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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
28/117

1話

 ギルドの受付で街の地図とおすすめの宿を教えてもらったあーしたちは、少し遅めの昼食をとるために酒場へとやってきていた。

 酒場の基本的なメニューはラクティスと一緒だけど、海が近いからなのか海産物のメニューが多い。

 お手頃な海鮮丼からちょっと贅沢なエビやカニ、さらには聞いたこともない食べ物までずらり。

 ギルドの規模に比例して酒場のスペースもかなり大きく、仰々しい彫刻や生け簀まで用意してあるのもあって、ちょっとしたホテルのような雰囲気すら感じられる。


 まぁ、肝心の冒険者は相変わらずのどんちゃん騒ぎなんだけど。あーしたちを中心に。


「初めましてだなアカネちゃん。次はどこへ冒険に行くんだ?」

「アッハハ、それを決めようと思ってるんだけど・・・」

「やべぇよ・・・生のルビーちゃんすげぇ可愛いんだけど。握手とか大丈夫かな?」

「バカヤロお前、俺たちみてえなもんが触っていい訳ねえだろ!」

「っ・・・」

「ウッハ! すごいカッコしてますねお姉さん!」

「ウフフ、アタシの体が気になるのぉ?」


 このように、酒場のテーブル席に着いた瞬間ギルド中の冒険者に囲まれ、注文も出来ないまま絡まれまくっているあーしたち。

 インスタのおかげで知名度が上がったのが原因だろうけど、まさかお忍び有名人が見つかったような状況になるとは予想外だった。


「ハッハッハ! 人気者は辛えなぁ、アカネよぉ?」

「嬉しいけど、これはこれで考え物かもね・・・ラクティスの頃と比べ物になんないもん」

「あの! 良かったら俺をパーティに・・・」

「あっ、テメ抜け駆けすんじゃねえよ! こいつより俺を!」

「いやいや俺を!」


 おぉ・・・。

 ラクティスの頃は見向きもされなかったネタパーティのあーしたちが、まさかこんなことに。

 ・・・とは言っても、透けて見える下心がまた別の悲しみを誘うんだけど。


「おうおう落ち着けお前ら。大人気の俺様に惹かれる気持ちは分かるが、生憎と定員・・・」

「バカ野郎てめえら落ち着け! 女性オンリーのパーティに男は不純物でしかねえだろうが!」

「たっ、確かに・・・!」

「俺たちが間違ってました! すいません!」

「男磨いて出直してきます!」

「よっしテメェら表出ろ。全員ブッ殺してやる!」


 天狗鼻から一転、鬼ような顔に変貌したゼルは、男の冒険者たちを引き連れてギルドの外へと向かって行く。

 騙されてはいけない。ゼルが可愛いのは見た目だけだ。見た目だけ。

 それも最近は忘れかけてたけど。


「・・・ねぇどうする? これじゃお昼ご飯食べられないよ」

「私はもう限界」

「大丈夫、アタシに任せて。ンッ・・・はぁ、アタシのどが渇いちゃったわぁ」

「あっ! 自分注文してきますね!」

「あらぁ、ありがとぉ」


 わざとらしいネクの呟きを聞いた男の冒険者が、バーカウンターへ向かって走る。


「ちょっ、ネク? 何してんの?」

「何もしてないわよぉ。親切な冒険者さんが気を利かせてくれただけじゃなぁい」

「あんたねぇ・・・」

「お待たせしました!」

「ウッフフ、いい子ねぇ。ありがとぉ」

「うへっ、うっへっへ。 これくらいお安い御用ですよ」


 冒険者の下あごを猫のように撫でながら、あーしにウインクしてくるネク。悪い女だなぁ・・・。


「わ、私も、お腹が」

「ダメだよルビーちゃん! ルビーちゃんはあんな悪い大人になっちゃダメだからね!」

「ふつう本人の前で言うかしらぁ」

「で、でも・・・お腹が」


 半泣きであーしにすがりつくルビーちゃんを見た男の冒険者たちは、何も言わずにそれぞれがバーカウンターへ向けてダッシュしていく。・・・あぁ、どうしてこんなことに。


「安心しなさいなルビー。もうそろそろ、今日の収穫を持って彼が帰ってくるはずよぉ。多少お腹を空かせてる方が楽しめるでしょうしねぇ」

「! それなら我慢する」

「えっ、なんなのそれ?」

「ウフフ、見てのお楽しみよぉ」


 思わせぶりなネクの言葉に続いて、ギルドの大扉が勢いよく開かれる。

 そして中に入ってきたのは、傷跡だらけの上半身に上着をマントのように羽織った、いかにも気合入ってますという雰囲気のいかつい男。・・・と肩を組んで笑い合っているゼル。

 ・・・どういうこと?


「そうかお前がゼルだったのか! お前の気合の入った戦い方、モンクを名乗る身としては滾るものがあったぜ!」

「そうだろそうだろ!? やっぱ男なら、派手に戦ってなんぼだよなぁ!」


 もう長年の大親友みたいな雰囲気で語り合う二人。ゼルと知り合いなのかな?


「紹介するぜ、こいつらが俺のパーティだ」

「あっどうも、赤羽茜です」

「ルビーです」

「ネクよぉ」

「こいつはご丁寧にどうも! 俺はアセム! よろしくな!」

「えっと、二人は知り合いなの?」

「「いや、今日が初対面だ」」

「ウソでしょ!?」


 セリフまで息ぴったりで合わせといて!?


「さっきまで外でケンカしてたら、いきなりコイツが乱入してきてな」

「ここ最近海がシケてやがるからよぉ。欲求不満だったところに祭りと来たもんだ、参加しない訳にはいかねぇよなぁ」

「それでボコボコに殴り合って」

「今に至る」

「あっそう・・・」

 

 なんかゼルが二人いるみたい。一人でもうお腹いっぱいなんですけど・・・。

 ていうかつくづく、男って生き物は意味不明だなぁ・・・。


「あの、それで、今日の収穫は?」


 呆れるあーしとは対照的に、鼻息荒くアセムさんに質問するルビーちゃん。

 そういえばいきなりの事で忘れてたけど、なんかネクが思わせぶりなこと言ってたんだっけ。


「おう! ここ最近で一番の大物だ! 見てみろよ!」


 アセムさんの言葉を待っていたかのようにして、ギルドの中に荷台が運び込まれてくる。

 その上に乗っているのは、テレビでしか見た事ないような超デカイ魚。


「おおおおお!? 何アレ!? アセムさんが釣ってきたの!?」

「アセムでいいぜアカネちゃん。その通り、今日の魔物漁で仕留めた獲物だ! 野郎ども、今夜の宴会を楽しみにしとけェ!」


 アセムの言葉を聞いてワッと盛り上がるギルド内とルビーちゃん。ここまでテンション上がってるのは初めて見たかも。魚と一緒に撮っとこ。


「あっ、そういえば聞きそびれてたけど、魔物漁ってなんなの?」

「名前通り、海の魔物を仕留める仕事だ。海開きシーズンの海岸に魔物が近寄らねえようにするって側面もあるが、どっちかっつーと大物釣りあげて一攫千金を狙うって認識が一般的だな」

「そんなに儲かるの?」

「おうよ! シーズン中に参加するだけでも、その年はもう働かなくていい位には稼げるぜ!」

「マジで!?」

「漁とは言っても魔物退治だしねぇ。観光業とも関わってくるから、国やギルドがそれなりのお金を出しているのよぉ」

「へぇー、けっこう詳しいねネク」

「ウフフ、アタシもこの街には長い間いたからぁ」


 あぁそっか。ネクは元々魔王軍の幹部だったから、そういう実力者の集まる物事には詳しいのかもしれない。


「魔物退治ってことは、アセムも冒険者なの?」

「おうよ! 戦士とプリーストがそれぞれレベル5。この街ではモンクの称号で通ってる!」

「アルフィノエのモンクとケンカできるたぁ、今日はうまい酒が飲めそうだな!」

「ねぇ、称号って何?」


 二人して盛り上がり始めているので、ノリについて行けない女グループで会話を始める。


「二つ以上のクラスを修めた冒険者は、個人の二つ名としてギルドから称号を送られることがある」

「彼はプリーストの魔法で肉体を強化しつつ、戦士として前衛で戦う冒険者。アルフィノエのモンク アセムの名は、魔王軍でも警戒対象の一人に挙がっていたわぁ」

「へぇー、けっこう有名人なんだね」

「アナタが言うと嫌味に聞こえるわよぉ」

「そんなつもりじゃないし」


 ていうかあーしの場合はこれしかできないから、むしろ名が広まってないとその時点で存在価値が無くなってしまう。

 なので、目の前でヤンチャ学生のようにじゃれ合う二人を撮影しようとスマホを構えると、二人の後ろでピョコピョコと動くキツネ耳がフレームに映り込んだ。

 そのキツネ耳の持ち主は、アルフィノエのモンクとして名が広まっているアセムの後頭部を、それはもう良い音を立ててシバき倒す。


「痛ぃってぇえええええ!? 何すんだケルンいきなり!?」

「いきなりじゃないですよ! 私達に手続き押し付けてケンカしてたと思ったら、こんな所で油売って! 勝手な行動も大概にしてください!」


 ぷんぷんと怒るキツネ耳の女の子は、当然のように生えているキツネの尻尾を逆立ててアセムに詰め寄る。

 なんか不良を叱る委員長みたいな構図に見えなくもない。これは伸びそうとパシャリ。


「っ! 何ですか?」

「あっ、いきなりごめん。すごく仲良さそうだったからつい」

「なっ、仲が良いわけでは・・・!」


 許可なしに写真を撮っちゃたあーしの苦し紛れの良い訳に、顔中を真っ赤にして尻尾をぶんぶんとふる彼女。分っかりやすいなぁこの子。

 

「紹介が遅れたな。こいつはケルン。キツネの獣人で、俺の相棒だ」

「ケルンです。よろしくお願いします。アセムが御迷惑をおかけしませんでしたか?」

「いやいや、こちらこそウチのゼルが」

「男のケンカだ! 気にする必要なんざねえよ」

「さすがゼル! 話が分かるじゃねえか!」

「アンタは黙ってて」

「あなたは黙ってて下さい」

「「はい」」


 何から何までセリフが被り、あーしとケルンさんは見つめ合った後にお互い噴き出す。なんか仲良くなれそう。


「インスタグラマーのアカネさんですね。お噂は耳に、というよりは見てますよ。あの記事も」

「ありがとー! それとアカネでいいし、敬語もいらないよ」

「じゃあ私もケルンと。何か分からない事があれば、いつでも相談して下さい」


 そう言ってニコっと笑い、手を差し出してくるケルン。

 おぉ、おお! 久々の常識人ポジション! なんでこんな感動してるのあーし!?


 一拍遅れてあーしはケルンの手を握り、固い握手を交わす。

 ・・・いい人だし、ちょっと聞いてみようかな。


「あの、一つ、いいかな?」

「ええ。私に出来る事なら」

「じゃあその、耳と尻尾、触ってもいい?」

「えっ!?」


 ケルンはなぜか驚いた様子であーしから飛び退き、アセムの後ろに身を隠す。

 ・・・あれ、あーしなんか変な事言った?


「えっと、あーし変な事言ったかな?」

「アカネちゃん、いきなりあれはないわぁ」

「えっ、何で?」

「なぁアカネ、ちょっと乳触らしてくれよ」

「え、ちょっといきなり何? キモイんですけど」

「・・・お前が言ったのはそういう事だ」

「・・・あぁー、ごめん。そういう事ね」


 そりゃあんな反応になるわ。うん。


「第一、初対面の奴に体触らせてくれって、ド変態じゃあるめぇしよぉ」

「ちょっ、違うから! ほんとあーし知らなかったんだってば!」

「アカネちゃんもああ言ってるし、許してあげてくれないかしらぁ。根はいい子なのよぉ」

「・・・大丈夫です。記事で人柄は知ってるつもりでしたし」


 そうは言いつつもアセムの後ろから微動だにしないケルン。

 ヤバイ、完全に変態認定されちゃったかもあーし。


「アカネさん。触りたいなら私が変身するから」

「えっ、いいの? ・・・じゃなくて! この状況だと余計誤解されるから! 尻尾も生やさなくていいから!」

「ハッハッハ! 面白い奴が揃ってんじゃねえかゼル!」

「だろ? おかげで退屈せずに済むんだ」

「今夜は宴会だ! ケルンもアカネちゃんも、飲んで忘れて仲良くやろうや!」

「だから違うんだってばー!」


 もう完全にあーしを変態認定する空気になってしまったギルド内。

 おかしくない? こういう役回りってゼルとかじゃないの?


 あーしは半泣きになりながら、異世界の常識を早めに身に着けることを固く誓った。

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