7話
ついにパレード当日がやってきた。
正確にはエイミス様のエレメントロード就任式なんだけど、それはほとんど王族関係者で済ませちゃう行事だからあーしの入る余地は無いし、その分あーしの頭の中ではパレードの存在がより大きくなってる訳でして。
もっと言えば、パレードの関係者になれちゃったのも大いに関係してる訳でして。
「アカネさんはこちらの馬車に乗り込んでおいてください。集合時間までにはよろしくお願いしますね」
「あっ、はい。ありがとうございます」
派手めなカラーリングをしている制服を着た男の人に、これまた派手な馬車へと案内される。なんかよく分からない彫刻やでっかい花で飾り付けられ、とにかく視覚的に盛り上げようという意気込みが伝わって来る。
そんな馬車が何台も立ち並び、服装の確認や演目の最終チェックを行う人々がたむろするこの場所は、パレードの盛り上げ隊の待機場所。
王城の出入り口にほど近い中庭の隅で、あーしたち盛り上げ隊は、エイミス様のエレメントロード就任式が無事に終わるのを待っていた。
「まさかお前ら、俺の知らん間にこんな大事に首突っ込んでるとはな」
「アナタのハニーのおかげよぉ。一日デート券で手を打ったわぁ」
「おいちょっと待て」
「してないしてない! そんなことしてないから!」
「正直にそのままお願いしたら、二つ返事で了承してもらった」
「それはそれでどうなんだよ」
確かにそう思う。
昨日あーしが思いついた提案を聞いて、シルヴァさんは悩む事すらせずにパレード参加の許可を取り付けてくれた。盛り上げ隊の人たちはさすがに最初は渋ってたけど、ネクのマリオネットとルビーちゃんの七変化を見たらめちゃくちゃ快く受け入れてくれたし。あーしが言うのもなんだけど、そんな簡単決めていいの?
あーしたち、というよりはルビーちゃんとネクが割り振られた位置は、先頭から二つほど後ろのポジション。いわゆる前座にあたるのかな。
あーしはネクたちに近い馬車の中で撮影。一番いい席がゲットできちゃった。
「ゼルはどうする? ネクの糸ならダンスも問題ないと思うけど」
「・・・俺様はパスだ。クモ女に操られるなんざゴメンだぜ」
「あらあらいいのぉ? こんな目立てるチャンスそうそうないわよぉ?」
「パレードの主役は王女サマだろ。目立つなら俺様が主役じゃないとな」
おぉ、なんか久しぶりにゼルらしいセリフを聞いた気がする。
・・・でも違和感がない訳でもない。もっとこう、俺様が主役を食ってやるぜ! くらいは言うと思ってたし。
それはネクも感じていたのか、ぶすーっとつまらなそうな表情でゼルを睨めつけていた。
「じゃあどうすんの?」
「お前さんと馬車で待機だな。時たま魔法でも撃ってりゃそこそこ盛り上がんだろ」
「そんな適当な・・・」
「飛び入りのお前らも大概だろ。第一、俺様の魔法が即興劇に負ける訳ねえしな」
「ふぅーん、言うじゃない。アナタのわた埃みたいな魔法とアタシの華麗な人形劇。どっちが注目されるか勝負よぉ」
「好きにしてろ。結果は見えてるがな」
どこかわざとらしくケンカを吹っ掛けたネクに対し、冷めた態度で突っぱねるように返すゼル。セリフこそ自分の魔法に自信があるように聞こえるけど、あーしにはどうしても、虚勢を張っているようにしか聞こえなかった。
時刻は午後過ぎ。
ついにエイミス様のエレメントロード就任式が終わり、パレードの時間がやってきた。
あーしとゼルは指定された馬車に乗り込み、ルビーちゃんとネクはその少し先を歩いていく。今更だけど体力持つかなネク。
あーしは馬車の窓からドローンを空高く飛ばし、王都の街並みを見下ろす。
「うわぁぁああああ! すっごい! 人がいっぱい!」
そんな何のひねりも無い感想が漏れ出るくらいには、大通りの周りが人で埋め尽くされていた。
地面が全く見えないほどに人が集まった大通りの周囲では、手を振ったり拍手したり肩車したりする人と様々。その内半分くらいの人は小さな国旗を手に持って声援を送っている。
対してパレードでは身の丈の倍以上はある大きな国旗を抱えた騎士が、一糸乱れぬ動きで先頭を行進している。こういうイベントの先頭はやっぱ国旗って決まってるのかな。オリンピックとかそうだったような。
その後ろに盛り上げ隊が続いていき、本格的な仕事が始まる。
薄布をまとって艶やかに舞うダンサーたちに目を奪われたかと思えば、機敏に動き軽やかに宙を舞う軽業師に一気に引き込まれ、色とりどりの炎や美しい氷細工を作り出す魔法に心を打たれる。
さらに音楽隊が笛や小太鼓で人々の鼓膜を楽しげに揺らし、周囲の声と合わさって盛大なファンファーレを産み出す。
そうして盛り上がった民衆から祝福の言葉を受け取り、それに笑顔で感謝の言葉を返すのはエイミス様。一番豪華に飾り付けられた馬車に乗り込み、王様やお妃様と一緒ににこやかな表情でお祝いムード一色の街を見渡している。
エイミス様の乗る馬車の周りではシルヴァさんをはじめとした精霊騎士隊が列を組んで囲み、さらにその先頭をルークさんが歩く。
明らかに団長二人組にかけられた声援も多く、改めて騎士団としての二人の人気さが垣間見える。ビジュアル詐欺だとも思うけど。
「やー、さすが盛り上がるねー。撮りがいがあるよー」
「そうか」
「ほら、ゼルも今からでも参加したら? いい画になると思うよ」
「いいんだよ俺は。他に魔法使いもいるし、ルビーとクモ女で十分だろ」
「・・・あのさ、ゼル。あーしで良かったら」
「お、ルビーたちが動き始めたな」
「えっ? あっ!」
ゼルの呟きを聞いてスマホに視線を落とせば、いよいよルビーちゃんたちが演目を始める所だった。今まではあえて何もせずに歩いてただけだから妙に悪目立ちしてたけど、それ自体が注目を集めるための布石でもある。
「ウッフフ。さぁ、その目に焼き付けなさぁい」
ネクは満を持して色とりどりの糸を大袈裟に撒き散らしてみせると、しばらくは龍のように宙を泳いでいた糸が徐々にそこかしこで絡み合い、やがてタキシードにドレス、その他盛り上げ隊の服を形作った。
十着以上はあろうかという宿主のいない服たちは、ネクの華麗な指さばきで中身がいるかのように振る舞うどころか、中身がないからこその大胆なパフォーマンスを披露し、観客をさらに盛り上げる。
「ほぉら、アナタも根性見せなさいなぁ」
「・・・了解」
恐らくは人生でもっとも注目を浴びているだろうルビーちゃんは、頬を赤く染めながらもネクの指揮する躍りにその身を任せる。
ネクの操る舞踏会の主役のように動かされるルビーちゃんは、相手の服が変わるごとに自分も姿を変え、ひとつの演劇作品のようになっていた。思い付きで言ったんだけどすごいレベル高いなコレ。
おかげで他の盛り上げ隊に見劣りすることもなく、観客のボルテージもどんどん高まっていく。
「いいよいいよこれ! 絶対延びる! ほら、ゼルも見てコレ!」
「・・・確かにすげえけどよ、本来の趣旨忘れてねえか?」
「あっ」
ゼルの冷静なツッコミで我に返る。そうだった、このパレードはあくまでエイミス様が主役だった。+エイミス様の写真も。
あーしは少し慌てながらエイミス様の方へとフレームを動かすと、エイミス様もルビーちゃんたちの演目を楽しそうに見てくれているのが映し出された。
「・・・意外と反応は悪くないっぽいね」
「・・・そういえばそんな感じの王女サマだったな」
思い出すように宙を見つめて呟くゼル。そういえば膝に乗せられてたもんね。
それでもと、あーしはゼルの忠告通りエイミス様の写真をなるべく撮りつつ、パレードで過ごす時間をひたすらに写真に納めていった。
パレードが開かれてしばらく。ついに折り返し地点の中央広場へ到達していた。
折り返し地点に指定されたこの広場は名前通り王都の中心部であり、街中を巡るあらゆる道が一か所に集まるような形になっているからか、王都の中でもダントツで広い。
それ故に普段から人の密度が一番高いこの場所は、パレードという特別な日が合わさった事で、道という道を人が埋め尽くすほどの集まりを見せていた。うわぁ・・・あーし盛り上げ隊側で良かった・・・。
割とドン引き気味のあーしに対して、王都の住民たちはそんな事お構いなしにと祝福の言葉を惜しみ無くエイミス様へ向けて送っている。
しかし、あれだなぁ・・・。
「けっこう長いねコレ」
「んだよ、飽きたのか?」
「オブラート剥がさないでよ」
あんまり大声では言えないけど、ぶっちゃけるとそうだったりする。
さすがに盛り上げ隊と言えどパレードぶっ続けで全部違う演目を披露する訳ではなく、数パターンに分けられた踊りや魔法を繰り返し、時にはそれらを組み合わせたりしている。
ほとんど身動きが取れない観客側ならそれでも大丈夫だろうし、それを見越してのプログラムなんだろうけど、パレードの内側からずーっと写真を撮ってたあーしにはどうしても目新しさを感じなくなってしまった。贅沢な話なんだけどね。
「写真はかなり撮れたんだろ?」
「まぁね。あーしとしてはけっこう満足してる」
「んじゃお前さんも参加してこいよ。クモ女ならその辺のフォローも効くだろ」
「いや、今さらあーしが出てもしょうがないでしょ。それに万が一シャッターチャンスを逃すのもあれだし」
「めんどくせえ奴だな」
自分でもそう思うよと、あーしはスマホを見ながら苦笑する。
それに折り返し地点なわけだし、盛り上げ隊の人たちも何か考えてるでしょと無責任な信頼を押し付けながら、ドローンでぐるっと周囲を見回した。
相変わらずの人混みの奥では警備兵が忙しなく動いていて、ぽつぽつと羽目を外しすぎたんだろう人たちが注意されているのが見える。どこにでもいるんだねああいう人。
しかし見えるのはそんな日常の一部だけで、他にパレードに関係してそうな仕掛けとか、ビックリドッキリの演出を準備しているような様子は見受けられない。
それならばとあーしは目線を上げて、屋根の上や王城、空の方へとドローンを動かした。
たぶん元の世界ならその辺りに花火でも仕掛けてあるんだろうけど、残念ながら見えるのはパレードを見下ろす警備兵だけ。
あーしは小さくため息をつき、同じようにパレードの方へと視線を移そうとしたその時、視界の隅に何かを捉えた。
何だろうとそっちに目線を向けてみれば、屋根より高い位置、つまり宙に浮いた状態でパレードを見下ろす三人組が映り込んだ。
妖精のゼル以外で宙に浮いている人に若干驚きつつも、あーしはあの人たちこそが後半の盛り上げ担当なのだろうと踏んで、カメラズームで三人組の顔にピントを合わせる。
「・・・うそ」
カメラのピント機能で鮮明に映し出されたのは、ついこの間見知った顔。
魔王の息子 エギルは不気味に微笑み、エイミス様の居るパレードを眺めていた。




