12話
お使いクエストの為にアルフィノエを出発したあーしたちは、まずは採集ポイントの一つでもある森へとやって来ていた。
ここでネクのリストに載ってる植物と一緒に、キノコ等の森の幸も採っていく予定。
「ねぇ、ホントに馬車置いてきちゃっていいの?」
「入れねえんだから仕方ねえだろ」
「大丈夫よぉ。アタシのクモの巣でトラップも仕掛けてあるし、盗人が来ても逆に身ぐるみ全部取っていけるわよぉ」
「いや、しないからそんなん・・・ホントに止めてよ?」
「ウッフフ、冗談よぉ」
「えっ?」
クスクスと笑うネクと、マジで? みたいな表情を浮かべたゼル。この二人は本当にやりかねないからなぁ。
なんて怪しいやり取りを繰り広げるあーしたちに対し、先行するルビーちゃんはプロのような動きで的確に森の幸を摘み取り、背負ったカゴに投げ入れていく。一応メインはアロマ用の植物だからねルビーちゃん?
「むっ、これは・・・!」
「リストのやつ見つけた?」
「違う、毒キノコ」
「おぉ・・・初めて見た」
ルビーちゃんが腰を屈めてじっと見つめる目線の先に、いかにも毒持ってますと主張している禍々しいキノコの姿が。なんか取ってつけたような刺とか生えてるけど、これもファンタジー感と言っていいんだろうか。
「むぅ・・・」
「どしたんルビーちゃん? 毒キノコなんでしょそれ、食べられないよ?」
「いや、別に使い道はあるぞ。戦闘用のアイテム素材になったりするしな」
「粉状にしてアタシの糸にまぶせば、毒付きクモの巣になるわよぉ」
「おぉ、いいなそれ」
「こういう時は気が合うんだね・・・」
物騒な話で盛り上がる二人に、思わず顔を引きつらせるあーし。まぁ確かに、物は使いようってことか。
となると、ルビーちゃんは刀に塗り込むとか、そういう用途で見つめてたのかなぁと聞こうとしたその時。
「ゼルさんに治療してもらえば、これも食べられる・・・?」
「ダメだから! 絶対ダメだから!」
「俺は治さねえぞ」
「アナタって子は・・・」
食い意地が張ってるとか、そういう次元じゃないなこれ。
あーしは無理矢理ルビーちゃんを引き剥がして、改めて散策に戻る。
何気なく後ろを振り返ると、悪い顔をした二人が毒キノコをカゴに放り込んでいるのが見えた。・・・それはそれとして使うのね。
ネクの言っていた通り、ルビーちゃんの目利きは素晴らしく、あっという間に背負っていたカゴがパンパンになった。
キノコを始めツルのような植物に、何かの木の実と様々な森の幸が、カゴの網目から顔をのぞかせている。
魔王軍時代に培ったであろうサバイバル能力をいかんなく発揮したルビーちゃんは、予定よりも大分早い時間で森での採集を終わらせてしまった。
「こんなに採っちまって、食いきれんのかこれ?」
「問題ない」
「言い切るねえルビーちゃん。まぁ無理して食べきらなくても、小分けにして食べたっていいし。ネクの方は足りてる?」
「問題ないわぁ。自分用にも確保できたのはルビー様様ねぇ」
そう言ってネクは、恍惚の表情で自分の手提げカゴの中を愛おしそうに見つめる。
中に入っているのはハーブのような植物に、赤や青と色とりどりの小さな花。
「自分用って、ネクも作れるのアロマ?」
「ウッフフ、アタシこう見えて手先が器用だからぁ」
「手先の問題なのかそれ」
まぁネクって服編めたりとか意外と女子力高いとこあるし、アロマも何とかなるのかも。今度あーしも作ってもらお。
「で、どうするよ。俺的には野菜ばっかでもう少し肉っ気が欲しいんだが」
「この辺りだと、野ウサギがいると思う」
「えっ、ウサギ食べるの・・・?」
「けっこう旨いぞ?」
さらっと言ってのけるゼルに、他二人も頷いて同意する。
ウサギ食べるのはちょっと抵抗あるなぁ・・・なんか、あーしの中では愛でる対象って感じだし。
まぁ冒険者なら四の五の言ってられないんだろうけど。
「どうだルビー、気配とか分かるか?」
「・・・いくつか動く音がする。たぶんウサギだけじゃなく、サルも居ると思う」
「分かりすぎじゃないそれ?」
「レンジャーも形無しねぇ」
「アカネ、ドローン飛ばしてみろよ。ある程度正確な位置が分かるだろ」
「わ、分かった」
若干気乗りしないまま、あーしはドローンをルビーちゃんが示す方向へ飛ばす。
しばらくすると木の上で木の実をかじるサルやら、鼻をヒクヒクと動かしながらじっとしている野ウサギの姿を捉えた。ドンピシャで当てたルビーちゃんは森の子か何か?
「サルも居るな。どうするよ?」
「私は問題ない」
「アタシは食べた事ないわねぇ」
「あのちょっと、さすがにあーしサルは捌けないから。ぶっちゃけウサギもキツイし」
「大丈夫。私がやる」
「そういう問題じゃなくて・・・あれ?」
野ウサギとサル以外の動く物体を、ドローンが捉えた。
小さすぎて良く見えないけど、なにか水のような物体が森の中をスーッと移動している。
動物たちにとっては脅威ではないのか、特にそっちを見るような素振りすら見せない。
「何だろあれ、魔物?」
「いや、ありゃたぶん精霊だな」
「精霊って、社にいる?」
「それは大精霊。精霊は眷属のような存在で、彼らもまた自然の化身でもある」
「へー」
「分かってないでしょアナタ・・・」
失礼な、ちゃんとわかってるし。
たぶん神様と天使的な関係なんだと思う。たぶん。
「じゃああの子は水っぽいし、水の精霊ってこと?」
「そうだろうが・・・妙だな」
「何が?」
「精霊は、自然の魔力が溢れる場所に時々姿を現す。こんな普通の場所に現れるのは、通常ありえない」
「じゃあ、ありえないことが起きてるってこと?」
「単純に考えればそうなるわねぇ」
うへぇ、また何かヤバそうな事件の匂いがする・・・。
何であーしたちの行く先々で問題が起こるの。勘弁して。
「中々見れるモンじゃねえし、撮っといたらどうだ?」
「あー、レアそうだしいいかも」
あっさりテンションを持ち直したあーしは、ドローンを操作して水の精霊へと近づいていく。
ある程度の距離を保ってぐるっと一周するように移動すると、ドローンに気づいたのか水の精霊は一瞬ビクッと体を震わせた後、地面の中へ染み込むように消えて行った。
「あ、あれ? 逃げられた?」
「みたいだな」
「あれー? 動物の時は問題なかったのに・・・」
「精霊は臆病。仕方ない」
「むしろ今まで動物が逃げなかった方が不思議よぉ」
言われてみれば確かに。あーしの感覚がマヒしてただけか。
「それに、逃げたのは水の精霊だけじゃねえぞ」
「えっ? あっ」
言われて辺りを見回すと、野ウサギもサルもいつの間にか姿を消していた。
しょんぼりするルビーちゃんには悪いけど、ほっとしているあーしが居たり。
あの後、あれやこれやと理由を付けて狩りから釣りへと変更する事になったあーしたちは、次の採取ポイントである湖へと馬車を走らせた。
ここの水辺に生える草がアロマの材料になるらしく、それを採るためにあーしたちは揃って裸足になり、キャイキャイと騒ぎながら浅瀬へと入って行く。決して遊んでいる訳では無い。決して。
「ネク! くらえー!」
「キャッ!? やったわねぇ!」
「ぷはっ!? 私だって!」
アロマ素材の植物を目の前にして、お互いに水をかけ合ってはしゃぐあーしたち。こんなことなら水着持ってくればよかったなー。
ちなみにゼルは、ネクが即席で作った釣り竿で黙々と釣りに励んでいる。針を使わず、吸着力で釣り上げるらしい。なんかすごいな。
「ふぅ・・・ここまでにしておきましょう。お魚に逃げられるかもしれないしねぇ」
「体力無いの誤魔化してるだけでしょ」
「ばればれ」
「なっ!? 違うわよぉ!」
プンスコと怒るネクを笑って流しながら、あーしたちはようやくアロマ素材の植物を採り始める。遊んでました。はい。
時刻はそろそろ昼過ぎ。この湖でリストの植物と魚を釣り終え次第、お昼ごはんにする予定になっている。
「こんなもんでしょ。そろそろお昼の準備しよっか」
「了解」
「分かったわぁ」
ある程度の数を確保したあーしたちは、それぞれ三人手分けしてお昼ごはんの準備を始める。
あーしは森で採ってきたキノコを簡単に洗って、一つずつ串で刺していく。
ルビーちゃんは森で採ってきた薪を重ね置き、火打ち石で火を点ける。ほんとに点くんだそれ。
そしてネクが火の点いた薪を囲むように、人数分の折り畳み式の椅子を並べれば。
「準備完了! あとはゼルだけだね」
「妙に張り切ってたけど、ゼルさんは釣りが得意なの?」
「いや、あーしは知らないけど」
「・・・たぶんただの魚が目的じゃないわよぉ」
意味深なセリフを呟きながらゼルの方を見つめるネク。まぁゼルだし、狙うは大物ってとこだろうけど、この湖にそんなデカイのが居るかな?
濡れた体を焚き火で乾かしながら、あーしもゼルの方へ視線を向けると、釣竿を握って奮闘するゼルの姿が目に入る。
空中に浮いてるせいで踏ん張りが効かないと思うんだけど、大丈夫なんだろうか。
「苦戦してるように見える」
「糸すんごい伸びてるし、千切れるんじゃないのアレ?」
「アタシの糸で作った釣竿よぉ? そんなやわな作りしてないわぁ」
ふんすと鼻を鳴らすネクは、早々に椅子に座り込んで休憩モードに。本体が釣竿以下のやわな作りしてるのには、ツッコむべきだろうか。
そんな下らない事を考えてる間もゼルの戦いは続き、いよいよゼルの体が湖へと引っ張られ始める。
ちょっ、これはさすがにヤバイかも。
「手伝お! どうせゼルがいないとお昼食べらんないし!」
「了解」
「えぇ~、もう少しゆっくりしましょうよぉ」
おばあちゃんと化したネクは放っておき、あーしとルビーちゃんでゼルの応援に向かう。
ルビーちゃん、あーしの順でゼルの釣竿を握り、足に力を込めて踏ん張る。
ていうかこれ・・・。
「重っ!? 何が食いついてんのコレ!?」
「お前ら! 遊んでたんじゃねえのか」
「遊びも目的も終えた。後はゼルさん待ち」
「おっとそいつはすまん。こっちもこれでラスト一匹だ。ほれそこ」
ゼルがアゴでクイっと指し示した先には、石で囲っただけの簡単な生け簀の中で泳ぐ魚が三匹。人数分で言えば今かかっているので丁度足りるけど・・・。
「なんか、手応えからしてすごい大物っぽそうなんだけど・・・!」
「そうでなきゃ困るぜ。なんせその為に来たんだからよ」
「その為って、どういう・・・!?」
「喋ってると舌噛むぜ。ほら、1、2の、3で一気に釣り上げるぞ! 準備はいいか!?」
「わ、わかった!」
「了解」
「よしいくぞ! 1、2の・・・3!!」
ゼルの合図に合わせて思いっきり釣竿を引き上げる。
ずいぶんと抵抗していた大物も、三人同時の力には敵わなかったのか、とうとう湖の中からその姿を表した。
「っしゃあああああ! 一本釣りいいい・・・って」
「・・・えっ?」
「これは・・・!」
湖の中から釣り上げた大物は、でかい魚でもなく、魔物でもなく、ましてやイカでもなかった。
全身が水で出来ている龍のような何かが、釣り上げたあーしたちを水の瞳で睨み付けていた。




