が無いみたいだった。

 まぁ、あーしもゼルのこと色々知っちゃったんだし、そうした方がフェアかもね。


「駅のロッカー・・・物置みたいなとこに捨てられてたのを、施設の人に拾ってもらったんだ。すっごく良くしてもらったから、不満とか恨みとか、そういうのは全然なかったんだけど」


 実際、そういうのは本当に感じたことはなかった。ぶっちゃけ顔も名前も知らないから感情自体湧かないし、施設のみんなが家族みたいなものだったから。


 だけど、だからこそ。


「普通ならみんなに居る自分だけの親っていうのが、すっごく羨ましかったんだ。自分だけを見て、誉めてくれる。そういう存在が」

「・・・」


 ゼルは何も言わずに聞いてくれている。

 二人だけのこの場所が特別静かだから、言いやすいのかもしれない。


「だからインスタグラマーになったの。イメチェンしておしゃれして、それをみんなに見てもらって。それで、誤魔化してたのかも」


 だから、この世界に転生した時も特に未練なんて無かった。


「お前さん、割と後ろ暗い気持ちでインスタやってたんだな」

「えっ? ・・・あー、いやいや違う! 今は違うよ!? 今はスッゴく充実してる!」


 そうだった。ゼルは転生云々を知らないんだった。危ない危ない。

 でも実際、あーしはこっちに来てからすごく充実している。危ないことも多いけど。


「えっと、だから、ゼルにはちゃんと両親を大事にしてほしいの。以上!」

「雑にシメたなおい」

「いいの別に! ニュアンスが伝われば!」


 今度はあーしがぷんすこ怒ってゼルから視線を外す。視界の隅に映るゼルは、少し笑っているように見えた。


「納得できる自分、か」


 ゼルは軽く握った右手を見つめると、それを頭上の星空へと向けて伸ばす。真下に見える集落よりも広く大きい光の瞬きは、その腕の小ささを余計に際立たせる。


「届くと思うか?」

「さぁ? まぁ一人じゃ無理だと思うよ」

「オイ」


 お前マジかみたいな視線を投げ掛けてくるゼル。どうやら雰囲気で勘違いしているようだし、ここはバシッと言っておこう。


「あーしもルビーちゃんもネクも、色んな人がゼルに助けられたって言ったけど、その逆もまた然りってやつだよ」

「!」

「あーしが言うのもなんだけど、今日の今日まで一人で解決できたことなんて一つもないんだから」


 いつもなら食って掛かってきそうなセリフに反応することなく、ゼルは再び自分の手の平に視線を落とす。ニュアンスは伝わったかな?


「そんじゃあーし先帰るね」

「おっ、おう・・・」

「二○三号室の四人部屋ね。あーしとルビーちゃんとネク、みんなで待ってるから」

「・・・分かったっつーの」


 ゼルは最後に苦笑して、ぶっきらぼうに背中を向けたまま右手を上げた。

 あーしもまた振り返ることなく、ゴンドラに乗ってその場を後にする。


 夜空を見上げれば、月もそこそこに傾いているいい時間帯。でもまぁ今日くらいは、いつもより長めに夜更かししてもいいかな。

 あと一人、部屋に帰ってくる訳だしね。

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