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異世界インスタ  作者: 五寸
第1章 異世界インスタグラマー爆誕
18/117

17話 前半

 大小さまざまな岩石で構成された、いびつな巨体。

 ゴーレムと呼ばれるそのモンスターは今、あーしたちの前に立ちふさがっていた。


「何これ!? 聞いてないんだけどー!?」


 五メートルはあろうかというその巨体を前に、あーしは腰が抜けそうになってしまう。


「落ち着けアカネ」


 いつの間にやら復活したゼルが、あーしたちの前に躍り出る。


「ゼル! いつの間に?」

「冒険者なら色んな事態は想定しとくもんだ。・・・まぁこれは想定外なんだがな」


 言いながら飲み干したポーションを投げ捨てるゼル。ポイ捨ては良くない。それどころじゃないけども。


「それよりもあれ見てみろ。頭んとこ」


 ゼルが指さした、頭っぽい岩の所をよく観察してみると。


「あっ! クモのマーク!」

「!」


 この前の黒イノシシの額にあったものと同じマークが、ゴーレムの頭らしき部分に浮かんでいた。

 つまりこれは・・・。


「魔王軍の仕業か」


 あーしが言うよりも先に、ゼルが結論を出した。


「でも何だってこんなとこに湧きやがる・・・?」


 疑問を吐きながらゴーレムと相対するゼル。

 表情が読めないぶん何を考えているか分からないせいで、動作の一つ一つに過敏に反応してしまう。考える意思があるかどうかすら分かんないけど。


 あーしは内心ガチビビリしながら観察を続けていると、ゴーレムの足元が光っていることに気づいた。

 あれはゼルが氷桜に魔力を送っていた時と同じ光。・・・という事は。

 氷桜の方を振り向けば、予想通り花びらは消えて無くなり、見慣れた枯れ木の姿に戻っていた。


「ゼル、そいつが犯人だよ! そいつが自然の魔力を吸って、氷桜を枯らした犯人!」

「なるほどなぁ。魔王軍の連中もやらしい真似しやがる」

「早くやっつけて、撮影に戻ろ!」

「ぶれねえなお前さんは!」


 そう叫んだかと思うと、ゼルはゴーレムの懐に飛び込んで行った。

 もちろんゴーレムも黙っている訳は無く、右腕を振りかぶって迎撃しようと構える。黙ってるけど。


「ハッ、とろくせえ!」


 襲い来る大きな岩の腕を楽々とかわしたゼルは、そのままゴーレムの周りを舞うように飛び上がる。


「見かけ倒しかよ。楽勝だな」


 ゼルは余裕の表情を浮かべながら、魔法の詠唱を始める。

 右の掌に青い魔法陣が浮かび、その中から氷の槍が生み出された。


「くたばりやがれ! 『アイシクルスピア』!」


 ゴーレムの額に浮かぶクモのマークを目掛けて、氷の槍を思いきり投げつけるゼル。

 当のゴーレムは反応すら出来なかったのか、ほぼ無防備の状態で氷の槍が直撃した。

 ・・・・・・はずだった。


「マジか・・・」


 ゼルが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 放たれた氷の槍はゴーレムを貫く事なく、水中に投げ込んだように、音も無く飲み込まれていた。


「え、どういうこと?」

「あの野郎・・・俺の魔法を吸収しやがった」

「ええ!?」

「まぁ氷桜がああなってる時点で、予想しとくべきだったが」

「それってつまり、ゼルの攻撃が効かないってこと!?」

「そうなるな」

「うそぉーーー!?」


 そんな、ただでさえウチのパーティはネタ扱いされてるのに。その上ゼルまで封じられちゃったら、最早ただの登山客になってしまう。


「なんとかならないの?」

「まぁ何とかできん・・・・・・できんな。無理」

「なんでもったいぶった今!?」


 なんてしょうもない漫才を繰り広げている間に、ゴーレムの巨大な岩の腕がゆっくりと振り上げられる。


「え、ちょ、ヤバい! どうしよ!?」

「とにかく逃げろ! 走れ!」


 ゼルの言葉に従ってとにかく一直線に走る。

 しばらく走るとまたもや轟音と地響きが起こり、振り返るとさっきまであーしたちが居た場所が、巨大な岩で埋め尽くされていた。

 幸い動きが遅いからなんとかなっているものの、いつあーしの腰が抜けるかと思うと気が気じゃない。


「どどどどっ、どうすんのゼル!?」

「どうしようもねえよ。あれはもう俺の天敵つってもいい」


 魔法に関してはプライドの塊みたいなゼルが匙を投げている。今回ばかりは本当にどうしようもないかもしれない。

 でもアレを倒さない限り、いつまでも氷桜を撮る事が出来ない。

 何か・・・何か方法は・・・・・・。


「あれっ? そういえばルビーちゃんは?」

「ここ」

「うひぃ!?」


 あーしの真後ろからぬるりと、ルビーちゃんが現れる。心臓に悪いから止めて欲しいなそれ。


「どこ行ってたのルビーちゃん?」

「スクロールを取りに」


 そう言って紙筒の束を見せてくるルビーちゃん。仕事速いね。


「ね、ねえルビーちゃん。ルビーちゃんならアレどうにかできない?」

「無理だな」


 なぜかゼルが即答する。


「あいつとやるならハンマーみたいな、打撃系の武器が必須だ。ルビーの持ってる小刀じゃポッキリいっちまうぞ」

「そ、そっか・・・」

「だから本来は強い魔法でぶっ飛ばすのが定石なんだが・・・アレじゃあな」

「じゃあ、逃げる?」

「バカ言え」


 またもやゼルが即答する。どっちやねん。


「なんとかできんとは言ったが、俺は戦いを諦めた訳じゃない」

「何その屁理屈・・・」

「うるせえ。第一未知の敵相手に、そうポンポンと必勝法が出る訳ねーだろ」


 そう言うや否や、ゼルは腕を組んでうんうんと唸りだした。

 目的は違うけど、諦めたくないのは同じみたい。

 なんとか突破口は無いかとゴーレムに目を向けると、こちらへ向き直りゆっくりと動き始める姿が。


「ちょちょっ、ちょっと! またこっち来たよアレ!」


 たとえスピードが遅いとわかっていても、五メートル台の巨体に迫られる威圧感は凄まじいものがある。ぶっちゃけ氷桜が無かったら今すぐ帰りたい。


「ちぃっ、しょうがねえな!」


 ゼルは小さなつららを飛ばす魔法を適当に打ち込みながら、大きくあーしたちから距離を取るように移動する。

 するとゴーレムもそれに釣られて、あーしたちからゼル個人へと標的を変える。


「俺がしばらく引き付けるから、何か突破口を探ってくれ!」

「わ、分かった! 気を付けてね!」


 ゼルは返事を返すことなく、ゴーレムとの戦いに集中する。

 見ればゼル本人も色々試しているのか、魔法だけじゃなく小石をぶつけたりしている。吸収される事はないみたいだけど、さすがに効果はなさそう。

 黒イノシシの件から考えても、頭のクモのマークが弱点で間違いなさそうだし、どうにかそこを攻撃できる方法を・・・。


「何かないかな・・・何か・・・・・・」

「ねえ」


 あーしが色々と考え込んでいると、ルビーちゃんから声をかけられる。


「なに?」

「どうして逃げないの?」


 心底理解不能という表情で尋ねられる。

 ・・・まぁ、そっちが普通の感覚だと思うけど。


「そりゃまぁ、逃げたくないからかな」

「ここで逃げるのは、恥ずかしい事じゃない」

「あぁいや、そうじゃないの」


 たぶんゼルはそうだと思うけど、あーしは違う。


「じゃあ何?」

「アイツ倒さないと、満開の氷桜が見れないじゃん」

「・・・・・・それだけ?」

「うん」


 さすがのルビーちゃんも呆れてしまったのか、声も無く顔を引きつらせる。まぁ、そういう反応になるよね。


「変だと思う?」

「・・・うん」

「そうだよね。うん、ルビーちゃんの感想は間違ってないと思うよ」


 冗談でも何でもなく、冒険者は常に命懸けの職業。変人に見られるのは当たり前。

 それでも。


「でもさ、ここで逃げちゃったら、あーしたちがパーティ組んだ意味無いじゃん」

「!」

「ネタパーティなんて言われるのも、あーしたちが好きにやりたい事してるからだし」


 別に世界を救いたいとか、立派な思いでこの世界に来たわけじゃない。

 ただ自分のやりたい事をしたいだけ。


「バカだって言われるだろうけど、このパーティなんだし、今更だよ」


 そんな賢い頭してるなら、そもそもインスタしに異世界に来ないし。


「あーしは『いいね』が欲しくて、ゼルは名声が欲しい。ルビーちゃんはどう? 何がしたい?」

「私は・・・・・・」


 あーしの質問に、葛藤したような顔を浮かべるルビーちゃん。


「難しく考えないでさ、ルビーちゃんが楽しいと思うことでいいんだよ」

「・・・・・・」

「あーしはまだまだ、ルビーちゃんの写真も撮りたいな」

「っ!」


 何気なく言ったあーしのセリフを聞いて、ルビーちゃんがすがるような視線をあーしに向けた。


「・・・・・・アカネさんは、私を必要としてくれる?」

「え?」


 予想外の言葉に思わず聞き返す。


「アカネさんは・・・二人は、私の事を必要としてくれる?」


 おぉ・・・。

 思わぬところで真剣な話し合いに発展してしまった。

 今までの話を思い返してみても、ルビーちゃんも色々あるのかもしれない。

 ただ、今あーしが言えることはただ一つ。


「もちろん! これまでもこれからも! なんなら今まさに必要な位だしね!」


 単純明快。

 こんなカワイイ娘を必要としない人が、この世に存在するだろうか。

 少なくともあーしは、もう絶対に手放したくない。


「・・・・・・」


 少し赤くなった後、迷いを振り払うように顔を左右に振ったルビーちゃんは、真っ直ぐにあーしを見つめて。


「・・・わかった。なら、私も頑張る」

「うん、一緒にガンバロ!」

「何か見つかったかぁー!?」

「あーゴメン。他の事してた」

「お前らァ!」


 ゼルの怒号がむなしく響く。

 何かいい雰囲気になってたけど、状況は何一つ好転していなかった。

 さて、どうしよう。さっきからずっと振り出しのままだし、何とかしないと。

 ゼルは移動にも魔力を使うし、このままじゃジリ貧だ。


「うーん、魔法以外なら効くんだよね」

「それでも、強力な攻撃じゃないと無意味」

「で、それを出来るメンツが今いないと」


 うん、やっぱり詰んでるよねコレ。

 ミュールちゃんならアレを粉砕できたりしないかな。・・・女の子に期待する事じゃないけど。

 というか、無いものねだりしてもしょうがない。


「ルビーちゃん。手持ちのスクロールって何があったっけ?」

「閃光と防壁がそれぞれ五つ。転移は二つあるけど、一つは脱出用だから実質一つ」

「その中でゴーレムに効果ありそうなやつは?」

「ゴーレムは感知で動くタイプだから、閃光は意味がない。防壁と転移も魔力吸収で無効化されるだろうし、無理だと思う」

「・・・そっかー」


 ため息と一緒に言葉が漏れてしまう。

 他に武器になりそうな物を探してみても、周りにあるのは枯れ木と出っ張った岩だけ。


「ゼルー! あの岩引っこ抜いてぶつけるのはどう?」

「俺のこの体でか!?」


 そうだった。忘れがちだけどゼルは妖精だった。

 それにゼルは力が強いんじゃなくて、ただ体を固くするだけだし、そもそも抜けないかもしれない。

 今までのオリジナル魔法だって、突進したり手を飛ばしたりで・・・・・・。


 ・・・・・・あっ。


「閃いたあー!」

「っ!?」


 いきなり叫んだあーしの声に、ルビーちゃんがビクッと震える。ごめん。


「ルビーちゃん、こういうの考えたんだけど、大丈夫かな?」


 あーしは思いついた作戦を、ルビーちゃんに説明する。


「・・・私の方は問題ない。ただ、ゼルさんの方は本人に聞かないと」

「オッケー、じゃあ後はゼルに聞いとくね。それじゃよろしくルビーちゃん」

「了解」


 ルビーちゃんはあーしにスクロールを全て託すと、すぐにハイドで姿を消す。

 作戦開始だ。

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