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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
35/117

7話

 初めての魔物漁を終えて、その日の夜。

 アルフィノエに帰ってきたあーしたちは、戦いでの疲れを癒すために宿へと戻った。


 ・・・なんて事はなくて。


「祭りだァアアアアアアアアアア!!!」

 

 漁を終えて戻ってきたあーしたちは、そのまま街の人たちに抱えられるように連れていかれ、アルフィノエ全体を挙げたお祭りに参加していた。

 

 『イリーヴァ』と名付けられた例の化け物は、当然というか魔物漁史上でも最大の獲物だったようで、その記念と緊急クエスト達成の祝賀会を合わせて、漁に参加していた冒険者たちは盛大に迎えられた。

 冒険者やギルドという垣根すら超えて、街中の至る所では常に歓声が沸き上がり、飲んだり食べたり踊ったり笑い合ったりと、冒険者も一般人もみんなで仲良くどんちゃん騒ぎ。

 戦いの連続で疲れ果てていたあーしたち冒険者側も、気づけばみんなで円陣を組んで笑いながら踊ったりと、楽しい時間を過ごしていた。


「やるじゃねえかお前ら! 記事で見てたがよくあの状況から盛り返したモンだ!」

「ハッハッハ! そうだろそうだろ? これもひとえに、俺様の大活躍があったからこそ・・・」

「おいおい何か生臭えぞゼルお前! 胃袋の中でちょっと溶かされてたんじゃねえか?」

「言うじゃねえかテメェコノヤロー!」


 街に着くまでは魔力切れでぐったりしていたゼルも、今では冒険者と肩を組んでバカ笑い。

 そんな光景を眺めながら、あーしたち女性組は少し離れたテーブル席で一息ついていた。


「すごいね、街中を挙げてお祭りなんて」

「アルフィノエはいつもこんなものよぉ。隙あらば騒ぐ理由を見つけて、朝まで飲み交わす。そういう街よぉ」

「あー、なんかハロウィン思い出すなぁ」

「ハロウィン? ってなに?」

「あー、えっと、あーしの国でやってたお祭り・・・かな?」

「なんでアタシたちに聞くのよぉ」

「だよね」


 ネクの疑問に苦笑して返すあーし。

 日本にいた頃も、このアルフィノエの人たちと同じように隙あらば集まって騒いでた。異世界人のあーしも、こういう時は違和感なく馴染めるのは嬉しい。


「アルフィノエなら、アカネさんの国の物もあるかも」

「んー、どうかなぁ?」

「探せば見つかるかもしれないわよぉ。商人たちも精を出してるみたいだからぁ」


 ネクの言葉に辺りをざっと見渡せば、食べ歩きできるものを中心に、色んな出店がお客さんの呼び込みを行っているのが目に入る。


「お祭りだもんね。フットワーク軽いなぁ」

「その分、商品の目利きには注意しないといけない」

「人が多いぶん兵士の目も逸れるから、裏の連中にとっても絶好の稼ぎ時なのよねぇ」

「どこの世界も同じって訳ね、そういうとこは・・・」


 こういうお祭りではどうしても財布のひもが緩んでしまう。そこに目を付けるのは商売人なら当たり前だと思うし。


「アタシは見分けられるし、何か買っていく? こういう時にしか手に入らない物もあるわよぉ」

「あー、それはあるね。てかネクって目利きに自信あるんだ?」

「もちろんよぉ。だってアタシは元々売る側に・・・何でもないわぁ」

「もう遅いからそれ。・・・まぁいいけど。んじゃ行こっか」

「ゼルさんは誘わないの?」

「付いてこないと思うよ」

「でしょうねぇ」


 前に散々誘っても断られてたし、問題ないでしょ。

 まぁ一応声だけはかけておこうかな。


「ゼルー! あーしたちちょっと買い物行ってくるから、アセムとケルンのこと頼むねー!」

「おうー! 行ってこい行ってこい!」

「ほらね」

「熟年夫婦みたいなやりとりねぇ」

「うわそれ全然嬉しくない」

「・・・たまに二人が仲良しなのか分からなくなる」


 冒険者と飲み交わすゼルに待ち合わせを任せて、あーしたちは席を立つ。

 アセムとケルンは戻ってきて早々にギルドでの打ち合わせに入っちゃったから、戻ってきてから改めて乾杯する約束をしている。


 祈りがどうとかって言ってたけど、大丈夫だろうか。

 海の異変も元々はそこが原因っぽいし、解決できればいいけど。


「何してるのアカネちゃん? 早く来ないと置いてくわよぉ」

「あー、待って待って」


 アルフィノエに詳しいネクに道案内を任せて、あーしたちは買い物へと繰り出した。






 三人でアルフィノエの散策を始めてしばらく。

 ここぞとばかりに商売に精を出す商人を適当にあしらいながら、あーしたちは大きな通りに沿って街中を歩いていた。

 話に聞いていた通り、アルフィノエのお店の数はラクティスとは比較にならないほど多くて、あっちこっちと見て回るだけでも楽しい。そのぶん人も多くて移動も大変なんだけど。


「ちょっとルビー、アナタ買い食いもほどほどにしなさいよぉ?」

「ふひはへん」

「食べたまま喋らない。ちゃんと飲み込んで」

「んっ・・・すみません」


 そう言いながらルビーちゃんはフラフラと別の屋台へ足を向ける。

 こめかみを押さえて呆れるネクは、いよいよ糸を使ってルビーちゃんを連れ戻した。なんか犬と飼い主みたいでかわいいな。


 観光名所の大通りのように、道に沿って食べ物やお土産屋さんが立ち並ぶアルフィノエの大通りは、ルビーちゃんが自我を失うには十分すぎるスポットだった。

 あーしは後で乾杯する用に色々買い込んでいるんだけど、ルビーちゃんは買ったそばから胃袋へと送り込んでしまっている。今度フードファイター的なイベントが無いか探してみよう。いっそ自分で企画するのもいいかなぁ。

 

 なんて色々と考えていると、お土産屋さんから不意打ち気味に声をかけられた。



「よぉー、お嬢ちゃんたち綺麗だねえ! どうだい、ウチの商品試してかねえかい?」

「んー? 何それ、アクセサリー?」


 あーしたちを呼び止めたおじさんが売っているのは、イヤリングやチョーカーとかのアクセ類。

 シンプルなデザインに小さな宝石が埋め込まれていて、控えめながらもいい感じ。


「あらぁ珍しい。魔力結晶なんて使ってるのねぇ」

「おぉ、気づいたかい。その通り、ウチで扱ってる商品は全部魔力結晶が入ってるよ」

「魔力結晶って?」

「自然の魔力が年月をかけて、名前の通り結晶化したもの」

「魔力の塊みたいなものだから、使用者の魔力を肩代わりしてくれたりするのよぉ」

「へー! すごいじゃんそれ! ゼルに買っていってあげようかな」

「このサイズじゃさすがに無理よぉ。それに、そういう物は相応の値段がするものよぉ」

 

 ネクの視線の先には、0がいっぱい書かれた商品の値札。

 六桁を超えた辺りで数えるのを止めて、適当に写真だけ撮って店を出た。


「アクセであの値段って、本来はどれくらいするの?」

「そうねぇ、だいたい一千万前後ってところかしらぁ」

「たっか!? それ買える人いんの!?」

「並の冒険者じゃまず無理」

「トップ層の冒険者が、切り札に温存しておくような物ねぇ。魔王軍に居た頃は手を焼いたものよぉ」


 さらっととんでもない話をぶっこんでくるネク。元幹部は話の規模が違うわぁ。


「切り札って、そんな貴重なものアクセにしちゃっていいの?」

「装飾品に加工されるのは、戦闘用に使えない小さな物だから」


 それでもあんだけの値段するんだ・・・。

 ファンタジーのかけらもないリアルな金銭事情に肩を落としていると、ルビーちゃんが裾をクイクイと引っぱってきた。


「アカネさん、あそこ。貝殻のアクセサリーがある」

「あっ、かわいい。あれなら買えるかも」

「それなりの報奨金も入るのに、庶民的ねぇ」

「でもネクだって新鮮でしょ?」

「ウッフフ、そうねぇ」


 異世界人と元魔王軍。そんなあーしたちにとっては庶民的な物すら目新しく映るもの。

 といっても、インスタ映えするかどうかはまた別の話なんだけどね。




 


「お、帰ってきたか」

「ただいまー、ゼル」

「ふぁふぁい・・・んっ、ただいま」

「ただい・・・何よぉジロジロ見て」


 ギルド前の広場でジョッキを片手にあーしたちを待っていたゼルは、なぜかネクの事をジーっと凝視する。どしたん?


「本物だよな?」

「失礼ねぇ、この美貌を忘れたのかしらぁ?」

「いや、さっき間違えて立ちんぼに声かけちまってよ」

「~~~~~~っ!!」

「イデデデデデデデ!? 何しやがるテメェ!」


 到着早々のゼルの言葉に、ネクは声にならない声を上げて掴みかかる。そういえば門番の人がそんなこと言ってたっけ。

 微笑ましい二人の取っ組み合いを撮影していると、ようやくアセムたちがギルドから出てくるのが見えた。


「おう! ここにいたのか!」

「遅かったじゃねえかアセム。話はまとまったのか?」

「ある程度はな。解決にはまだかかりそうだが」

「とりあえず、しばらく海は閉鎖されることになりました。といっても、最低限の警備は続けますが」

「社の方はどうだったの?」

「どうにも海神様の様子がおかしいとの事です。ですが・・・」

「どうしたの?」


 なにか考え込む素振りのケルンに質問しようとすると、ちょうど声と被るタイミングでギルドの扉が開かれた。

 ギルドの中から出てきたのは、仰々しいローブを身に纏った男三人。見た目からして魔法使いのクラスかな?


「・・・今のが祈祷師の方々です」

「あっ、今のがそうだったんだ」

「俺たちには知らされてなかったんだが、全員新顔でなぁ。前任の人らと違ってよそよそしくて、話が進まねぇんだわ」

「前の祈祷師さんはどうなったの?」

「元々ご老体でしたから、今回の異変で体を壊してしまったそうです」

「そっかー・・・」


 不運に不運が重なるってのはこういう事を言うんだろうか。

 折角の海開きシーズンなのに閉鎖となると、当然アルフィノエにとっても痛いだろうし、早く解決できるといいけど。


「・・・」

「どうしたのネクさん?」


 去って行った祈祷師たちを、ずっと神妙な顔つきで眺めているネク。


「あの男、どこかで見たような気がするのよねぇ・・・」

「えっ、もしかしてネクと知り合い?」

「客か?」

「違うわよぉ!」


 ゼルのちょっかいで火が点き第二ラウンドを開始する二人。

 まぁその内思い出せるでしょ。


「まぁ考えてても仕方ねえし、とりあえず飲もうぜ! 堅苦しい会議で肩こっちまってよぉ!」

「さっき買い物ついでに一杯食べ物買ってきたから、これで乾杯しよ!」

「おっ、気が利くじゃねえかアカネ」

「本当はもっとあったんだけど、この子が食べちゃったのよねぇ」

「ごめんなさい」

「食いながら言っても説得力ねえぞ」

「うふふ、いいじゃないですか。今日はお祭りです、思う存分羽を伸ばしましょう」


 ケルンの台詞で気づいたけど、あーしたちアルフィノエに来てから全然羽を伸ばせてなかった気がする。主にイカのせいで。

 ここ最近は戦い詰めだったし、明日からこそ本格的に休みをとるのもありかなぁ。

 でも今夜は、全力でこのお祭りを楽しもう。


「「「「「「かんぱーーーーーーい!」」」」」」

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