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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
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11話

グリフィン討伐から一転、野盗の悪事成敗となったあの日からしばらく。


「あぁ~、疲れたぁ~」

「お勤めご苦労」

「労う気ゼロでしょそれ」


 ギルド職員しか入れない部屋から出てきたあーしを、ゼルがボケながら出迎えてくれる。

 野盗のアジトの写真を撮りに撮りまくったあーしは、ギルドから名指しで呼び出され、色々な調査に協力させられる羽目になった。まぁ協力って言っても、写真見せるだけなんだけど。

 それでも堅苦しい会議に連日強制参加となったあーしは、心身ともに疲れ果てていた。



「そんなにダルいならスマホ貸せばよかったじゃねえか」

「は!? そんなん絶対ありえないから!!」

「お、おう・・・そうなのか。まぁとにかく出所祝いだ、うまいもん頼んであるから早く行こうぜ」

「いやあーし別に悪い事してないから」


 ボケとツッコミを繰り返しながら酒場に移動し、料理に手を付けず待ってくれていた二人と合流する。


「お疲れさま、アカネさん」

「大変だったわねぇ、何か収穫はあったのかしらぁ?」

「盗品の配送先は掴んだみたいだけど、もぬけの殻だったんだって」

「かーっ、使えねえなあいつら」

「彼らの危機察知能力は高いものぉ。恐らく、アタシたちがアジトを潰した段階で逃げたんだと思うわぁ」

「さすが詳しいね、ネク」

「・・・素直に喜び辛いわねぇ」

「それより、早く食べよう。冷めちゃう」


 ルビーちゃんに急かされて、ようやくお昼ごはんに手を付けたあーしたち。

 ここ最近は海が閉鎖された事が影響してか、海鮮物のメニューがほとんど値上がりしている。おかげでテーブルに並ぶ料理はギルドの基本メニューのみ。ちょっと寂しいな。まぁルビーちゃんは寂しいどころじゃないだろうけど。


「そういえば、あーしがギルドに呼び出し喰らってる間、ゼル以外の二人は何してたの?」

「なぜナチュラルに俺様を省く」

「だって酒盛りでしょ?」

「否定はせん」

「どれだけ飲むのよアナタはぁ・・・」

「ほどほどにしないと、体を壊す」


 呆れる二人の目線を適当にあしらうゼル。

 むしろ酒盛り以外に何かすることないんだろうかこの自称妖精は。


「それで、二人は何してたの?」

「私は、街の料理店を制覇した」

「しちゃったんだ!?」

「隙あらば食ってんなお前さん」

「アタシはアロママッサージを受けてきたわぁ。心身共に癒されるのはいいものねぇ」

「あー、いいなー」

「糸しか出してねぇお前のどこが凝るんだよ」

「失礼ねぇ、糸を出すのだって体力使うのよぉ?」


 どうやらそれぞれなりに、空いた時間を満喫していたらしい。あーしは会議に出ずっぱりだった分、余計に羨ましく感じる。

 あーしもようやく手に入れた自由をどう過ごそうかと考えていると、ルビーちゃんが思い出したように話を切り出した。


「あっ、そういえば皆に相談がある」

「ん? どしたんルビーちゃん」

「あぁ、それならアタシからもあるわぁ」


 ルビーちゃんの話に乗っかって来たネク。この二人の相談ってなんだろう?


「実は料理協会の人から、食材を調達して欲しいって頼まれて」

「アタシも似たようなものよぉ。新しいアロマに使えそうな植物を採ってきて欲しいって」

「というとつまり、お使いクエスト?」

「そうなるな」


 お使いクエスト。

 本来は納品クエストとか言う名前だったけど、覚えやすいからあーしたちはそう呼んでいる。

 読んで字の通りで、どこそこからあれそれをいくら採ってきてとか、そういう内容のクエストを指す。初心者向けかつ、ついでに受けておくと小銭も稼げて都合がいい。


「クエストって、ギルドを通して依頼するんじゃなかったっけ?」

「案件によっちゃ、名の売れた冒険者を指名することもある。未探索ダンジョンと似たような理屈だ」

「といっても、今回は顔馴染みで頼まれたようなものだけどねぇ」

「獲ってきてくれれば、お礼にご馳走してくれるって言ってた。みんな喜ぶと思って」

「本音は?」

「私が食べたかったんです」

「正直でよろしい」


 ほんのり頬を染めて呟くルビーちゃんに苦笑するあーし。

 食材と葉っぱの調達かぁ。たまにはこういうのんびりしたクエストも悪くないかな。


「なんの食材と葉っぱを採ってくればいいの?」

「このリストに載ってるものよぉ」


 ネクは机の上を滑らせるようにして、なにやらたくさんの名前が書かれた紙をあーしに寄越す。

 ふんふん・・・全然わかんないや。


「あーしこういう目利きできないんだけど、ネクは大丈夫なの?」

「アタシも出来ないわよぉ」

「はぁ!? じゃあ何で引き受けたの!?」

「草の見分けならルビーの得意分野だからぁ」

「前の職場では、草も栄養源だったから」

「・・・今度ルビーちゃんの好きなご飯作ってあげるね」

「ほんと!?」


 バッと机から身を乗り出すようにして喜んでくれるルビーちゃん。そんなんでいいならいくらでも作ってあげる。


「で? 食材の方は何を採りゃいいんだよ?」

「コカトリスの肉」

「コカッ!? ルビーアナタねぇ・・・」

「ほぉ・・・、いいじゃねえか。腕が鳴るぜ」

「何そのコカなんとかって?」

「黒いニワトリみてえな魔物だ」

「あー、じゃあ鶏肉目当てってわけね」

「そんな簡単な話じゃないわよぉ」

「えっ?」


 こめかみを押さえてやれやれという風に首を振るネク。

 それとは対照的にゼルが指の骨を鳴らしている姿を見て、なんとなく察した。

 あぁ、やっかいな魔物なんだろうなー。


「その眼で睨み付けられた者は、石にされてしまうのよぉ」

「止めよう。うん。危ない」

「えっ!?」

「オイオイそりゃねえぜ! 第一草むしりなんざ、その辺のガキでも出来る仕事だろぉ?」

「石にされちゃうくらいなら喜んで草むしるよあーしは!」

「待ってアカネさん! 私の話を聞いて欲しい!」


 食事を一時中断するほどの熱意を見せるルビーちゃん。・・・そこまでして食べたいの?


「石にされるとは言っても、目を潰してしまえば問題ない。それに私は姿を消せるから、見つからずに目を潰すことが出来る。だからお願い!」

「う、うーん・・・」

「ルビー、まだ押しが足りねえ」

「コカトリスの肉は、とても柔らかくて美味しいらしい!」

「はぁ・・・」

「ルビー、そうじゃねえ。アカネを動かすならインスタに絡めたアプローチが必要だ」


 割と的確なフォローを出しているゼルに少し驚く。悔しいけどその通りだったり。


「えっと・・・あっ! コカトリスの生息地は、天空の湿原とよばれる場所。所々に点在する水面が青い空を写し出す、とてもきれいな場所と評判!」

「おお! いいじゃんそれ! どこにあるの?」

「アルフィノエから一日程度の距離にある、山の上かしらぁ」

「・・・遠いなぁ」


 あーしのテンションが再び下がったのを見て、ルビーちゃんが割と本気でネクを睨み付ける。

 ・・・まぁ、ここで断るのもかわいそうだし、対策があるなら別にいいかなぁ。


「へっ、そこで俺様の出番って訳だ」

「え?」

「はぁ?」

「ゼルさん・・・?」


 今までほぼ蚊帳の外だったゼルが、ここに来て会話に参戦してくる。

 この流れでゼルの出番って、何を切り出すんだろう。


「フッ。何も俺様は、ただ酒盛りしてたわけじゃないんだぜ。日々クエストをこなしてきた冒険者たちから、冒険譚と一緒にアカネが好きそうなスポットの話を聞き出してある」

「えっ、マジで!?」

「ゼルさん!」

「ただのアル中じゃ無かったのねぇ」

「ぶっ殺すぞクモ女」


 そう言ってゼルは机の上にある空になった皿を乱雑に退けると、空いたスペースに地図を広げて見せる。


「多少遠回りにはなるが、このルートを通っていけば退屈はしねえはずだぜ。もちろん、アカネ好みのな」

「うそ・・・ゼルがこんなに気が利く男だったなんて・・・」

「ハッハッハ! 誉めるな誉めるな!」

「・・・何か腑に落ちないわねぇ」

「何でもいい! アカネさんは?」

「もちろんOKだよ! 早速準備しよ!」

「やった!」


 小さくガッツポーズを取って喜びを表現するルビーちゃん。かわいい。

 確かにネクの言う通り、若干気になる部分はあるんだけど、あーしにとってプラスの話でしかないし、別にいいや。


「ねぇ、本当にアカネちゃんのためにわざわざ聞き出したのぉ?」

「別に、満足するのはアカネだけとは言ってねぇよ」

「・・・アナタ本当にいい性格してるわねぇ」

「お互い様だクモ女」






 翌日。

 あーしたちは馬車をレンタルして、荷台にあれやそれやと荷物を押し込んでいた。

 今回の大まかな目標は、ネクのリストに載っている葉っぱや花を摘みながら、コカトリスの居る湿原を目指す。

 まっすぐ進んで一日の距離を、あちらこちらと寄り道しながらの旅という事で、大体三日分の食料を詰め込むことになった。足りなくなったら自給自足。これはこれでワクワクしていいかも。


「みんな、忘れ物はない?」

「俺様は問題ねえ」

「私も、食料は大丈夫」

「つまみ食いは止めてよぉ。アタシも問題ないわぁ」

「あーしも全部OK! じゃあルビーちゃん、お願いね」

「了解」


 あーしたちが荷台に乗り込んだのを見送ってから、ルビーちゃんが御者席に座って手綱を握る。

 しばらくすると馬車がゆっくり動きだし、アルフィノエの西門をくぐって外の平原へと景色が流れていく。


「何してるのぉアカネちゃん。ドローンなんか飛ばして」

「魔物ならこの辺りにはまだいねえぞ」

「違う違う、ただの空撮」


 あーしはドローンを馬車や街が見下ろせるくらいの高さまで飛ばし、まるで鳥の視界のような風景を二人に見せてみる。


「こういうの、なんか冒険っぽくてよくない?」

「ほー、悪くねえな」

「意外と少年みたいなとこあるのねぇ」

「何事もムードって大事だと思うし」

「ウッフフ、そうねぇ」


 クスクスと大人っぽく笑うネクも、スマホを覗き混む目は少年のように輝いているのは黙っておこう。こういうとこはかわいいと思う。

 高い高いドローンから映し出される景色は、見渡す限りに広がる緑の平原と、それを囲むようにそびえる山々。所々にある森や湖がその景色を彩り、見ているあーしたちをどんどんと引き込んでくれる。

 うん、冒険の始まりってカンジ!


「そういえば今映ってる森と湖も寄るんだよね?」

「そうねぇ。そこにリストに載ってる植物が生えてるハズよぉ」

「ついでに何か採ってくか。山菜なり魚なり、備蓄は大いに越した事はねえしな」

「賛成!」


 御者席から力強い返事が届く。くいしんぼさんは馬車の音の中でも聞き分けられるらしい。

 あーしたちはお互いに顔を見合わせて吹き出し、どうせならと採った食材で今日のお昼ごはんを作ることに決めた。

 

 なんだろう、ようやくまともな冒険者生活が始まった気がする。

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