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異世界インスタ  作者: 五寸
第1章 異世界インスタグラマー爆誕
23/117

21話

「んん!?」


 驚きもつかの間、突如あーしの体に自由が戻る。

 それを見届けたルビーちゃんは、やっぱり無理に動いていたのか、ネクリアから飛び退いたのはいいものの、着地の姿勢を取れず頭から落下していく。


「ルビーちゃん!」


 いつかの時と同じように、あーしは走りながらルビーちゃんに向かって手を伸ばす。


「あと少し・・・!」

「どこがあと少しなんだよ」

「キャッ!?」


 子バカにするようなセリフが耳に届くと同時に、あーしは滑らかな岩の手のひらでキャッチされていた。

 見ればあーし以外に、ルビーちゃんとセシリーさんも手のひらの上で横たわっている。

 こんなことが出来るのはもちろん。


「ゼッ、ゼル!? 大丈夫なの!?」

「俺を誰だと思ってやがる。プリーストのエキスパートたるレベル7の妖精、ゼル様だぞ。あんなもんかすり傷にもなりゃしねえよ」


 言葉の最後に「不本意ながらな」と付け足すゼルの姿は、どう見ても完治している様には見えない。

 ゼルはネクリアから距離を取るとすぐにあーしたちを地面に降ろし、血や青あざだらけの自分はお構いなしに、ルビーちゃんに回復魔法をかける。


「セシリー様!」


 あーしと同じように自由を取り戻していた兵士たちは、未だ気を失っているセシリーさんの下へ走り寄る。


「すまない・・・我々が不甲斐ないばかりに・・・」

「ついでだ。後はそっちで面倒見ろ」


 兵士たちはそれぞれ感謝の言葉を述べると、数人の兵士にセシリーさんを預けて撤退させた。


「ねぇゼル、本当に大丈夫・・・?」

「ヤバかった所は治してるから問題ねえよ。それよりも、今はこいつが最優先だろ」


 緑色の光がルビーちゃんの全身を包み込み、胸に空いた穴を徐々にふさぎ始める。


「・・・ゼル、ゴメンね。・・・グスッ ゴメン・・・」

「おいおい泣くなよ、やり辛えだろ。つーかお前さんが謝る事なんかねえよ」

「でもっ・・・あーしのせいで街が狙われて・・・」

「そう思うなら泣くよりもする事があるだろ。元々お前さんにゃ戦闘は期待してねえんだから、頭使ってけ」

「・・・ちょっとくらいは優しくしてくれてもよくない?」

「お前、俺に優しく慰めて欲しいのか?」

「・・・・・・」

「そこは嘘でもハイって言っとけよ」


 一拍置いた後、二人同時に噴き出して笑い合う。


「あぁそうだ。泣かれるより、そうやって笑ってる方がずっといい」


 なんだかんだ、ゼルは不器用に慰めてくれた。

 目元を拭いつつ下に目を向けると、横たわるルビーちゃんの体がもぞもぞと動く。


「う・・・ん・・・」

「! ルビーちゃん!?」


 傷が治ってきたおかげか、ルビーちゃんの意識が戻った。


「アカネ・・・さん。ゼルさんも」

「ルビーちゃん・・・! 良かった・・・!」

「まだ痛むだろ、無理すんな」

「・・・どうして私を?」

「どうしてって、当たり前じゃん! あーしたちは仲間で、友達でしょ!」

「友達・・・」

「俺たちのパーティはメンバー補充が絶望的なんでな。そう簡単に逃げられると思うなよ」

「・・・・・・ごめんなさい」


 ルビーちゃんはあーしとゼルの顔を交互に見た後、きれいな白銀の瞳から涙を流す。


「二人を騙してた・・・でも、一緒に居た時間が楽しかったのは、嘘じゃない」


 ルビーちゃんはかすれた声で、更に話を続ける。


「・・・嘘つきだった私に、自分を見て知ってもらう喜びを教えてくれた。・・・だから、二人にだけは、嘘つきのまま死にたくなかった・・・」

「・・・バカだよ、ルビーちゃんは」


 あーしは泣きながら、ルビーちゃんをそっと抱きしめた。

 ルビーちゃんも、細い指であーしの服をキュッと握り返してくれる。


「ほんとバカだな。こんな間抜けなスパイは見た事ねぇ。まぁ、俺たちのパーティにゃ丁度いい」


 ゼルも控えめに、ルビーちゃんの手を握った。


「今から再スタートだよ、あーしたち」

「あぁ。俺様の伝説は、ここから始まる訳だ」

「・・・ありがとう、二人とも」


 三人で見つめ合って、笑い合う。

 

「ルビィィィイイイイイイ!」


 そんないい雰囲気を引き裂くかのように、けたたましい女の叫び声が聞こえた。

 声の主は他の誰でもない、ネクリア。

 ただ、纏う雰囲気はさっきまでとは打って変わり、目に見える程の殺気を身に纏わせている。


「アナタはぁ、どこまでアタシを、魔王軍をコケにすれば気が済むのかしらァァァァァ!?」


 そこに立つのは、妖艶な美女とは程遠い、ヒステリーを起こした女の魔物そのもの。

 しかし、まき散らすプレッシャーの割には、お得意のクモ糸を使ってくる様子は無い。

 ていうか。


「あの人、ルビーちゃんが首切ってたよね。何で生きてんの?」

「ネクリア様は、糸を通して魔力を送ったり吸収したりできる。それを利用して、傷を治してるんだと思う。それに、私の攻撃も浅かった」

「ハイドは完璧だった分、惜しかったよな」


 ルビーちゃんの言う通り、ネクリアの首元には太い束になったクモ糸が、傷口を抑えるようにくっついている。多分あれにクモ糸を使ったせいで、拘束が解けたんだろう。

 ていうかあれで浅いんだ・・・。


 本職アサシンのセリフにうっすら引いていると、ついに回復が終わったのか、再びクモ糸を周囲にまき散らし始めるネクリア。

 しかしあーしたちを直接狙うような素振りは無く、壁や建物と無差別にくっついている。


「最初から目障りだったのよ・・・アナタたちがァ・・・!」


 ネクリアはふらふらと立ち上がり、ものすごい恨みのこもった目で睨みつけてきた。


「農園といい、山といい、アタシの計画をことごとく潰すだけに留まらず、挙句それを記事にして周りにひけらかす・・・。駆け出しに潰される幹部だなんて、アタシがどれだけ屈辱を味わったか・・・!」


 体をわなわなと震わせ、全身で怒りを表すネクリア。

 そういえば魔王城にも記事が出てるって言ってたっけ。


「なるほどなぁ。どうりでやたらと絡んでくるわけだ。クモだけに」

「今の面白かったから、インスタに上げとくね」

「止めてくれ」

「おふざけもそこまでよ! もう計画なんて関係ない! アナタたち全員、まとめて潰してあげるッ!」


 今ので溜まりに溜まっていたモノが爆発したのか、ネクリアは高ぶった感情を表すように、大仰に腕を動かした。

 すると、四方八方に飛び散っていた糸が、くっついた建物ごとネクリアへ引っ張られていく。


「ちょっ!? ウソでしょ!?」

「あのクモ女、まだこんな力残してやがったのか・・・!」


 あっちこっちで建物が音を立てて崩れる中、ネクリアは集めた残骸を糸でつなぎ合わせ何やら巨大な物体を組み上げ始める。


「なっ、何アレ・・・!?」

「・・・あれがネクリア様の能力。色んなものを無理矢理繋ぎ合わせて、意のままに操る力」

「つくづくお人形遊びが好きな幹部様だな」

「言ってる場合じゃないし!」


 そうこうしている間にも、無差別にかき集められた大小さまざまな残骸は、糸で器用につなぎ合わせる事で、それぞれ大きさや形の違う巨大な八本の足を形作る。

 一本一本が電車ような大きさを誇るそれは、ネクリアを中心にパーツとして組み合わさり、巨大なクモの化け物のような姿になった。

 八本足のシルエットも相まって、尋常じゃないレベルで迫力がある。


「ちょちょちょちょっ! これはさすがにもう無理でしょ!?」

「あー、さすがの俺様でも骨が折れるな・・・」

「・・・少なくとも、その体じゃ無理」


 メンバー揃ってドン引きしていると、巨大な足の一本が、嫌な音を立てて動きだした。

 それに続いて、デカいクモロボットみたいな格好になったネクリアから、狂った笑い声が届けられる。


「アハハハハハハッ! さぁ、ひと思いに踏み潰してあげる!」


 大振りに手を動かすネクリアと連動するように、巨大な足が高々と振り上げられる。

 狙いはもちろん、あーしたち。


「ゼゼゼゼゼゼゼゼ、ゼル!」

「分かってる! 『シェル』!」


 巨大な石クモの足が振り下ろされる直前に、ゼルの壁の魔法があーしたちを包み込む。


「ッグゥゥウオオオオオオオオ!!」


 いつもの余裕な態度とは違って、雄たけびを上げてネクリアの攻撃に耐えるゼル。

 その様子に違和感を覚えた矢先に、石クモの足を抑えていた壁の魔法にヒビが入り始めた。


「ゼっ、ゼル! ヒビが!」

「・・・悪い、そう長くはもちそうにねえなこりゃ・・・」

「えっ!?」

「ネクリア様に縛られてた時に、魔力を吸い取られてたんじゃ」

「ご明察だ・・・だから、早く逃げろ」

「でもゼルは!?」

「俺様を誰だと思ってる・・・最強無敵のゼル様だぞ。この程度どうってことッ・・・・ンガァアアアアアアア!!」


 あーしたちに心配をかけまいと強がっているんだろうけど、魔力も尽きかけたボロボロの体で切り抜けられるとは思えない。

 そんなギリギリのゼルに対して、ネクリアは更にもう一本追加で攻撃を重ねてきた。

 壁の魔法に入ったヒビが、どんどん広がっていく。


「クソッタレがァアアアアアアア!!」

「アッハハハハハハハハ! さぁ、そのまま潰れ死んでしまいなさい!」


 壁の魔法全体にヒビが広がった。

 もうここまでかと思った、その時。


「『アーマーライズ』!」

「『シェル』!」

「『ワイドガード』!」


 突如聞こえてきた、スキルや魔法を唱える叫び声。

 何事かと周りを見れば、盾を持った戦士や魔法使いたちが、ゼルを庇うようにして石クモの足を受け止めていた。

 そこに居たのは全員、酒場で一緒にバカ騒ぎを楽しんできた、見知った顔の冒険者たち。


「お前ら・・・!」

「お前だけにカッコつけさせるかよゼル! この街の冒険者は、お前らだけじゃないんだぜ!」

「ルビーちゃんの事はショックだったけど、それ以上に助けてもらったからな!」

「という訳でアカネちゃん! 俺たちの雄姿、ばっちり撮っといてくれよ!」

「みんな・・・!」


 安心とか、嬉しさとか、色んな感情がこみ上げてきて堪らず涙を流してしまうあーし。

 さっきから泣いてばっかりだし、もう。


「とりあえず、ギルド職員の集まってる場所まで一旦引け。緊急用のポーションをくれる」

「・・・へっ、俺様一人でも問題なかったが、ここはお前らに譲ってやるとする・・か・・・」


 強がりを言い切る前に魔力切れで落下したゼルを、すばやくキャッチする。

 肩で息をするその体は全身傷と青あざだらけ。本当にギリギリだったんだろう。

 ルビーちゃんと視線を交わして、逃げる準備を始める。


「このアタシから逃げられると思ってるのかしらァ!?」


 ネクリアは余っていた足を二本振り上げ、逃げようとするあーしたちに狙いを定める。

 ただ、忘れちゃいけない。

 ネクリアの操る足と同じように、冒険者はここに居る人たちが全てじゃない。


「!?」


 ネクリアの頭上に、矢と魔法の雨が降り注ぐ。

 あーしたちを攻撃するために振り上げた足は、その雨を防ぐために用途を変えた。

 その隙を見逃すことなく、あーしたちは全速力でそこから脱出する。


「アカネさん、乗って!」

「乗るって何が・・・うぇ!?」


 意味不明な言葉を聞いてルビーちゃんの方を向けば、なんかトラっぽい姿に変身したルビーちゃんが。


「ちょっ、何それ!? ルビーちゃん・・・でいいんだよね!?」

「驚いてる暇はない。捕まってて!」

「うわっ、ちょっ!?」


 体を滑り込ませるようにして強引にあーしを背中に乗せたトラルビーちゃんは、人生初体験のスピードでネクリアのいる戦場から離脱した。






「っ! アカネさん! ご無事でしたか・・・なんですかその魔物!?」

「あっ、大丈夫です! ルビーちゃんなんですこの子!」


 あーしがトラルビーちゃんから降りると、ルビーちゃんもいつもの黒髪少女に戻った。

 唖然とする職員さんに急かす様に詰め寄ったルビーちゃんは、聞いていた通り体力と魔力両方のポーションを受け取り、大急ぎであーしたちの元へ戻ってきた。


「回復は私がする。アカネさんは魔力のポーションをゆっくり飲ませてあげて」

「わ、わかった!」


 いつか見たエリンさんと同じように、傷口にポーションを少しずつ垂らすルビーちゃん。

 ゼルの魔法ほどでは無いものの、全身の傷がどんどん回復していく。


「・・・悪いな、手間かけた」

「何言ってんの! ゼルのおかげで助かったんだからあーしたち!」

「その通り。今は休んでて」

「へっ、べっぴん二人に相手してもらえるなら、ケガすんのも悪くねえな」

「冗談言えるならもう大丈夫だね」


 本当に、よかった。

 そうして一息つくあーしたちの下に、ヒールを鳴らして近づいてくる女性が一人。


「失礼します。先ほどはどうも、お手数をおかけしました。ゼルさん・・・ルビー」


 回復したらしいセシリーさんが、相変わらずの堅苦しさで二人に頭を下げた。

 ルビーちゃんに対しては、若干のためらいがあったけど。


「礼はいらねえよ。それより、今この街はどうなってんだ」

「兵士たちとギルド職員を主導に、街の住民を安全な場所へ避難させています。・・・ですが、街の出入り口を巨大なクモの巣で封鎖され、外への避難や応援を呼ぶことも出来ない状況です」

「クモの巣って・・・」

「どうしてもここで俺たちを殺したいらしいな。へっ、面白え。受けて立ってやろうじゃねえか」


 ゼルはそこかしこに傷を残したまま、もう十分だとばかりに妖精の羽を出して飛び上がる。


「待って、回復がまだ」

「傷がある方がカッコいいだろ?」

「自分で言っちゃ台無しだよ」


 まぁでも、今はその締まらなさにすら安心してしまうんだけど。


「貴方がたは、恐ろしくは無いのですか?」

「まぁ、今更だよね」

「今更だな」

「今更」

「・・・・・・」


 セシリーさんは呆れたように目頭を押さえる。

 これがあーしたちのパーティなんだよね。怖いとか死ぬかもとか、そんなのは今に始まった話じゃない。


「それにあのクモ女は、一発殴ってやんねえと気が済まん」

「あーしはみんなのカッコいいとこ撮るって約束したしねー」

「私は、ケジメをつけないと」


 自分のしたいこと、やりたいことをやる。それだけの為に。


「よっし! んじゃ行こっか!」

「おう!」

「おー!」

「それで、作戦はどのように?」

「「「・・・」」」


 高々と拳を振り上げたまま、無言で立ち尽くすあーしたち。


「よっし! 作戦会議始めよっか!」

「おう!」

「おー!」

「ハァ・・・本当に貴方たちは、今日まで生き残ってこれたのが不思議でなりなせん」


 いよいよ頭を抱えこんだセシリーさん。

 ・・・これがあーしたちのパーティなんだよね。

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