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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
30/117

3話

 うねうねと触手を動かしながら近づいてくる、巨大なイカの魔物。

 引き潮のように逃げていく一般人には目もくれず、イカの魔物は顔面レシーブでふらついていたネクを、その触手で絡め取った。


「ひゃっ!? ちょっと、離しなさいよぉ!」

「ネクッ!?」


 皮肉にも絡め取られる側に陥ったネクは、あの手この手で必死に逃げようともがくものの、ヌルヌルの触手相手では全て徒労に終わっている。

 元々本体が非力なのも相まって、完全に行動不能になっていた。


「どっ、どうしようゼル! ネクが!」

「・・・悪いが、今回はマジで魔力切れだ」

「あーーーーーもーーーーーー!!」


 だから何であーしたちのパーティはいっつもピンチが前提なの!?

 今日は完全にOFFのつもりで来たから、ポーションの類いも持ってきてないのに!


「てか、何でここに魔物がいるの!?」

「まぁ、十中八九魔物漁で逃がしたヤツだろうな」

「ええ!? ダメじゃんそれ!?」

「今さら言ってもしょうがない。ここで食い止めないと、他の人に被害が出る」


 焼きそばをお腹一杯食べたおかげで本調子になったルビーちゃんは、水着のままで小刀を構える。


「ネクさんの救出が最優先。しばらくすれば応援が来るだろうから、そこまでの辛抱」

「わ、分かった」

「よしアカネ、選手交替だ。今日は俺が撮影するから、お前が戦え」

「は!? いきなり何言ってんの!?」

「落ち着け。・・・あれを見ろ」


 ゼルが指差した先には、ヌルヌルの触手に弄ばれ、苦悶の表情を浮かべるネクの姿。


「伸びる。間違いない」

「あーしに捕まれって言ってんのそれ!?」

「俺はもう魔法が使えない! 適材適所ってやつだ! 仕方ねえんだ!」

「何が仕方ないだこのエロ妖精!」

「遊んでる場合じゃない! 来る!」


 ルビーちゃんの警告通り、イカの魔物は残りの触手であーしたちを狙ってきた。

 危なげなく回避したあーしたちはそれぞれ散らばり、あーしはゼルを抱えて物陰に、ルビーちゃんはすぐに体勢を立て直し、改めてイカの魔物と向かい合う。


 ・・・四人になっても、あーしたちパーティの抱える問題は変わっていなかった。


「ルビーちゃん、大丈夫かな・・・?」

「アイツなら心配いらねえだろ。それよりお前さんは、クモ女から目を離すなよ」

「う、うん、分かった。ネクの事も一応心配はしてるんだ、意外」

「いや、ポロリを逃さないためにだな」


 あーしは無言でゼルの頭をはたいた。今度真面目に説教する必要があるかも。

 そんな下らないやり取りをしている間に、イカの魔物が再び動き出した。

 ルビーちゃんを絡め取ろうと、四方八方から触手が襲いかかる。


「・・・」


 そんな状況にルビーちゃんは顔色一つ変えず、流れるように体を動かし、イカの魔物との距離を詰めた。

 すると一拍置いて、ルビーちゃんを狙っていた触手がバラバラに切り下ろされる。


「すごいルビーちゃん!」

「ダンジョンぶりに見たが、やっぱアイツすげえな」


 ゼルでさえ素直に誉めるルビーちゃんの華麗な刀捌きは、次々に襲い来る触手を舞うようにして切り伏せ、いよいよイカの魔物の真正面まで近づいた。

 イカの魔物も焦っているのか、ネクを捕まえている物を除いた全ての触手で一気に攻撃を仕掛ける。

 しかし、それも読んでいるという風にルビーちゃんが構えたその時。


「っ!?」


 突如真正面にあるイカの本体から、不意打ちでイカ墨のような液体が発射された。

 ルビーちゃんはそれをまともに喰らってしまい、慌てながら大きくイカの魔物から飛び退く。


「くっ・・・」

「ルビーちゃん! 大丈夫!?」

「目が・・・」

「目潰しか。イカの癖に意外と頭使いやがる」

「どうすんの・・・ってウソ!? 触手が!」


 イカの魔物はルビーちゃんが距離を取った隙を突き、今まで切り落とされた触手を生え変わるようにして修復していた。

 そしてそのまま視界を奪われたルビーちゃん目掛けて、一斉に触手を差し向ける。


「ルビーちゃん! 危ない!」

「っ!」


 ルビーちゃんの立っていた場所が、無数の触手で埋め尽くされる。

 海岸の砂が巻き上がるほどの衝撃が、その威力を物語っていた。


 激しい衝撃音があーしの鼓膜を揺らした後、一瞬の静寂が辺りを包み込む。

 そして。


「甘い」


 空気を斬ったような鋭い音が響いたかと思えば、目の前で塊のようになっていた触手がバラバラに崩れ落ちた。

 そしてその向こう側から姿を表すのは、全身をイカ墨で染めたルビーちゃん。


「私はこれでも元魔王軍。目が見えない程度、問題にならない」


 カッ、カッコいい・・・! 

 イカ墨まみれじゃなかったら完璧だった。


 ルビーちゃんは小刀についた血を払うと、そのまま一気にイカの魔物との距離を詰めた。

 一つを除いて全ての触手を切り落とされたイカの魔物は何もできず、残った最後の一本であるネクを捕まえていた触手も切り落とされる。

 するとネクもそのチャンスを逃すことなく、あーしの隣まで糸を伸ばし、それを引っ張るようにしてルビーちゃんと共に戻ってきた。


「ルビーちゃんナイスファイト! ネクもお疲れ!」

「はぁ・・・ンッ・・・もぉ、身体中ヌルヌルよぉ・・・」

「よし、撮っとけアカネ」

「いい加減怒るよあーし。おいでルビーちゃん、体拭いてあげる」


 あーしは濡らしたタオルでルビーちゃんに付いたイカ墨を拭き取りながら、もう一度イカの魔物を確認する。

 当然というか、触手の方は全て元通りになっていて、今もウネウネと触手を動かしている姿が。


「どうするアレ? きりがないよ」

「晩ごはんが増えるから、構わない」

「あれ食べる気だったんだ・・・」

「アタシとしては、このままやられっぱなしっていうのは気にくわないわねェ・・・」


 ヌルヌルの体のまま、静かに闘志を燃やして立ち上がるネクリア。拭いてあげるからちょっと待って。

 ていうか、色々と弱体化したネクはどうやって戦うつもりなんだろう?


「協力しなさい、ルビー、ゼル。アタシに考えがあるわぁ」

「どうするの?」

「言っておくが、俺は魔法は使えんぞ」

「ウッフフ、アタシの能力を忘れてないかしらぁ?」


 そう言うとネクはいきなり、ゼルの胸元に糸をくっつけた。


「おいテメェ、こりゃ何のマネ・・・おぉ?」

「アタシの糸は魔力の受け渡しができる。これなら魔力を回復できるでしょう?」

「あー、そういえばルビーちゃんが言ってたね」

「ルビーはその間、タイミングを計って触手を全て切り落としなさい。一本でも残っていれば、攻撃を邪魔される可能性があるわぁ」

「了解」


 ルビーちゃんは指示を受けると、すぐにハイドで姿を消す。


「おいクモ女。魔力を送るのはいいが、これっぽっちの魔力じゃ補助魔法しか使えんぞ」

「いいのよぉそれで。アナタは魔法で体を固くするだけでいいわぁ」

「それでどうするの?」

「アタシの糸で巻き付けて、そのまま投げつけるのよぉ」

「あァ!?」

「えぇっ!?」


 そう言うとネクは素早くゼルをす巻きにして、さらに追加で長めの糸をくくりつけた。


「ウッフフ。投ゼル器ってところかしらぁ」

「全然ウマくないから! ていうか何むちゃくちゃな事やろうとしてんの!」

「テメェクモ女! ふざけてんじゃねえぞコラァ!」

「アナタ今日だけで何回セクハラしたか覚えてる? 乙女の痛みくらい、体で払ってきなさいなぁ」

「あー、ならしょうがないね」

「・・・マジすか」


 あーしの手のひら返しで諦めたのか、真顔で補助魔法を唱え始めるゼル。

 ネクの言う通り、今日だけでメンバー全員にセクハラかましたんだし、これでチャラになるなら安いもんでしょ。


「準備OKよぉルビー!」


 ゼルへの魔力注入が終わり、ルビーちゃんに合図を送るネク。


「了解!」


 適当に触手の攻撃をかわしていたルビーちゃんは、合図を受けて一気に触手を切り落とし始めた。

 

「さぁてほら、言ってらっしゃいなァ!」


 ネクはカウボーイのように縛り上げたゼルを振り回すと、そのままイカの魔物へ向けて思いきり投げつける。


「ンンンンンンンンンンン!!」


 す巻き状態のゼルはなすがままに投げ飛ばされ、勢いそのままにイカの魔物の胴体に風穴を開けた。

 巨大な白い胴体が、黒い血飛沫をあげてよろめく。


「まだ終わりじゃないわよォ!」


 ネクは糸ごとゼルを引き戻し、今度はハンマー投げの要領でもう一度投げ飛ばす。意外とアグレッシブに動くなこの人。

 恐らく石どころか鉄球以上の固さになっているゼルをぶつけられ、さらに風穴を追加で開けられるイカの魔物。

 流れ出した血が海の一部を黒く染め上げ、心なしか動きも弱々しくなっているように見える。


「これで、トドメよォ!」


 最後の締めとして脳天からゼルを降り下ろしたネク。

 あまりに勢いが付きすぎたのか、イカの魔物は体ごと海に沈められ、そのまま出てこなくなった。


「ふぅ・・・いい汗かいたわぁ」

「ちょっ、ゼルは大丈夫なの?」

「隕石になってアタシに突っ込んできたのよぉ? これくらいどうって事ないでしょう」

「・・・ネクが言うと説得力あるね」


 ネクは釣糸を戻すようにしてゼルを引き上げ、す巻きで動けないのをいいことに、鷲掴みにして持ち上げる。


「ちょっと、これ以上はダメだからね」

「分かってるわよぉ。ご苦労様ゼルちゃん。ご褒美に今日はアタシがご飯でも食べさせてあげましょうかぁ?」


 ニタニタとイヤミたっぷりな笑顔を浮かべて語りかけるネク。この二人は仲良いのか悪いのか分かんないな。


「・・・・・・う」

「う?」

「ウォエエエエエエエエエエエ!!!」

「イィヤアアアアアアアアアア!!?」


 思いきりぶん回されたせいか、開口一番ネクに向かってリバースしてしまったゼル。・・・まさか狙った訳じゃないと思うけど。

 四人メンバー初戦闘がこれかぁ。先が思いやられる・・・。


 なんて考えていると。


「え?」

「あ?」

「っ!」

「なっ!」


 突然海から伸びてきた触手に、あーしたち全員が絡め取られてしまった。


「ちょっ、ウソでしょ!?」

「またなのぉ!?」


 さっきにネクリアが沈めたはずのイカの魔物が、傷はそのままにもう一度海の中から姿を表した。


「触手といいどんだけしぶといのアイツ!?」

「ギルドのメニューでも、たまに動いているのが居た」

「それ関係あるの!? ・・・んぁっ、ちょっ」


 ヌルヌルの触手が、あーしの体を這い回る。

 妙にひんやりとした感触がたまらなく気持ち悪い。


「どうしようコレ!? 全員捕まっちゃってるよ!?」

「クッソ・・・この状況に男は不要だろ! シャッターチャンスだってのに・・・!」

「アンタまだ懲りて無いわけ!?」

「・・・食べればなんとか」

「生はダメだからルビーちゃん!」


 てかツッコんでる場合じゃないし! この状況をどうにかしないと・・・!

 あーしは触手に弄ばれながら辺りを見回すも、いるのは鼻の下が延びた男の一般人が数人ほど。てか見てないで助けてよマジで!


「っ!? えっ、ちょっと! 待って待って!?」


 イカの魔物は何を思ったか、触手を水着の紐部分に引っかけ思いきり引っ張り出した。当然、このままいけばあーしがポロる羽目になる。


「ちょっ、ウソ!? ヤダヤダ! 誰か助けて!!」


 半泣きで助けを求めても、パーティメンバーはもちろん、地上にいるのはスケベだけ。

 そしていよいよ、水着の紐から嫌な音が聞こえ始めた。


 もうお嫁に行けないっ・・・!



 そうして諦めかけたその時、海の方から複数の風切り音が聞こえてきた。

 何事かと確認する間もなく、イカの触手は根本から撃ち抜かれ、解放されたあーしたちはそのまま海へと落下していく。


「・・・プハッ! 何が起きたの?」

「あそこ、海の方」


 ルビーちゃんの指差した先には、デカイ帆を掲げた大きな船。

 そしてその船の先で弓を構える、ケルンの姿が。


「ケルン!」

「ご迷惑をおかけしました。あとは私たちが」


 ケルンは残った触手も全て撃ち抜くだけに留まらず、目や口と容赦なくイカの魔物へ向けて矢の嵐を叩き込む。


「あの距離から全弾命中かよ、やべえな」

「魔王軍の警戒は間違いなかったわねぇ」


 ゼルとネクが絶賛しているのを聞いて、あんまりその辺に詳しくないあーしでもケルンのすごさが伝わってくる。

 この前はアセムばっかり持ち上げられてたけど、そりゃその相棒やってるケルンもすごくて当たり前だよね。


「あとはお願いします、アセム!」

「おうよ!」


 ケルンの要請に答えるように、船の後ろから助走をつけてアセムが飛び出してきた。


「俺のダチに手ぇ出すたぁいい度胸だ! 一発かましてやるぜ!」


 アセムの体を補助魔法の白い光が包み込み、更に構えた右手が強く発光し始める。


「『スマァアアアアアアッシュ』!!!」


 掛け声と共に繰り出されたアセムの一撃は、イカの魔物の上半身ごと吹き飛ばした。

 さすがのイカの魔物も、黒い血を吹き出しながらようやく動きを止める。

 す、すごい・・・! さすがアルフィノエ一の有名冒険者。






「悪かったなぁ、俺たちの不手際で迷惑かけちまってよ」

「いやいやそんな、あーしたちこそ助けてもらったし」

「いいえ。本来はこういう事態を未然に防ぐのが私たちの仕事。今度埋め合わせさせて下さい」

「んなこと言ってると、また尻尾触らせてくれって言い出すぜ」

「!?」

「言わないから! ケルンも隠さなくていいし!」


 アセムたちに助けられたあーしたちは、一旦体を洗ってから海の家で休憩を取っていた。

 ちなみに、あのイカの魔物はギルドへと送られることになるらしい。・・・自分の体に絡み付いたイカは食べたくないなぁ。

 

「それより、今日みたいなことは結構あるの?」

「いや、言い訳にはしたくねえが、ここ最近海の魔物が増えてきてるんだ。海もよくシケやがるし、海神様の機嫌が悪いのかもしんねぇ」

「祈祷師どもが祈ってるんじゃねえのか?」

「その上での状況です。今回の事を考えると、そろそろ応援を呼んだ方がいいかも・・・」

 

 そう言って深刻な表情で考え込むアセムとケルン。

 そんな二人の様子を見て、ゼルがネクに小声で尋問を始めた。


「オイ、また魔王軍がいらん事してるんじゃねえだろうな」

「しっ、知らないわよぉそんなの。アタシがやってたのはイセリア農園のライバル業者と手を組んで、大地の魔力を吸ったりロケットボアを送り込んだりしただけ。濡れ衣よぉ」

「いや聞き捨てならないんだけどその話」

「グラビアの種類増やすか・・・」

「いや、待って! ごめんなさい! というか今回の事は本当に知らないのよぉ!」


 半泣きですがり付いてくるネク。農園の事は今度みっちり聞き出すとしよう。


「あの、もし良かったら、魔物漁を手伝ってもらえませんか?」


 ケルンが恐る恐るといった様子で聞いてきた。

 助けてもらった恩があるし、答えなんて決まってる。


「あーしはもちろんいいよ! ・・・っていってもあーしは役に立たないんだけど」

「俺様も構わんぞ。そろそろ暴れたくてウズウズしてた頃だしな!」

「美味しい魚が獲れるなら」

「アタシは遠慮して・・・」

「なに言ってんだ糸要員。お前がいなきゃ始まんねえだろ」

「糸要員ってなに!?」

「グラビア増やされたくなかったら、黙ってついてこい」

「ハイ」

「ありがとうございます、皆さん!」

「助かるぜ! よし! それじゃあ晩飯ついでに、魔物漁について色々教えてやるよ!」


 流れで明日の予定が決まったあーしたちは、着替えを済ませてギルドへと戻ることになった。

 ・・・今夜はイカの料理は食べないようにしておこう。

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