17話
コカトリスの調達とアロマ素材の採集を終えて、あーしたちは三日ぶりにアルフィノエへと帰ってきた。
日は完全に沈んだものの、眠らない街とも呼ばれるアルフィノエは常に街灯で照らされていて、道行く人もまだまだこれからといったような雰囲気に包まれている。
あーしたちはそんな人混みからの注目を集めながら、大通りをミイラコカトリスと一緒に馬車で移動し、ルビーちゃんにネクと、それぞれの納品を済ませた。
コカトリスの調理は何日か時間がかかるとの事で、あーしたちは借りていた馬車を返却し、馴染みのあるギルドの酒場へと向かう。なんやかんやここに行き着くんだよね。
ゼルを先頭に勢い良くギルドの大扉を開けると、中にいた冒険者たちからあれやこれやと冷やかしが飛んできた。
「よーう、お前ら元気してたか!? 最強無敵の妖精、ゼル様のお帰りだ!」
「おお、久しぶりじゃねえかお前ら!」
「姿が見えねえからくたばったかと思ってたぜ」
「ハッハッハ! 言うじゃねえかこの野郎!」
ゼルはそのまま流れるように荒くれた冒険者たちへと拳で絡みに行く。元気だねほんと。
残ったあーしたち女子組は無関係とばかりにゼルをスルーし、そのまま空いてるテーブル席を探していると、カウンター席の方に見知った尻尾とキツネ耳を見つけた。
「ケルン! 久しぶり」
「ん? あぁ、アカネじゃないですか。お久しぶりです」
「もうごはん食べた? まだなら一緒にどう?」
「いいんですか?」
「私は構わない」
「ウフフ、丁度うるさいのが一人いないしねぇ」
「奇遇ですね、私もなんですよ。じゃあ、ご一緒させてください」
ケルンはくすくすと笑いながら、あーしの隣へと移動してくる。
女性四人でテーブルを囲み、大食いのルビーちゃん以外は適当なおつまみと飲み物を注文すると、自然とこの三日間の近況報告をする流れになった。
「確かコカトリスの討伐と、植物の採集に出てたんですよね?」
「そーそー。もう聞いてよケルン、ほんと大変だったんだから」
「フフ、夜は長いですから。いっぱい聞かせてください」
冒険者たちの喧騒をBGMにしながら、あーしたちはお互いにこの三日間の出来事を語り合った。
ケルンの方は前と変わらず、選抜された警備隊としてアセムと一緒に海に出ていたらしい。
魔物の数は落ち着いてきたものの、海の調子自体は一向に良くなる気配はないようで、ここ最近はずっと天気が荒れてるとか。
あーしはその話を聞いて、何か関係あるかもと水の精霊の話を切り出すと、さっきまで穏やかだったケルンの表情が急に真剣なものになった。
「水の精霊が暴走を?」
「う、うん。湖と湿原で二回」
「特に湿原は、汚染の原因になるくらいに酷かった」
「社の祈祷師たちは何て言ってるのぉ?」
「変わらず祈祷を続けていると。ですが、この状況はさすがに・・・」
ケルンが額に手を当てて、頭の中を整理するように呟きながら考え込むのを見て、あーしもそれに倣って頭の中を整理してみる。
あーしたちは汚染の原因だった湿原を浄化する事は出来たものの、そもそも何で湿原が汚染されてしまったのかは分からずじまいだった。
水の汚染が原因で精霊が暴走してたと思ってたけど、そうじゃなくて、精霊が暴走したから水が汚染されたなら、その暴走の原因は別にあるという事になる。
例えば、大本の大精霊とか。
そうして頭が足りないなりに一生懸命推理していると、それを横からブッ飛ばすようなテンションでもって、やかましい二人が合流してきた。
「おうおう何してんだお前ら! そんなシケた面だとメシが不味くなるぜ?」
「ゼルの言う通りだぜ! ルビーの嬢ちゃんを見てみろよ、いい食いっぷりじゃねえか!」
「アセム、今大事な話をしてるの」
「うっさいから黙ってて」
「「ハイ」」
いったん二人をクールダウンさせた後、改めてあーしはアセムにも水の精霊たちに起きていた異変を話した。
やっぱりそこは魔物漁のトップを張っている男だからか、精霊の話が絡んだとたんに真面目な表情へと切り替わる。
「汚染に暴走・・・まさか海以外にまで影響が出てるとはな」
「やっぱり、海神様が関係してる感じ?」
「精霊が暴走したとなれば、無関係とは考えられません。むしろ積極的に解決へと動くはずです」
「でも、今回それが無かったってことはぁ」
「大精霊自体に、何か問題が起きている」
「そうなるな」
決め顔でシメだけ持って行ったゼル。ちゃんと聞いてた? ずっとごはん食べてたけど。
「いい加減、社に直接出向いた方がいいんじゃねえのか? 祈祷師共も役に立ってねえみてえだしよ」
「俺もそうしたい所だが、社の中は聖域。関係者以外は立入禁止なんだ」
「えっ、まさか二人も入れてもらえないの?」
「えぇ。中に入る事を許されるのは、基本的に選ばれた祈祷師だけ。例外もありますが、それも事前に話を通してある者に限られますし」
「そんな・・・何とかならないの?」
「こればっかりは何とも・・・。仮に規則を変えるにしても、まずは会議を開かないといけませんしね」
回りくどいなぁ・・・。一応はアルフィノエ全体の問題でもあるんだし、もうちょっとオープンでもいいんじゃないの? ・・・まぁ神様みたいな存在だし、きっちりしないといけないんだろうけど。
チラッとゼルの方を伺ってみれば、もう隠す気も無いレベルで表情が歪みに歪みまくっていた。めんどくっせえなと顔だけで訴えている。二人にしても意味ないからそれ。
「こればっかりはどうしようもないわぁアカネちゃん。そこの二人ならともかく、一冒険者のアタシたちが口出しできる案件じゃないわよぉ」
「そうかもだけど・・・」
「大丈夫だアカネちゃん! 俺たちがキッチリ暴走の件も伝えとくからよ!」
「えぇ。むしろありがとうございます。街に来て日も浅いのに、そこまで真摯に向き合ってくれて」
「いや、あーしは別にそんな・・・」
「ぶっちゃけ中に入れたところで、何も考えてねえしな」
「それを言っちゃおしまいだよ」
結局その日はアセムたちに任せるという結論になり、旅の疲れが溜まったままだったあーしたちは、その後すぐに宿へと戻る事に。
疲れすぎてお風呂に入れなかったせいか、それとも別の何かか、久しぶりのふかふか布団だというのに、あーしはもやもやとしたまま深い眠りへと落ちていった。
アルフィノエに帰ってきて数日。
ネクと前に約束していた美容健康ツアーに女子三人で繰り出していたあーしは、心身ともに全回復し、つやつやお肌を眺めてにまにまとしながら、街中を適当にぶらついていた。
「あぁー、気持ちよかったぁー! ありがとねネク」
「体を揉みほぐされるのは、新鮮だった」
「ウフフ、気に入ってもらえて何よりよぉ」
ネクに案内されたのは、元の世界と同じようなマッサージもあれば、なにやら魔法を使ったエステなんかが体験できる、スパのような施設だった。
山登りに戦闘、果ては石にされてガチガチになっていた体をこれでもかと癒しまくり、そうして軽くなった体を動かす度に自然と笑顔がこぼれる。
更にあーしたちが採ってきたものが使われているのか、オシャレなインテリアのようにアロマキャンドルがそこかしこに飾り付けられていて、人知れず鼻が高くなってたり。
これを朝から満喫できる贅沢は、元の世界じゃ無理だっただろうなぁ。まぁこっちでも運が良かっただけなんだけどね。
「これからどうする? なんか食べ歩きでもしよっか?」
「そういえば、ルビーの言っていたコカトリスはどうなったのぉ?」
「お店の方から連絡が来ていた。一番いい物を用意してあるから、出来るなら早めに来て欲しいと」
「それならさすがにゼルも呼ばないとだし、コカトリスは今晩にでも回して、なんか屋台でもぶらつこうよ」
「分かった」
「構わないわよぉ」
舞台こそ異世界だけど、普通に元の世界と変わらないような会話とノリで休日を堪能するあーしたち。
まぁメンツも異世界人に、ドッペルゲンガーに、アラクネとファンタジー全開なんだけど、ビジュアルだけで見れば普通に女子三人が談笑してるだけにしか見えないと思う。
この前ギルドで話していた問題もすっかり忘れて、適当に食べ歩きしながら写真を撮ったりと楽しんでいると、何やら大通り前にたむろする人だかりにぶつかった。
「何だろこれ? 偉い人でも来てるの?」
「それなら何か告知が出てるはず。だけど、私はそんな情報は聞いてない」
「アタシも知らないわねぇ。どこかの冒険者が大物を仕留めでもしたんじゃないかしらぁ」
「あー、ありそう。ちょっとドローン飛ばしてみよっかな」
かくいうあーしたちも、この前ミイラコカトリスを街中で走らせてめっちゃ注目浴びてたし。
あれでネクの正体がバレないのもどうなんだろうとは思うけど。まぁ自分から言う事でもないし、黙っといたけどさ。
なんて考えながらあーしはドローンを呼び出し、人ごみの上から大通りの方を大雑把に見渡してみる。
どうやら注目を集めていたのは、ネクの予想通り何かを持って帰ってきた冒険者のようだった。馬車に繋がれた二頭の馬が重々しく大通りを歩き、後ろの大きな荷台ごと一生懸命引っ張っている。
そしてその荷台に固定されていたのは。
「えっ!? うそでしょ!?」
スマホを凝視しながら叫んだあーしの声を聴いて、さして興味無さそうだった二人も何だ何だと覗き込んでくる。
「そんな、これは・・・!?」
「魔力大結晶・・・よねぇ」
紐を何重にも巻き付けて荷台に固定していたのは、大きさからして間違いなく、魔力大結晶だった。
しかも大結晶の形を見るに、この前あーしたちが水の精霊たちに見せてもらったのと同じ物に見えなくもない。
「何で・・・? あれってもしかしなくても、この前あーしたちが・・・」
「確証はない。けど、少なくとも見た目は同じ」
「第一いくつも見つかるような代物じゃないわぁ。十中八九、アタシたちが見つけたのと同じで間違いないでしょうねぇ」
「だったら何で・・・!?」
記事が流出した・・・? いや、ありえない。しっかりと公開先は確認したし、何よりこれは神様から貰った力。そんな生半可なセキュリティとも思えない。
・・・なんて今は関係ない。現に今、あーしたちの目の前に大結晶はある。
そして居場所を知っているのは、あーしたちパーティメンバーだけ・・・のはず。もしかしてつけられてたとか・・・?
とにかく、あの冒険者たちに話を聞かないと。
あんな大事なもの、精霊たちが簡単に渡すとは思えないし。
「ルビーちゃん、ネク、あの冒険者たちと話がしたいんだけど」
「そう言うと思ったわぁ」
「でも、先はもう越されてる」
「えっ?」
ルビーちゃんのセリフを聞いてから改めてスマホに目を向けると、馬車の前で立ち塞がるように仁王立ちする、小さな妖精の姿が。・・・うそでしょ?
「よぉよぉお前ら、ずいぶんと大層なモンとってきたじゃねえか。良かったらどこで見つけたのか教えてくれよ」
わざとらしく周りに聞こえるようなボリュームで、馬車に乗る冒険者たちに絡んでいくゼル。
いきなりの展開に大通り沿いの人だかりはより一層ざわつき始め、妙な緊張感が場に広がっていく。お願いだから乱暴は止めてよ・・・?
「おいおい何だお前。いきなり出てきて場所を教えろ? 教える訳ねーだろ。見て分かんねえのか? 魔力大結晶だぞ? こんな貴重な物がある場所をそう簡単に教えられるかって話だ」
「ケチくせえ事言うなよ。実は俺様もこの前魔力大結晶を見つけんだが、それにそっくりなもんでな」
「何だ? まさか横取りされたとでも言いたいのか?」
「まさか。俺様がそんな肝の小せえ男に見えるか? 俺が聞きたいのはただ一つ、魔力大結晶は水の精霊の宝物だったはずなんだが、まさかお前ら、無理矢理とってきたりはしてねえよなぁ?」
ゼルと冒険者の言葉の応酬に、更に衆人環視のざわめきが強くなる。
しかし残念ながら、ほとんどの言い分はゼルが意味不明ないちゃもんを付けていると、冒険者側を庇う言葉ばかり。そりゃ何も知らない人からすれば当たり前なんだけど、すごくもどかしく感じる。
あーしが水の精霊と撮った写真を見せれば・・・。
という考えを見透かしていたのか、ネクがあーしの腕をガッチリと握って止めてきた。
「ネッ、ネク?」
「止めておきなさい。アナタが行っても余計混乱するだけよぉ」
「でも!」
「ゼルさんが一人で泥を被ってくれている。それを無駄にしてはいけない」
「被らなくてもいい泥だったんだけどねぇ」
「しーっ!」
ふざけながらも真面目に説得してきた二人に従って、あーしは体から力を抜く。
そのぶん拳を握る力が強くなり、今も冒険者と向かい合うゼルを見守っていると、冒険者側から思いがけない言葉が飛び出してきた。
「問題ない。なんせ俺たちは、海神の社からの依頼でこれを持ってきたんだからな」
「・・・なに?」
「お前も海の様子がおかしいのは知ってるだろ。それを治めてもらう為に、こいつを海神サマに奉納するんだよ」
社からの依頼で、魔力大結晶を海神様に・・・?
でも、確かにそれなら・・・。
「・・・そうか。邪魔して悪かったな」
さすがのゼルも納得せざるを得なかったのか、一言だけ謝罪すると冒険者たちに道を開ける。
再び動き出した魔力大結晶を乗せた馬車は、まるでゼルを居なかったかのようにスルーして通りすぎると、そのまま海神の社の方へと向かって行った。
しばらくすると人だかりも散らばっていき、あーしたちはようやくゼルと合流する。
「ゼル!」
「! アカネ、お前ら。いたのか」
「ゼル、大丈夫?」
「なんの心配をしてんだよ。それより、ここにいるってことは、お前らも気づいてんだろ?」
「えぇ、あれは間違いなく、アタシたちが見つけたものよぉ」
「海神の社に奉納すると言ってた。理解はできるけど、納得はできない」
「うん、やっぱそうだよね。だってあれは、あーしたち以外は知らないはずだし」
「なによりさっきの連中、社から派遣されたって割にゃあ、顔つきがチンピラそのものだったしな。祈祷師供も合わせて、どうにもきな臭くなってきやがったぜ」
「それなら一応、心当たりはあるわよぉ」
あーしたちが揃ってさっきの冒険者や社に対して疑念を募らせまくっていると、急にネクが思い出したように補足してきた。
「さっきの冒険者だけど、たぶん裏社会の連中で間違いないと思うわぁ」
「はぁ!?」
「何でんなことが分かんだよ?」
「アタシがまだ幹部だった頃、この街に潜伏してた時に仕事で使ったことがあったわぁ」
「使ったって・・・」
もうちょっと他に例え方ないの?
「なんでそんな連中が社と関わりを持ってやがる」
「そこまでは知らないわよぉ。でも、権力者とコネを持つのはいたって普通の考えだと思わない?」
「あっ、そういえばネク、前に祈祷師を見た時も見覚えあるって言ってなかったっけ? もしかしてそこと繋がってたりとか?」
「そこに関してはまだ思い出せないわぁ。まぁ下々の事なんていちいち覚えていられないのもあるんだけどぉ」
「最低な理由だなぁ・・・」
「なんにせよ、クモ女と関わりのある奴が動いてるってことか。もうビンゴじゃねえのかこれ?」
「その情報は、私たち以外に信じて貰える保証がない。これ以上は直接確かめる他ないと思う」
「へっ、上等だぜ」
ゼルはバシッと拳を叩くと、さっき冒険者たちが向かっていった社の方を笑って睨む。
なんかいつの間にか警察の強制捜査みたいな話になってきたな・・・。まぁでも無視できるような話じゃないし、仮にこれが思い過ごしだったらそれに越したことはないし。
「で、どうするの? もっかい話しに行くの?」
「無駄だろ。一応あいつらには社からの依頼っつー大義名分がある。俺らの取り入る隙はねえだろうな」
「じゃあどうするの?」
「俺たちも大結晶と一緒に奉納してもらうんだよ」
「・・・はぁ!?」
ゼルの口から飛び出した意味不明な作戦に、あーしは周りに人がいるにも関わらず大声で反応してしまう。
横目で見れば他の二人も、呆れたような仕草をしながらゼルを見つめていた。
「どっちみち祈祷師の連中にも用があるんだしな。今日の今日までクソの役にも立たなかった連中だぞ」
「そこまで言わなくても・・・まぁでも、気になるけどさぁ」
「じゃあ決まりだな。潜入方法についてだが、ルビーに任せていいか?」
「そこで丸投げされるとは思わなかった」
「平常運転じゃないのぉ」
シリアスな雰囲気から一転、いつものゼルクオリティでグダグダな雰囲気に戻ったあーしたちは、ほどよく力も抜けて、社への潜入作戦を実行することになった。
アルフィノエの為とか、精霊の為とか、真面目な理由もあるんだけど、実際のところあーしは、海神の社の中に入れることが一番楽しみだったりする。
あんだけシリアスにあれそれ言っといてインスタ脳を発揮する自分自身に、あーしは自嘲気味に笑いながら、海神の社へと向かっていった。




