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異世界インスタ  作者: 五寸
第3章 精霊と混沌
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6話

 サイクロプスの討伐から砦でバイトして一泊と、中々に激動な一日を過ごしたあーしたちはその後すぐに王都へと戻り、それぞれなりにパレードまでの日々を過ごした。

 それなりの報酬はもらえたけどさすがにあれ以降クエストを受けようという声は上がらず、さらにゼルは一人で修行に励むと言い出したので、残った女子陣で王都を満喫する事に。と言っても値段が高すぎてほとんどウィンドウショッピングなんだけど。


 そして今日はついにパレードの前日。

 あーしはとある目的のためにルビーちゃんとネク二人に約束を取り付け、王城の前で待ち合わせをしていた。ちなみにゼルはそもそも連絡が取れなかった。朝早くから王都の外で修行してるんだと思う。・・・あとシルヴァさん避け。


「あっ、来た来た。おーい!」


 道の先から現れた見知った黒髪の子に手を振ると、向こうも控えめに返しながら小走りで近づいてきた。


「おはようアカネさん。待った?」

「ううん。あーしも今来たとこ」

「よかった」


 なんか付き合いたてのカップルみたいなやり取りをしてしまうあーしたち。でもルビーちゃんが相手ならいいかなぁ。いや良くない。それに待ち合わせしてるのはルビーちゃんだけじゃないし。


「はっ・・・ふっ・・・」


 ルビーちゃんからしばらく遅れて現れたのは、肩で息をしながら歩いてくる銀髪黒メッシュのグラマーな女性。

 本人は必至こいて歩いているんだろうけど、そのたびに豊かな胸が上下に揺れて妙にいやらしい雰囲気が出てしまっている。いやだなぁ、なんか合流したくないなぁ。


「はぁ・・・お待たせぇ・・・」

「あの、何でそんな疲れてんのネク?」


 おばあちゃんみたいな足取りでようやく待ち合わせ場所に辿り着いたネクは、そのままぺたりと地面の上に座り込んでしまった。


「寝坊・・・しちゃって・・・」

「思ったよりかわいい理由だったわ」

「ネクさん口開けて、ゆっくりこれ飲んで」


 恐らくは急いで走ってきて早々に体力が切れたんだろうネクに、ルビーちゃんは持参していた水筒をゆっくりと飲ませる。介護じゃないんだから。


「全員揃ったけど、歩けるネク?」

「・・・ちょっとだけ、時間をちょうだい」

「ネクさん、アルフィノエに戻ったら一緒に走り込みしよう」

「えっ!? い、いやよぉ・・・」


 心なしかさっきよりもへたり込んだ様子のネク。どんだけ嫌がってんの。

 ネクの体力が回復するまでに今日の予定を再確認しておこうと、ポーチにしまった王都の地図を探っていると王城の中の方から不意に声をかけられた。


「あれー? アカネちゃんたちじゃん。久しぶりー」

「あ、シルヴァさん。久しぶりですー」


 軽いノリであーしたちに声をかけた来たシルヴァさんは、チラチラと周りに視線を動かした後あーしたちに問いかけてくる。


「ダーリンは?」

「一人で修行するって、たぶん王都の外に。あーしも最近顔合わせてないんですよー」

「あー、だから最近見えなかったんだー」

「・・・今サラっととんでもない事を言ってた気がする」


 ダメだよルビーちゃん。反応しちゃ。


「それで、三人は何でここに集まってるの? あっ、エイミス様に会いに来たっていうなら悪いけど、明日の準備で今日は暇が無さそうなんだよね」

「あー、いやいや。さすがのあーしたちでもそれ位は予想できますよ」

「今日は、パレードの下見をする予定」

「おー、なるほど!」


 そう、あーしたちが王城の前で待ち合わせしたのもそれが理由。

 あーしはエイミス様とパレード中の写真を一番最初に見せるという約束を交わした。ならば見せるための写真はそれにふさわしい一枚に仕上げるのはインスタグラマーとして当然の事。

 パレードは遊園地で見たようなものと大体同じで、エイミス様を中心に盛り上げ隊が取り囲んだ一団が、王城からスタートして街をぐるっと一周してからもう一度王城へと戻っていくという運びになっている。


 今日はその下調べのために、王城からスタートするパレードの道順を巡って行く予定。主にあーしたち用の移動経路とベストショットの位置確認が目的。


「そこまでしてくれるなんて、エイミス様もきっと喜ぶよー!」

「ふふ、エイミス様によろしく伝えておいて下さい」

「分かった! それじゃねー!」


 ぶんぶんと手を振って王城の中へと戻っていくシルヴァさんを見送り、あーしもそろそろかなとネクの方へ声をかける。


「あーしたちも行こっか」






 王城から出発したあーしたちは、パレードで行進する大通りをゆっくりと歩き進んで行く。

 当然ながら街中の方も色々と飾り付けられていて、どこをバックに取れば面白いかとか頭の中で簡単にシミュレートしながら、あーしはスマホとドローンの両方を操作していた。

 

「精が出るわねぇ」

「まーそりゃね。インスタグラマーとしてお願いされたようなもんだし、やる気も出るよ」

「アカネさん、あーん」

「あーん。ありがとルビーちゃん」

「ん」


 いつの間にか買い食いしていたルビーちゃんが、スマホに夢中になっているあーしに食べさせてくれた。なんだろこれ、ひとくちから揚げかな。

 またもカップルじみたやり取りをしていると、ネクが何やらチラチラと物欲しそうに見つめ、それにルビーちゃんが気づくとふいっと顔を背けた。なにその分かりやすいツンデレ。

 何だかんだあーんしてもらったネクを尻目にスマホの方へと視線を落とすと、高所から映し出すドローンの景色に気になる点を見つけた。


「路地裏とかにもけっこう兵士いるね」

「パレードだものぉ。すでに警備網の打ち合わせは済んでるだろうし、アナタと同じ明日に向けて最後の実地確認って所でしょうねぇ」

「あー、そりゃそうなるよねー。パレードとか絶対人混みで移動し辛そうだし。あーしたちも使わせて・・・もらえないよね」

「さすがに無理だと思う」


 ですよねー。さすがに警備に割り込むのは迷惑とかそういう次元じゃないし。

 じゃあ屋根の上を伝って・・・ってもちろんそこも警備対象ですよねー分かってました。


「むぅ・・・どうしよう。これじゃ何か所か絞らないとまともに写真取れそうにないかも」

「ドローンで追いかけるのはダメなの?」

「いやだってあーしも生で見たいじゃん?」

「アカネちゃんらしいわねぇ・・・」


 やれやれといった風に肩をすくめてみせるネク。まーそこはね。撮影は撮影としてあーしも楽しみたいし。・・・あーしも楽しむ、か。


「いっそのことパレード関係者になるとかどうかな?」

「いきなり何を言い出すのかしらこの子はぁ」

「いやだってさ、パレード関係者なら堂々とうろいつても問題なくない?」

「問題はそこじゃなくて、そもそもどうやって関係者になるの?」

「そこはまぁ・・・ほら、エイミス様とかシルヴァさんからのお願いって事で一つ」

「思いっきりコネに頼り切ってるじゃないのぉ・・・」

「それで了承を得たとしても、飛び入り参加の素人に居場所は無いと思う」

「そこは問題ないよ!」


 呆れた表情の二人に向かって、あーしはどんと胸を叩く。

 

「ネクのゴーレムなら十分見ごたえあるし、ルビーちゃんも変身があるし、すごく盛り上がりそうじゃない?」

「当たり前のようにアタシたちを巻き込むのねぇ・・・」

「だって二人のすごさは知ってるし。絶対受けると思うよ」

「・・・アカネさんはずるい」


 ほんの少し頬を染めて俯くルビーちゃん。ごめんねわがままで。

 対してネクの方はまんざらでもない表情浮かべて。


「ウッフフ。まぁ頼られるのは悪い気はしないわねぇ」

「さっすがネク、話が分かるぅ」

「ウフフフフ、アタシの美貌とこの力で主役を食ってしまうかもしれないけどねぇ」

「ネクさん・・・」


 完全にあーしに乗せられたネクをジトーっと見つめるルビーちゃん。ネクのこういうチョロい所が好き。

 後はプレゼン用にどんな見世物を用意するか考えないと。


「んじゃパレードに出すゴーレムだけど、さすがに岩むき出しだと合わないよね」

「素材さえあればゴーレムにできるけどぉ、王城の宝物でも借りる?」

「あーしたちがお縄についちゃうのは却下で」

「じゃあそこらの見物人を操って踊らせる?」

「それはたぶんパニックになっちゃうから。まぁフラッシュモブみたいで面白そうだけど」

「んー、以外と難しいわねぇ」


 歩きながらネクは顎に指をあててうーんと唸り、そしてハッと思い付いたように両手を小さく叩いた。


「そうだわぁ。服だけ編んでそれを踊らせればいいのよぉ」

「服だけ? どういうこと?」

「言った通りよぉ。スーツなりドレスなりを編んで、それを人が踊っているように操る。戦う訳じゃないから耐久力を気にしなくていいし、盲点だったわぁ」

「おー、考えたねネク!」

「ウフフ、それほどでもあるわねぇ」


 そう言ってネクは早速タキシード一式を作り出し、その場で確かめるように踊らせる。追加でシルクハットも付けるとかなり様になった。


「おお、いいじゃん!」

「さすがネクさん」

「ウッフフ、あとは数とバリエーションを増やせば完璧ねぇ」

「んじゃ次はルビーちゃんだけど、どうしよっか?」

「私は、その、躍りとかの心得がなくて」

「それも問題ないわよぉ」

「え? ・・・ちょっ!?」


 ネクの糸に絡めとられたルビーちゃんは、そのまま流れるようにタキシード一式と踊り始める。見れば当然のようにネクが指先で二人のダンスを操っていて、大通りを行き交う衆人の注目を集めていた。

 実質一人で踊っているようなものでもあり、顔を真っ赤に染め上げるルビーちゃん。


「ネ、ネクさん! もう止めて・・・!」

「本番もこうやってアタシがフォローしてあげるから、アナタは自分のタイミングで変身して盛り上げなさいなぁ」

「わ、分かった・・・!」


 そう言うなりルビーちゃんは踊ったままハイドで姿を消してしまう。まぁ繋がった糸は今も丸見えなんだけど。


「これだけ出来れば前座くらいは勤まるんじゃないかしらぁ」

「結構ノリノリだねネク。後はゼルだけど、来るかなぁ・・・?」

「あの目立ちたがりが来ないわけないじゃなぁい。どうせ踊ってすぐに悩みも忘れるわよぉ」

「へー、ちゃんと考えてるんだね」

「ち、違うわよぉ。第一アタシたちのレベルじゃ王都は早いんだし、あのチビにはアルフィノエがお似合いってだけぇ」

「はいはい」


 どうにも抑えきれない口元の緩みをネクにツッコまれながら、あーしは今もどこかで修行中のゼルに思いを馳せる。

 ゼルの気持ちは分かるけど、何も焦る必要はどこにもない。体質だって時間をかければ乗り越えられるかもしれないし。

 だからちゃんと話し合って、これから先の方針を話し合いたいんだけどなぁ・・・。


「あの、ネクさん。そろそろ本当に止めてほしい」

「あっ、ごめんなさいルビー。素で忘れてたわぁ」

「・・・そんだけ指動かして気づかないってどうなの」


 考え事にふけっていたあーしの意識を、すこし息の乱れたルビーちゃんの声が引き戻す。

 ネクが指の動きを止めると、恥ずかしさとは違う理由で顔を赤くしたルビーちゃんが現れる。うっすらと額にかいた汗を見るにマジで今まで踊らされてたんだろう。新手の拷問か何か?


「とにかく明日の方針は決まったし、今日はもうどんどん進んでこっか」

「まだパレード参加の許可は貰えてないんだけどねぇ」

「それが決まらないと全部水の泡」

「・・・ちょうど終点も王城だし、もっかいシルヴァさんに会いに行こっか」


 ゼルがいなくても最後が締まらないあーしたち。

 別の意味でパレードが心配になりながら、あーしたちは街の大通りを進んでいった。

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