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異世界インスタ  作者: 五寸
第3章 精霊と混沌
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12話

 エイミス様のエレメントロード就任式に勃発した、魔王の息子エギルと幹部による襲撃。

 奇跡的に死者こそ出なかったものの、パニックに巻き込まれて大ケガを負った人や破壊された建物と、襲撃で荒らされた街の被害は笑えないレベルになっていた。

 

 そして何より、エレメントロードであるエイミス王女が攫われたという事実は、王都に住む全ての人たちの心に暗い影を落とした。


「・・・」


 エギル襲撃から二日後。本来ならアルフィノエへと戻っているはずのあーしたちは、まだ王都に残っていた。

 理由は単純。ゼル、ルビーちゃん、ネクの三人が未だに目を覚まさないから。


 エギルたちが撤退した後すぐにプリーストの治療を受けた三人は、それでも目を覚ますことはなく、そのまま病院へと運び込まれた。目立った傷はほとんど治ったものの、あまりに攻撃が強かったせいか未だ昏睡状態が続いている。


 当然ながらケガ人はその三人以外にもたくさんいる訳で、元々数の少ないプリーストやお医者さんをフル動員してもなかなか手が回らない状況の中、あーしたちのパーティだけにかかりきりという訳にもいかない。

 だからあーしはとにかくゼルたちの居る病室に通い、体を拭いたりタオルを取り換えたりと、出来る限りの看病をしながらこの二日間を過ごしていた。


 浅い眠りから覚めた三日目の朝。今日こそはみんな目が覚めているんじゃないかと期待しながら、病院への道をひた歩く。


 パレードが開かれていた大通りでは武装した兵士がそこかしこで目を光らせ、時折馬に乗った兵士や冒険者が慌ただしく通りを行き交う。

 当然ながら王都は超厳戒態勢になっていて、かつて見せていたお祭りムードや華やかさは一切なりを潜め、最前線の砦で感じたようなピリピリとした雰囲気が漂っている。


 そのせいか、兵士以外の人通りが少ない大通りは進みやすく、すぐに目的の病院までたどり着くことが出来た。


「あっ、おはようございますアカネさん。今日も早いですね」

「おはようです。まぁ、他にすることないですし」


 病院の周りには小さめの花壇が備えてあり、そこで水やりをしていた看護婦さんと挨拶を交わす。ここ毎日顔を出していたから覚えられたみたい。


 この世界の病院はあーしの元居た世界のようなガッチリした造りじゃなくて、その辺で見かける大きめの宿屋みたいな見た目をしている。内装も宿屋らしさが少し残っていて、入ってすぐの受付なんかは宿屋のロビーそのままだったりする。

 それ以外は割と病院らしく、街の診療所のようなこじんまりとした診察室の他に、病人ケガ人用のベッドが置かれた部屋がずらり。


「あっ、そうだアカネさん。昨日の晩に王都の外から医者やプリーストが派遣されてきまして、もしかしたらお仲間の皆さんも目が覚めているかもしれませんよ」

「ほんとですか!?」


 看護婦さんの言葉で一気に持ち直したあーしは、すぐに受付で確認を済ませて、ゼルたちが眠っている病室へと小走りで向かう。


 音の鳴る階段を上り、病室の名札を確認してから扉を開けると、緩やかな風があーしの頬を撫でた。

 どうやら部屋の窓が開け放たれていたらしく、風の足跡のように揺らめく白いカーテンが、あーしの目の前でなびく繊細な赤毛をより一層際立たせていた。


「あっ・・・」


 あーしに気付いて振り向くと、にこりと優しく微笑みかけてくれる赤毛の妖精。

 気づいた頃には、あーしはもう飛び出していたと思う。


「ゼルーーーーっ!!」

「うぇっ!? 何ですか!?」


 焦ったような振舞いの一切を無視して、あーしは胸の中へと抱き寄せた。

 そのまま確かめるようにぎゅーっと抱きしめていると、徐々に違和感を覚えて腕から力を抜いていく。


 あれ、今敬語が聞こえたような・・・?


 そーっと胸から離して確認してみると、ぷはっと息を吐いた所で目が合った。

 うん、間違いない。どっからどう見てもゼルだ。顔の作りに赤い髪も一緒だし、体も声も一緒。


 ・・・でもなんだろう、この違和感。表情はいつもより柔らかいし、髪型もなぜか三つ編みおさげになっている。

 なんかこう、女の子っぽい? いやまぁ見た目はいつも女の子っぽいんだけど、こう、雰囲気が違うような。


「ふぅ・・・あの、離してもらえませんか?」

「えっ、あっ・・・はい」


 敬語を喋るゼルになぜかオドオドしているあーしは、言われるがままに腕の中から解放する。

 様子のおかしいゼルはそのままあーしから距離を取ると、改めてもう一度向き直り、なぜか深々と頭を下げた。


「初めましてですねアカネさん。私はエル。弟のゼルがいつもお世話になってます」


 簡単な自己紹介の後、もう一度にっこりと笑顔を向けてくれたゼル・・・じゃなくてエルと名乗る妖精の子。


 ・・・えっ、弟? えっ?


「ももも、もしかして、ゼルのお姉さん・・・?」

「はい」

「マジで!?」

「こらこら、病院では静かに」

「アッハイ」


 小さく指を立ててめっと怒ったような素振りを見せるエルさん。おぉう・・・ゼルと瓜二つの姿でやられるとすごい違和感があるなぁ。


 しかしよくよく観察してみると、結構違う部分が見て取れる。

 まずは顔。パーツこそ同じだけど、いつも眉間にシワ寄せてるゼルと違って、エルさんはおっとりとした柔らかい目付きをしている。口元も優しい笑みをたたえていて、への字のゼルとは真逆だ。

 髪も色や質こそ同じだけど、手入れもせずそのまんまのゼルに対し、女の子のエルさんは両肩近くで揺れる二つのおさげ髪がかわいらしい。

  

 ひとしきり観察して一人納得している内、もしやとドッキリの線も考えてベッドの方も確認してみると、今も変わらない寝顔を浮かべているゼルがそこにいた。・・・ドッキリの方が良かったな。


「もしかして、エルさんもお見舞いですか?」

「それもありますけど、今回はプリーストの応援として里から派遣されてきたんです」

「あっ、昨日の晩に来た応援って」

「私たちのことですね」


 そう言って浮かべたエルさんの笑顔は、どこか物悲しい。そりゃそうだよね、応援が必要なくらいケガ人がいっぱいいるって事だし。


「実は私、アカネさんたちの事を記事で拝見させてもらっていたんですが、おかげで今回の件にもすぐに対処する事ができました。ありがとうございます」

「いやいやそんな! あーし何もしてないし・・・何も、できなかったし」

「そんなことはないですよ。それに、ゼルの近況を知る事もできましたから」


 言いながら、眠っているゼルの頬を優しく撫でるエルさん。そういえばゼルは勘当されてるって言ってたような・・・さすがに聞きづらいな。

 人の家庭事情に突っ込むのも野暮だし、とりあえずあーしは本題に戻す。


「あの、それで、みんなは大丈夫ですか? いつ目を覚ますとか」

「回復魔法はかけておきましたし、そっちのお二人はもうすぐ目を覚ますと思いますよ。ただ・・・」

「あ~も~うるさいわよぉ・・・眠れないじゃないのぉ・・・」

「っ!?」


 不意に聞こえてきた三人目の声。声の主がいるベッドのカーテンを開ければ、抱きまくらのように掛け布団に手足を絡めてむにゃむにゃ言っているネクの姿が。


「~~~っ!! ネク~~~っ!!!」

「うごふっ!?」

「あらあら」


 たまらずあーしもベッドに飛び込み、抱きまくらのごとくネクの柔らかい体を抱き締めた。未だまどろんでいるのか反応の悪いネクの目を覚ますために、顔に思いっきり頬擦りをかます。


「ちょっ・・・アカネ・・・ちゃ・・・」

「あぁー良かったぁー! 心配したんだからぁ~!」

「ストップですアカネちゃん。トドメ刺しちゃうから」


 エルさんに注意されて渋々ネクから手を離すあーし。ネクはまだ目が覚めないのか、ベッドに突っ伏したままピクピクとか細い息を整えていた。


「ん・・・何事・・・?」

「! ルビーちゃん!」

「わっ、アカネさん?」


 あーしとネクの騒ぎを聞いて目が覚めたのか、覗き込むようにカーテンを開けたルビーちゃん。それを見るなりあーしはカーテンを剥ぎ取るように全開にして、ルビーちゃんにも抱きついていく。


「良かったルビーちゃん。もう体痛いとこない?」

「大丈夫だけど・・・どうして?」

「・・・もしかして、覚えてない?」

「・・・アタシの時にもそれくらい優しくできなかったのかしらぁ?」


 それはまぁホラ、心配だったから。あとネクの体って柔らかくて気持ちいいし。


 なんておふざけもそこそこに、あーしは三日ぶりに目を覚ました二人に事の顛末を話した。戦いの末にエイミス様が連れ去られてしまったことや、それによって王都の状況がどう変わったのかを。


「なるほど、エギル様も考えたわねぇ」

「経験の浅い内に狙い撃ち、大きい賭けだけど悪い手じゃない」

「何で魔王軍目線だし・・・エイミス様大丈夫かな・・・」

「断言はできないけど、たぶん大丈夫だと思うわよぉ」


 ネクは皿に盛り付けられたウサちゃんリンゴをひとかじりしてから、自分の考えを語り始める。ちなみに用意してくれたのはエルさん。ネクのギョっとした顔が面白かった。


「エレメントロードが邪魔ならその場で殺すはず。それをせずに連れ去ったという事は、王女様には生きていてもらう必要があるんだと思うわぁ」

「何で?」

「さぁ、そこまでは。まぁ四大精霊の力を借りるクラスだし、その時点で良い研究材料にはなるんじゃないかしらぁ」

「ヤバイじゃんそれ!? 速く助けないと!」

「落ち着いてアカネさん。今の私たちじゃまた病室に送り返される」

「病室に戻れる保証も無いわよぉ」

「ぐっ・・・そうだけど」

「大体その程度の予想はすでに王族たちも済ませてるわよぉ。アタシたちの出る幕はないわぁ」


 そう言ってネクは二つ目のリンゴにつまようじを刺し、会話を打ち切るようにそれを口へと放り込んだ。


 確かにネクの言う通り、兵士たちの会話の中で、すでにエイミス様の救出作戦が提案されているというのを聞いた。ただ王都側もかなり被害を受けていて、まだまだ混乱の中にある以上、焦りは禁物と反対意見も少なからずあるとか。

 どちらにせよ、ネクの言った通りあーしたちに出番はないだろう。


 でも、それで知らんぷりしてもいいのかな。

 だってあーしたちは、そのエイミス様に助けてもらったのに。


 そんなあーしの胸の内を察したのか、ルビーちゃんはまるごとかじっていたリンゴを一気に口へと放り込み、あーしに語りかけてくる。男前な食べ方だなぁ。


「自分たちの実力を正しく認識することは大切。それに私たちには、もっと身近に助けないといけない相手がいる」

「っ! そう、だね・・・」


 言われて思わず俯いたあーしは、離れたベッドで回復魔法をかけ続けていたエルさんへと歩み寄る。小さな手のひら同士を握り合わせ、そこから緑色の光をゼルの体へと送っている。

 しかしそれでも目を覚ますことはなく、ゼルはただ静かに寝息を立てるだけ。


「・・・ダメね」

「そんな・・・何でゼルだけ目を覚まさないんですか?」

「エギル様の魔法が強力だった、それだけのことよぉ。それに直接流し込まれたわけだしねぇ」

「ゴメンね、ゼル・・・!」


 痛ましい表情を浮かべながら、握りしめたゼルの手を自分の額に押し当てるエルさん。

 どうしよう、同じ妖精のエルさんですらお手上げとなると、いよいよ他に頼れるところがなくなってしまう。

 それでも何かないかと一緒懸命頭を回していると、エルさんは少しためらいながらも口を開いた。


「ゼルには悪いけど、里に帰るしかないですね・・・」

「・・・えっ、里?」

「はい。私たちの故郷、妖精の里です。そこでならゼルも治療できるはず」

「妖精の里・・・!」


 つまりそれって、ゼルの生まれ故郷ってことだよね。・・・勘当されてるらしいけど。


「あらいいじゃない。アタシ一度行ってみたかったのよねぇ」

「妖精の里には、世界で最も高名なプリーストがいる。彼らならきっとゼルさんも治せるはず」

「世界で最も・・・! そんなすごい人がいるんだ」

「忘れてるかもしれないけど、妖精種は支援魔法のエキスパートなのよぉ?」

「ゼルと一緒にいたなら、そう思うのも無理ありませんね」


 割と失礼寄りのネクの言葉にも、クスクスと笑いながら乗っかってくるエルさん。顔がほぼ同じだけにネクがおっかなびっくりな表情を浮かべているのが面白い。

 それとその反応を見るに、姉弟仲はそんなに悪くないっぽい・・・?


「となると、まずはアルフィノエに戻ってから風の谷を目指す必要がある」

「えっ、何で風の谷行き?」

「妖精の里は、風の谷のすぐ近くにありますから」

「あっ、そうなんだ。んじゃいつ行く? 二人も一応病み上がりだし無理はさせたくないんだけど」

「私は問題ない。明日でも大丈夫」

「あー、アタシはまだしんどいから、あと二日くらい休みがほしいわぁ」

「じゃあ私とアカネさんで先に、ネクさんは後から追いかけてくるってことで」

「ルビーまで辛辣に!? 待って待ってアタシも行くわよぉ!」


 なんだか懐かしさを感じてしまうこのやりとりに、不覚にも涙腺が緩むあーし。もろいなーもう。

 せめてあと一人が戻ってくるまで、それは我慢しておこう。

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