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異世界インスタ  作者: 五寸
第3章 精霊と混沌
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4話

 鼓膜を殴りつけてくるような音量に思わず耳を抑えてその場で固まるあーしたちに向かって、サイクロプスはその巨体から想像もできないスピードで走り迫ってくる。


「ちょちょちょっ!? 来る! 来るよこっち!」

「分かってる! 大人しくしとけ!」


 ゼルはいつも通り壁の魔法を広げたまま迎え撃ち、対してサイクロプスはそこに向かってサッカーのように蹴りを入れてきた。意外に器用!?

 すさまじい衝撃音にあーしは思わず目を瞑り、しばらくしてから恐る恐る目を開ける。目の前では変わらずゼルは涼しい顔をしていて、逆にサイクロプスは蹴りを入れた方の足の指がえらい方向に曲がっていた。うわぁ痛そぉ・・・。


「今がチャンスだ、散れお前ら」

「了解」

「分かったわぁ」

「わ、分かった!」


 サイクロプスが足を抑えている隙に、あーしたちは指示通り四方八方へと散らばっていく。

 ゼルはある程度あーしたちと距離が空いた事を確認すると、壁の魔法を張ったまま思いきりサイクロプスの顔面に向けて突っ込んだ。

 いきなり顔へ近づいてきたゼルをサイクロプスは反射的に避けようとするも一歩遅く、壁の魔法に弾かれるようにして大きく体をのけ反らせた。

 そこに追撃をかます為、ゼルは途切れることなく魔法を唱える。


「『ロックハンズ』!『アーマーライズ』!」


 小さな妖精の体にはいびつなほどに大きく形作られる岩の右腕に、ゼルは更に体を固くする魔法を重ねる。白い光に包まれた岩の表面は光沢を帯び始め、一目で強度が上がった事が分かった。


「コイツでッ、ノックアウトだァ!」


 体制を戻し始めていたサイクロプスの顔面へ向けて、岩の右腕による右ストレートが飛んでいく。

 直撃と共に豪快な破裂音が響き渡り、岩陰で撮影していたあーしのすぐ近くまで破片が降り注いでくる。


 ゼルが作り出した岩の右腕の破片が。


「なッ!?」

「ウソッ!?」


 いつか、海神の社でエギルと戦った時と同じような光景。

 確かにサイクロプスの顔面を捉えていた岩の右腕は粉々に砕け散り、細腕を突き出したゼルを映し出す一つ目は憎々し気に細められ、お返しとばかりに今度は右フックが飛んできた。


「しょうがないわねぇ」

「うぉっ!?」


 すんでのところでネクがゼルを引っ張り、サイクロプスの右腕が空を切る。

 一本釣りのような形で飛んできたゼルはキャッチされることなく荒い地面に放り出され、口に砂が入っのかぺっぺと唾を吐きながらネクに声をかけた。


「余計な事すんじゃねえよクモ女!」

「あらぁ、ごめんなさい。それじゃあこのまま投げ返してあげましょうかぁ?」

「ちょっ、こんな時まで・・・!?」


 またしょうもない口論を繰り広げる二人に向かって、攻撃が空振りしたことに余計腹を立てたサイクロプスが空いた距離を詰めてきた。

 怒りをそのまま乗せたようにドスドスと音を当てて地面を踏みしめる大きな足は、まるで雪の上を歩いているかのようにハッキリと足跡を残している。

 そんな怒り心頭のサイクロプスの目の前にぬるりと現れた、黒い影。


「っ!」


 いきなり現れたルビーちゃんに若干驚いた様子を見せたサイクロプスは、急に飛んできた虫を払いのけるように右手を大きく振り払う。・・・妙に人間臭い動きするなあの魔物。

 しかしルビーちゃんは払われるどころか華麗に腕の上へと着地し、そのまま新体操のようにロンダートやバク転を繰り返しながら手の甲、肩、顔へともう一度距離を詰めていく。締めにバク宙で大きく飛び上がったルビーちゃんは、小刀を構えたまま正確に大きな一つ目へと狙いを定め落下した。


 が、しかし。


「うぐっ!?」

「ルビーちゃんッ!」


 咄嗟にサイクロプスが顔を振り動かしたことで、突き出す様に生えた二本の巨大な牙に思いきり弾かれてしまった。

 ルビーちゃんはギリギリガードできたものの空中に投げ出され、更に態勢を立て直せない所に向けてサイクロプスがはたき落す様に腕を振り上げる。


「ネク!」

「大丈夫よぉ」


 もう一度糸で引っ張ってと言葉なく訴えるあーしに、ネクは落ち着き払った様子で答えるものの、ルビーちゃんへ向けて出された糸は見えない。

 その代わりに、一列に並んだ大小さまざまな岩が蛇のように地を這ってサイクロプスの足下に近づき、そのまま体から振り上げた右腕まで絡みついてその動きを封じる。

 その間にルビーちゃんは危なげなく着地し、ハイドで離脱する事に成功した。


「な、何アレ?」

「糸を直接打ち込んでも切られちゃうだろうから、あの子が現れた時にまき散らした岩を使って、蛇型のゴーレムにリサイクルしたのよぉ」

「スゴイ! さっすがネク!」

「ウッフフ、もっと褒めてもいいのよぉ?」

「ゴーレムが作れんならもっと早くやれやクモ女」

「うるさいわねぇ! 最近やっと作れるようになったのよぉ!」


 あーそっか。ネクって幹部辞めたせいで弱体化してたんだもんね。

 氷桜の時にあーしたちに立ちはだかったゴーレムが、今度はあーしたちの味方に。何この熱い展開。


「というかアナタこそ、キッチリ決めてきなさいよぉ」

「ハッ! 誰にもの言ってやがる!」


 二人の会話を聞いてゼルの方を向いてみれば、いつの間にやら突撃魔法の準備が整っていた。口ゲンカしてると思ったらいつの間に。


「行くぜ! 俺様のスペシャルコンボその1! ・・・」


 相変わらず肝心の技名が聞こえないまま、ゼルは未だ締め付けられたままのサイクロプスに突撃していった。

 爆風を巻き起こしてサイクロプスとの距離を一瞬で埋めたゼルは、きれいに鳩尾へとめり込み、さらに勢いそのままに押し込んで行く。


 あれ、おかしいな。いつもなら鉄砲みたいに撃ち抜いてるのに。

 そんなあーしの疑問は、鳩尾を押されるまま崖の方へと後ずさるサイクロプスを見て解消された。なるほど、そのまま谷底に突き落とす訳ね。・・・えげつないなぁ。


 あーしはうっすらと引きつつも撮影を続行し、しばらくすると足を踏み外したサイクロプスがフレームの中からフェードアウトした。

 崖の一歩手前で墜落してしまったゼルを回収すると、散らばっていたメンバーが近くに集まって来る。


「おつかれーみんな。かなり強かったけど、なんとかなったねー」

「巨体の割に意外と機敏。けっこう危なかった」

「だから切り込み隊長として勝手がいいのよねぇ。とりあえずってくらいには優秀なのよぉ」

「何で敵目線なのネク・・・。ていうかゼルも考えたよね。アイツ撃ち抜いたくらいじゃ倒せそうになかったし」

「・・・あぁ、まぁな」


 セリフに対して浮かない表情のゼル。あれ、違う? もしかしてたまたま? なんて考えているあーしの横からネクがズバリと言い放つ。


「撃ち抜けなかったの間違いじゃなくてぇ?」

「えっ?」

「・・・バカ言いやがれ。俺様の高い知能が導き出した最高にクールな答えだ」

「ダウト、ゼルさん」

「どういう意味だテメェ」


 容赦ないルビーちゃんのツッコミに睨みつけて返すゼル。しかしそれに返ってきたのは意外と真面目な言葉だった。


「この辺りの魔物は冒険者と同じように、レベル5、6が当たり前。それに外皮が固いサイクロプスが相手なら、撃ち抜けないのも不思議じゃない」

「今まではレベル差でゴリ押してたようなものだし、むしろこれが普通なのよぉ」

「そ、そうなんだ・・・」


 確かに思い返せば、ゼルの高いプリーストの力に助けられた部分が多くある。むしろほとんどな気もする。

 しかしこの王都付近の魔物ではそれが通用しないとなってくると、今までのように楽観的に考えるのは避けた方がいいかもしれない。ていうか今までも避けるべきだったんだけど。

 ゼルの方も自覚はしているのか、いつものように反論する事もなく苦い顔で下唇を噛んでいる。


「まぁでもいいじゃん。課題が分かったってことは、あとはそれを乗り越えるだけ! それだけでも収穫じゃん!」

「そうねぇ。とにかく今のアタシたちには、決定力が足りなさすぎると思うわぁ。今回は地形に助けられた所もあるし、搦め手ばかりじゃ限界があるものぉ」

「というよりは、まだまだ王都に来るには早すぎるだけだと思う」

「これまでトントン拍子だったもんね。焦ってもしょうがないか」

「・・・時間もあれだ、帰ろうぜ」


 割とショックを受けているのか、ゼルはあーしの腕の中で短く言い放つ。いつもと違う雰囲気にやり辛さを覚えたのか、二人とも特に言葉を返すこともない。


 でも以外だなぁ。ゼルってこういう時はむしろ逆ギレして意地でも風穴開けてやる! くらい言うと思ってたのに。言われても困るけど。

 前回のエギルは魔王の息子っていう存在だからある程度言い訳にはなったかもしれないけど、今戦ったのはそこらにいる魔物の一体。こうなるのも無理ないのかなぁ。


 帰り道ずーっと無言で過ごすのもあれだし、何か元気の出そうな話題を探っていると、それを吹っ飛ばすかのような爆発音が連続で鳴り響いた。


「キャアア!?」

「何だ!?」

「! また岩山の中から・・・!」

「うそぉ・・・!?」


 パラパラと音を立ててあーしたちの行く先に転がる岩の破片。それらを踏みつけて粉々にしながら現れた、新たなサイクロプス。しかも三体。

 両隣の岩山の壁面を突き破って現れた三体のサイクロプスは、唯一の帰り道を塞ぐようにしてあーしたちの前に立ちはだかった。


「ちょ・・・どうしようコレ」

「さすがにこれは・・・」

「おいアカネ、ポーション寄越せ。速く!」

「わ、分かった!」


 慌ててゼルにポーションを渡すと、それを飲みきる前にサイクロプスたちが動き出した。

 それぞれが我先にと一つ目の顔を向けて近づいてくるその光景に、あーしはもう立っていることすらままならなくなる。


「『シェル』!」


 間一髪であーしたちを囲んだ壁の魔法に、サイクロプスたちは腕なり足なりで同時に攻撃を仕掛けてきた。さっきよりも激しい衝撃音に目を瞑っていると、その音の中にピシッという鋭い音が混じったように聞こえた。

 こういう時の嫌な予感ほど良く当たる。


「ゼ、ゼル!? ヒビが!?」

「チッ、さすがに集中攻撃はマズイか・・・!」

「どうするのよぉ!?」

「うるせえ! こんなもん、押し返してやるッ!!」


 ゼルは力を込めて壁の魔法を拡張しようとするも、サイクロプスたちの容赦のない猛攻の前に思うように広げることができない。それどころか、攻撃を防ぐ度にヒビが広がってしまっている。


「んの野郎ォオオオオオオオオオオ!!!」


 迫り来る三体の巨人を前に、一切怯むことなく立ち向かっていく妖精のゼル。

 しかし現実は非常にも、あーしたちの希望と共に壁の魔法を打ち砕いた。


 ガラスが割れたような軽快な音が周囲に響き、一歩遅れてドシンと重厚な音が大地を揺らす。

 足音にも似たその音は、それ以上聞こえてくることはなかった。


「・・・え?」

「どうなってんだ・・・?」


 大地を鳴らしたのはサイクロプスの足ではなく、瞳から輝きを失った頭。

 あーしたちと同じタイミングでその事実に気づいたのか、首を落とされたサイクロプスは力なく倒れ伏した。

 残った二体のサイクロプスが慌てたように後ろを振り向くと、そこには剣と盾を構えた茶髪の青年が一人。

 騎士団の制服に身を包んだその青年は、ゆるやかに吹き付ける風にマントをたなびかせながら、未だ事態を飲み込めていないあーしたちに声をかけてきた。


「助けに来た。そこでじっとしてて」


 短くそう言い放つと、彼は目の前の魔物に向かってゆっくりと進み始める。

 仲間の一体が倒された事に恐怖していたのか、残った二体のうち一体が慌てたように拳を降り下ろした。

 彼は特に慌てた様子もなく、まるで陽の光を遮るような仕草で左手の盾を差し出すと、攻撃を受け止めずに盾の表面を滑らせるようにして受け流してみせた。

 地面が盛り上がるような衝撃にすら彼は表情一つ変えず、そのまま体を捻りつつ地面にめり込んだサイクロプスの右腕を胴体から切り離す。


「す、すごい・・・!」

「あれは、まさか・・・!?」


 フレームの中で踊るように戦う騎士団の青年に見惚れていると、横にいたネクが驚いたような表情を浮かべているのが尻目に見えた。もしかしなくても、あの人有名人なんだろうか。それこそ元幹部のネクが知ってるくらいには。


「これで二体」


 腕を切り落とした騎士団の青年は、そのままダルマ落としでもするかのようにサイクロプスの胴体を斬り下ろしていく。あんなスパスパ斬れるような体だっけ、あの魔物。

 最初こそ見惚れていたものの若干引き始めたあーしに比べ、当事者の最後のサイクロプスはヤケを起こしてしまったのか、そのまま轢き殺してやるとでも言わんばかりに真正面から突進した。いや、逃げようとしてるんだろうかアレは。


「『スラッシュ』」


 スキルか何かだったのだろうか。騎士団の青年は短く何か言い放つと、サイクロプスとすれ違い様に剣を一振りした。やっぱ逃げてたんかい。

 特に何事もなく走り去ったように見えた最後のサイクロプスは、しばらく距離が空いたところで思い出したように上半身と下半身が真っ二つになった。


「ふぅ・・・」


 後ろを確認することなく、一息ついて剣を鞘に納める騎士団の青年。

 なんだろう、なんかスゴイの来たなコレ。


 魔物とは別の意味で緊張しているあーしたちに近づいてきた騎士団の青年は、軽く会釈をしてからあーしたちに改めて語りかけてきた。


「初めまして。僕はルーク。王立騎士団の団長を勤めています。シルヴァに頼まれて様子を見に来たんだけど、怪我がなくて良かった」


 そう言って微笑みかけてくれたその表情に、ようやくあーしたちの緊張も溶けていく。

 シルヴァさん、アフターフォロー充実しすぎでしょ。

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