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異世界インスタ  作者: 五寸
第1章 異世界インスタグラマー爆誕
21/117

19話

 タコパから五日後。

 今日は王都からの使者が、あーしたちに会いにラクティスにやって来る。


 手紙の内容は、黒イノシシから続く魔王軍関連についての褒賞と、あーしたちのパーティについて話があると書いてあった。

 恐らくだけど、インスタグラマーについて色々聞かれるんじゃないかと予想してる。

 たぶん世界にあーしだけだし、王族の耳に入ってもおかしくない。うまくいけば、王族の人たちとコネを作ったりできるかも。

 まぁ今日来るのは使者の人なんだけどね。


 なんて色々考えているけど、当のあーしはそれ以前の問題にぶち当たっていた。

 それは・・・。


「ふぅーっ! ふぅーっ! 大丈夫、あーしは出来る子、出来る子・・・」

「落ち着けアカネ」


 緊張で手足がブルブルに震えていた。

 なにせ「王族」の関係者とご対面なのだ。日本ですら教師以上の目上の人に会った事ないのに、いきなり王族とか無理ゲーすぎるし。


「落ち着いて、深呼吸」


 ルビーちゃんに促されるままに、深呼吸を繰り返す。


「ていうか、何で二人はそんな落ち着いてられんの?」

「そりゃお前、王族の連中だって俺らみたいな冒険者に仰々しいマナーなんざ期待してる訳ねえだろ。いつも通りの適当な敬語でいいんだよ」

「私は、慣れてるから」

「そっか・・・」


 参考になるんだか、ならないんだか。

 まぁそこまで重く考えなくていいのかも

 ギルドには見物目的の冒険者もそれなりに居るし、その程度と考えておこう。


「それに職員が言ってたが、王族の連中がラクティスに来た一番の理由は、ここ最近のラクティス近辺での異変調査って聞いたぜ」

「異変って言うと、黒イノシシとかゴーレムとか?」

「プラスしてダンジョンに土人形どもだな。さすがに駆け出しの街でこれは異常が過ぎるだろ」

「確かに・・・」

「つまり、俺たちはついでに処理しちまおうってのが向こうの魂胆って訳だ。そう固くなる必要なんざねえよ」

「フォローはありがたいんだけど、それはそれでヘコむからねあーし」


 なんかあーしバカみたいじゃん。バカだけどさ。


「まぁ手紙には褒賞とも書いてたし、もしかしたら勲章の一つでも貰えるかもしんねえな」

「勲章かー。まぁインスタ映えしそうだしそれはそれでアリかも」

「ブレねえなお前さん。お、来たみたいだぞ」


 ギルドの大きな入り口を、鎧を着た兵士が左右ずつに持って開く。

 そうして開かれた入口の奥から、スーツのような衣服に身を包んだ女性が、ヒールをコツコツと鳴らしながら入ってきた。


 結った黒髪と片っぽだけのメガネ。その奥からは気の強そうな釣り目が覗いている。

 いかにも仕事の出来る女という風貌だった。まぁ王都からの使者なんだから当たり前か。

 インスタですでに確認していたのか、入口から入ってすぐの掲示板前で待機していたあーしたちを見て、使者の人が軽く会釈する。


「初めまして。私は王都より調査官としての任を受け派遣されました、セシリーと申します。赤羽茜さんでいらっしゃいますね?」

「あっ、ハイ。赤羽茜です。よろしくお願いします」

「件の魔王軍配下の魔物の討伐、ご苦労様でした。先にお伝えした通り、今回はその件についての褒賞のお話となっているのですが」

「オイオイ、一番の功労者を忘れてねえか?」

「ちょっ、ゼル!」


 空気を読まずにしゃしゃり出るゼルを抑えようとしていると、セシリーさんの後ろから次々とギルドに入って来る兵士たちが、扉を閉めて出入り口を塞いだ。

 さらに酒場でだべっていた他の冒険者たちが、なぜかあーしたちを取り囲む。


「えっと、何コレ?」

「ゼルさんでしたね。もちろん忘れてはいませんよ。ただ、今はそれよりも優先すべき事があるのです」

「優先すべきこと・・・?」


 なんだろう、話が見えてこない。

 ただ、ひたすらに嫌な予感だけがあーしの頭を駆け巡る。



「魔王軍のスパイにしてドッペルゲンガー種の魔物、ルビー。貴様をここで確保する」



「っ!?」

「・・・え?」


 今なんて?


「ちょ、何言ってんの?」


 セシリーさんはあーしの言葉を無視して、何かの合図を示すように右手を挙げる。

 すると周りを取り囲んでいた兵士や冒険者たちが一斉に武器を取り出し、あーしたち、というよりはルビーちゃんに差し向けた。


「待って! 待ってよ! 何が起きてんのかさっぱりなんだけど!」

「おいルビー、どういう事だ?」

「・・・・・・」


 ゼルの問いかけに、ルビーちゃんは俯いたまま答えない。


「抵抗は無駄だぞ。おとなしく投降した方が身の為だ」


 セシリーさんの侮蔑するような冷徹な視線が、ルビーちゃんへ向けられる。


「ねえ職員さんどうなってんの!? ていうかアンタたちもどういうつもりなの!?」


 騒然とするギルド内にあーしの叫び声がひと際大きく反響する。


「え、えと、私共にも何がなんだか・・・」

「落ち着いてくださいアカネさん。ここの職員の方々は関係ありません」


 あーしの疑問にセシリーさんが答える。


「あなた方を取り囲んでいる者たちは、私が先に送り込んだ伏兵。先日ここで行われた宴会の招待記事を見て、準備しておりました」

「!?」

「アカネのインスタが利用されたって事か」

「えぇ、失礼ながら」


 言葉とは対照的に悪びれる様子も無いセシリーさん。

 落ち着いてよく見てみれば、たしかに見知った顔の冒険者はほとんどいない。


「さて、本題に戻りましょう。先も述べた通り、あなたのパーティメンバーとなっているルビーですが、彼女はドッペルゲンガー種の魔物にして、変身能力を用い我ら人類の情報を魔王軍へと流していたスパイ。その首には懸賞金も掛けられています」

「そんなの、あーし見た事ないんだけど」

「当然です。彼女は全く別の姿へ変身できるのですから」

「それがここに居るルビーちゃんとは限らないじゃん!」

「証拠ならありますよ」


 そう言って、セシリーさんは賞金首の貼り紙とインスタ記事を何枚か取り出す。

 インスタ記事に載っているのは、別件で撮ったルビーちゃんの新しい変装姿の写真。

 それと同じような容姿が、全ての賞金首の貼り紙に描かれていた。


「ぁ・・・・・・」


 言葉に詰まるあーし。

 思わずルビーちゃんの方を振り返ると、未だに俯いている姿が目に入った。


 ルビーちゃんが魔王軍の関係者?


 つまり、あーしたちを騙してた?


 ネガティブな考えがあーしの中で渦巻く中、ゼルが口を開いた。



「アホかお前は」



「・・・は?」


 思わずそう呟いたのは、セシリーさんだった。

 見れば酒場の全員がゼルに注目している。

 ルビーちゃんでさえも。


「ゼ、ゼル?」

「いや、だってそうだろ。スパイやってたやつが変装の姿インスタに上げるって、どんだけハマってんだよ。こんなもんアホとしか言いようがねーだろ」

「いや、そうなんだけどさ・・・」


 なんかもう、一週回って好きだわ。ゼルのこういうとこ。

 色々考えてたあーしがバカみたい。


「おいルビー。ここまでバレてんだからもうゲロっちまえ。何の目的でアカネに近づいたんだ? 言うほど魔王軍に脅威でもねーだろこんなの」

「ちょっと」


 言いたい放題言ってくれるなこのエセ妖精。インスタにある事ない事書いてやろうか。


「・・・・・・」


 空気を読まないどころかぶち壊したゼルの発言に、思わず顔を上げていたルビーちゃんだったけど、次第に顔は俯いていき、体がプルプルと震えだす。


「・・・・・・私は」

「よくやったわぁルビー」



 緊張感で満たされた空間に、ゆったりとした声が蛇のようにぬるりと入り込む。

 聞き覚えのあるその声の主は、どこからともなく光の粒子としてギルド内に現れ、やがて女性の体へと変わった。


「転移の光・・・テメェは」

「・・・アっ、アリアさん!?」

「ウフフ、ごめんなさいねぇアカネちゃん。あの調査官が言った事は本当よぉ。そしてアタシも、アナタに嘘をついてた」

「・・・えっ?」

「何者だ貴様!?」


 脳がパンク寸前になっているあーしの前で、アリアさんは妙に余裕たっぷりな様子でセシリーさんと向かい合う。

 ギルド内全員の視線を一身に受けながら、アリアさんは優雅な一礼と共にセシリーさんの問いに答えた。


「アタシの名はネクリア。アラクネ種の魔物にして、魔王軍幹部が一人。そしてそこに居るルビーの飼い主よ」


「「「!?」」」


 ギルド内が一斉にどよめく。


 えっ、ちょっと待って。もう意味わかんない。

 魔王軍幹部? アリアさんが?


「魔王軍・・・幹部、ネクリアだと?」

「知らなくても無理ないわぁ。アタシは常に裏方、手配書に載るような表舞台に出た事はないもの」


 武器を構えた兵士や冒険者たちに周りを囲まれているにもかかわらず、ネクリア・・・アリアさんは依然として余裕の態度を崩さない。


「・・・真偽はこちらで確かめる。その二人を捕えろ!」


 魔王軍幹部と名乗るアリアさんを前にしても、セシリーさんは怯むことなく周りの兵士たちに命令を叫ぶ。

 ただ、誰一人としてその命令に従うことはなかった。


 いや、出来なかった。


「かっ、体が・・・」

「動かない・・・」

「なっ、何をしている貴様ら!?」


 さすがに少し焦った様子で兵士たちを見回すセシリーさん。

 兵士たちはそれぞれ武器を構えたまま微動だにせず、目や口だけがかろうじて動いている。

 更にそれは兵士たちだけじゃなく、ギルド内の全員が同じ状態になっている様だった。

 もちろん、あーしも例外じゃなくて。


「なっ、なにこれ!? なんで体動かないの!?」

「・・・」


 慌てふためくあーしに対して、ゼルは一言も喋らず微動だにしない。ゼルも完全に動きを止められているんだろうか。


「貴様! 何をした!?」

「分かるでしょう? アタシはアラクネ、クモの糸を使う魔物。それを街中にばら撒いていただけの事よぉ」

「街中に・・・!?」

「そう。貴方はルビーという餌に釣られて、クモの巣に絡め捕られたってわけねぇ」

「ッ!? ぐっ・・・!」


 あえて動きを封じずにいたセシリーさんを、アリアさんが服の隙間から出した糸で直接縛り上げる。


「セシリー様!?」

「くそっ・・・こんなもの!」


 捕らえられたセシリーさんをみて兵士たちがそれぞれ奮起するものの、努力空しく体はピクリとも動く様子は無い。


「ウッフフ、そんなに焦らないのぉ。さぁ行きましょうか。この街が一体どうなっているのか、アナタたちにじっくり見せてあげる」


 そう言ってアリアさんが歩き出すと、さっきまで微動だにしなかった体が勝手に動き出し、アリアさんの後ろへ続くように歩き出す。

 皮肉にも扉近くに立っていた兵士たちは、セシリーさんにやった時と同じように扉を開き、あーしたちはギルドの外へと連れ出されて行った。

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