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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
36/117

8話

「んぁ・・・あれ? もう朝・・・?」


 海の化け物 イリーヴァとの戦いから三日後。

 戦い詰めだったあーしたちはがっつり休みを取り、この三日間は各々自由に過ごしていた。 

 その間のあーしの生活は、適当な時間に起きて、適当に街を散歩して、ご飯食べて寝る。

 こういうダラダラした生活も悪くないなーなんて思ったりもしたけど、そういう訳にもいかない。

 今日は久しぶりに、ギルドでみんなと集まる予定になっている。


「みんな何してたんだろ・・・?」


 寝ぼけ眼をこすりながら、洗面台におぼつかない足取りで向かって行く。

 休みの間はそれぞれが自由行動だったから、全然顔を合わせていなかった。せいぜい宿ですれ違うくらいだったし。

 ゼルとルビーちゃんは大体想像つくんだけど、ネクがどういう風に過ごしてたのかはかなり気になる。今日会ったら聞いてみよう。


「朝ごはんは・・・ギルドでいっか」


 顔を洗って着替えを済ませ、スマホを確認してから外に出る。

 久しぶりに会うのが楽しみだったからか、いつもより足取りが軽い気がした。






 寄り道することも無く一直線にギルドへ向かったあーしは、いつものように大扉を開けて中に入る。

 すると早速目の前に飛び込んできたのは、クエスト掲示板に群がる冒険者の集団。

 お互いがお互いを押しのけ合い、我先にとクエスト記事に手を伸ばしては奪い合っている。どういうこと?


 デパートのセールスタイムみたいな風景に若干の懐かしさを感じながら、あーしは酒場の方へと足を運んだ。

 ざっと酒場を見回してみると、端のテーブル席に見慣れた黒髪少女が座っているのを発見。


「おはよルビーちゃん。ひさしぶり」

「おはようアカネさん」

「他のみんなは?」

「ネクさんはまだ来てない。ゼルさんはそこ」


 そう言ってルビーちゃんが指さした向かいの席には、豪快に股を開いて腹を出し、よだれを垂らしていびきをかくオッサン・・・もとい自称妖精のゼルの姿。こいつはいっぺん妖精のみんなに謝った方がいいと思う。


「お祭りの日から今朝までずっと酒盛りしてたって、職員さんが言ってた」

「三日間ぶっ通し!?」


 十中八九飲んでるんだろうなーとは思ってたけど、この三日間ノンストップはさすがに予想できなかった。ていうか職員さんも止めてよ。

 割とドン引きしながらゼルを眺めていると、視線に気づいたのか、パチパチと眩しそうに瞬きしながら目を開けた。


「んぁ? 何だよアカネ。夜這いか?」

「全然違うし!」

「イデデデデデデデデデデデ!?」


 寝起き早々セクハラをかます羽虫のほっぺたを、思いっきりつねってやる。これで目も覚めるでしょ。


「おはようゼル」

「おふぁようございます。アカネさん」

「おはようゼルさん」

「おう、ルビーもいたのか。・・・クモ女はまだみてえだな」

「あっ、今来たよ。あそこ」


 ギルドの大扉を開けて入ってきたネクは、掲示板前に群がる冒険者たちに一瞬ビクついた後、あーしたちを見つけて小走りで向かってきた。一応は指名手配中だし、怖かったんだろうか。


「久しぶりねぇアナタたち」

「声震えてんぞ」

「怖かった?」

「もう大丈夫」

「まともな挨拶が一つも無い!」


 集合早々に繰り出されるこのグダグダっぷりに笑いながら、あーしたちはそれぞれ席に着く。

 みんなもギルドで朝ごはんにするつもりだったようで、注文した料理が届くまでの間、この三日間の生活を語り合う流れになった。


「みんな三日間何してた? あーしは適当に街をぶらついたりしてたけど」

「私は、アルフィノエの料理店全制覇。・・・でも半分までしか行けなかった」

「半分も行ったの!?」

「お前さん、それちゃんと味わって食ってんのか?」

「むぅ、失礼な。ちゃんと美味しく食べてるもん。バッジももらったし」


 ぷくっと頬を膨らませながらルビーちゃんが差し出したのは、『審査員 ルビー』と刻まれた仰々しいバッジ。左下には小さく『アルフィノエ料理協会公認』と刻まれているのが見える。えっ、なにこれ。


「時々審査会に顔を出してほしいって言われた」

「三日間でどれだけ出世してんだお前さん」

「何か遠くに行っちゃったみたいで寂しいね、ネク」

「アタシを母親みたいに言わないでくれるかしらぁ・・・」

「そういえばネクは何してたの? あーしけっこう気になってて」

「ウッフフ、知りたい?」


 妖艶な笑みを浮かべてもったい付けるネク。こういうことされると聞く気が半分くらい萎えるのは教えておくべきだろうか。


「どうせ客引きだろ。聞くだけ無駄だぜ」

「違うわよぉ!」

「そっか、じゃいいや」

「アナタまで!? 違うの、待って待って聞いてぇ」


 一転半泣きになりながら縋りついてくるネク。相変わらずめんどくさいな。


「ンンッ! ・・・アタシはお風呂とエステ巡りをしてたわぁ。おかげでお肌もこの通りよぉ」


 そう言って見せつけてきたネクの肌は、文字通りのたまご肌で超プルプル。


「えー、何それいいなー! 誘ってよネクー! もー!」

「ウッフフ、ごめんなさいねぇ。今度一緒に行きましょう」

「絶対ね! 約束だからね!?」

「私も行ってみたい」

「ハイハイ。分かったから落ち着きなさいな・・・フッ」

「んだよその目は」


 なぜかしたり顔でゼルを見つめるネク。さっきのお返しのつもりだろうか。


「アナタはずっと酒浸りだったんでしょう? 華がないわねぇ」

「うるせえ。つーかギルドは冒険者の拠点だ。酒と一緒に情報を酌み交わすのが冒険者の休日なんだよ」

「じゃあなんかいい話でもあったの?」

「いや、海が閉鎖したからクエストの奪い合いがひどいって愚痴ばっかだ」

「ただの飲み話じゃんそれ!」


 日本のサラリーマンが冒険者に変わっただけだし! 全然中身が無い!


「本来は魔物漁のシーズンだから、稼ぎ口が無くなって困ってるんだと思う」

「依頼者からすれば嬉しい話だろうけど、反応に困る話題だね・・・」

「そうは言っても、不人気なクエストはしっかり残るんだけどな」


 ゼルの言葉通り、冒険者が散ったあとのクエスト掲示板には、数枚のクエスト記事がそのまま残っていた。あれだけの人の波で尚も選ばれない辺り、相当不味いクエストだというのが見なくても分かる。


 冒険者は慈善事業じゃない。お金をもらって仕事をこなす、れっきとした職業だ。

 しかも命を張っている分、クエストを選ぶ基準がシビアになるのもしょうがないと言える。


 まぁそれは、普通の冒険者だったらの話だけど。


「せっかくだしあれ受けてみねえか? ちょろっと言えばギルドも報酬上げてくれるかもしんねえぞ」

「えー・・・あそこに残ってるのって危ないのばっかじゃないの?」

「そういうクエストをクリアすれば、記事も伸びるってもんだろ?」

「あー、それはあるかも」

「私は構わない」

「ちょっ、ちょっとぉ、アタシは嫌よぉ? なんでわざわざ避けられるようなクエストを受けなきゃいけないのよぉ。報奨金も入ったし、お金には困ってないでしょう?」

「そうやって胡座かいてたら、インスタグラマーは沈んでいくだけだし」


 たとえ異世界だったとしても、代わり映えしないような記事を上げてたらすぐに飽きられちゃうだろう。それこそ何のためにこの世界に来たのか分からない。

 まぁネクはこのパーティに入って日が浅いし、こういう反応になるのも分からなくはない。


「嫌なら嫌で構わんぞ。俺たちだけで行くだけだ」

「どうしても必要なら、募集をかけてもいい」

「どうするネク?」

「みんないじわるよぉ! ・・・わかったわぁ。アタシも行くわよぉ」


 子供みたいな悲鳴を上げるネク。元幹部だったからイジられるのに慣れてないのかな。

 そんなネクをあやすのに絶好なタイミングで、注文していた朝ごはんが届いた。


 よし。しっかり食べて万全の体制でクエストに挑もう。

 どうも不人気のクエストみたいだし、何よりあーしたちはトラブルに巻き込まれやすいからね。






 朝ごはんを食べ終えたあーしたちは、もはや誰も見向きしなくなったクエスト掲示板の前で、じっくりクエストを選んでいた。

 まぁ選ぶほど残ってないんだけど。


「本当にろくなクエストがないわねぇ・・・」

「難易度と報酬が割に合わない・・・」

「魔物漁が旨すぎるってのもあるがな。さーって、どれにすっかねえ」


 掲示板を一通りチェックしたみんなから漏れる感想は、どれもネガティブなものばかり。

 ぶっちゃけあーしは知識自体に疎いせいで、どの辺が不味いのかすらいまいち分からない。


「グリフィンの討伐・・・グリフィンってなに?」

「獅子の胴体に、鷲の頭と翼が生えた魔物」

「常に飛びながら風の魔法をかましてくる厄介な野郎だ。遠距離攻撃が必須な上に上手いことかわしやがるもんだから、冒険者からめちゃくちゃ嫌われてんだよ」

「それで一体二十万ゴールド。山分け分と戦闘にかかる費用を考えれば、どれだけ割に合わないかわかるでしょう?」

「なるほど・・・」


 海でもつくづく痛感したけど、敵の有利なフィールドで戦わされるっていうのは、本当に負担がかかる。その上こっちのフィールドに持ち込むにも一苦労だし、避けられるのも当然か。


「こっちのシーウルフは?」

「すばしっこい狼だ。通称盗人オオカミ」

「風のように襲ってきて、くわえられる程度の獲物だけを持ち去っていく」

「引ったくり犬でイメージすればいいわぁ」

「・・・それ強いの?」

「百頭規模で来るって考えりゃ、その面倒さがわかるだろ」

「百頭!?」

「狙われるのは主にキャラバン。そのどうしようもなさから、天災と考える人もいる」


 そこまで頭数揃えてやるのは引ったくりなんだ・・・。もう直接襲ってもいいんじゃないの? いやオオカミ側に立つのはあれだけども。

 報酬は一匹千ゴールド。微妙なラインだなぁ・・・。


「あとは・・・野盗退治かぁ。人の相手までしなくちゃいけないんだね」

「こういうのは冒険者崩れだったりする場合もあるからな。相手によっちゃ魔物より面倒になる」

「どうも潜伏先も分かってないみたいだし、そこから探すことになりそうねぇ」

「本当にめんどくさいのしか残ってないね・・・」


 みんなのレクチャーでようやくあーしにも理解できた。余るべくして余ったクエストだわ。うん。


「どうするよ? 俺はどれでもいいぜ。戦えるならなんでもいい」

「この中なら・・・消去法でグリフィンかなぁ。絵的にも映えそうだし」

「アカネちゃんらしいわねぇ。アタシも構わないわよぉ」

「私も」

「決まりだな」


 こうしてあーしたちは、消去法でグリフィン討伐に向かうことになった。

 街で休んでた方が生き生きしてた辺り、本当にあーしたちは冒険者してないと思う。

 今さらな話だけどね。

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