18話
「よいしょっと! はいルビーちゃん、どうぞ」
「ありがとう」
「あーちょっと待って。コレ忘れてた」
五つほどお皿に乗せたたこ焼きに、つまようじを一本プスっと差し込む。
「熱いから気を付けてね」
「アカネちゃーん! 今度はこっち頼むぜ!」
「俺たちも頼むー!」
「はいはーい! ちょっと待っててねー!」
酒場のあちこちの席から、たこ焼きの催促が聞こえてくる。
今あーしは酒場に色んな人を集めて、たこ焼きパーティ タコパを開いていた。
「お前さんとこの食いモンなのか、こいつは?」
つまようじに刺したたこ焼きをしげしげと眺めながら、ゼルが質問してくる。
「そ。美味しいでしょ?」
「まぁ悪くない。にしてもまさか、この変な鉄板が調理器具だとはなぁ」
ゼルの言う変な鉄板というのは、今あーしが絶賛使用中のたこ焼きプレートの事だろう。
丸い穴がずらっと並んだビジュアルは、確かに変かもしれない。
「ほんとはもっと違う仕組みなんだけど、こっちは魔法があるからね。・・・よし完成。ゼルこれ持ってって」
「俺はウェイトレスじゃないんだがな」
「あ、私が持っていきますね」
ゼルの代わりに本職のウェイトレスさんが持って行ってくれる。
「オーダーメイドっつーから何か装備でも作ってんのかと思ったら、お前さんはつくづく冒険者してねえな」
「今更でしょそれ」
「そうだな」
くっくと笑いながら、たこ焼きをぽいと口に放り込むゼル。気にってくれたようで何より。
ゼルの言う通り、このプレートはオーダーメイド。
この世界は魔法があるし、何とかなるかなー程度の気持ちで作ってもらったら出来た。魔法万能。
あーし一人で使ってもしょうがないから何十枚か量産してもらって、ギルドの酒場に提供する代わりにタコパ開催のお許しを貰ったというのが、今日までの流れ。
あとはインスタで宣伝して、人を集めて今に至る。
元々はルビーちゃんと約束した、ゴーレム戦の二人へのお礼だったんだけどね。
「しかし随分集まったもんだ。まだ一ヵ月ちょいだってのに、えらく有名になったな」
「じゃなきゃインスタグラマー失格だしね。まぁでも一番人気なのはルビーちゃんなんだけどさ」
ルビーちゃんの写真をインスタに上げて以来、その人気は爆発的に加速している。
男性人気は当然として、変装スキルを活かした自由自在なコーデで女性からの評判も高く、最終的にはファンクラブが生まれた。
「ファンのファンクラブ結成って聞いたアカネの顔、俺がインスタグラマーなら真っ先に上げてたぜ」
「止めてよもー」
「私は困ってる」
「ノリノリで写真撮ってるじゃねえか」
「それとこれとは話が違う」
本職アサシンだし、そこはしょうがないのかもね。
「まぁ、そのうち俺様がトップに躍り出るから、それまでの辛抱だな」
「何年後になるんだろうね」
「言うじゃねえかオイ」
眉をヒクつかせながら顔を近づけてくるゼル。
「ルビーちゃんと違ってゼルは魔法で魅せるんだから、そろそろ新技でも考えないとキツイんじゃない?」
「フッ、俺様を舐めるなよ。すでに百を超える新技を考案済みだ・・・!」
「内いくつ実用可能なの?」
「・・・・・・二つくらい」
そっぽを向いたまま答えるゼル。こっち見なさいこっち。
「装備を作って、フォローできないの?」
たこ焼きを食べ終わったルビーちゃんが、おかわりを催促しながら質問する。順番だからちょっと待ってて。
「確かに、ゴーレムで特別報酬がまた出たんだし、何か作ったら?」
このたこ焼きプレートだって、そのお金で作った物だし。
「妖精用の道具は一般流通してないんだよ。作るなら里に帰らないとな」
「じゃあ帰れば?」
「生憎と勘当済みだ」
「何があったの・・・」
重い話をケロっと話すゼルにため息が出る。
「俺はプリーストの才が天才レベルってのは、前に話したよな」
「・・・そうだね」
もうツッコまないでおく。
「でも俺はソーサラーとして天下を獲りたい。で、大ゲンカ。そして今という訳だ」
「しょーもなっ!?」
「しょーもなくねーよ! こっちゃ人生掛かってたんだからよ!」
そりゃ本人からすればそうだろうけど、予想を下回るんだもん。
「だから今日は全部奢るって言いだした訳ね・・・」
「集客に貢献したんだ、別にいいだろ」
「まぁ、ありがたいけどさぁ・・・」
なんていうかこう、つくづくあーしたちは締まらないなぁ。
「そういやルビーは何に使ったんだ?」
好きな話題じゃなかったのか、ゼルが強引に話を変える。
「私は、スクロールの補充に」
「あぁ、例の融通してくれる」
「・・・違う。その人とはもう会えない」
「え、そうなの?」
ルビーちゃんが深刻そうな顔で頷く。
「じゃあお前さん、普通の商人から買ったのか?」
「うん」
「ダメだよルビーちゃん。そういうのは先に言ってくれないと」
「えっ?」
深刻そうな顔から一転、ポカンとした表情を見せるルビーちゃん。
写真のおかげか、けっこう表情豊かになったよねこの娘。
「あれはもう必要経費なんだし、融通できないならあーしたちもお金出すから」
「そうだな。こういうのはパーティで出し合うもんだ」
「わ、分かった」
一本ウン十万する代物だし、そりゃあんな顔にもなるよね。
あーしは慰めついでに、新しいたこ焼きをルビーちゃんに渡す。
「しかしそいつは何者なんだ? あんなクソ高えモン融通してくれるなんてよ」
「会えないって事は、どっか行っちゃったの?」
「それは・・・」
「ここにいるわよぉ」
「っ!?」
いつの間にかルビーちゃんの背後にいた女性が、たこ焼きを一つつまみ食いして会話に入ってきた。
「ん~、美味しいわねこれ。アタシにも頂けるかしら?」
「あ、ハイハイちょっと待ってて・・・ってアリアさんじゃん!」
「ウフフ。驚かせちゃったかしら?」
悪戯っぽい笑みを目元に浮かべながら、妙に艶めかしく歩いてあーしたちの向かいに立つアリアさん。
普段はお店のレジで座ってばっかだから気づかなかったけど、アリアさんすごい体してるなぁ。
男を惑わす気満々のプローションな上に、布を羽織っただけのような服を着ているせいで、女のあーしですら第一印象が「エロい」と思わざるを得ない。
当然、酒場中の注目が集まる。
「この前の氷桜の記事、見たわよぉ。すごく綺麗だったわねぇ」
「ありがとー! 見てくれたんだアリアさん」
「お礼を言うのはアタシの方よぉ。おかげでまた売り上げが上がったから」
「なぁ、アンタ誰だ?」
あーしたちの会話に一切の躊躇なく突っ込んでくるゼル。ほっといたあーしが言うのもなんだけど、言い方ってもんがあるでしょ。
「あーしがよく行くお店の店主さんだよ。インスタにも上げてたでしょ?」
「アリアよぉ。アカネちゃんにはとてもお世話になってるの。よろしくねゼルちゃん」
「ちゃんは止めろ、ちゃんは。それで、アンタがルビーにスクロールを融通してたって事なのか?」
「えっ、マジ? 二人って知り合いだったん?」
意外な接点。どういう繋がりなんだろう?
確認ついでにルビーちゃんの方を見れば、なぜかその顔は青ざめ俯いている。
・・・どういうこと?
「アタシが個人的に仕事を依頼する代わりに、スクロールを融通してたのよ」
「で、それが出来なくなったってとこか。察するに、俺らのパーティに入ったのが原因ってとこか?」
「まぁ、そんなところかしらねぇ」
「えっ、そうなのアリアさん? もしかして困ってたりする?」
「いいのよぉ、気にしないでアカネちゃん。今日はその確認をかねて顔を出したんだし」
そう言ってアリアさんはにっこりとほほ笑み、ルビーちゃんの隣へ移動する。
肩にポンと手を置かれ顔を近づけられたルビーちゃんは、未だ青い顔のまま。
なんだろう、どうにも二人に温度差を感じる。
「それで本題なんだけど、いいかしらルビー?」
「なっ・・・何ですか?」
「仕事のことだけど、もう気にしなくていいわ」
「・・・えっ?」
青ざめた顔から一転、少し期待の入り混じった表情を浮かべるルビーちゃん。
「言葉の通りよぉ。アナタはこのままパーティに居続けなさい。アタシとしても特に問題は無いわぁ」
「わ、分かりました」
若干腑に落ちないような雰囲気を見せつつも、ルビーちゃんは安堵のため息をつく。
「それじゃあね三人とも。これからも面白い記事を期待してるわぁ」
そう言って、アリアさんは人込みをすり抜けて去って行った。
注文したたこ焼きを置いて。
「何だアイツ」
「アハハ、アリアさんたまに何考えてるか分かんない時あるんだよね」
「まぁでも一つ確かなのは、スクロールを融通してもらえる訳じゃないって事だ」
「そうだけど、そうじゃないでしょ」
それはそれで重要だけどさ。
「えと、大丈夫なのルビーちゃん?」
「・・・うん、問題ない」
「さっきのアイツと、どういう関係なんだ?」
相変わらず容赦なく突っ込むゼル。
あーしも気になるけど、言いづらそうな雰囲気とか読めないんだろうか。
「ネっ・・・アリアさんの言ってた通り、仕事関係」
「アサシンのか?」
「そう」
それ以上は何も言わず、ただひたすらにたこ焼きを頬張るルビーちゃん。
何か言いづらい仕事だったのかな? なんてアリアさん分のたこ焼きを突っつきながら色々考えていると、ギルド職員のお姉さんが何かの袋を抱えてやってきた。
「アカネさん、お手紙です」
「あっ、どうもー」
「多いな、何だこれ」
テーブルにドカッと置かれたのは、たくさんの手紙が入った袋。
「それ、全部あーしたち宛のファンレターだよ」
「マジで!?」
冷めた表情を浮かべていたゼルが、一転して輝いた表情に変わる。
この世界では、インスタが出来るのはあーししかいない。
それが原因かは分からないけど、今あーしが使ってるインスタには、コメントとかリプライとかの返信機能が備わっていない。
つまりこの手紙は、この世界でのリプライみたいなもの。
どっちかっていうと、ラジオ番組のハガキに近いような気がするけど。
「あーし手が離せないから、ゼルとルビーちゃんの二人で仕分けしといてよ」
「任せとけ! まぁ八割くらい俺様宛だろうから、すぐ終わるだろうがな」
「どっから来るのその自信・・・」
ルビーちゃんの方も何気に楽しみなのか、二人して目を輝かせながら仕分けを進めていく。
こうやってわざわざ手紙にして送ってくれるっていうのは、コメントとはまた違った感動があっていいなぁ。
機会があれば、今日のタコパみたいな感じでフォロワーのみんなに返せる場を作るのもいいかも。
そんな風に色々考えていると、ギルド職員のお姉さんが別にもう一つ手紙を渡してきた。
「アカネさん、こちらもアカネさん宛になります」
差し出された一通の手紙は、他の物と比べてやたら仰々しい装飾が施されている。何コレ?
「この押印は、王族関係者を示すものでありまして」
「はぁ・・・・・・えっ!? おっ、王族!?」
思わず出した大声に、今度はあーしが酒場中の注目を集める事になった。




