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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
43/117

15話

 お昼ごはんでお腹を満たし再度出発したあーしたちは、いよいよ天空の湿原も目の前という所にまでやってきた。

 道中の開けた山道とは違って木々の間隔が狭くなり、葉が重なり合っているせいか木漏れ日程度にしか日の光が届かない。


 ここから先は絶景スポットであると同時に、危険な魔物 コカトリスの居る場所でもある。

 目で睨みつけた相手を石化するという厄介すぎる能力に対処するため、あーしたちは馬車を進めながら改めて作戦会議を始めた。


「目で睨んだ相手を石にするのは分かったけど、他にどんな特徴があるの?」

「そうだな・・・足が速えとか?」

「え、それだけ?」

「そもそもコカトリスからすれば、相手を石にした時点で勝負がついている。だから本体の戦闘能力自体は、さして高くない」

「目を潰された後はがむしゃらに暴れるだけだから、落ち着いて処理すればさほど危険な相手でもないわよぉ。ただし単体ならね」

「というと?」

「野郎の一番危ねえところは、不意打ちで出てくるところなんだよ。他の魔物と戦ってる所にふらっと現れて、まとめて石にされる。冒険者やってりゃそこそこ聞く話だ」

「うわぁ・・・」


 さっきのゴブリンたちでもつくづく感じたけど、冒険者は常に周りを警戒していないと、いつ足元を掬われるか分からない。

 ただでさえ毎回ギリギリのあーしたちは、人一倍警戒してしかるべきだろう。


「てか今向かってる湿原って、コカトリスの生息地なんだよね? 群れが相手とかだったら勝ち目無くない?」

「いや、奴らは群れるほど数は多くねえよ。大きくなる前に食われるのがほとんどだからな」

「元々身体能力が高くない上に、成体にならないと石化もままならないから」

「へー。まぁそんなんに群れられたら堪ったもんじゃないしね」


 いわゆる、食物連鎖ってやつなのかな。魔物側も大変そう。


「だとしても、索敵するに越したことはねえからな。まずは突入する前に、アカネのドローンで索敵。状況を掴み次第ルビーが目を潰す。後はクモ女が糸で抑えて、俺様がシメる。これで問題ないな?」

「分かった」

「了解よぉ」

「その前に、各自持ち物を確認してほしい。万が一の事は、考えておくべき」


 ルビーちゃんの忠告を聞いて、各々持ち物から青い液体の入った小瓶を取り出す。

 角ばった瓶のデザインにコルクで蓋をしているというビジュアルが、何ともファンタジー感があってイイ。


「たっけーよなこれ。こういう時くらいしか使い道ねえくせによぉ」

「そういう物に限って、いざって時買っといたらよかったって後悔するパターンあるから」

「あぁ、そういうのあるわねぇ」

「分かる」


 みんな一様に頷くこのアイテムは、石化した体を元に戻す薬。解石薬って言うらしい。

 使い方は簡単。石になった相手に中身を振りかけるだけ。・・・どういう理屈なんだろ。

 一本十万ゴールド。それを四人分で四十万の出費。たしかに痛い出費だけど、万が一を考えたら安く感じなくもない。


「てかゼルなら魔法で治せるし、一本余計だったかな」

「今更な話だろ。第一余りゃ売ればいい話だしな」

「それもそうだね」

「そろそろ入り口に付く。みんな準備して」


 ルビーちゃんの通告からしばらく後、ゆっくりと移動していた馬車が歩みを止めた。

 荷台から降りて馬車の先へと視線を向ければ、平坦になった山道に沿ってずらりと生える太い木々が、まるでトンネルのような形となってあーしたちを待ち構える。

 その先は深い霧に包まれていて、実に怪しい雰囲気を醸し出していた。


「なんかすっごい霧だね。いつもこんなんなの?」

「いや、俺も来るのは初めてだが、ここまで霧が深いなんて話は聞いた事ねえぞ」

「もしかしたら、下の湖が汚染された原因が、ここにあるのかも」

「無くはない話ねぇ。どうにもこの辺りは、ありえない事態が頻発してるみたいだものぉ」

「だからってあーしたちの目的地と被らなくてもいいでしょ・・・」


 ただでさえコカトリスっていう危険な相手がいるのに。これで何か別のヤバイ魔物が出てきたらマジ洒落にならないし。


「とにかくまずは調査だ。アカネ」

「分かった」


 あーしはドローンを呼び出し、木のトンネルをくぐらせて湿原へと送り込む。

 中も変わらずひどい霧で、かろうじて周りの景色が見える程度にしか状況が分からない。

 なんとか確認できる範囲で調べてみれば、湿原と聞いていた通り、今まで通ってきた山道と比べて高い木は生えていないようで、代わりに辺り一面に草が生い茂り、所々池のような水場も見える。

 しかし。


「なんだろこれ・・・水めっちゃ汚くない?」


 顔をくっつけあって覗き込むスマホの画面には、聞いていたようなきれいな水とは程遠い、黒く濁った水面が映し出されていた。

 常に後光で照らし出すドローンをかなり近くまで寄せているのに、その水面にはまったくドローンの姿が写る気配はない。どうなってんの?


「きったねえなこりゃ・・・ルビーの言った通り、ここが汚染の原因で間違いねえんじゃねえのか?」

「妙な霧といい、あまりにも怪しすぎる」

「もしかしたら、これも水の大精霊に関わっているのかもしれないわねぇ」

「えっ、海じゃなくてこんな山の上まで関係してくんの?」

「あたりめーだろ。文字通り水を司ってんだからよ」

「祈祷師の祈りが、まだ届いていない?」

「祈祷師、ねぇ・・・」


 ルビーちゃんの言葉を聞いたネクは、何やら意味深な顔で考え込む。

 そういえば、前に祈祷師を見て何か見覚えがあるとか言ってたような。

 でも、今重要なのはそこじゃない。


「どうするこれ? こんな霧が深いと、コカトリスどころじゃ無くない?」

「つって晴れる保証もないがな。ドローンでもう少し探ってみろよ。もしかしたらコカトリスの野郎も霧で見えねえつって移動したかもしんねえしな」

「一気に親近感湧いたわ今のセリフ」


 ゼルの言葉に従って、あーしは大雑把にドローンを動かして湿原の中をぐるっと見回す。

 しかしどこまで行っても見えるのは汚れた湿原ばかりで、コカトリスはおろか虫のような生き物すら見つけることが出来なかった。


「ゼルの言う通り、移動したのかな」

「だろうな。野郎の生命線は目だ。それが殺される場所に長居する理由なんざねえだろうよ」

「それじゃあどうするのぉ? コカトリスは後回しにして、汚染の原因を探してみる?」

「どの道もうすぐ日が落ちる。あまり動かない方がいい」

「じゃあ、とりあえず出来る範囲で探してみよっか」


 あーしたちは改めてドローンで湿原を見回した後、ようやく自分たちの体で湿原へと突入していく。

 天空の湿原と聞いていたその場所は、今は深い霧に覆われ天空らしさゼロで、ひたすらに汚い水場が広がる魅力のカケラもないスポットに成り果てていた。

 整備された道なんてあるはずもなく、湿った地面を歩く度に水っぽい足音が聞こえてくる。染み込んできたらやだなぁ・・・。


「ねぇ、せめて霧だけでも吹っ飛ばせないの? 風の魔法とかでさ」

「お前さん、たまにひでえ無茶振りしてくるよな」

「出来ないのゼルさん?」

「最強無敵の妖精様なら出来るんじゃないのぉ?」

「お前らなぁ・・・」


 ゼルは眉間をピクピクと動かしながら、あーしたちを見回す。

 正直あーしは本気だったんだけど、悪ノリした二人を見るにそう簡単な話じゃないのかも。いわゆる異世界ギャップ。


「サイクロンなら吹き飛ばせるでしょうけど、そういえばアナタは使えないんだったわねぇ」

「今は、な。いずれ習得予定だ。そん時はいの一番にテメェに見せてやるよ。真ん前でな」

「暗に巻き込んでやるってことねぇ。面白いじゃない、楽しみに待ってるわぁ。せめて団扇替わりにはなるといいけどぉ」

「言うじゃねえか・・・!」


 まーた始まった。

 めんどくさいし、ここはルビーちゃんに任せるとしよう。 


 ・・・あれ?


「ルビーちゃん?」


 前を歩いていたルビーちゃんが、歩いたままのポーズから微動だにしない。

 どうしたんだろうと近寄ってみると。


「ひゃっ!? うそっ、ルビーちゃん!? ルビーちゃんが石に!?」

「なに!?」

「何ですってぇ!?」


 ルビーちゃんは歩く途中のポーズのまま、石像のようになってしまっていた。

 慌てながらポーチに手を伸ばし、薬を取り出そうとしていると、霧に包まれた視界の先から光る両目が現れる。


「ヤベッ、アカネ!!」

「キャッ・・・!?」


 なにかどんよりした風のようなものが、あーしたちを吹き抜けていく。

 慌てて体の方を確認しても、特に何も異常は見えない。

 それなら後ろの二人はと振り向いてみれば。

 

「うそでしょ・・・?」


 ネクは自分の体を庇うようなポーズで、ゼルは落下したせいか半分地面に沈み込んだ状態で石像と化していた。



 え? うそ・・・うそ・・・。



 ていうか、なんであーしだけ・・・?



 心臓がこれ以上ないくらいに速く動いているのに、体は石になったように動かない。

 しかし何度確認してもあーしの体は元のままで、目も動くし、石化してる訳じゃない・・・と思う。


 そうしてパニクっているあーしの少し先から、バシャバシャと重々しい体が湿った地面を踏み鳴らす音が近づいてくる。

 あーしは石になったルビーちゃんを抱きかかえたまま、音のする方を凝視していると、ついにそれは現れた。


 カラスのように黒光りする大きな翼と体。その体を支える恐竜のようにたくましい足。そしてその先に突き出すように生えた、杭のように太く鋭い爪。

 いかついトサカにくちばしと、鶏のような顔面でギョロギョロと動く、二つの光る眼。


「コカ・・・トリス・・・」


 霧の向こうから現れたコカトリスは、唯一石になっていなかったあーしを不思議そうに見つめていた。


 ヤバイヤバイ!! どうしよう!!?

 あーし一人じゃ戦えないし、かと言ってみんなを置いて逃げらんないし!


 ・・・いや薬あるんじゃん!


 パニクりすぎて当たり前の事すら忘れていたあーしは、改めてポーチに手を伸ばすと、目の前のコカトリスが低い唸り声を出し、その両目であーしを睨みつけてくるのが見えた。

 するとさっきと同じように、どんよりした風のようなものがあーしに向かって吹きつけられるも、しかしこれまた特に体に異常はない。


 もしかしてあーし、石化しないっぽい・・・?


 理屈は分からないけど、その事実にあーしは若干の余裕を取り戻す。

 しかしながら、状況は何一つ改善していない訳で。

 あーしとは対照的にその事実にコカトリスは苛立ったのか、コケーッと鶏のような鳴き声を上げてこっちに走ってきた。


「えっ、ちょっ!? うそでしょ!?」


 あーしの倍以上にデカイ鳥の化け物が、こっちに向かって襲いかかってくる。

 またもパニクり始めたあーしは慌ててルビーちゃんに薬を使おうとしたものの、慌てすぎるあまり手元が狂って薬を落っことしてしまった。

 そんな状況はお構いなしに、どんどん距離を詰めてくるコカトリス。


「・・・ぁぁぁああああああ!!!」


 もう完全に頭がショートしてしまったあーしは、何を思ったかルビーちゃんを庇うように前に立ち、コカトリスの前に立ち塞がる。

 一瞬だけ頭に浮かんだ、ゼルの真似事のつもりかもしれない。


「~~~っ!!」


 目前に迫るコカトリスを前に、歯を食いしばり目もぎゅっと閉じるあーし。


 たぶん意味は無い。普通にひき殺されて終わる。


 それでも。



「止まってぇえええええええええ!!!」


 コカトリスに向かって、最後の抵抗とばかりに叫ぶ。

 そんなあーしの祈りに、誰も答えるものはいない。


「・・・えっ?」


 代わりに聞こえてきたのは、激しく水がぶつかる音。


 恐る恐る目を開けると、汚れ切った水の塊がコカトリスにぶつかり、その大きな体を吹き飛ばしていた。

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