22話 前半
「で、どうしよっか。アレ」
「ここは魔王軍だったルビーさんに話を聞こうじゃねえか」
「・・・私はもうパーティの一員だもん」
ルビーちゃんはぷくっと頬を膨らませながらも、ネクリアの能力を解説してくれる。
「ネクリア様の糸は万能。相手を操ったり、物をくっつけてゴーレムやキメラを作ったり」
「それってネクリアがちょくちょく言ってた、農園の黒イノシシとか氷桜のゴーレムのこと?」
「そう」
「あぁー・・・そりゃキレるよね」
ネクリアの言ってた通り、めっちゃ宣伝しまくったし。
「糸自体も強力で、並の攻撃なら受け止められてしまうし、その上から物をくっつけてさらに防御力を上げる事も出来る」
「要するに超小細工野郎って事だな。しゃらくせえ、まとめてブチ抜いてやるよ」
「今のネクリア様は、あえて軽量にして不測の事態にも対応できるようにしている。確実に仕留めるなら、全てのリソースを使わせたうえで止めを刺す必要がある」
「あれで軽量なんだ・・・。てかそんな事どうやってすればいいの?」
「全冒険者による同時多角攻撃、なら可能でしょうか」
今の今まで黙って説明を聞いていたセシリーさんが、いの一番に提案する。
「えっと、そのかくかく攻撃ってなに?」
「要するに四方八方からしばき回してやれって事だ」
「まぁ・・・雑ですがそういう認識で構いません」
「訂正してあげて」
この街の冒険者に詳しいギルド職員さんも交えつつ、作戦の方向性を固めていくあーしたち。
なんかそれっぽい状況に、密かにテンションが上がっているのは秘密。
「こちらがラクティスの冒険者リストになります」
「ご苦労様です」
「こうして見ると結構クラスに偏りがあるね」
「やりたい事と求められる事は、釣り合わねえのが世の中だからな」
「世知辛いね」
「言ってる場合じゃない」
「ルビーの言う通りです。集中して下さい」
なんか仲良くなってない二人? いやホントにふざけてる場合じゃない。
「攻撃はレンジャーとソーサラーに任せて、戦士にはあの無駄にデケエ足を抑えてもらうか」
「どうやって?」
「錬金術師にチェーンを作ってもらいましょう」
「プリーストの援護も付けば安心」
「俺はやらんぞ」
「ハイハイ、ソーサラーのゼルさん」
「これでネクリアの行動を封じた後は」
「ルビーちゃんがトドメ!」
「決まりだな」
「では行動を開始しましょう」
そう言うや否やセシリーさんはすぐに動き出し、近くにいる兵士や職員を中心に指示を出していく。
さすが王都からの使者。出来る女の見た目は伊達じゃない。
「よし! それじゃあーしたちも!」
「うん」
「あー、ちょっと待てお前ら」
ちょいちょいと手招きしてあーしたちを呼ぶゼル。
「どしたんゼル?」
「早く行かないと」
「大事な話だ。ちょっと耳かせ」
「おりゃああああああ!」
冒険者の雄たけびが、戦場と化したラクティスに轟く。
フレームの中に映るのは、弓に魔法とあらゆる手段でネクリアに攻撃を仕掛ける冒険者たち。
しかしそれも、せいぜい足止めくらいにしかなっていない。
「あぁもう邪魔なのよォ! ・・・ッ!?」
じれったいとばかりに薙ぎ払いの構えを取った石クモの足に、複数のチェーンが絡みつく。
「何よォこれ!?」
「止まるな! 考える暇を与える前に行動しろ!」
大声を張り上げて冒険者たちに檄を飛ばすセシリーさん。
急に現れたセシリーさんにネクリアが一瞬気を取られた間に、残った七本の足にも次々にチェーンが絡みついていく。
「こんなもの・・・危なッ!?」
力いっぱい振り解こうと考えたネクリアの頬スレスレを、レンジャーの矢が掠め通る。
ギリギリで回避したせいか、ネクリアの白い頬を赤い血が伝っているのが見えた。
「・・・ザコ共が調子に乗るなァアアアアア!!」
品もへったくれもあったもんじゃないネクリアの叫び。
ただ、そうやって冷静さを欠かせたものこっちの作戦通り。
怒りを叫び声で吐き出したネクリアの目に映るのは、街の至る所に浮かび上がる、巨大な火の玉。
「コイツで終いだネクリア! 『ファイアーボール』!」
ゼルの掛け声に続いて、全ての火の玉が一斉にネクリアへ向かって飛んでいく。
更にプラスして、プリーストの援護を受けたレンジャーの強力な矢の嵐が、隙間を縫うようにしてネクリアへと降り注ぐ。
すごい。これが冒険者たちの全力の攻撃。
フレーム越しに映る迫力満点の攻撃は、まさにファンタジーと呼ぶにふさわしい光景だった。
「ぁぁあああああ!! 小賢しいわねェ!」
ネクリアは苛立ちの声を上げながらありったけの糸をまき散らし、残骸を繋ぎ合わせて即席の盾、というよりは殻のような物を作り、閉じこもる。
どっちが小賢しいんだよ、と心の中でツッコんでいる間に冒険者たちの放った攻撃と衝突した。
「キャッ!?」
凄まじい衝撃に吹っ飛ばされそうになるのをこらえつつ、急いでネクリアの方を確認すれば、即席の殻は全て砕け散り、糸も所々が溶けて無くなっていた。
「ハァッ・・・ハァッ・・・!」
見ればネクリアの方もそれなりに追いつめられているのか、怒りの声を上げる事もなく息を整えている様子。
ここまで全部作戦通り。
音もなく忍び寄っていたアサシンが、ネクリアの頭上から染み出す様に現れる。
「っ!」
流れるような動作で小刀を引き抜いたルビーちゃんは、そのまま重力の勢いに任せてネクリアを突き刺す。
はずだった。
「・・・アッハハ、残念だったわねェルビー。アタシがアナタの事を警戒していないとでも思ったの?」
直撃寸前で動きを止めたルビーちゃん。
なんとネクリアは糸を数本だけ残しておき、それでルビーちゃんの体を絡め捕っていた。
「・・・ウフフ、なんとなくそんな気はしてたわァ。急に統率の撮れた冒険者、アタシの動きを抑えるような作戦、妙に派手な魔法。ここまでお膳立てされれば誰だって気づくわよォ?」
「っ・・・」
ルビーちゃんは手に力を込めて小刀を押し込もうとするものの、プルプルと震えるだけで一ミリも動く気配はない。
まさか、ここまで読んだ上であーしたちの作戦に付き合ってたってこと・・・?
「冒険者たちもどうやら全力を出し切ったみたいだし、後はゆっくり料理するとしましょうかァ。まずはルビー、アナタから・・・」
「本当に、ネクリア様とゼルさんは、気が合うのかもしれませんね」
「・・・は?」
唐突に発したルビーちゃんのセリフに、ネクリアが理解不能といった表情を浮かべる。
「ネクリア様はここまで読んでいると、ゼルさんは読んでいました」
「ッ!? 何ですって!?」
ネクリアは焦りながらゼルの居た方を確認すると、当然ながらそこには誰もいない。
「いつの間に・・・!?」
「最初からですよ」
「は!?」
そう、ルビーちゃんの言う通り、ゼルは最初からこの場にはいない。
さっきまであそこにいたのは、ゼルの姿に変身したルビーちゃん。
あの時あーしたちを呼び止めたゼルは、こうして作戦が読まれることを予測していた。
バカ真面目なセシリーさんにも教えるとバレそうだからと、あーしたちだけにこっそり。
あとはインスタを利用して作戦をみんなに通達。記事はハイド中のルビーちゃんに配ってもらった。
ちなみに、セシリーさんの方もネクリアと同じように事態が飲み込めていない様子。あーしのタコパも利用されたんだし、おあいこだよね。
「そんな、ウソ! アナタの変身は魔法まではコピーできないハズじゃ・・・」
「スクロール、買ってたんです」
「!」
怒涛のネタ晴らしに頭の整理が追い付いていないネクリアの周りを、魔法の壁が煙突状に包み込んでいく。
それはプリーストたちが唱えた魔法と、街中の商人からかき集めたありったけの防壁のスクロール。・・・全額あーしとゼル負担で。
手の空いているギルド職員さんが一人一人地面に広げて、隙間なくネクリアを閉じ込める。
「一体何を・・・それよりあの妖精はどこに・・・まさかッ!?」
煙突状に自身を囲んだ魔法の壁を見て、ようやくネクリアも気づいたみたい。
本物のゼルがいる場所に。
「ウソ・・・でしょう・・・?」
ネクリアの頭上の遥か上空、姿すら見えないほどの高い空で、ゼルは例のなんちゃって隕石を準備していた。
しかも今回はゴーレムと違って、魔法自体をを吸収されない分ゼルの自前の魔法で攻撃できるから、限界まで大きくした岩の腕で殴り付けるとのこと。どんだけ殴りたいの。
「ィィィ行くぜクモ女アアアアアアアア!!!」
隕石となって落下してきたゼルが、赤い尾を引いてネクリアに突撃していく。
「それでは、ご武運を」
「えっ、ちょっ!? ルビー待って!?」
あらかじめ転移のスクロールを用意していたルビーちゃんは、難なく糸をすり抜けてあーしのとなりに移動。
一人慌てふためくネクリアは、狭い壁の中では満足に瓦礫も集められず盾すら作る事ができない。
そんなネクリアの頭上に迫る、なんちゃって隕石。
「必ッッッ殺!! メテオパァアアアアアンチッ!!!」
「イィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」
二人の絶叫がこだましたかと思えば、それをかき消す程の轟音が辺り一帯に響き渡る。
「キャアアア!?」
「くっ・・・!」
耳を塞ぎながらネクリアのいた方を見ると、土煙で何も見えなくなった壁の中で、行き場を失くした衝撃が暴れまわっているのが目に入った。
煙突状の壁の魔法はボコボコと踊るように揺れ動き、最後に一瞬動きが止まったかと思えば、ガラスが割れるように勢いよく砕け散った。
爆心地と言える場所のど真ん中で、あふれ出る土煙の中に浮かぶ、黒い人影。
「・・・ウゥオオオオオオオオオオオオ!!!」
案の定全裸になっていたゼルが、これまたほとんど全裸レベルに服の破けたネクリアの上に立って雄叫びを上げる。
勝利の叫びと言うのだろうか、ゼルにつられて冒険者たちは次々と叫びだし、気づけばあーしとルビーちゃんも叫んでいた。
ハイタッチしたり、抱き合ったり、泣いちゃったり。
それぞれがそれぞれに勝利を喜びあう。
あーしとルビーちゃんは駆け足でゼルの下へと向かい、すっぽんぽんなのもお構い無しに泣き笑いで抱き合った。
勝ったんだ、あーしたち。
「・・・ウフ、ウッフフフフフフフ」




