3話
クエストを受けて王都を出発したあーしたちは、街道に沿ってやや北西寄りに進んで行く。
黄金橋の跡地があるのは王都と魔王城の中間辺りと聞いていたけど、正確にはやや王都寄り、前線の砦から少し西へ進んだ先にあるとの事。
その近辺で目撃されたというサイクロプスを見つけて、やっつけるのが今回の目的の一つ。
「ねぇ、そういえばサイクロプスってどんな魔物なの?」
「今更な話だなお前さん。知らねえで話に乗ったのかよ」
「いやまぁ、そうなんだけどさ」
「簡単に言えば、一つ目巨人の魔物よぉ」
「大きくて固くて強い、シンプルに危険度が高い魔物」
「だからこそ、王都に来たばっかの冒険者にゃうってつけって訳だ」
「へー。シルヴァさんその辺も考えてくれてたんだね」
あーしたちの宿もそうだし、普段暴走気味だけど気配りはきちんとしてるから、なんやかんや人望はあるんだろうな。
「どうせいずれは俺様たちも王都の冒険者になるんだ。今のうちに慣れておかねえとな」
「慣れるって・・・あんな危ない魔物を何体も倒すクエストとか絶対無理だと思うんだけど」
「何言ってんだアカネ。ゆくゆくは魔王やクサレボンボン野郎をブッ殺すんだぜ? これくらいこなさねえと始まんねえだろ」
「あー、それこの間から気になってたんだけど、魔王の闇の魔法って光の魔法じゃないと相手できないんだよね? それじゃゼルどころか、他の冒険者も魔王に勝てないんじゃないの?」
「おお、すごいアカネさん」
「ちゃんと考えてたのねぇ」
「どういう意味!?」
まさかそこまで教養が無いと思われてたんだろうか。違うから! 異世界知識に疎いだけだから!
「副団長の子が言ってたでしょう? 一例を除いて守ること以外に力は使えないって」
「エレメントロードには、全ての味方に光の力を授ける魔法がある」
「はー、なるほど。 詳しいね二人とも」
「攻められる側だったからねぇ・・・」
遠い目をしてしみじみと語るネク。そう考えると良く生きてたね。
しかしなるほど。光の力をみんなに分け与えるかぁ。確かにそれはポジション的にお姫様が引き受けてそうな役割かも。エイミス様にピッタリだと思うし。こういう所はちゃんとファンタジーしてるよねー。
ただ、それはそれとしてウチのメンツで気になる奴もいまして。
「ゼル的にはアリなの? その戦い方」
「もちろん、ノーサンキューだ」
「なんでドヤ顔なのかしらぁ・・・」
「不思議、全然カッコよく見えない」
辛辣なルビーちゃんのセリフは聞こえないふりで誤魔化したのか、小さな胸を張って仁王立ちするゼル。シルヴァさんなら鼻血出して飛びついてそう。撮っといてあげようかな。宿のお礼もしなきゃだし。
「ノーサンキューならどう戦うの? もしかして、ゼルって光の魔法使えたりするん?」
「理屈で言えば出来る。が、まぁ無理だな」
「というか、世界中探してもいない」
「第一アナタ程度にできる訳ないじゃなぁい。中途半端なレベルのソーサラーな時点でぇ」
「よっしゃ今からテメェで実験してやるよ。そこに立てやクモ女コラ」
速くも眼から火花を散らす二人を無言で仲裁するルビーちゃん。手慣れたもんだね。
でも、理屈で言えば出来るってどういう事だろう? 闇の魔法みたいにクラス限定って訳じゃないのかな?
そんなあーしの疑問を表情から汲み取ったのか、未だ睨み合う二人を抑えたままルビーちゃんが解説してくれる。
「光の魔法は、地水火風の四属性を均等に合わせる事で生み出せる。理論上では誰でも出来るけど、それを実戦レベルで行使できるのは、歴史上で見てもエレメントロードだけ」
「あー、そっか。四大精霊の力を借りてるから」
「そう。それに魔法は、一つの属性を習熟するのにとても時間を要する。それを四つ、しかも同じレベルで修めるのは現実的じゃない」
「そんな事に時間を割くくらいなら、一つの魔法を極めた方がよほど実用的ってことよぉ」
「いやに現実的な事情だなぁ・・・」
さっき褒めたらもうこれである。だから上げて落とすの止めてマジで。最後までちゃんとファンタジーして。
「じゃあゼルはどうすんの? 気合で覚えるとか?」
「その答えは俺様としては超燃えるんだが、生憎こればっかりはどうにもなんねえな。だから別の方向で攻める」
「別の方向?」
「闇の魔法が無力化するのはあくまで攻撃魔法だ。つまり、体を固くして猛スピードで突っ込めばイイってこった」
「今までと変わらないじゃん!?」
「間違っては無いのが腹立たしいのよねぇ・・・」
間違ってないかなぁ・・・?
いやでも元の世界なら鉄砲とか大砲とかあったし、あながち間違いじゃない・・・かなぁ?
「それもエギル様には弾き返されてしまった」
「あ、そうだった。ダメじゃん」
「だからここで技を磨くんだよ。言っとくがテメェらもだぞ、ルビー、クモ女。やられっぱなしは性に合わねえからな」
「分かった」
「・・・どの道その結論にはなるものねぇ」
ナチュラルに省かれるあーし。いやまぁ間違ってないんだけどさぁ。
あーしはあーしで成長の方向性を模索しながら、黄金橋へ向けて足を運んだ。
しばらく歩くと緑の原っぱは見えなくなり、代わりに茶色の景色が広がる荒涼な荒れ地が顔を出した。
所々では煙がもくもくと空へ向けて立ち昇り、常に踏み荒らされているせいか草もほとんど生えていない。
更に先の方には砦と思しき建物があり、そこから王都へ向けて馬を走らせる騎士や冒険者とちょくちょくすれ違う。
今まであーしたちが歩いてきたのんびりした世界とは違い、まさに今ここで魔王軍と人類がぶつかっているんだという事がひしひしと伝わってきた。
あーしたちは砦へと続く街道から少し逸れて更に西へと進むうち、切り立った崖のような場所にやってきた。
両脇は岩山に囲まれて枯れた木々だけが空しく立ち並び、その先には底すら見えない深い谷。ここだけで言えばただの行き止まりでしかないだろう。
この場所を異質なものに仕立て上げているのは、崖より更に先に漂う、深い深い霧。
背景すら一切見えないレベルで立ち込めている発生源不明のその霧は、この場所が道どころか、世界の終点であるように感じさせた。
この場所の名前は、黄金橋跡地。通称『失われた黄金橋』
その名前が示す通り、崖からその先の霧へ向かって伸びていたであろう橋の残骸が、年月を一切感じさせない程に黄金の輝きを放ち続けていた。
「すごい・・・けど、なんか怖いねここ」
「俺様も初めて見るが、大層な名前の割にゃ不気味な場所だな」
「不思議。手入れされた様子も無いのに、輝きに曇りが無い」
「相変わらずねぇこの場所も。何の為の場所なのかさっぱり」
適当に会話を交わしながらそれぞれ散策を始める中、あーしはスマホのカメラを起動し、とりあえず僅かに残った橋の残骸へと近づいていく。
崖の先から一、二メートルほどの長さしか残っていない橋の残骸は、上に乗って歩くと妙に甲高い足音をあーしの耳まで届ける。黄金の上を歩くなんて体験、元の世界でも出来ないんじゃないかな。
そしてすぐ先には真っ暗闇の谷底が大口を開けて待っていて、当然ながら落下防止の柵なんて用意されていない。時折吹き付ける強い風にあおられた小石や折れた枝が無抵抗に落ちていく様子を見ていると、油断するとあーしもああなるんじゃないか、なんて嫌なイメージが鮮明に浮かんでしまい、自ずと崖から足が後ずさっていく。安全第一。なんて良い言葉。
「ぱっと見サイクロプス居ないっぽいし、先に調査やっちゃう?」
「そうしようぜ。暇潰しには丁度いいしよ」
「もしかしたら、入れ違いで騎士がすでに倒した可能性もある」
「え、そんな事もあるの?」
「王都で出されるクエストは、半分以上が騎士団からの依頼だものぉ。今回のは捜索からの討伐だったし、たまたま見つけた騎士がってのも無くはないわよぉ」
「そんなもののついでに倒せる魔物なの、サイクロプスって?」
「騎士団や王都の冒険者なら、出来なくはない」
「そうなるととんだ無駄足だな。せめて橋の方だけでも収穫がほしいもんだ。アカネ」
「分かった」
あーしはアプリをタップしてドローンを呼び出す。
黄金橋の跡地にやってきた二つ目の目的。それは、この場所自体の調査。
いつ誰が何のために作って、いつ失われたのか。ほぼ何も分かっていないこの場所で唯一分かっているのが、おそらく黄金の橋は霧の先に向かって架かっていたということ。
今までにも直接飛び込んでみた人はいても、誰一人として帰ってこなかったらしいその霧の先へ向けて、あーしの期待と不安を乗せたドローンが向かって行く。
「何があるんだろう? お宝とかかな?」
「黄金橋だしな。冒険者の予想第一位はそれだ」
「アタシは別の世界に繋がってると予想してるわぁ。例えば死後の世界とか」
「楽園のような世界なら、確かに帰りたくなくなるかも」
「あーしたちが泊ってる宿みたいな?」
「「あぁー・・・」」
「一気にショボくなったなおい」
えぇー、分かりやすい例えだと思ったんだけど。まぁゼルはシルヴァさんがあるし共感できないか。
別の世界か・・・もしかするとあーしの元居た世界だったりするんだろうか? そうだとしてどこに繋がってるんだろう?
そうやって予想を言い合っている間に、いよいよドローンが霧のすぐ傍までやって来た。
あーしたちは無言でお互い頷き合うと、スマホを操作してドローンを霧の向こうへと送り込む。
はずだった。
右側にそびえる岩山の壁面が突然、爆発したような音を立てて砕け散る。
「キャアアアア!?」
「チッ、んだよいい所に! オイ、誰か居んのか!?」
とっさに壁の魔法で飛んできた岩の破片からあーしたちを守ってくれたゼルは、壁面に空いた大きな穴に向かって叫ぶ。
しばらくすると立ち込める土煙の中に大きな影が浮かび、やがてその穴から巨大な手、足、頭と順番に姿を現した。
優に五メートルは超えてそうな巨体に、象のような分厚さを感じさせるくすんだ皮膚。見上げているせいか余計に小さく見える頭には、太く長い二本の牙と、あーしたちを睨みつけるギラギラした力強い一つ目。
間違いない。こいつが・・・。
「さ、サイクロプスさんでいらっしゃいますか?」
思わず口から飛び出たあーしの質問に、サイクロプスはバスのクラクションみたいな叫び声で答えてくれた。




