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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
37/117

9話

 グリフィン討伐のクエストを受けたあーしたちは、ある程度の予習と作戦会議を済ませて、アルフィノエの西に広がる平原へと繰り出した。しばらく街中や海の上で過ごしてたから、足に当たる草の感覚が懐かしい。

 アルフィノエから西へと続く街道に沿って行けば、風の大精霊の社がある風の谷に辿り着く。

 今回の目標であるグリフィンも、本来はそこが生息地なんだとか。


「なんかグリズリーを思い出すなー。今回はなんでこっちに来たんだろうね?」

「はぐれたか追い出されたとかじゃねえか。同じ種族でも弱肉強食はあるからな」

「フィノエルクを狙ってるみたいだし、単純に味を覚えた可能性もあるわねぇ」

「ずるい。私も食べたいのに」


 ルビーちゃんがじゅるりと口をすするフィノエルクっていうのは、アルフィノエが保護対象に認定しているシカの生き物。

 生えている二本の角は武具や装飾品に、胴体の方は美味しい料理にと、余すところなく活用できるせいか一時期狩られに狩られまくったらしく、今は狩猟許可が無い限りは獲ってはいけないらしい。

 そんな動物をグリフィンが狙ってくるから、退治してくれっていうのがクエストの依頼内容。


「けっこう重要案件っぽそうなのに、何で今までスルーされてたんだろ? ギルドが斡旋しても良かったんじゃない?」

「ギルドがギリギリ腰を上げないラインでしか被害が無いんだと。分かってやってんのかねあの野郎は」

「長生きした魔物は、それなりに知恵もつく」

「それで説明できる話かしらぁ?」


 なんか元の世界でも似たような話があった気がする。どっちもほんと世知辛いなぁ。

 まぁでも狙う対象が分かってるなら探す手間も省けるし、こっちもそれを利用させてもらうまで。

 ギルドで予習しておいたフィノエルクの生息エリアは街からも割と近く、数十分ほど歩いたところで遠目にシカっぽい生き物が草を食んでいる光景が目に入った。


「わぁ~! ほんとだいっぱいいる! かわい~! ねぇ、近づいても大丈夫かな?」

「止めとけ。最悪角でぶっとばされるぞ」

「えっ、マジ?」

「ずっと狩られてきたから、警戒心がすごく高い」

「あー、そりゃそうか・・・」

「こういう時こそ、ドローンの出番なんじゃないのぉ?」

「頭いいねネク! その手があった!」

「アナタが一番詳しくないとだめじゃないのぉ・・・」


 呆れ顔のネクを尻目にドローンを呼び出し、さっそくフィノエルクの群れへ向けて飛ばす。

 怖がらせないようにちょっと高めの位置から撮影していると、ドローンの後光に反応したのか一瞬だけこっちを向き、問題ないと判断してか草食みに戻る。

 図らずもカメラ目線の写真をたくさんゲットできた。後光地味に役に立つな。


「それにしても、ほんとにすごい角だね。なんか角が光ってる子もいるし」

「理屈までは知らんが、食った草に蓄えられてる自然の魔力が角に集まるんだと」

「魔力結晶と似たようなものかしらぁ」

「あー、だから角が高級品なんだ」

「角だけじゃなく、お肉も美味しいと評判」

「・・・獲っちゃダメだからねルビーちゃん」


 顔をくっつけるようにしてスマホの小さな画面を覗き込むあーしたち。

 更にドローンの高度を上げれば、草食み以外にもゆっくり休憩する子や、角をぶつけあったりしている子も居たりと、あーしたちと同じようにそれぞれなりの時間を満喫している様子が映り込む。

 こういう動物の生活を放送する番組とかあったなぁ。色んな動物を特集して記事に上げるのも面白いかも。


「こういうの見てると、守らなきゃ! って気持ちになるね」

「守るのは俺たちだがな」

「よろしくお願いします、皆さん」

「止めなさいな、みっともない」

「いじわる」

「へーへー、俺が悪うござんした」


 そんなしょうもないやり取りで時間をつぶしていた時、ふと気づく。


「そういえば、グリフィンっていつ頃来るの?」

「さぁな」

「さぁって。・・・ていうかそもそも、今日グリフィンがやって来る保証は?」

「無いな」

「・・・」


 ここまで来て相変わらずのグダグダっぷりを発揮するあーしたち。肝心なところを頭に入れてなかったー!


「どうする? 先にお弁当食べちゃう?」

「ピクニックか。まぁ俺は構わんが」

「お腹すいた。そろそろお昼にしよう」

「・・・冒険者ってこんな適当な職業だったのかしらぁ?」


 顔を引きつらせるネクを他所に、あーしたちはお昼ごはんの準備を始める。

 今回は平原に出て行く予定になったから、アルフィノエのお弁当屋さんで色々と買っておいた。

 地面の上にシートを広げて、端っこを荷物袋で抑える。なんか懐かしいなこれ。


 そうしていよいよ靴を脱いでシートに上がろうとすると、突如巨大な影がフィノエルクの群れに向かってあーしたちの頭上を通り過ぎて行った。

 影になるものが何もない平原。察したパーティメンバー全員がフィノエルクの方へ視線を向けると。


「でっ、出たああああああああ!?」


 話に聞いていた通りの、ライオンみたいな胴体に鷲の頭と翼を持った巨大な魔物が、フィノエルクの群れに襲い掛かっていた。


「えっと、えっと、どうしたらいいんだっけ!?」

「落ち着けアカネ。まずは・・・っておいルビー!?」

「ちょっとどこ行くのぉ!?」


 グリフィンを見るや否や走り出したルビーちゃんは、走りながらいつか見たトラルビーちゃんに変身。いつも以上に加速したスピードで、一頭のフィノエルクに襲い掛かるグリフィンに思いきり噛みついた。

 不意打ち同然の噛みつきにパニックに陥ったグリフィンは、ジタバタと暴れながらどうにかトラルビーちゃんを引きはがし、上空へと退避する。

 空へと逃げるグリフィンを見つめながら元の姿に戻ったルビーちゃんは、グリフィンの味が気に入らなかったのかペッと唾を吐いて。


『私が我慢しているのに、目の前で食べられるのは我慢ならない』


 ドローン越しに聞こえてくる、ルビーちゃんの静かな怒り。動機そこなのね。

 グリフィンの方も食事を邪魔されて怒っているのか、クモの子を散らす様に逃げるフィノエルクを追いかける事もせず、じっとルビーちゃんを見据えたまま動かない。


「ちょうどいいぜ。このまま作戦開始といくぞ」

「はぁ、全くあの子は・・・」

「が、頑張って二人とも!」


 今回の作戦はいたってシンプル。

 ルビーちゃんがグリフィンの気を引いてる間に、ゼルの魔法で強化したネクの糸を引っつけて、グリフィンを地上に引きずり下ろす。そこをタコ殴り。

 食べ物の恨みを突いてルビーちゃんが注意を引くことには成功したし、後は糸で引っ張り下ろすだけ。あれ、意外と簡単かも。


「飛んでいる獲物を絡め捕るのは、クモらしくていいわよねぇ・・・。ウッフフ、腕が鳴るわぁ」

「ゴタゴタ言ってねえで早くしろよクモ女」

「うるさいわねぇ! 分かってるわよぉ!」


 仲良しの二人は小声であれやこれやと言い争いをしながら、グリフィンの背後へと移動。白い光で包まれた糸が、グリフィンへ向けて発射される。

 しかし寸での所で、グリフィンは身をひるがえす様にしてネクの糸を華麗にかわした。


「えっ、かわされた!? 後ろだったのに!?」

「テメェ何してんだクモ女! かわされてんじゃねえか!」

「アタシのせいじゃないわよォ! アナタがピーピーうるさいからでしょォ!?」


 敵を目の前にしてケンカを始める仲良し二人組。

 そんな二人に向き直ったグリフィンは鋭い鳴き声を上げると、翼の前に緑色の魔法陣を呼び出した。

 グリフィンは魔法陣に向けて力強く羽ばたくと、魔法陣を通った風が弾丸のように強化され、ケンカする二人に向かって襲い掛かる。


「二人とも危ない!」


 あーしの叫びも空しく、風の弾丸は二人の居た場所に命中。

 風とは思えないほどの威力だったその魔法は、大きく地面を抉り飛ばして土煙を巻き上げる。


「ゼルーーーー! ネクーーーー!」


 さっきまで二人が居た場所へ向けて叫んでいると、徐々に土煙が晴れて中が見えてきた。

 

「だからテメェがさっさとしなかったから避けられたんだろうが!」

「アナタがいちいちアタシに突っかかって来るから、気取られたんでしょうがァ!」


 口論を続ける二人の周りを、ゼルの壁の魔法が包み込んでいる。

 ・・・心配して損した気分にさせないで欲しい。マジで。


「ケンカしてる場合じゃない! 次の作戦に!」


 ルビーちゃんが二人を仲裁して、ようやくケンカが終わる。

 グリフィンの方は魔法が効いていない事に更に腹を立てたのか、低いうめき声を上げながら忙しなく羽ばたいている。


「次の作戦ってたしか・・・」

「やはり、俺様の出番になる訳だな」

「アタシにあれだけ言ったんだから、きっちり決めなさいよぉ」

「ハッ! 誰にもの言ってやがる!」


 次の作戦もいたってシンプル。

 ゼルの突撃する魔法で、グリフィンの羽を打ち抜く。

 ただしこれはゼルが使い物にならなくなるから、実質最終手段。

 それと今回はポーションを持ってきていない。三日間酒浸りに薬まで追加したら、いよいよ体を壊しちゃうかもだし。


「さぁーてそんじゃあ、時間稼ぎよろしく頼むぜ」


 ゼルはこれ見よがしに巨大な魔法陣を呼び出し、あえてグリフィンの注意を引く。

 グリフィンの方もさすがにヤバイと感じたのか、もう一度翼の前に緑色の魔法陣を呼び出す。


「ウッフフ、よそ見してていいのかしらぁ」


 不意を突いて飛んできたネクの糸を、グリフィンがまたもギリギリでかわす。

 そうして二人に最大の注意を向けるグリフィンの頭上から、黒い影が染み出すように現れた。


「捕まえた」


 突如翼にしがみついてきたルビーちゃんに、グリフィンがまたもパニックに陥る。


 そう、ゼルの突撃作戦はあくまで最終手段であって、まだもう一つだけ作戦がある。

 ゼルの魔法とネクの糸で注意を引きつつ、ルビーちゃんがハイドで忍び寄る。これが作戦の全容。

 万が一失敗してもゼルが突撃すればいいから、いわゆる二段構えの形。

 もっとも、ルビーちゃんが失敗するとは思ってなかったけど。


「っ!」


 左の翼にルビーちゃんが小刀を刺し込んだ事で、グリフィンが痛々しい叫び声を上げながら墜落してくる。

 そこへすかさずネクが糸という糸を浴びせかけ、身動きできないように地面へ押さえつけた。

 そして締めはもちろん。


「今日の晩飯は焼き鳥で決まりだなァ」


 絶妙にダサい決め台詞のようなものを吐きながら、ゼルは炎の右腕を作り出す。

 もう逃げられないと確信しているのか、悪い笑顔を浮かべながらゆっくりとグリフィンに近づいていく。どっちが魔物かわかんないなこれ。


「くたばりやがれェ・・・ッ!?」


 ゼルが炎の腕を振り上げた瞬間、グリフィンがけたたましい叫び声を上げた。

 するとグリフィンを中心に緑色の巨大な魔法陣が浮かび上がり、周囲に突風が吹き荒れ始める。


「ちょっ、なにこれ!?」

「やべえ、サイクロンだ! 全員集まれ!」


 慌てた様子で魔法を解除したゼルは、みんなを集めて壁の魔法で包み込む。

 壁の外では徐々に風の勢いが増していき、台風のような暴風でもって平原の草花を吹き飛ばしていく。


「ななななな、なんなのコレ!?」

「サイクロン、風の魔法」

「攻防一体の便利な魔法よぉ。味方まで巻き込んじゃうのが玉に瑕だけどぉ」

「チッ、鳥野郎のくせしやがって・・・俺じゃ魔力足んねえんだよなぁ」

「なんでそんな呑気にできんのみんな!?」


 こういう所も異世界ギャップなんだろうか。なんて考えてる時点であーしもだいぶ呑気だけども。

 そんな抜けた雰囲気でグリフィンの方を見ると、圧倒的な風の勢いでネクの糸が次々に剥がれ落ちていくのが見えた。


「ちょっ、アレ! 糸が!」

「あの野郎、気合入ったやり方じゃねえか」

「褒めてる場合じゃない」

「あの子、このまま逃げる気みたいねぇ」


 ネクの言う通り、糸を払いきったグリフィンは暴風が吹き荒れる中飛び上がり、そのまま飛び去っていく。


「このままじゃ逃げられるって! どうしよう!?」

「ドローンなら何とかなんねえか」

「ドローンそんな万能じゃないから! ・・・あっ、いけるっぽい」

「「「えっ」」」


 ダメ元で動かしてみたらいけた。暴風の中ですらスイスイ動く。・・・ちょっと評価改めないといけないなコレ。


「さすがユニーククラス。常識が通用しねえな」

「地味な所で便利よねぇそれ」

「まぁ神って付いてるしね」

「神?」


 ゴッドローン。

 最初に見た時は問答無用で星1評価だったけど、これはいよいよ星4くらいはあげないといけないかもしれない。


 壁の中で顔をくっつけながら覗き込むスマホの画面には、弱弱しく飛んでいるグリフィンの姿。

 しばらくすると風の勢いが弱まってようやく外に出れたあーしたちは、ドローンで追いかけているのをいい事にお昼ごはんを取る事に決めた。

 真面目な冒険者からすればふざけんなって怒られるかもだけど、まぁそこは、あーしたちパーティの特権って事で。

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