プロローグ
冒険者。
ファンタジーなんかでよくある、世界を冒険しながら魔物と戦って、最後には世界を救っちゃったりする人たち。
インスタ好きのただのJKでしかなかったあーし、赤羽茜も色々あって冒険者になり、個性豊かなパーティメンバーに囲まれて、こうして異世界を冒険している。
一人は、最強を証明するために打倒魔王を掲げる妖精 ゼル。
一人は、元魔王軍のスパイで、今やSNSのアイドルとなったドッペルゲンガー ルビー。
一人は、セクハラの末に魔王軍幹部を辞職したアラクネ ネク。
・・・世界中探してもあーしたちだけだと思う。こんなパーティ。
「見えてきた」
御者席から短く発したルビーちゃんの言葉を聞いて、あーしは荷台から身を乗り出す様に前を見た。
山道の脇に生える木々で見えなかった外の景色が、馬車が進むにつれて鮮明になる。
見下ろすような景色の先にある中央都の姿は、想像の何倍も大きくて、あーしの胸を高鳴らせた。
「うわぁあああ! すごい! でっかい! なんて名前だっけ、ゼル?」
「アルフィノエだ。中央都アルフィノエ」
「ラクティスを出た冒険者の多くは、あの街を拠点にすることが多い」
「アタシはついこの間までいたんだけどねぇ」
山道を進むごとに表情を変える景色をバンバン撮っていると、アルフィノエから少し東へ進んだ先に青い海が広がっていることに気づいた。
「海! 海あるじゃんあそこ!」
「子供かお前は。ちょっと落ち着け」
「いやいや、だって海だよ? これでテンション上がらない方がおかしいでしょ!」
「お、おう・・・」
「そういえば、ちょうど海開きの季節じゃなかったかしらぁ? アタシがいた頃にはもう水着が売ってたのを覚えてるわよぉ」
「イイジャン! みんなで泳ぎに行こーよ!」
「賛成」
「ウフフ。アタシも構わないわよぉ」
「お前ら・・・」
呆れた様子であーしたちを見回すゼル。
まぁゼルは戦って名を広めるのがメインだし、こういう反応にもなるよね。
「まーまーゼル、たまにはこうやって羽を伸ばすのも大事だって。ずっと戦いばっかじゃあーしの心臓もたないし」
「・・・それもそうだな。しゃーねえ、今回はクモ女の水着写真で我慢するぜ」
「いきなり何を言い出すのかしらぁ!?」
「ラクティスの復興費と冒険者資金のためだ。黙って脱げ」
「言い方!」
そんな風にギャースカと騒ぎながらアルフィノエへと向かっていくあーしたち。
今まで泥臭く冒険者生活をやってきた分、異世界のきれいな海を思う存分堪能させてもらおっと!
なんて心躍らせてから数時間後。
あーしたちはアルフィノエの入り口前で思いっきり足止めを喰らっていた。
「はいすいませーん、顔見せてくださーい。・・・はいオッケーでーす。次の方どうぞー」
アルフィノエの入り口である大きな門の前では、指名手配中のネクリアを対象にした検問が、それはもう大々的に執り行われていた。
「・・・なんでこんな当たり前の事に気づけなかったんだろうね」
「・・・私はいつも変身してたから、つい」
「つーかテメェ言えよクモ女。テメーのことだろうがよ」
「アタシはいつも裏口から出入りしてたものぉ。そもそもこうして正門から入ること自体初めてなのよねぇ」
「なんでちょっと楽しそうにしてんの・・・」
このパーティの常識人率低すぎない? あーしが言うのもなんだけどさ。
「心配しなくても大丈夫よぉ。アタシが付けてるこのマスク、認識を阻害する効果があるのぉ」
「えっ、なにその便利グッズ」
「マジックアイテムだったのかよそれ」
「何なのそのマジックアイテムって?」
「魔法的な効果を持ったアイテムの事。マスクみたいに着用する物もあれば、武器や鎧のような物まである」
「へー、高そー」
「もうちょっと他に感想はないのかしらぁ・・・?」
ネクの付けているアラビアンなマスク越しからでも、引きつった表情を浮かべているのが分かる。
アパレルの頃からずっと付けてたそのマスクにそんな効果があったなんて・・・あー、だからあんなに堂々とお店構えられたのかぁ。納得。
「それで? 本当に信用していいんだよねそのマスク」
「このアタシを誰だと思ってるのかしらぁ? 魔王軍の元幹部であるアタシが作ったアイテムが、そこらの凡百な兵士共を欺けない訳ないでしょう?」
「えっ、それもオーダーメイドなの!?」
「その通りよぉ」
ここぞとばかりにドヤ顔をかましてくるネク。マスク越しでも透けて見えるようなドヤっぷりにめっちゃイラっとくる。
「じゃあもしかして、他にもそんな便利グッズ作れたりするの?」
「ウッフフ、もちろんよぉ。・・・と言いたいけど、魔王様の加護が無くなった今のアタシじゃ無理ね」
「肝心な時に役に立たねえなテメェ」
「うるさい」
「ハイオッケーでーす。じゃあ次お願いしまーす」
グダグダやっている間にも順番は進み、ついにあーしたちの順番が回ってきた。
言われた通りに顔を出すと、検問所の兵士たちは手に持った例のグラビア手配書と交互に見比べ始める。・・・こういう時くらいは真面目な手配書使おうよ。
なんて心の中ではツッコんでいるものの、あーしの心臓はバクバクだった。
ネクは心配ないって言ってたけど、そういう時に限ってあーしたちのパーティは大概トラブルに巻き込まれる。
今回はそうならない保証なんてどこにも無いのだ。特にこの世知辛い異世界は特に。
「ハイオッケーでーす。次の方お願いしまーす」
御者席のルビーちゃんからあーし、ゼル、とチェックが終わり、ついにネクの番が回ってきた。
澄ました顔の本人に比べて滝のように汗を流すあーしは、固唾を飲んでネクを見守る。
「あ、マスクは取って下さいねー」
終わった。
ネクは澄まし顔から一転、あーしと同じように滝のような汗を流し始める。
ていうかこれも考えなくても分かることだし、なんか全体的にIQ低いなあーしたち・・・って言ってる場合じゃないし!
あーしは焦りながらゼルの隣に移動して、周りに聞こえないような音量で緊急作戦会議を始める。
「どっ、どうしようゼル!?」
「・・・ここまでか、懸賞金引換券」
「諦め早ッ!?」
なんていつも通りのしょうもない漫才を繰り広げている間に、ネクは観念したのかついにマスクを取り外した。
改めてしっかりと見たネクの顔はとても整っていて、マスクで隠しているのがもったいないくらいの美貌だった。自画自賛するのも分からなくはない・・・分からなくはないんだけど、その顎をしゃくれさせるのは意味が分からない。なんだろう、本人なりの変装のつもりなんだろうか。あんた魔王軍幹部だったんだよね?
元々の手配書まんまのビジュアルに加えて、意味不明な悪あがきをしたために余計に怪しまれたネクは、あーしたちよりも入念にチェックが行われた。
そして。
「ハイオッケーでーす。そのままお進みくださーい」
「「「「えっ」」」」
それはもう見事に四人の声がハモった瞬間だった。
「あの、すみません。ほんとにいいんですか・・・?」
「おまっ!? 余計なこと言うなよアカネ!」
「いやだって気になるじゃん!」
「あー、ハイ。大丈夫ですよ。でもなるべくこういうコスプレは控えて頂けると助かります」
「・・・コスプレ?」
どういうこと? てかこの世界にもコスプレの文化とかあるの?
「実はこの手配書が出回って以来、それに便乗した客引きが増えてるんですよ」
「・・・・・・」
唖然とした表情で固まるネク。・・・まぁそんな顔になるよね。
「とはいっても、この手配書レベルの美人なら一発で分かりますし、大して問題は無いんですけどね」
「・・・アナタたちの目は節穴なnモゴッ!?」
「そっ、そうですか! わかりました、ありがとうですー!」
「っ~~~!」
暴れ狂うネクの口と体を必死で押さえつけ、ルビーちゃんに馬車を動かしてもらう。
ラクティス復興といい今回といい、あのグラビアにはめちゃくちゃ助けられてるなあーしたち。本人からしたらたまったもんじゃ無いだろうけど。
「ハァッ・・・ハァッ・・・納得いかないわぁ」
「確かに、あそこまでガン見されて別人判定たぁ、あの兵士目ェ見えてんのか?」
「あー、いや、あれはたぶんあーしに原因があると思う」
SNSやってた人なら誰でも知ってると思うけど、人にはそれぞれベストな『角度』がある。
これを意識するだけで、マジで別人ってレベルに写真写りが変わるのだ。言ってみれば、インスタグラマーのスキルみたいなもの。
今回の件も、たぶんこれが原因だと思う。
「はぁー、角度ねぇ。お前さんそんなとこにまで頭回してんのか」
「回すっていうか、体に染みついてるって感じかな」
「とにかく、これで一安心。検問さえ抜ければマスクをつけても問題ない」
「だね」
「・・・納得いかないわぁ」
一悶着ありつつも無事にアルフィノエに到着したあーしたちは、馬車を預けた後ひとまずこの街のギルドへ向かうことになった。
あーしはすっかり忘れてたけど、ギルドはクエストと酒場だけの施設じゃなくて、街の案内や職業斡旋もしている、いわば役所みたいなところ。
新しい街に来た時は、とりあえずギルドに顔を出しておくのが冒険者のセオリーとはゼルの談。これには納得かも。
アルフィノエのギルドは中央都らしく街の中央にあり、ラクティスと比べてさらに規模が大きいだけじゃなく、街のどこにいても一目で分かるくらいの大きな灯台のようなものが建っていた。海が近いからかな?
「ねー、あの灯台みたいなのって登れるの?」
「あそこはギルド職員以外は立ち入り禁止のはずよぉ。海の天候や魔物漁の確認に使うみたいねぇ」
「何その魔物漁って。すっごい物騒な感じなんだけど」
「アルフィノエの名物の一つ」
「詳しいことは職員に聞け。そら行くぞ!」
ゼルはさっさと会話を切り上げて、ギルドの大扉を勢いよく開いた。
中に居た冒険者から一斉に向けられた視線を受けて、この世界に始めてきた頃の事を思い出す。
なんかもう懐かしく感じる。時間の流れって早いなぁ。
なんて一人ノスタルジーに浸りながら、あーしたちはギルドの受付へと足を運んでいった。




