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異世界インスタ  作者: 五寸
第1章 異世界インスタグラマー爆誕
25/117

22話 後半

 不意に聞こえてきた女の笑い声に、その場の時が止まったような錯覚を覚える。

 ・・・嘘でしょ?


 その声は間違いなく、ゼルの下で横たわるネクリアから発せられたものだった。


「・・・お見事よぉ、ゼルちゃん。」

「・・・テメェ、まだ意識があったのか」

「魔王軍幹部だもの。・・・アタシがこのまま黙ってやられるわけないでしょう?」


 さっきまでの怒りも、焦りもなく、異様に冷静かつ低い声で喋るネクリア。

 洒落にならないレベルの嫌な予感を感じたあーしは、冷や汗をかきながら辺りを見回す。

 今回くらいは外れてほしいなんてささやかな願いは、次に聞こえてきた兵士たちの言葉で粉々に砕け散った。


「申し上げます! 街の外からゴブリンとブラッドグリズリー、さらにクレイマンが接近! 数は測定不能! どんどんと地中から生えてなおも増殖中!」

「なにッ!?」

「どういうことだよ!?」

「街の出入り口は封鎖されてたんじゃなかったのか!?」

「それが・・・」


 兵士たちが事情を説明する間もなく、報告通りの魔物の群れが四方八方から押し寄せてきた。


「オイオイ嘘だろ・・・全員構えろ!」

「何だよあの数・・・どこに隠れてたってんだ」


 戸惑いながらも魔物たちと応戦する冒険者たち。

 止めを刺された魔物は、いつか見たゴブリンと同じように土となって崩れ落ちていく。・・・まさかこいつらって!?


「ウッフフフ・・・アッハハハハハハハハハハハ!」


 地面に横たわりながら、今度は狂ったように高笑いを上げ始めたネクリア。

 その顔面を踏みつけ、ゼルが若干焦った様子で問い詰める。


「オイ! このふざけた状況はテメェの仕業か!」

「その通りよぉ。あの魔物たちは全てクレイマンが取り込んでコピーした姿。取り込んだ生物の数が増えるほど、コピーのクオリティが増すアタシの自信作なのぉ」


 ニタニタと笑いながら説明するネクリアの顔をより強く踏みつけ、ゼルは顔を近づけて脅迫する。


「聞いてねえんだよんなこたァ・・・! 今すぐ止めろ、ここで死にたくなかったらな」

「アッハハハハ! 止めるわけないじゃなぁい。万が一アタシが倒されることがあれば、その驚異ごと道連れにする。そういう筋書きよぉ」


 そう言ってネクリアは薄ら笑いを浮かべ、気味の悪い囁くような笑い声を出し続ける。

 ヒステリーとは違った、全てを投げ出したように考える事を止めたその姿に、あーしは心の底から恐怖を覚えた。

 これが、魔王軍幹部の最期。


「どどどっ、どうしようゼル!?」

「落ち着け! どうせ土くれ共だ、俺様の敵じゃねえッ!」


 勢いそのままに、ゼルは右手に炎の腕を作り出す。

 しかし、魔力の尽きていたゼルはそれを維持する事が出来ず、ただ小さい腕を空振りするだけに終わった。


「クソッ!」

「二人は下がってて!」


 前に飛び出したルビーちゃんが、腕を巨大化させて魔物たちを薙ぎ払う。いきなりでびっくりしたけど、たぶんあれもドッペルゲンガーの能力なんだろう。

 そんなルビーちゃんとは対照的に、土で出来ている魔物たちは呆気なく崩れ落ちていく。


「ナイスルビーちゃん! これなら!」

「・・・」


 浮かれるあーしに対して、ルビーちゃんの表情は険しい。


「どうしたの?」

「・・・周りをよく見て」

「よく見てって・・・ッ!?」


 ルビーちゃんに促されて周りを見てみれば、魔物たちが次々に押し掛けてきている光景が目に入った。

 質より量とでも言うつもりか、今も増え続ける魔物たちは、すでに辺り一帯を埋め尽くすほどの数になっている。


「キリがない・・・」

「ゾンビ映画じゃないんだからさぁ・・・」


 見れば他の冒険者たちも、ネクリアとの戦いで全力を出したために体力がほとんど残っておらず、中には直接殴りかかるレンジャーや魔法使いたちの姿も。

 そしてその誰もが、諦めの表情を浮かべ始めていた。


「クソッ! 何かないか・・・何か打開策は・・・!」

「・・・このままじゃ、もう」


 いよいよ魔物たちの波に飲み込まれ始めるあーしたち。

 何も解決策が思い付かなくなったあーしは、みっともなく助けを求めることしかできなくなった。


「だっ、誰かぁあああああああ!」






「せいやあああああああああああ!」


 あーしたちを取り囲む魔物たちの一角が、宙を舞って飛んでいく。

 聞き覚えのあるかわいい声の方へ目を向けると。


「っ! ミュールちゃん!」

「アカネさん! 妖精さん! 助けに来ました!」


 ミュールちゃんは拳をぎゅっと握り、綺麗な水色のポニーテールを揺らして微笑む。


「オラオラオラ! 俺の事も忘れてもらっちゃ困るぜえええええ!」


 突然現れたミュールちゃんに驚いていると、更に奥から野太い叫び声と共に、ガタイの良い農家のおじさんが魔物を蹴散らして近づいてくる。


「ジョージの旦那!」

「ナイスファイトだゼル! よく頑張ったな! 後は俺たちに任せとけ!」

「大丈夫みんな? 怪我はない?」

「エリンさん!」


 ジョージさんの後ろからひょっこり現れたエリンさんが、すっぽんぽんのゼルに布をかけつつ、治療に取り掛かる。


「みんな、どうしてここに?」

「アカネさんの記事ですよ!」

「えっ、あーしの?」

「はい! 街での戦いをアカネさんがずっと記事にしてましたから。遅くなりましたけど、助けに来ました!」

「前に助けてもらいましたからね。ここで動かないと神様に顔向けできません」

「それに、助けに来たのは俺たちだけじゃないぜ!」


 そう言ってジョージさんが指さした方向から、すごい数の冒険者たちが大声を上げてやってくる。


「助けに来たぞおおお! アカネちゃあああん!」

「うそっ、ルビーちゃん!? 本物!? 握手してー!」

「ゼルちゃんカワイー! こっち向いてー!」

「アンタらの記事を楽しみにしてんだ。ここで死なれちゃ困るぜ!」


 追い越しざまにそれぞれ声をかけてくれた冒険者たちは、まるで津波のような勢いで魔物たちを蹴散らし飲み込んでいく。


「・・・まさかあの人たち、全員あーしのフォロワーってこと・・・?」

「その通りです! それに中央都だけじゃなく、王都を始め色んな街の人たちが、記事を見てやってきたと!」


 自分の事のように笑うミュールちゃんが、小さくガッツポーズを取りながら説明してくれる。


「・・・ハッ。まさか最後の最後で、アカネのインスタに助けられるとはなぁ」

「うん。すごいよ、アカネさん」

「そっ、そうかな・・・? えへへ」

「まぁ比率で言えばルビーファンのが多いだろうけどな」

「どうせなら最後まで持ち上げてよ!」


 なんて、くだらない漫才が出来るくらいには余裕が戻ってきた。

 助かったんだ、あーしたち。


「こんなの・・・嘘よぉ・・・」


 そんなあーしたちとは対照的に、呆然とした様子のネクリア。


「魔王軍幹部のアタシが・・・こんな奴らに・・・」

「違う。それがあなたの弱さ」

「・・・何ですって?」


 睨みつけるネクリアに怯むことなく、ルビーちゃんは続ける。


「あなたは常に支配者だったが故に、思い通りに事が進まないとすぐに冷静さを欠く。どんな状況でも諦めず、地べたを這いつくばってでも生きようとする根性が、アナタには無い。その違いが、今回の結果に繋がった」

「ッ! ふざけッ!」

「ンンッ!」


 またヒステリーを起こしかけたネクリアの鼻に、勢いをつけたゼルの頭突きが飛んでくる。

 鼻血を噴き出したネクリアはそのまま気絶し、ルビーちゃんはそれをどこか物悲しく見つめていた。

 自分も同じ元魔王軍だからと、思い詰めているんだろうか。


 なんて少ししんみりした空気はお構いなしに、ゼルはおでこをさすりながら話を切り替える。


「よしルビー、コイツ首まで埋めるぞ。手伝え」

「えっ」

「縛るとかじゃなくて!?」

「冗談だ。それより先に、後片付けを終わらせないとな」


 ゼルの言う通り、今も魔物たちはそれなりの数が残っている。


「そんじゃあエリンの姐さん。早速ポーションを頼む」

「ダメよ」

「えっ?」


 完全に予想外だったせいか、素っ頓狂な声を出したゼル。


「ゼルちゃん。あなたこれまでに何本ポーションを使ったか覚えてる?」

「あー、えっと・・・一本くらい?」

「ウソはいけません! アカネちゃんの記事で確認済みなんですこっちは!」

「アカネテメェ!」

「いやあーしそんなつもりないから!?」


 流れるように責任を擦り付けてきたゼル。

 しかし残念ながら、専門家であるエリンさんに誤魔化しは通じなかったようで。


「ポーションはあくまで薬。便利な飲み物じゃありません。戦いは他の冒険者さんに任せて、ゼルちゃんは安静にしてなさい」

「いやいやいや、傷も完治させてそりゃねえぜ姐さん。・・・俺は行くぜイテテテテテテテテテ!?」


 忠告を無視して背中を向けようとしたゼルに、ミュールちゃんが間接を決めて静止する。間接技というよりは、お人形遊びに見えなくもないけど。


「ダメですよ妖精さん。ここは私たちに任せてじっとしてて下さい」

「だったらこれ解いてくれイテテテテテテテ!?」


 うわぁ、容赦ない・・・。


「その人の言う通り、私たちは休んだ方がいい」


 こっちはこっちで、気絶したネクリアを縛り上げながら淡々と喋るルビーちゃん。さっきの悲しげな表情は何だったの。


 ・・・ハァ。


「・・・そうだね。後は写真でも撮ってゆっくりしてようか」


 まだまだ周りでドンパチやっている中で休息を取り始めるあーしたち。

 魔王軍幹部との戦いでさえ、あーしたちはとことん締まらないパーティだった。

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