17話 前半
大小さまざまな岩石で構成された、いびつな巨体。
ゴーレムと呼ばれるそのモンスターは今、あーしたちの前に立ちふさがっていた。
「何これ!? 聞いてないんだけどー!?」
五メートルはあろうかというその巨体を前に、あーしは腰が抜けそうになってしまう。
「落ち着けアカネ」
いつの間にやら復活したゼルが、あーしたちの前に躍り出る。
「ゼル! いつの間に?」
「冒険者なら色んな事態は想定しとくもんだ。・・・まぁこれは想定外なんだがな」
言いながら飲み干したポーションを投げ捨てるゼル。ポイ捨ては良くない。それどころじゃないけども。
「それよりもあれ見てみろ。頭んとこ」
ゼルが指さした、頭っぽい岩の所をよく観察してみると。
「あっ! クモのマーク!」
「!」
この前の黒イノシシの額にあったものと同じマークが、ゴーレムの頭らしき部分に浮かんでいた。
つまりこれは・・・。
「魔王軍の仕業か」
あーしが言うよりも先に、ゼルが結論を出した。
「でも何だってこんなとこに湧きやがる・・・?」
疑問を吐きながらゴーレムと相対するゼル。
表情が読めないぶん何を考えているか分からないせいで、動作の一つ一つに過敏に反応してしまう。考える意思があるかどうかすら分かんないけど。
あーしは内心ガチビビリしながら観察を続けていると、ゴーレムの足元が光っていることに気づいた。
あれはゼルが氷桜に魔力を送っていた時と同じ光。・・・という事は。
氷桜の方を振り向けば、予想通り花びらは消えて無くなり、見慣れた枯れ木の姿に戻っていた。
「ゼル、そいつが犯人だよ! そいつが自然の魔力を吸って、氷桜を枯らした犯人!」
「なるほどなぁ。魔王軍の連中もやらしい真似しやがる」
「早くやっつけて、撮影に戻ろ!」
「ぶれねえなお前さんは!」
そう叫んだかと思うと、ゼルはゴーレムの懐に飛び込んで行った。
もちろんゴーレムも黙っている訳は無く、右腕を振りかぶって迎撃しようと構える。黙ってるけど。
「ハッ、とろくせえ!」
襲い来る大きな岩の腕を楽々とかわしたゼルは、そのままゴーレムの周りを舞うように飛び上がる。
「見かけ倒しかよ。楽勝だな」
ゼルは余裕の表情を浮かべながら、魔法の詠唱を始める。
右の掌に青い魔法陣が浮かび、その中から氷の槍が生み出された。
「くたばりやがれ! 『アイシクルスピア』!」
ゴーレムの額に浮かぶクモのマークを目掛けて、氷の槍を思いきり投げつけるゼル。
当のゴーレムは反応すら出来なかったのか、ほぼ無防備の状態で氷の槍が直撃した。
・・・・・・はずだった。
「マジか・・・」
ゼルが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
放たれた氷の槍はゴーレムを貫く事なく、水中に投げ込んだように、音も無く飲み込まれていた。
「え、どういうこと?」
「あの野郎・・・俺の魔法を吸収しやがった」
「ええ!?」
「まぁ氷桜がああなってる時点で、予想しとくべきだったが」
「それってつまり、ゼルの攻撃が効かないってこと!?」
「そうなるな」
「うそぉーーー!?」
そんな、ただでさえウチのパーティはネタ扱いされてるのに。その上ゼルまで封じられちゃったら、最早ただの登山客になってしまう。
「なんとかならないの?」
「まぁ何とかできん・・・・・・できんな。無理」
「なんでもったいぶった今!?」
なんてしょうもない漫才を繰り広げている間に、ゴーレムの巨大な岩の腕がゆっくりと振り上げられる。
「え、ちょ、ヤバい! どうしよ!?」
「とにかく逃げろ! 走れ!」
ゼルの言葉に従ってとにかく一直線に走る。
しばらく走るとまたもや轟音と地響きが起こり、振り返るとさっきまであーしたちが居た場所が、巨大な岩で埋め尽くされていた。
幸い動きが遅いからなんとかなっているものの、いつあーしの腰が抜けるかと思うと気が気じゃない。
「どどどどっ、どうすんのゼル!?」
「どうしようもねえよ。あれはもう俺の天敵つってもいい」
魔法に関してはプライドの塊みたいなゼルが匙を投げている。今回ばかりは本当にどうしようもないかもしれない。
でもアレを倒さない限り、いつまでも氷桜を撮る事が出来ない。
何か・・・何か方法は・・・・・・。
「あれっ? そういえばルビーちゃんは?」
「ここ」
「うひぃ!?」
あーしの真後ろからぬるりと、ルビーちゃんが現れる。心臓に悪いから止めて欲しいなそれ。
「どこ行ってたのルビーちゃん?」
「スクロールを取りに」
そう言って紙筒の束を見せてくるルビーちゃん。仕事速いね。
「ね、ねえルビーちゃん。ルビーちゃんならアレどうにかできない?」
「無理だな」
なぜかゼルが即答する。
「あいつとやるならハンマーみたいな、打撃系の武器が必須だ。ルビーの持ってる小刀じゃポッキリいっちまうぞ」
「そ、そっか・・・」
「だから本来は強い魔法でぶっ飛ばすのが定石なんだが・・・アレじゃあな」
「じゃあ、逃げる?」
「バカ言え」
またもやゼルが即答する。どっちやねん。
「なんとかできんとは言ったが、俺は戦いを諦めた訳じゃない」
「何その屁理屈・・・」
「うるせえ。第一未知の敵相手に、そうポンポンと必勝法が出る訳ねーだろ」
そう言うや否や、ゼルは腕を組んでうんうんと唸りだした。
目的は違うけど、諦めたくないのは同じみたい。
なんとか突破口は無いかとゴーレムに目を向けると、こちらへ向き直りゆっくりと動き始める姿が。
「ちょちょっ、ちょっと! またこっち来たよアレ!」
たとえスピードが遅いとわかっていても、五メートル台の巨体に迫られる威圧感は凄まじいものがある。ぶっちゃけ氷桜が無かったら今すぐ帰りたい。
「ちぃっ、しょうがねえな!」
ゼルは小さなつららを飛ばす魔法を適当に打ち込みながら、大きくあーしたちから距離を取るように移動する。
するとゴーレムもそれに釣られて、あーしたちからゼル個人へと標的を変える。
「俺がしばらく引き付けるから、何か突破口を探ってくれ!」
「わ、分かった! 気を付けてね!」
ゼルは返事を返すことなく、ゴーレムとの戦いに集中する。
見ればゼル本人も色々試しているのか、魔法だけじゃなく小石をぶつけたりしている。吸収される事はないみたいだけど、さすがに効果はなさそう。
黒イノシシの件から考えても、頭のクモのマークが弱点で間違いなさそうだし、どうにかそこを攻撃できる方法を・・・。
「何かないかな・・・何か・・・・・・」
「ねえ」
あーしが色々と考え込んでいると、ルビーちゃんから声をかけられる。
「なに?」
「どうして逃げないの?」
心底理解不能という表情で尋ねられる。
・・・まぁ、そっちが普通の感覚だと思うけど。
「そりゃまぁ、逃げたくないからかな」
「ここで逃げるのは、恥ずかしい事じゃない」
「あぁいや、そうじゃないの」
たぶんゼルはそうだと思うけど、あーしは違う。
「じゃあ何?」
「アイツ倒さないと、満開の氷桜が見れないじゃん」
「・・・・・・それだけ?」
「うん」
さすがのルビーちゃんも呆れてしまったのか、声も無く顔を引きつらせる。まぁ、そういう反応になるよね。
「変だと思う?」
「・・・うん」
「そうだよね。うん、ルビーちゃんの感想は間違ってないと思うよ」
冗談でも何でもなく、冒険者は常に命懸けの職業。変人に見られるのは当たり前。
それでも。
「でもさ、ここで逃げちゃったら、あーしたちがパーティ組んだ意味無いじゃん」
「!」
「ネタパーティなんて言われるのも、あーしたちが好きにやりたい事してるからだし」
別に世界を救いたいとか、立派な思いでこの世界に来たわけじゃない。
ただ自分のやりたい事をしたいだけ。
「バカだって言われるだろうけど、このパーティなんだし、今更だよ」
そんな賢い頭してるなら、そもそもインスタしに異世界に来ないし。
「あーしは『いいね』が欲しくて、ゼルは名声が欲しい。ルビーちゃんはどう? 何がしたい?」
「私は・・・・・・」
あーしの質問に、葛藤したような顔を浮かべるルビーちゃん。
「難しく考えないでさ、ルビーちゃんが楽しいと思うことでいいんだよ」
「・・・・・・」
「あーしはまだまだ、ルビーちゃんの写真も撮りたいな」
「っ!」
何気なく言ったあーしのセリフを聞いて、ルビーちゃんがすがるような視線をあーしに向けた。
「・・・・・・アカネさんは、私を必要としてくれる?」
「え?」
予想外の言葉に思わず聞き返す。
「アカネさんは・・・二人は、私の事を必要としてくれる?」
おぉ・・・。
思わぬところで真剣な話し合いに発展してしまった。
今までの話を思い返してみても、ルビーちゃんも色々あるのかもしれない。
ただ、今あーしが言えることはただ一つ。
「もちろん! これまでもこれからも! なんなら今まさに必要な位だしね!」
単純明快。
こんなカワイイ娘を必要としない人が、この世に存在するだろうか。
少なくともあーしは、もう絶対に手放したくない。
「・・・・・・」
少し赤くなった後、迷いを振り払うように顔を左右に振ったルビーちゃんは、真っ直ぐにあーしを見つめて。
「・・・わかった。なら、私も頑張る」
「うん、一緒にガンバロ!」
「何か見つかったかぁー!?」
「あーゴメン。他の事してた」
「お前らァ!」
ゼルの怒号がむなしく響く。
何かいい雰囲気になってたけど、状況は何一つ好転していなかった。
さて、どうしよう。さっきからずっと振り出しのままだし、何とかしないと。
ゼルは移動にも魔力を使うし、このままじゃジリ貧だ。
「うーん、魔法以外なら効くんだよね」
「それでも、強力な攻撃じゃないと無意味」
「で、それを出来るメンツが今いないと」
うん、やっぱり詰んでるよねコレ。
ミュールちゃんならアレを粉砕できたりしないかな。・・・女の子に期待する事じゃないけど。
というか、無いものねだりしてもしょうがない。
「ルビーちゃん。手持ちのスクロールって何があったっけ?」
「閃光と防壁がそれぞれ五つ。転移は二つあるけど、一つは脱出用だから実質一つ」
「その中でゴーレムに効果ありそうなやつは?」
「ゴーレムは感知で動くタイプだから、閃光は意味がない。防壁と転移も魔力吸収で無効化されるだろうし、無理だと思う」
「・・・そっかー」
ため息と一緒に言葉が漏れてしまう。
他に武器になりそうな物を探してみても、周りにあるのは枯れ木と出っ張った岩だけ。
「ゼルー! あの岩引っこ抜いてぶつけるのはどう?」
「俺のこの体でか!?」
そうだった。忘れがちだけどゼルは妖精だった。
それにゼルは力が強いんじゃなくて、ただ体を固くするだけだし、そもそも抜けないかもしれない。
今までのオリジナル魔法だって、突進したり手を飛ばしたりで・・・・・・。
・・・・・・あっ。
「閃いたあー!」
「っ!?」
いきなり叫んだあーしの声に、ルビーちゃんがビクッと震える。ごめん。
「ルビーちゃん、こういうの考えたんだけど、大丈夫かな?」
あーしは思いついた作戦を、ルビーちゃんに説明する。
「・・・私の方は問題ない。ただ、ゼルさんの方は本人に聞かないと」
「オッケー、じゃあ後はゼルに聞いとくね。それじゃよろしくルビーちゃん」
「了解」
ルビーちゃんはあーしにスクロールを全て託すと、すぐにハイドで姿を消す。
作戦開始だ。




