10話
お弁当を食べ終えたあーしたちは、腹ごなしも兼ねて歩きながらグリフィンを追跡していた。
ドローンで撮影中のグリフィンは、ルビーちゃんに刺された傷が効いているのか、途中で休憩を挟みながらもどこかへ向かって移動し続けている。
あーしたちはスマホの画面に写っているドローンとの距離を逆算することで、グリフィンとある程度離れながらも余裕を持って追跡する事ができた。
「レンジャーでもこうはいかんし、以外と便利だよなお前さんのクラス」
「その代わり、ドローンからの写真しか撮れないんだけどね」
「でも、グリフィンの生態が映ってるから、学者とかには喜ばれると思う」
「ニッチだなぁ・・・まぁいいけど」
「ハァ・・・ハァ・・・それより、まだ着かないのぉ? アタシもう・・・しんどくなってきたんだけどぉ・・・」
先を歩くあーしたちから三歩ほど遅れて、なぜか満身創痍のネクが息を切らしながら聞いてくる。
おそらくグリフィンは寝床に帰って休息をとるはず。だったらあえてそこに着くまで無理に追いかけず、寝息を立てたところを襲ってしまおうという魂胆だ。最悪ドローンで追跡だけやっちゃって、後日寝床で待ち伏せてもいいし。
「グリフィンはまだ移動中」
「だらしねえなぁオイ。それでも元幹部様なのか?」
「だからこそよぉ・・・。面倒な仕事は・・・全部部下に・・・やらせてたんだものぉ・・・」
「だからそんな体力ないんだ・・・嫌な裏事情だなぁ・・・」
こうやって時々かまされるファンタジーぶち壊しネタは、ほんと反応に困る。
「ねぇ・・・おんぶしてぇ・・・?」
「あのさぁ・・・」
「パーティで一番背でけえのお前じゃねえか。つまり体重もな」
「なんですってェ!?」
「イデデデデデデデデ!! テメェまだ全然動けんじゃねえか!」
「撤回しなさい! 今の言葉をォ!!」
「分かった! 分かったから離しやがれ!」
ゼルの言葉を聞くや否やルビーちゃんに負けない速さでゼルに掴みかかったネク。この調子ならまだ大丈夫そうだね。
「・・・それにしても様子が変」
「? 何が?」
もう仲裁する気はないのか、二人をガン無視してスマホを除き込んでいたルビーちゃんがおもむろに呟く。
「グリフィンは本来、外敵を避けるために高い所をねぐらにする。それなのに、さっきから山の方に向かわずに平原を移動している」
「言われてみればそうだな」
「山登りとなるとあーしもさすがにきつかったかも」
「アタシはこれでもしんどいんだけどぉ・・・」
ルビーちゃんの言う通り、グリフィンはさっきから平原の上ばかりを移動している。
近くとは言えないまでも周囲には山もあり、グリフィンのねぐらには十分な高さもある。どういうことだろう?
「まぁ追いかけてりゃ分かるだろ。もし新発見があるなら、ルビーの言う通り学者どもに高く売れるかもしんねえしな」
「そんな商売しないから。・・・あれ、なんだろ? なんか馬車がいっぱいいる」
「あれは・・・キャラバンじゃないかしらぁ」
グリフィンの逃げた方角へ進んでいると、なにやら馬車の集団 キャラバンが街道の途中で止まっている光景が目に入った。
休憩かと思ったけど、どうも雰囲気的にそうではないっぽい。
とりあえず近づいて、何があったか聞いてみる。
「あの、何かあったんですか?」
「君たちは・・・?」
「通りすがりの冒険者だ。用件によっちゃ力貸すぜ」
「こういう時くらいバシッと決めなよ」
「・・・シーウルフに襲われたんだ」
「! シーウルフってたしか・・・!」
「クエストが出てたな。ニアミスしちまうとは」
シーウルフ。主にキャラバンを標的に、百頭規模で引ったくりを行うオオカミの魔物。
キャラバンをざっと見回してみると、荒らされていない馬車を探す方が難しいくらいに、見るも無惨な姿となっていた。魔物の習性的に、人に被害が出ていないのが唯一の救いだろうか。
痛ましい光景に眉をしかめていると、ルビーちゃんが何やらしゃがみこんで地面を見つめている。どしたん?
「足跡の方向が、グリフィンと被ってる」
「あっ、ほんとだ。よく気づいたねルビーちゃん」
「アサシンですから」
ふんすと鼻を鳴らすルビーちゃん。かわいい。
「ちょうどいいじゃねえか。何盗られたのか教えろよ、もし見つけたら送り届けてやるぞ」
「ちょっとぉ、そんなに安請け合いしていいのぉ?」
「恩は売っとくに越したこたぁねえだろ」
「せめて小声で言いなよ。丸聞こえだから」
「いや、いいんだ。気持ちだけ受け取っておくよ」
「そう言うなって、な?」
「食い下がるんだ」
キャラバンの人たちと別れ、グリフィンの追跡を再開したあーしたち。
どうもさっきの間にねぐらに到着していたらしく、とあるポイントから動かなくなっていた。
グリフィンがねぐらにしていたのは、街道から少し外れた位置にある森の中。ルビーちゃんに聞いたような、外敵の来ない高い場所とは全然違う。
そして運がいいのか悪いのか、シーウルフたちの足跡もこの森へ続いているようだった。
あーしたちは安全を最優先して、少し離れた位置から改めてドローンでの偵察を行っていた。
「どうだアカネ。なんか見えるか」
「えーっと、あっ、いた! グリフィン・・・と、何で人がいるの?」
「は? 人だと?」
ドローンが映し出す光景の中では、体を休ませるグリフィンと、その回りで数人の男たちが何やら忙しなく荷物を運んでいる。
「なんだコイツら。まさかグリフィンの飼い主なのか?」
「ありえない。グリフィンを飼い慣らすなんて、魔王軍以外で聞いたことが無い」
「ネクがやってたのとはまた別?」
「アタシは操ってるだけ。服従させたりとかはまた別よぉ。それに、彼らの中にアラクネ種は見当たらないしねぇ」
「きな臭えな・・・。もうちょっと探ってみようぜ」
「分かった」
後光でバレないようにドローンを大きく周回させ、グリフィンのねぐらをぐるっと見回す。
ドローンの写した景色はねぐらというにはあまりに文化的で、どちらかというとあそこにいる人たちのアジトのように見えた。
「! あそこ、シーウルフがいる」
「えっ? あっ、ほんとだ!」
「シーウルフがここにいるっつー事は・・・」
「彼らが運んでいる荷物が、キャラバンからの盗品の可能性もあるわねぇ」
「つまり、あそこにいるのは野盗の集団」
「で、そこにグリフィンとシーウルフがいるってことは・・・あのクエスト全部アイツらのせいじゃん!」
「そうなるな」
まさか全部繋がってたとは。いやまだ証拠が見つかってないけども。
「つまり奴らは、何らかの方法でグリフィンとシーウルフを手懐け、フィノエルクとキャラバンを襲わせた」
「そうして集めた獲物は、アルフィノエの裏ルートで売りさばく。こんなところかしらぁ」
「・・・絶対に許さない」
静かに怒りを燃やし、拳をぎゅっと握りしめるルビーちゃん。理由は大体想像がつく。
「よし、強制捜査といくか。準備はいいかお前ら」
「いつでもいいわよぉ」
「殺す」
「落ち着いてルビーちゃん」
「作戦はいつも通り、俺様が派手に暴れて余りは裏方だ。いいな?」
「誰が余り・・・ってルビー!?」
「もう止まらないだろうねアレは・・・」
「負けてらんねえな。俺たちも行くぞ!」
ルビーちゃんを追いかけるようにして、あーしとゼルは野盗のアジトに堂々と真正面から乗り込む。
「よーし動くなテメェら! お巡りさんの登場だ」
「あ? なんだお前?」
「・・・おいアイツ、この前漁で活躍したっつう妖精じゃねえのか!? 隣の女も例のユニーククラスの!」
「おぉマジだ! 記事通り悪くねえ見た目してやがる」
なんかもう絵に描いたような小悪党ぶりを発揮する男たち。逆に新鮮だわ。
騒ぎを聞き付けたのか、アジトの至るところから野盗の男たちがわらわらと集まってくる。
「クエストが出てるのは知ってたが、まさか二人で来たのか?」
「なんだよ、オレあの背の高い女が好みだったのによぉ」
「いいじゃねえか。コイツらを餌にすれば勝手に食いついてくるだろ」
「それもそうだな。女四人か、長く楽しめそうだな」
いやらしい目でいやらしい台詞を吐いてくる野盗たち。
今までいろんな魔物を見てきたあーしだけど、相変わらず生理的な気持ち悪さは人間がトップクラスだわ。うん。
そして何より、あーしたちのパーティに対してその手のセクハラは禁句。
なぜなら。
「おいテメェ今何つった」
ビジュアルだけはかわいい、特大の地雷が紛れ込んでいるから。
「あんまり抵抗するなよ? 体はきれいな方がたのブッ!?」
ヘラヘラと笑いながら近づいてきた野盗の一人の顔面を、岩の拳で思いきり殴り付けたゼル。
荷物をなぎ倒しながら吹っ飛んだ野盗の男は、顔中を血だらけにしながら気絶した。うわエグ・・・。
「なっ!? てめえいきなり何を・・・」
「俺は男だこの野郎ォ!! ふざけやがって、皆殺しにしてやらァ!!!」
ルビーちゃんに続き、理性が無くなるほどにガチギレしたゼル。写真しか見てないなら勘違いしても仕方ないと思う。見た目だけはかわいいし。見た目だけは。
「クソッ! おい、さっさとグリフィンとシーウルフを連れてこい!」
「無理だ! なんか糸まみれで動けなくなってやがる!」
「はぁ!? どうなってんだ!?」
「グリフィンは眠った。もう起きない」
「!? グッ・・・ハ・・・」
「おい! どうしッ・・・」
前回の戦いを踏まえ、あらかじめグリフィンを仕留めていたルビーちゃんが、起こしに来た野盗たちを腹パンで眠らせる。峰打ちとかじゃないんだ・・・。
「おい何やってる! 女相手に何を手こずってッ・・・かっ、体が!?」
「ウッフフ。大人しくしててねぇ」
「! お前は・・・!」
「うちの子たちがご立腹みたいなのぉ。お相手はアナタたちに任せるわねぇ」
「!? おい待て! 待ってくれ!」
ネクは逃げようとする野盗を優先して糸で捕縛。その辺に縛り付けた後は二人に料理を任せ、次々にアジト内を無力化していく。
最初こそ下心満載の笑い声に包まれていた野盗のアジトは、いつのまにか悲鳴がこだまするようになっていた。もうどっちが悪者か分かんないなこれ。
野盗の相手は絶賛ぶちギレ中の二人に任せて、あーしはアジトの中にある悪事の証拠をバンバン撮っていった。
「ふぅ・・・これで全部か」
「ひどい有り様だねこれ」
「自業自得」
「さすがのアタシもちょっと引くわぁ・・・」
あーしたちの目の前には、ネクの糸です巻きにされた野盗の男たちが呻き声をあげて転がっている。
ルビーちゃんは腹を、ゼルは股間を重点的に攻撃して行動不能に追い込んだおかげで、いろんな意味で汚い絵面になっていた。どんだけ怒ってんの二人とも。
「そういえば、どうやって魔物を飼い慣らしたんだろ?」
「聞き出す前にのびちゃったものねぇ」
「・・・ごめんなさい。我を忘れて」
「その辺はギルドの仕事だ。俺たちの出る幕じゃねえよ」
「一応インスタで報告はしといたし、後は職員さんが来るまで待ってよっか」
そうしてしばらく待っていると、職員さんより先にさっきのキャラバンの人たちがやってきた。
キャラバンの人たちは何度もあーしたちにお礼を言うと、それなりの報酬にプラスして、街まで乗せていって貰えることに。
馬車の中で流れていく風景を眺めながら、珍しくとんとん拍子で進んだ今日を振り替えるあーし。明日からもこの調子で・・・無理かなぁ。
まだ解決してない問題もあるんだけど、まぁそれは明日考えるってことで。




