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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
42/117

14話

「んぁ・・・もう朝・・・?」


 朝特有のひんやりした空気と、まぶたの隙間から刺し込んでくる日の光を感じて目を覚ます。

 寝起きのだるい体で重く感じるかけ布団を退けて、大きく伸びをしてから改めてテントの外を見た。


「あれ、ゼルとルビーちゃんもう起きてる」


 テントの中から見える狭い視界の中で、ルビーちゃんはストレッチ、ゼルは何やら瞑想みたいなポーズで宙に浮かんでいた。

 地平線から顔を出した日の光が後光になり、妙に絵になっている。

 ちなみにネクは今も同じテントの中でぐーすか眠っている。元幹部の割にだらしない寝顔だなぁ。


「おはよー二人とも。何してんの?」

「あ、おはようアカネさん」

「おう、起きたか。見ての通り朝練だ」

「朝練?」

「前に言ったろ、レベルを上げるには日々の鍛錬が必須だってな」

「えっ、ゼルってそんなんするんだ。ルビーちゃんはともかく」

「朝からご挨拶じゃねえかオイ」


 ゼルが眉間をピクピクさせながらこっちを向く。それでも瞑想ポーズは止めないんだ。


「私も意外だった。ゼルさんはずっと飲んでるイメージだったから」

「お前もか。別に隠してた訳じゃねえよ、早朝が魔力の練習に丁度いいってだけだ」

「練習って、どんな?」

「体ん中で魔力の流れを操るんだよ。魔法によって流れや量も変わるからな。後は今の会話みたいに、他の事と並行しながらやってみたりな」

「今も継続してたんだ!?」

「あたりめーよ」


 何事でもないようにさらっと言ってのけるゼル。ルビーちゃんも特段驚いたような反応がない辺り、魔法使いにとっては普通の事なんだろうか。


「ルビーちゃんは?」

「私は走り込みと素振り。後は虫や動物に、どこまで気づかれずに近づけるか。もちろんハイド無しで」

「あー、こっちはなんか馴染みあるかも。最後以外」


 前にイメージした通り、スポーツのトレーニングに近いのかもしれない。最後以外は。


「じゃあネクは・・・って寝てたんだった」

「アイツが練習するようなことあんのか? せいぜい糸出すくらいだろ」

「いやいやそんなこと・・・どうなんだろ」

「少なくとも、走り込みはした方がいいと思う」

「だね」

「だな」


 ルビーちゃんのオチに三人で吹き出し、いい加減にとネクを起こしに行く。

 子供のように布団を手放さないネクと無意味な格闘を繰り広げた後、みんなで朝ごはんを食べた。


 鶏肉とアロマ素材ツアー二日目。気合入れて行こう。






 馬車に乗り込み湖を出発したあーしたちは、いよいよ天空の湿原へ向けて山へと繰り出した。

 山道の脇にもアロマ素材の植物が生えていて、あーしたちは歩くようなスピードで移動しながら、ゆっくりと草摘みをしつつ山を登っていく。

 あぁ、いいなぁ。こういうのんびりした雰囲気はほんと癒される。


「そういえばさー、ネクって冒険者みたいに特訓とかしたりするの?」


 朝の会話を思い出し、移動中の暇つぶしがてら聞いてみる。


「もちろんするわよぉ。こう見えて一日たりとも欠かしたことはないわぁ」

「例えばどんな?」

「そうねぇ、普段からしてる編み物とか、そういうのかしらぁ」

「あー、そっか。あれがそのまま特訓になってるんだ」


 ちなみに、テントであーしたちが使っていた毛布なんかも全部ネクの現場自作。

 馬車がかさばるのを防ぐために、今はもう糸に戻ってネクの体へと戻っている。


「前から気になってたんだがよ、お前の糸はどうなってんだ? 物によって材質も変わるしよ」

「ウッフフ、知りたい?」


 ネクがここぞとばかりにニヤニヤした表情を浮かべて、ゼルを挑発する。あーもうオチが見えた。


「いや、別に」

「そぉ? 残念ねぇ」

「ネクさんはアラクネ種でも別格。知っている材質なら、どんな糸にでも変化させることが出来る」

「ちょっ!? ルビーアナタ!」

「なるほど」

「へー、すごいじゃん!」


 会話終了と思いきや、思わぬところから答えが飛んできた。元部下だし、それくらいは知っててもおかしくないか。

 ネクの方はバラされた事に若干怒りつつも、結局は褒められた事に気分を良くしたのかニヤケ顔になっていた。ちょろいな元幹部。


「色んな服編めるし、ネクと居ると着るものに困らなそうだよね」

「アタシはお母さんじゃないわよぉ。それにお店で売ってたような物なら、それなりに時間もかかるし」

「質を気にしねえなら問題ねえのか」

「そうねぇ、ただ作るだけなら一分もあれば」

「早っ!?」

「ウッフフ、もっと褒めてもいいのよぉ」


 持ち上げられて天狗鼻になるネク。そういうとこが無かったらもっと褒めてたと思う。ゼルに至ってはもう完全にそっぽ向いてスルーしてるし。

 そんな雰囲気を知ってか知らずか、ルビーちゃんが急に馬車を止めたおかげで、ネクは慣性に従って思いきりその天狗鼻を打った。


「~~~っ!」

「ブフッ! ブッヒャヒャヒャヒャ!」


 涙目で鼻を抑えるネクと、それを見てきったない笑いを漏らすゼル。癒しの雰囲気が台無しなんですけど。

 流れるようにケンカへと移行した二人は放っておき、何事かと御者席のルビーちゃんの方を覗く。


「どしたんルビーちゃん?」

「前、魔物が出た」

「えっ!?」


 ルビーちゃんの魔物という単語とあーしの裏返った声を聞き、後ろの二人がケンカを切り上げて馬車の外へと躍り出る。

 ルビーちゃんの肩越しに見た前方の山道では、あーしたちの行く手を塞ぐように陣取る、オオカミに乗ったゴブリンたちの姿。

 ・・・まぁ、そうなりますよね。ここは異世界。のどかなハイキングとはいかない世界な訳でして。


「何なのアイツら・・・オオカミ乗りこなしてるんですけど」

「ゴブリンライダー。シーウルフを餌付けした、賢い個体の群れ」

「野盗と同じ知能レベルってことねぇ」

「もっと他に例え方あったでしょそれ」


 あーしがカメラを準備しながらネクにツッコんでいると、ゼルがコキコキと首を鳴らしながら呟く。


「ようやくおいでなすったな。草むしりにも飽き飽きしてたところだぜ」

「え、どういうことゼル? アイツらが出る事知ってたの?」

「あぁ、冒険者共に聞いた」

「・・・そういえば、湖の時も何か知ってたような素振りしてたよね」

「あぁ、そっちも冒険者に聞いた」


 こっちを見ずに淡々と答えるゼルの言葉を聞いて、出発前日の事を思い出す。

 そういえば元々このコース自体が、ゼルが冒険者から聞いた情報を照らし合わせて作ったんだっけ。


 そもそも今回の旅自体、あーしのインスタ、ルビーちゃんのコカトリス、ネクのアロマと来てゼルだけ明確な目標も無いのに、妙に気の利いたコースを提案してきた。

 一応コカトリスもあるけど、ゼルの性格的に無意味な遠回りなんて提案しないはず。

 で、昨日の湖の件と、目の前のゴブリンライダーを照らし合わせれば。


「もしかして今回使ったルートって、冒険者に聞いた危険なスポットを選んでるってこと!?」

「何だよ、今気づいたのか」

「ゼルさんだし、ありえない話じゃない」

「まぁ、そうなるわよねぇ」

「じゃあ教えてよもぉーーーーーーー!!!」


 あーしの空しい叫びを合図にしたのか、ゴブリンライダーたちは一斉にオオカミを走らせ襲い掛かってきた。

 一直線には向かってこず、わらわらと的を分散させるように動いているあたり、確かに賢そうに見える。

 まぁ、ウチのパーティは狙撃役がいないから関係ないんだけど。


「馬をビビらす訳にもいかねえしな。ここは俺様とクモ女で何とかする、馬車は任せるぜルビー」

「分かった」

「ちょっとぉ、勝手に決めつけないでよぉ」

「別に構わんぞ。テメェが居なくても問題は無いしな」

「言ったわねェ・・・アナタよりよっぽど優秀だって事を思い知らせてあげるわァ!」


 仲良し二人は仲良く競争を始め、ゴブリンライダーへと攻撃を仕掛ける。

 ゼルはお返しとばかりに道を完全に塞ぐほど壁の魔法を広げ、ぶつかって怯んだゴブリンライダーを岩の拳で殴り飛ばしていく。

 対してネクは道に糸をまき散らし、それに足を捕られてすっころんだゴブリンライダーたちに、追い打ちで糸を浴びせかける。


 まぁ昨日あんな大物と戦ったし、今更ゴブリンがオオカミに乗った程度でどうこうなる話でもないか。

 なんて油断しまくっていたあーしの背後から、複数の足音が聞こえてくる。

 まさかとは思いつつも、冷や汗をかきながら振り向いてみると。


「後ろ後ろ! 後ろにもいる!?」

「っ!?」


 道を塞いでいたのは囮だったのか、ゴブリンライダーにプラスして普通のゴブリンも混ざった倍以上の数が、馬車の後ろから迫って来ていた。


「ゼルさん交代! 馬車の守りをお願い!」

「しょうがねえな!」


 短く言葉を交わし、ルビーちゃんは御者席から飛び降り、ゼルは後ろの集団へと視線を移す。

 その一瞬に生まれた僅かな隙を狙っていたかのように。


「キャアッ!?」

「っ! アカネさん!?」

「アカネ!」


 御者席の背もたれにしがみついていたあーしは、すぐ隣の山林から飛び出してきたゴブリンに捕らえられ、まるで人質のようにしてゼルたちに見せつけられる。

 喉元に付きつけられた刃物から感じる無機質な冷たさに、あーしの心臓は痛い程に脈打つ。


「おいテメェ・・・今すぐアカネを離しやがれ」


 言葉が通じているのかいないのか、ドスの利いたゼルの言葉にゴブリンは一切怯む様子もなく、あーしの喉元を突き付けた刃物で軽く叩く。

 今一ゼルが注意を引けないせいか、ルビーちゃんもハイドで消える事なく睨みつけて固まったまま。


 ヤバイ、どうしよう。

 このままじゃあーしのせいで、全滅する・・・?


 どんどんネガティブな考えに頭を支配されるあーしに追い打ちをかけるように、後ろから来ていたゴブリンたちがドタドタと馬車に乗り込んでくる音が聞こえる。

 あーしを捕まえているゴブリンと並び立つように現れた別のゴブリンは、抵抗は止めろと急かす様に刃物を振りかざす。


 ゼルとルビーちゃんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、地面に膝を付けようと屈み始めたその時。


「・・・えっ?」


 急にあーしの視界が赤く染め上げられる。

 首に痛みはなく、それどころか突き付けられていた刃物も、いつの間にか足元に落ちていた。


 困惑しながら目を動かせば、刃物を持っていたはずの腕は斬り落とされ、そこから勢いよく血が噴き出しているのが見える。

 どうやら隣で急かす様に刃物を振っていた別のゴブリンが、あーしに刃物を突き付けていたゴブリンの腕をなぜか斬り落としたようだった。

 一拍置いてゴブリンは腕を抑えてのたうち回り、乗り込んできたゴブリンたちも一様に困惑し始める。


「今がチャンスよぉ、行きなさい」


 ゼルとルビーちゃんのさらに奥から、ネクのゆったりとした声が届けられる。

 同じように驚いていた二人はハッと我に返り、ルビーちゃんはあーしを連れ出し、ゼルは馬車に乗り込んできたゴブリンたちをまとめて吹き飛ばした。


「アカネさん、大丈夫!?」

「う、うん、ありがとう。それより、さっきのって・・・」

「ウフフ、これも特訓の成果ってことよぉ」


 そう言ってネクはしたり顔を浮かべながら、手元から伸びる極細の糸をあーしたちに見せてきた。


「ラクティスでやってたでしょう? 今のアタシでも、ゴブリン程度なら操るのも造作ないわぁ」

「ネク~~っ! ありがとーーー!!」

「あらあら、戦いはまだ終わってないわよぉ?」

「大丈夫、もうすぐ終わる」


 馬車の向こう側から、ゼルとゴブリンの叫び声が聞こえる。

 なぜか聞こえてくる爆発音に続いてゴブリンが宙を舞っているのを見て、ルビーちゃんの言う通り、戦いの終わりが近い事を察した。






「今回ばかりは、引き分けにしといてやるよ」

「どういう理屈でその判定になるのかしらぁ」


 ゴブリンライダーとの戦闘が終わり、山道の途中に設けられた広いスペースに馬車を止めて、あーしたちは昼食兼反省会を行っていた。

 

「いやーでもホントに助かったよネク。ありがとう」

「ウフフ、そう思うならもっと褒め称えなさい?」

「ネク最高! マジ神!」

「ウッフフフフフフフ。それほどでもあるわねぇ」


 鼻をこれでもかと伸ばしながら、ゼルにドヤ顔を見せつけるネク。さすがに今回は何も言い返せ無さそう。

 かと思えば、お昼ごはんに没頭していたルビーちゃんが切り込んできた。


「んっ・・・今回は、私達にも問題がある。アカネさんを連れ出すために、大事な情報を共有しなかった」

「あー・・・」

「えぇっと・・・」


 天狗から一転、汗を流して目線を逸らすネクとゼル。

 いやまぁ大本はゼルだし、二人は別にそこまでじゃないでしょ。


「ごめんなさい、アカネさん」

「アカネちゃんが知識に疎い事に付け込んだことは謝るわぁ」

「付き合い長えし、予測してるもんかと」

「ここまでひどい謝罪初めてだよ、あーし」


 まぁでも、だからと言ってあーしに怒る資格があるかと言えば、そうでもない。・・・ちょっとはあってもいいかな。


「別にいいよ・・・いや良くはないか。でもさ、あーしだって今回みたいに助けてもらってばっかだし、そもそもあーしが冒険者出来てるの自体、みんなが居るからだし。危ないからって嫌がるのも違うと思う。だからおあいこ・・・でいい?」

「何でお前さんが聞くんだよ」

「それもそうだね」


 そうして全員で笑いながら、お昼ごはんを再開したあーしたち。

 なんだかんだ言ってるけど、問題があるのはあーしも同じ。むしろ冒険者としては一番いらないレベルだし。

 でも、そういう事を受け入れた上でのこのパーティだから。持ちつ持たれつでやっていくのが、通常運転なんだよね。


 まぁ、死んだら元も子もないんだけど。

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