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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
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エピローグ

 水の大精霊 海神様をどうにか鎮めて、アルフィノエを守ることが出来たあの日から数週間。

 街はほとんど元通りになり、連日お祭りムードとなっていた。


 さすが中央都と呼ばれるだけはあってか、ほっといても人が集まる上にあれだけの事件があったもんだから、今まで以上に人が押しかけ、面白いくらいのスピードで復興が進んだ。

 さらに言えば、自然そのものでもある水の大精霊が暴走し、海自体が超巨大な竜巻のように変貌して街に迫っていたというのに、街への被害は海に近い東側の居住区だけに留まっていたのも大きい。

 そもそも、あれだけデカイ竜巻なら一瞬で街が飲み込まれていてもおかしくなかった。


 じゃあどうしてこれだけの被害で済んだのか。

 それは街の人たち揃って、海神様が守ってくれたと信じている。ちなみにあーしも。

 暴走した中にあっても、海神様は最後の力を振り絞って、せめて住民たちが避難するまでの時間を稼いでた。仮に違っていたとしても、そう考えていた方が素敵だと思うし。

 なにより、海神様が暴走していても精霊たちは助けてくれたしね。


 しかし、当の海神様は永い眠りについてしまったと、アセムたちは言っていた。

 今回の事件を引き起こしたエギルたちは当然行方をくらまし、残ったのは崩壊した海神の社だけ。

 当事者でもあるあーしたちはギルドでの会議に呼び出され、社で起こった一件、そしてそこで遭遇した魔王の息子 エギルについて、ネク関連はぼかしつつも説明し、海神様が暴走するまでの経緯を語ったものの、エギルの真意が何だったのかまでは終ぞ分からなかった。

 代わりに社に関する制度は徹底的に見直されることが決まり、近い内に改正される事が決まった。まぁ丁度いいタイミングだったのかも。


 そうして堅苦しい会議にまたも参加させられたあーしだけど、そこから先はアルフィノエの問題。ぶっちゃけただのインスタグラマーでしかないあーしには難しすぎる話で。あとはアセムたちにお任せしちゃって、あーしたちはようやくお祭りムードのアルフィノエを満喫できる時間を作り出すことが出来た。打倒エギルに燃えていたゼルは不完全燃焼気味だったけど。


 休日は割とそれぞれ自由行動になりがちなあーしたちは、ここ数日は各々好きなように過ごし、今日は午後から久しぶりにギルドで落ち合う約束になっている。

 あーしはすっかり乾ききった大通りの道を歩きながら、シンボルの灯台を目印にギルドへと向かった。


 避難先の話し合いをしていたあの日から今日まで、ずーっと開けっ放しのギルドの入り口をくぐると、普段より数倍はうるさい喧騒が酒場の方から聞こえてきた。

 いつもならうるさいなと感じる所だけど、あれだけの事があった後。元気なのに越したことはないと酒場の方に視線を向ければ、一番乗りしていたらしいゼルの周りを、なんと女の子がキャッキャウフフとハーレムのように取り囲んでいた。何事!?


「ね! ね! ゼルさん! あの綺麗な羽、どうやって出したんですか!?」

「わたし、もう一度見て見たいです!」

「お願いしますゼルさん! 魔力なら私たちが差し上げますから!」

「ハッハッハ! 落ち着きたまえ君たち。残念だけど、あの羽は君たちだけじゃなく、アルフィノエの住人みんなの願いの結晶。そう簡単に出せるものじゃないんだ。すまないね」


 誰、あれ。

 あーしのパーティにあんなクソキザ羽虫いたっけ。

 

 珍しく女の子に囲まれたのが影響したのか、口調も雰囲気もおかしい事になっているゼルっぽい誰かは、あーしを目ざとく見つけ出し、これまた気持ち悪いさわやか笑顔で近づいてきた。・・・いやマジでキモイんですけど。


「やぁ、アカネ」

「誰?」

「俺だよ。ゼルだよ」

「あーしの知ってるゼルはもっと汚い性格してたと思うんだけど」

「誰が汚えって?」


 さわやか笑顔から一転、見慣れたチンピラフェイスで詰め寄ってきたゼル。あぁ、本当にゼルだったんだ。


「いや、何してんのゼル。女の子にチヤホヤされてキャラ変えたの?」

「・・・魔が差した」

「否定してほしかったなぁ・・・」


 真に迫る表情であーしに打ち明けたゼル。心なしか、魔力切れを起こした時よりも辛そうに見えなくもない。どんだけ無理してんの。

 見た感じ、詰めかけてきた女の子たちはどうも記事を読んでゼルを訪ねてきたようで、本性を知っている周りの冒険者たちはゼルを横目で見ながらプークスクスと笑いをこぼしている。あーしもしばらくはイジってやろう。撮っとけばよかったな。


「あ、アカネさん、ゼルさん。お待たせ」

「ん? あ、ルビーちゃん! 久しぶりー」

「おうルビー。お前が三番目か」


 どうやってゼルから女の子たちを引き剥がそうかと考えていると、後ろからルビーちゃんが声をかけてきた。口元がうっすら汚れているのを見るに、買い食いしてきたと見える。かわいいなもう。

 あーしが口元の汚れを指摘して、それを慌てて拭おうとするルビーちゃんを撮影しようとしていると、またも酒場の方から黄色い歓声が沸き上がった。


「えっ!? ルビーちゃん!? 本物!?」

「ウソッ!? 生だと更にかわいいんですけど!?」

「えっ、なに!?」


 さっきまでゼルに食いついていた女の子たちは、無慈悲にもルビーちゃんへと対象が移ってしまった。

 握手なりサインなりをせがまれながら、目線であーしたちに助けを求めるルビーちゃんと、それをどこか物悲しく見つめるゼル。現実は非常である。

 たまらずルビーちゃんはギルドから逃げ出し、女の子たちもアイドルを追いかけるファンの如くギルドから走り出て行くと、何処からともなくルビーちゃんが染み出すように現れた。あぁ、ハイドで撒いたのね。


「いきなりでビックリした。おかげでお腹もすいたし」

「はやっ!? さっき食べて来たんじゃないのルビーちゃん!?」

「どうせ俺らも遅かれ早かれメシ食うだろ。クモ女が集まり次第メシにしようぜ。そういやコカトリスの肉がまだだったもんな」

「あっ、そのことなんだけど・・・」


 ゼルが思い出したようにコカトリスの件に触れると、ルビーちゃんが申し訳なさそうに口を開く。


「お店の人から、大精霊の件で肉がダメになったって聞いた・・・」

「マジかよ」

「いやまぁ、あれはしょうがないでしょ。そのお店だけでもないだろうし」

「ごめんなさい」

「何でお前さんが謝るんだよ」

「そうだよ。なんならまた今度獲りに行けばいいし」

「いいの!?」

「・・・あー、うん。その内ね」


 自分で言っといてなんだけど、またアレに会いに行くのはちょっと勇気がいる。なんせ全滅しかけた訳だし。

 とりあえず今日は冒険者として活動する予定はないので、どこか別のお店にでも行こうかと話し合っていると、ギルドの入り口から慌ただしく何かが運ばれてきた。何だろ、まさかコカトリス? んな訳ないか。

 なんて心の中でふざけながら野次馬根性で近づいていくと。


「えっ、ネク!?」


 運ばれてきた担架の上に乗せられていたのは、なぜか満身創痍になったネクだった。


「ちょっ、どうしたのネク!? 何があったの!?」

「アカネちゃぁん・・・助けてぇ・・・」

「大丈夫だから。何があったか教えて?」

「あのね・・・工事の仕事が辛いのぉ・・・」

「・・・は?」


 精いっぱい絞り出された意味不明なセリフに、思わず素で返してしまうあーし。

 頭の上にハテナマークを出しまくっていると、後ろに居たゼルが補足してくれた。


「そういやコイツ前に会った時、重要な仕事を任されたとかやたら俺様にアピールしてきたな。まさかそれか」

「重要な仕事って?」

「アルフィノエの工事だと、海神の社の修復作業?」

「あぁー!」


 ルビーちゃんの導き出した答えにあーしたちが納得すると、今も横たわっているネクも力なく頷き、これまでの経緯を語り始めた。


「アタシの糸を使ってぇ・・・建材をくっつけ合わせたり・・・道具を運んだり・・・差し入れをもっていったりぃ・・・」

「すごい酷使されてる」

「これが元幹部って考えると、哀れなモンだな」

「ブラック企業でもここまでのワンオペは無いんじゃないかな・・・」

「・・・アタシに対する慰めはないのぉ?」


 ネクがかすれた声でかまってくれと懇願してくる。そんだけ余裕があるなら大丈夫でしょ。

 まぁ一応はとゆっくり水を飲ませてあげていると、担架で運んできた一人があーしたちに話しかけてきた。


「ネクさんの身元引受人ですね。依頼した手前申し訳ないのですが、余りにも体力が無さすぎるので、本日限りで解雇となりました。身勝手な判断をお許しください」

「あーいえ、本人が引き受けた事ですし・・・」

「仕事内容はきちんと前もって言ってたんだろ?」

「ええ、もちろん」

「なら何も問題は無い」

「・・・こういう時くらい、優しくして頂戴よぉ」


 ネクには悪いけど、どうせおだてられて安請け合いしたのが目に見える。

 それにここは異世界。魔物漁の時でも思ったけど、ここはあーしの居た世界のように安全面の配慮とか福利厚生とかは存在しないのだ。悲しい事に。

 ネクを運んできた人たちはあーしたちに一礼すると、そのままギルドから速足で去って行った。


「えと、全員揃ったし・・・どうしよっか?」

「メシ入んのか、クモ女?」

「・・・むしろ出るわぁ」

「汚いなもう」

「三人はここで休んでて。私がいい店を抑えてくる」

「あっ、いいねそれ。全店制覇済みのルビーちゃんチョイスって、けっこう気になるかも」

「ふふん。任せて欲しい」


 ルビーちゃんがえっへんと自慢げに胸を張っていると、それ以上の厚い胸板をさらけ出した上半身裸の男が、バカでかい魚を乗せた荷台を引っ張ってギルドの中に入ってくる。今日はよく入り口でイベントが起こるな。


「ようよう集まってるか野郎ども! 久しぶりの大漁だァーーーーーーーー!!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 アルフィノエに来たばかりの頃を思わせる光景。

 どうやら魔物漁から帰ってきたらしいアセムが、獲ってきた獲物を見せて宴会の報せを高らかに叫んだ。


 そうか、忘れてた。海が穏やかになったから魔物漁も解禁されてたんだ。

 という事は、久しぶりにアルフィノエ名物の海鮮料理が食べられる!?

 チラッとルビーちゃんの方を伺ってみれば、今日の食事は決まったと表情に浮かび上がっている。もうお店予約する必要なくなったかな。


「今日は酒場で決まりだね」

「今日もだろ」

「そうだね」


 あーしたちはお互いに吹き出し、興奮するルビーちゃんとぐったりするネクを連れて、酒場のテーブル席へと向かった。


 




 夜になり、普段以上のお客でごった返す酒場の中で乾杯するあーしたち。

 あーしたちと同じように久しぶりの海鮮料理に惹かれて来たのか、酒場の中は人の顔以外に所々魚の顔が上を向いてテーブルに鎮座している。まぁあーしがインスタで宣伝したんだけどね。

 元々は海鮮料理にありつくために料理店巡りをしていたと語ったルビーちゃんは、目の前に並べられたお刺身やエビなんかを無心に頬張っていく。見てるこっちも幸せになるね。うん。


「海開きしてすぐに漁に出るたぁ、どんだけ海が好きなんだよお前は」

「ハッハッハ! そんなもん、言葉に出来ねえぐらいにはな! それも全部、ゼルたちが諦めずにいてくれたおかげだ。ありがとな!」

「いやいや、あれはアルフィノエのみんなの力だから。それにお礼なら、こうして美味しいお魚を食べさせてもらってるわけだしね」

「そうか! ならどんどん食え! 活きの良いイカもあるぞ!」

「あーっと・・・イカは遠慮しとくかな・・・アハハ」


 なんか触手で絡め捕られて以来、イカが苦手になっちゃったな。気の持ちようでしかないんだけども。


「そういえばケルンは? まだ来てないみたいだけど」

「あいつはなんか職員に呼び出されてたな。まぁいつもの手続きだろ」

「それってアナタは行かなくていいのぉ?」

「めんどくせえからな」

「酷い理由だなぁ・・・」

「全くです!」


 いつの間にかアセムの後ろに陣取っていたケルンが、これまたいつか見たようにバシーンと軽快な音を立ててアセムの頭を叩く。


「痛ってえなケルン! 何しやがる!?」

「人に手続きを押し付けて面倒とは何ですか!? せめて感謝してくれてもいいでしょう!?」

「感謝ならいつもしてるだろ! なんだ、言葉じゃ足りねえのか!? じゃあ何してほしいんだよ!?」

「ええっ!? いや、そんなつもりじゃ・・・」


 恐らくは何も考えていないアセムに言い寄られ、顔を真っ赤にして後ずさるケルン。

 そこへ追い打ちをかけるように周りから囃し立てるような声や口笛が届き、ついには何かを期待するような独特の空気が生まれる。あーあ、もう逃げらんないなコレ。


「あ、アカネ・・・」

「大丈夫ケルン。バッチリ撮ってるから」

「アカネーーーーーー!!?」

「で、どうしてほしいんだ?」

「うえっ!? いや、その・・・」

「アセム、男ならガバっといってやれ! ガバっと!」

「おお! そうか!」


 ゼルの押し倒すようなポーズを勘違いしたのか、アセムはケルンをぎゅっと抱きしめてみせた。

 その瞬間ワッとギルド内は最高に盛り上がり、そのままキスコールが二人に向かって無神経に投げかけられる。悪ノリここに極まれり。異世界も変わんないね。


「しゃーねえケルン、我慢しろよ」

「ちょっ!? んっ」


 たぶん罰ゲームか何かだと思い込んでいたアセムは、仲が良いのもあってかそのままケルンの唇を奪った。

 ギルドの中はお客職員関係なく巻き込んで大いに盛り上がり、ケルンだけはヘナヘナと床に崩れ落ちてしまった。

 まさかファーストキスがこんなものになるとは夢にも思わなかっただろう。本人がもうちょっとロマンティックなのを期待してたとしたら・・・ごめん。


「ひゅー、お熱いねえ」

「ウフフ、いいもの見せてもらったわねぇ」

「はわわ・・・」


 さすがのルビーちゃんも食事を止めて魅入り、他二人もニヤニヤとアセムたちを見つめている。この二人にやらせたらどうなるかな? ・・・たぶんギルド壊れるな。


 周りが茶化しまくる中、アセムは朴念仁を発揮したままヘタリこむケルンを引っ張りあげると、その拍子に何やら手紙がするりと舞い落ちるのが見えた。

 本人がアレだしとあーしは代わりに拾い上げると、どうやら手紙はあーしたちに出されたものだったようで。


「あれ。ケルン、これあーしたちに?」

「・・・ギルドから、渡してほしいと・・・」


 ふにゃふにゃのままで返事してきたケルン。あれ今晩の内に治るんだろうか。

 苦笑いを浮かべてケルンの方を見つめていると、ゼルが急かすようにあーしの隣へとやって来る。


「俺たち宛か? 誰からだよ?」

「えーっと、あれ、この仰々しい便箋どっかで見たような・・・?」

「確か、王族からの物だったはず」

「うげっ!? また王族・・・?」

「んだよ、またあの堅物女からか」

「あぁ、あの子ねぇ。懐かしいわぁ」


 頬に手を当てて懐かしむように宙を見つめるネク。そういえばネクもあの時は酒場に来てたんだっけ。

 あーしも同じように懐かしさを感じながら、今度は特に緊張することもなく封を開けて中身を読む。


 ふん・・・ふん・・・。



 ・・・えっ。


「どうしたよアカネ。すげえ顔してんぞ」

「すごい汗。大丈夫?」

「何が書いてあったのぉ?」

「クソなら速めに行ってこいよ」

「違うから! てかセクハラだし!」


 なんてツッコミつつ、悔しいことにゼルのボケで冷静さを取り戻したあーしは、一旦深呼吸して手紙の内容をかいつまんで話す。


「その、王女様があーしたちに会いたいって。セシリーさんから」

「ほー」

「へー」

「ふーん」



「「「えええええええええええええええええ!!?」」」


 ゼルたちだけじゃなく、酒場にいた全員が同じように驚いて叫ぶ。


 あーしついに、王女様から呼び出しくらっちゃった。


 ・・・ヤバイ。とにかくもう、ヤバイ。

 そんな風に語彙力が消し飛ぶレベルで、あーしはパニクりにパニクってしまった。

 ケルンのこと言えないなコレ。

今回で第2章が終了となります。

第2章までお付き合い頂いた皆さま、本当にありがとうございます。とても励みになります。


よろしければ下部から、作品への評価や感想が頂ければ幸いです。

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