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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
46/117

18話 前半

「なんか、思ってたより地味だね」

「そりゃ入口だからな」


 潜入作戦の準備を整えたあーしたちは大急ぎで海神の社へと向かい、何とか冒険者たちが来る前に先回りすることが出来た。

 草むらの影から見える社の入り口は、大精霊の居場所という割にはかなり質素で、石造りの小さな神殿っぽい建物に、ギルトと同じくらいの両扉がついているだけ。まぁ本殿は海の中にあるって話だし、入口って考えれば立派な方なのかな。


 そして冒険者の方は、物が物だからか移動するにもめちゃくちゃ道が限られるようで、けっこう急いできた割にはそこそこ余裕があった。一人を除いて。


「ハァッ・・・! ハァッ・・・! もう無理・・・アタシはここでリタイアするわぁ」

「頑張ってネクさん。まだ始まってすらいない」

「速く息の根を止めろよ。呼吸がうっさくてバレるかもしんねえぞ」

「息を整えるじゃないのそこ?」


 相変わらずのやり取りを繰り広げていると、ようやく冒険者たちがやって来るのが見えた。

 ガタガタと馬車の揺れる音が、静かな社の入り口前に響き渡る。


「よーし来たな。準備はいいかルビー?」

「私は問題ない。みんなは?」

「あーしも大丈夫」

「俺様も問題ねえな」

「アタシはっ・・・ここで休んでるわぁ・・・」

「全員問題なし。じゃあ、行ってくる」


 ネクの言葉は完全に無視して、ルビーちゃんはハイドで身を隠し、魔力大結晶を運ぶ馬車へと向かって行った。

 姿が見えないから、ルビーちゃんがどこで何をしているか分からないのがもどかしい。

 社の入り口前に辿り着いた冒険者たちは、入口の守りをしている兵士たちとしばらく問答をした後、重々しく開かれた大扉の中へと馬車ごと入っていく。


「大丈夫かな、ルビーちゃん・・・」

「アイツが潜入で失敗するタマかよ。お、もう呼び出しが来たな」

「さすがルビーちゃん、仕事が速いね」

「ま、待って・・・まだアタシは・・・」


 ネクが泣き言を言い終える前に、あーしたちの体は光の粒子となって消えていった。






「いらっしゃい、みんな」


 しばらく目の前が真っ白になったかと思えば、次の瞬間には見慣れたルビーちゃんの顔が現れた。

 周りを見回してみれば、石造りの小さな部屋の中に呼び出されたらしく、同じように周囲を見回していたゼルと目が合い、そのすぐ後ろには未だ息切れ中のネクの姿も見えた。


「潜入成功だな」

「意外とすんなり入れるもんだね」

「その分、費用はかかるけど」

「必要経費だよルビーちゃん」


 今回の作戦は単純明快。転移のスクロールを準備して、先に社の中に入ったルビーちゃんに呼んでもらうだけ。

 まぁ簡単に言ったけど、結局のところは金の力だったりする。こればっかりはしょうがないけども。


「ターゲットはもう先に進んでる。急いで」

「分かった」

「言っとくが、写真は無しだぞアカネ」

「えっ!? なんで?」

「音と光でバレる」

「そ、そんな・・・」

「また今度機会があるまで我慢しろ。ほれ行くぞ」

「ま、待ってぇ・・・」


 あーしとネクはそれぞれ違った理由で、先を歩く二人の後ろをトボトボとついて行く。

 あーしたちが呼ばれた場所は、入り口の大扉から入ってすぐの脇の部屋だったみたいで、ルビーちゃんを先頭に、周囲を警戒しながら改めて入り口前の正面玄関へと戻る。


 細い通路を進んだ先に現れたのは、内側から見た入り口の大扉と、恐らく海底にある社へと続いているであろう、長い下り坂だった。

 長さだけじゃなく広さも十分にあり、下り坂の先の方では、魔力大結晶を積んだ馬車が進んでいるのがうっすらと見える。

 下り坂の壁には一定間隔で松明が備え付けられ、いかにもな雰囲気を醸し出していた。

 

「・・・長すぎないこれ?」

「俺様にゃ関係ないが、お前さんとクモ女はキツそうだな」

「二人とも頑張って」

「・・・」


 どうやらネクは早々に心が折れてしまったようで、輝きを失った瞳でぼんやりと下り坂の先を見つめていた。ぶっちゃけあーしも似たような気分だったりする。元の世界でもそうだけど、苦行みたいな道の先に本殿があるのは何なの? そういう試練なの?


 なんて文句言っててもしょうがないので、あーしたちは先を行く冒険者たちと付かず離れずの距離を保ちながら、長い長い下り坂を身を隠しつつ進んでいく。

 ひたすらに同じ景色が続く状況にあーしも若干心が折れそうになるも、今やゾンビのように成り果て歩く以外の動作を止めたネクを見て、己を奮い立たせる。ていうかネクは大丈夫かなアレ。


 石造りの壁や天井に囲まれた下り坂をひたすらに歩き、いよいよ時間感覚も曖昧になってきた頃、ようやく下り坂の終わりが見えてきた。

 上の入り口とは違ってやたらに仰々しい門のような造りをしていたその場所は、両隣りに立っている石造も合わさり、出口というよりもここが本当の入り口というような威圧感を放っている。


 まさに、神の社への入り口とでも言うべきだろうか。


「なんか、すごい所に出てきたね」

「こっからが本番って訳だ。気合入れてけよ」

「う、うん」

「了解」

「・・・」


 ネクからの返事はない。着くころには死んでたりしないよね?


 後ろを歩くネクをそれなりに心配しながら、先に下り坂を抜けた冒険者たちの待ち伏せに警戒しつつ、先へと進んでいくあーしたち。

 特に何事もなく下り坂を突破し、仰々しい門を潜り抜けると、想像を遥かに超えた景色があーしたちを出迎えてくれた。


「うわぁああムグッ!?」

「しーっ、落ち着け」

 

 感動がそのまま声になって漏れ出たあーしの口を、ゼルが予想してましたとばかりに素早く塞いでくる。なんか悔しいな。

 あーしは口を塞がれたままコクコクと頷き、ようやくゼルの小さな掌があーしの口から離れた。


「すっごい・・・!」


 手が離れて一秒もしないうちに、ボリュームを抑えながらも感動が声になって漏れ出てくる。

 

 長い下り坂を抜け仰々しい門をくぐった先には、まるでそのまま海底にやってきたかのような空間が広がっていた。

 オーロラのように海中を泳ぐ魚の群れや、ハサミを器用に動かして黙々と何かを食べるカニのような生き物。さらには光るサンゴ礁や貝殻に海草と、まさに海の中の景色が周囲一帯を満たしている。

 海中水族館のような狭い通路という訳でもなく、魔法か何かで遮断しているのか、海とあーしたちの居る場所の境界線さえ見えない。


 そして今まさにあーしたちが立ち、そこから続いている道の先では、古代遺跡とでも呼ぶべき超巨大な建物がどっしりと構え、今日まで海と共生してきたかのように景色と調和し、涼やかな水の流れる音がいたる所から聞こえてくる。


 まさしく、水の大精霊を祀る場所。

 海神の社という名にふさわしい空間だった。


 これまで見てきたものとは圧倒的に規模やレベルが違うその光景に、あーしは考えることも無く自然とスマホのカメラを起動する。

 そしてこれまた自然な流れで、ゼルとルビーちゃんに止められた。


「我慢しろ。気持ちは分かるが」

「すぐそこに例の冒険者が居る。我慢して」

「この景色を目の前にして我慢なんて出来ない・・・!」

「ここまでなら後でツアーかなんかで来れるだろ。俺たちが今用があるのは、この先にある本殿だ。そっちの方がレア度高いと思わねえか?」

「確かにそうだね」

「切り替えが速すぎる」


 分かりやすいまでにスマホを握る腕から力を抜いたあーしは、ルビーちゃんの呆れたような視線を流しつつ、再び冒険者の後ろをつけて本殿へと近づいていく。

 上の入り口から真っ直ぐ続いていた道が、そのまま遺跡中央のひと際豪華な建物へと続いているのを見るに、恐らくあれが本殿なんだろう。


 本殿の外に警備は配置されていないようで、そのまますんなりと本殿の中へと入っていく。

 立ち並ぶ石像が放つ無機質な威圧感を受けながら奥へと進んでいくと、何やら祭壇のような広い場所に辿り着いた。

 そしてその中央で待ち構えていた三人の祈祷師たちは、魔力大結晶を運んできた冒険者たちを跪かせ。


「ご苦労だったね。何かここに来るまでに異常は無かったかな?」

「ハイ。街の大通りでチンピラ妖精に絡まれましたが、特にそれ以上の事は何も」


 祭壇の周りに立つ柱の陰に隠れていたあーしたちは、チンピラ妖精という単語に反応したゼルを必死で押さえつけながら尚も観察を続行する。すると。


「そうか。ならここに来るまで、彼らの存在には気づけていなかった訳だね」

「!?」


 リーダーと思しき祈祷師から発せられた言葉に、冒険者たちはもちろんあーしたちの心臓も飛び跳ねる。

 えっ、うそ? 気づかれてたの!?


「ウソだろ!? いつの間に!?」

「誰だ! 出てきやがれ!」

「まさか・・・さっきのチンピラ妖精か!?」

「誰がチンピラ妖精だコラァ!!?」


 二度も言われていい加減に我慢が出来なかったのか、ゼルは押さえているあーしごと引っ張って冒険者たちの前に躍り出た。

 一歩遅れてルビーちゃんが慌てるようにあーしの前に立ち、三歩ほど遅れてネクがよぼよぼと現れる。締まらいなマジで。


「やっぱりお前らか・・・いつの間に!?」

「君たちと同じだと思うよ」

「へっ? それはどういう・・・?」

「会話の邪魔だ、黙っててくれないか」


 祈祷師のリーダーは短く言い放つと、まるで虫を払うかのように右手をさっと動かした。

 すると前で構えていた冒険者たちが、何の前触れもなくバタバタと倒れていく。


「えっ!? な、なにっ!?」

「テメェ・・・殺したのか?」

「どうだろう、力加減が難しくてね」


 何の事でもないようにさらっと言いのけた祈祷師のリーダーは、そのまま何事も無かったかのように話を続ける。


「それより、ここまでよく来たね。アカネちゃんにゼル君に・・・ルビー、だったかな? そして・・・」


 祈祷師のリーダーは妙にネクの名前をもったい付けて溜めたかと思えば、予想外の言葉を吐いた。


「久しぶりだね、ネクリア。・・・いや、今はネクと呼んだ方がいいかな?」

「「「!?」」」

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