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異世界インスタ  作者: 五寸
第3章 精霊と混沌
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2話

 エイミス様とのお茶会から翌日。

 一週間後のパレードまで暇が出来たあーしたちは、とりあえず王都のギルドへと足を運んでいた。これもいわゆる職業病に入ったりするんだろうか。

 王都のギルドはアルフィノエよりも小さい代わりに内装が豪華で、入ってすぐの受付ブースや掲示板に始まり、彫刻や銅像のようなインテリア、酒場に設置されているテーブルや椅子にいたるまで、全ての物が高級品で取り揃えられている。

 これがラクティスやアルフィノエなら半日で傷だらけになってるんだろうけど、そこはさすが王都と言うべきか、利用する冒険者たちの立ち居振る舞いも落ち着いて気品があり、彼らだからこそ王都のギルドが運営できているんだろう。


 そんな空間に紛れ込んでいる気品ゼロの冒険者パーティ。つまりあーしたちである。どっちかっていうと旅行客の方がしっくりくると思うけども。


「よしお前ら、早速次の冒険の行き先を決めるとしよう」

「いやー、王都の宿ってほんとスゴイねー。あそこに一週間も泊まれるとか、あーしもう帰れなくなったらどうしよー」

「アタシも同感よぉ。何をするにもスタッフが代わりにしてくれるし、幹部時代に戻った気分だわぁ」

「ネクさんがまたダメな方に戻ってしまっている」

「またって何よぉ!?」

「聞けよ」


 実際、シルヴァさんに押さえてもらっていた宿はすごかった。すごすぎだった。

 もうここが王城なんじゃないかってくらい内装がゴージャスで、エントランスから部屋に至るまでバッチリ絨毯が敷いてあるし、明かりも松明やろうそくじゃなくて、きらめき輝くシャンデリア。ベッドもソファーもふかふかで、お風呂は広いし眺めもきれい。

 これを最高と言わずして何というのか。


「まさかマッサージ施設まで併設してるなんて、本当に捗るわぁ」

「ご飯も食べ放題ですごかった。しかも種類もいっぱい」

「だからって全部食べるのはもうダメだよルビーちゃん。スタッフの人、顔めっちゃひきつってたから」

「聞いてください。お願いします」


 ギルドに来て早々宿に帰りたくなっていたあーしたちの会話に、ゼルが頭を下げて入り込んでくる。


「はぁ・・・冒険ってどこ行くの? 王都の周辺は強い魔物でいっぱいって言ってたし、あーしたちが行けるような場所なくない?」

「どこでもいい。とにかく外へ出られるなら。あのクソ女のいない所へ・・・」

「それってあたしのこと?」

「おおおおおおおおおい!?」


 ゼルの背後から突如生えるようにして現れたのは、あーしたちの泊まっている宿をチョイスしてくれたシルヴァさん。

 ルビーちゃんのハイドばりに気配を殺して近づいていたシルヴァさんは、そのままゼルをがっしりと抱き締め、いつかセシリーさんにやっていたように濃厚な頬擦りを始める。


「あぁんダーリン、会いたかったぁ~!」

「ひぃえええええええええ!!?」


 あのゼルから出ているとは思えない、真に迫った恐怖の叫びがギルド中に響き、他の冒険者たちの注目を一瞬だけ集める。

 しかしいつも見慣れている光景だったのか、またか・・・みたいな表情浮かべて、シルヴァさんから死に物狂いで逃れようとするゼルからすぐに視線を外す。いっつもしてんのコレ?


「シルヴァさん。おはようございます」

「おはよーアカネちゃん。どう? 宿は気に入ってくれたかな?」

「もうサイッコーですよ!」

「気に入ってもらえて何よりだよー」

「テメッいい加減離せ! 魔法使うぞコラ!!」


 さすがにそれはギルドに迷惑がかかるから止めてほしい。あーしたちじゃ絶対弁償しきれないし。

 シルヴァさんもそれを汲み取ったのか名残惜しそうにゼルを手放すと、当のゼルはそれこそう○こでも拭き取るかのように肌が赤くなるまで体を拭き擦る。どんだけ嫌がってんの。


「仲良くしなさいなぁ。世界で唯一アナタにプロポーズしてくれる女性よぉ。これから先も」

「次言ったらぶち殺すぞクモ女」


 割とマジギレしているゼルの言葉もネクは楽しそうに笑って受け流す。ゼルの不幸は蜜の味ってやつだろう。いい性格してるよほんと。


「ダーリン、まだ照れてるの?」

「テメェにダーリンと呼ばれる筋合いはねぇ。消え失せろ」

「あぁん! その冷たさもイイ!」

「・・・こういうことなんですよ、アカネさん」

「・・・まぁ気持ちは分かるよ」


 ゼルの冷たく切り捨てる言葉にすら頬を染めて、むしろさらに鼻息を荒くするシルヴァさん。

 なぜこんな状況になってるかというと、それはもちろん、昨日のお茶会の最後に唐突にかまされたプロポーズが原因なんだけど。


「いいじゃない。王立騎士団副団長、名誉も地位も財産もあるだろうし、見た目も悪くない。はっきり言って良物件よぉ」

「クソ詰め込まれた宝箱なんざ願い下げだぜ。第一俺様はそんなもんに興味ねぇ」

「女性にそれはちょっと言い過ぎ」

「俺様も同じレベルの言葉を喰らったんだがな」

「それは・・・」


 注意したルビーちゃんも思わずうなだれる。まぁ確かにこればっかりは言い返せないだろう。

 そしてシルヴァさんの方も、ゼルの暴言には一切怯んだ様子もなく。


「結婚がダメならせめて! せめて赤ちゃんだけでも!」

「何がせめてだこの野郎! セクハラで訴えんぞコラ!」

「だって、だって・・・! あたし女の子しか愛せないんだもん! でもダーリンなら、ゼルちゃんならイけるの!」

「俺はイけないの!」


 セクハラなのか仲良いんだか分からないやり取りを繰り広げる二人。

 事の真相を簡単に説明するとこう。

 性癖の事情で女の子しか愛せないシルヴァさんは、子供を作れない現実に絶望していた。そこに見た目だけは女子に匹敵するゼルが現れた。以上。ビジュアル詐欺同士お似合いだと思うけどね。


「なぁ頼んますよアカネさん。なんか四六時中視線感じるし、夜もちょっとした物音で眼ぇ覚めちまうんだよ」

「思った以上に重症だねコレ・・・」


 今のシルヴァさんを見てるとマジで夜這いとかされてもおかしくなさそうだし。異世界でもこういうストーカー被害はあるんだなぁ・・・犯人割れてるどころか目の前にいるけど。


「私は、何かクエストをするというなら賛成」

「おお! 分かってくれるか!」

「あれ、意外だねルビーちゃん」

「食材調達のクエストでもあったのぉ?」

「・・・私を食いしん坊みたいに言うのは止めてほしい」


 えっ・・・?

 そんな表情を浮かべたあーしとネクはまるっきり無視して、ルビーちゃんは話を続ける。本人の中では控えめなつもりなんだろうか。


「私たちが立て替えてもらっているのは宿代だけ。王都を満喫するならその分自前でお金を用意しないといけない」

「あぁー、確かに。宿だけで終わらすのはなんかもったいないかも。インスタグラマー的に」

「アタシは全然構わないと思うけどぉ」

「じゃあテメェは居残りだな。どこにするよ」

「あーしは見応えある所がいい。できれば安全な」

「王都周辺でそれは難しいと思う」

「心配ねぇよ、なんせ俺様がいるからな」

「どっから出てくるのその自信・・・」

「ダーリンかっこいい!」

「テメェには言ってねぇ」

「ちょっと待って! アタシも行くわよぉ!」


 自分抜きで盛り上がっているのに寂しさを感じたのか、ネクは半泣きで会話に入ってくる。王都のギルドでも相変わらずのグダグダっぷりだわ。しかも騎士団の副団長も巻き込んで。


「で、何にしよっか」

「なるべくその日の内に帰れる所がいい。私たちのレベルで王都周辺での野宿は危険すぎる」

「だったらそうだなー、サイクロプスの討伐とかいいんじゃない? ここからも近いし」


 さも当たり前のように参加して、さらにはおすすめのクエストまで紹介してくれるシルヴァさん。もしかして着いてくる気なの? てか今さらだけど仕事は?


「たしか場所は黄金橋の近くだったはずだし、それならアカネちゃんも満足できるんじゃない?」

「! 黄金橋ってたしか・・・」


 前にアルフィノエの勉強会で教えてもらったやつだ。黄金の橋が昔あったって事以外なにも分かってないっていう。そこであーしのドローンを使って色々調べてやろうとかなんとか。

 異世界の最大ミステリーらしいし、それは結構面白そうかも。それで運良く何か発見できれば絶対伸びるし。


「あーしは賛成だけど、みんなは?」

「私も問題ない」

「アタシもまぁ、別にいいわよぉ」

「あたしもー! と言いたいところなんだけど、そろそろお仕事に戻らなきゃなんだよねー。ごめんねダーリン。また今度デートしよーね」

「誰もテメェには聞いてねぇ。今後一切そんな予定もねぇ」

「照れちゃってもう、かわいいんだから」


 そう言って、シルヴァさんはまさに嵐のように去っていった。何を言ってもへこたれない無敵っぷりにはさすがのゼルも疲弊してしまったようで、力なく机の上に膝をつき肩で息をする。本当にスタミナ吸収してるんじゃないのあの人?


「大丈夫ゼル? そんなんでクエスト出来んの?」

「問題ねぇ。むしろ速く魔物と会いたい。魔物と戦って癒されたい」

「どこの戦闘民族よぉ」

「それじゃあ、クエストを受けてすぐに出発しよう。日が暮れるどころか、他の冒険者に取られるかも」


 ルビーちゃんの言葉を合図に、あーしたちはクエスト掲示板へと足を運ぶ。

 貼りだされているクエスト記事にざっと目を通すだけでも、ラクティスはもちろんアルフィノエのクエストとは比較にならない高難易度のクエストが、当たり前のように並んでいる。

 例えば、前線の砦付近で確認されたグリフィン三体の討伐。一匹だけでもかなり大変なのに、それを三体。しかも魔王軍がすぐそばにいるようなロケーションで。あーしたちじゃ絶対無理。 

 そもそもの話、数がもうおかしい。大型の魔物は当然のように複数討伐を要求してくるし、小型の方も平然と二桁数の討伐が記事に記されている。その分報酬は魅力的だし、物によっては百万そこらの報酬が用意されてるけど、命に見合うかと言われれば首を横に振る以外にない。


 そうして戦慄の表情で右から左へと視線を動かし掲示板を調べていると、シルヴァさんの言っていたサイクロプス討伐の記事がポツリと貼り出されているのを見つけた。

 内容は黄金橋付近で確認されたサイクロプスの捜索、および討伐。他のクエストと違って書いてあるのはそれっきりで、特に複数体倒せとかそういうものは書かれていない。その分報酬は少な目だけど。


「これかな、シルヴァさんの言ってたクエストって」

「他にそれらしきクエストは見つからなかった。たぶんそれで合ってると思う」

「じゃあさっさと行こうぜ。なんか、もうアイツの視線を感じて落ち着かねえんだよ」

「さすがに被害妄想が過ぎるんじゃないのぉ? アナタのこと四六時中見てても吐き気しか催さないし」

「よぉーし、ならその目ん玉くり抜いてやるからこっちこい」

「もー、ケンカはそこまで。ほら、受付行くよ」


 不服そうにするゼルとネクを後ろに、あーしたちはギルドの受付へと向かう。

 その道中、窓の外に見える王城の方にうっすらと光る物が見えた。もしかしてあれシルヴァさんの望遠鏡・・・いやいや気のせいでしょ。うん。

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