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異世界インスタ  作者: 五寸
第1章 異世界インスタグラマー爆誕
17/117

16話

「やぁっと着いたぁぁぁ~」


 山登りを始めてから数時間後。

 ようやく頂上に辿り着いたあーしは、疲れもあって地面の上に座りこんだ。

 ぶっちゃけ体ごと投げ出したいんだけど、さすがに汚いから止めておく。


「おいおい。お前さんはこれからが本番だろ?」


 言いながら、あーしの横をゼルとルビーちゃんが通り過ぎていく。

 ゼルは常に浮いているおかげか、特に疲れた様子は無い。ずるい。

 ルビーちゃんは同じように歩いていたはずだけど、こちらも疲れた様子は無い。あれだけ食いっぷりがいいんだし、単純に体力があるのかもしれない。

 まぁ、一番の理由は他にあるんだけど。


「全然ゴブリン見つからなかったね」

「シケてやがるぜ、ったくよぉ」


 口を尖らせてつまらなそうに呟くゼル。

 あーしとしては危険が無いに越したことは無いんだけど、なんとなく腑に落ちない所もあった。

 ゴブリンと遭遇したのはさっきの戦闘一回きり。数も十匹前後だったけど、山の規模で考えると少ないような気がする。

 グリズリーに至っては一匹も遭遇しなかったんだけど、これはエサのゴブリンがいなくなったから、狩り場を変えたんじゃないかって予想が立った。実際あーしたちはそれでグリズリーと最初に戦った訳だし、こっちは納得できるかも。


「もしかして、この頂上で待ち伏せしてるとかないよね」

「あいつらの狩場は下の山道だ。こんなハゲ散らかした所に用なんかねえよ」

「ゴブリンは洞窟とか、隠れられる場所を好むから、こんな開けた場所にはいない」

「そっかー。まぁ、それはそれで好都合か。邪魔も入らないしね」


 安全確認が取れた所で、あーしは立ち上がって改めて辺りを見回してみた。


「ふーん」


 あーしの目に映る山頂付近の景色は、緑生い茂る道中と違って、数本の枯れ木と出っ張った岩だけが並ぶ、とても寒々しい光景。


「ほほぉー」


 日も沈み全体的に薄暗くなった事で、寂しい雰囲気が更に強調されていた。


「・・・・・・」


 何が言いたいかというと、聞いていた話と違う。


「ねえ、氷桜ってどれ?」

「目の前にあるだろ」


 そう言ってゼルが指さしたのは、枯れ葉すら残ってない目の前の木々。

 ・・・・・・は?


「どれ?」

「だから、これ」


 小さい手でペタッと木に触れるゼル。

 聞き間違いでも何でもなく、氷桜とは目の前の枯れ木で間違いないみたい。


「嘘ついたのゼル!? 氷の花びらどころか葉っぱ一枚すらないじゃん!」

「ついてねーよ! 俺だって今見てビックリしてんだよ!」

「落ち着いて、二人とも」


 ヒートアップしそうになるあーしたちの間に、ルビーちゃんが割って入る。


「ハァ・・・氷桜は自然の魔力が結晶化したもんだ。それが枯れてるっつーことは、その魔力がどっかで途切れてる」

「つまり、その魔力を横取りしてる奴が居るってこと?」

「予想でしかないがな」

「じゃあそれを探しに行こ!」

「どうやってだよ」

「・・・・・・」

「無策で夜の山を歩くのは危険」


 ごもっともです。

 がっくりと肩を落とすあーしを他所に、二人はキャンプの準備を進めていく。

 ルビーちゃんの言った通り夜の山は危険だから、今回のクエストはキャンプで一泊してから帰る予定になっている。

 正直肩透かしもいいところだけど、異世界初キャンプというもう一つの楽しみのおかげで、あーしの機嫌はすぐに元通りになった。


「準備するから、下がって」


 あーしとゼルを遠ざけると、ルビーちゃんはスクロールを一つ取り出し、地面の上に広げる。

 するとスクロールに描かれた魔法陣が輝き始め、光の粒子が溢れ出した。やがて光の粒子はそれぞれ一か所に集まり、簡易キャンプセットへと姿を変える。


「おおー!」

「贅沢な使い方だよなぁ」

「物は使わなきゃ、意味が無い」


 そんな男前な理由で使われたのは、転移のスクロールである。

 本来は危険な状況からの緊急脱出に使う、奥の手のアイテムらしいけど、複数もっているのと補充の当てがあるとの事で、今回はこういう風に使わせてもらう事となった。


「ほんとに便利だねこれー。あーしも何個か買っとこうかな」


 撮っておいた転移の動画を見ながら、何の気なしに呟くと。


「だいたい一つ二~三十万はするぞ」

「高っ!?」


 お約束の世知辛異世界があーしの肩を叩いた。

 そんな物を融通してくれる知り合いって、一体何者なんだろう。あーしも紹介してほしくなってきた。

 とりあえずスクロールのステマとして動画をアップしておき、みんなでキャンプセットを組み立てていく。


「そういえばさー。転移のあれって、ここに来るのに使ったりできないの?」


 作業中の話題もかねて、異世界知識についての質問をしてみる。


「あれを使うには、特殊な印が必要」

「印?」

「転移の魔法と紐づけする為に付けとくんだ。そいつが付いてるモンしか呼べないし、付いてる所にしか行けない」

「へー」


 さすがに万能って訳じゃないのね。まぁ当たり前か。


「ここに付ければいつでも来れるけど、する?」

「いや、止めとく」


 一回三十万するし。

 それにこういうのは、自分の足で辿り着くからこそ、いい思い出になるんだし。


「あーしこのまま夜ごはんの準備するから、そっち任せちゃっていい?」

「おう」

「こっちは任せて」

「よろしくねー」


 二人に許可を取ってから、あーしはキャンプセットの中に仕込んでいた、調理器具を一つ一つ取り出していく。

 転移のスクロールのおかげで、野外でもがっつり料理が出来るのはポイント高いよね。この辺はもう元の世界よりも便利なレベル。

 ちなみにこの案に一番食いついたのはルビーちゃんで、進んでスクロールを差し出してきた。食いしん坊さんだね。


「何作るんだ?」

「シチュー」

「おお、いいな」

「しちゅー?」


 あれ、ルビーちゃんシチュー知らない?


「牛の乳に野菜とか入れて煮込んだ料理だ。旨いぞ」


 雑にも程があるゼルの説明でさえ、じゅるりと音を立てるルビーちゃん。

 これは作り甲斐があるね。






 キャンプセットを組み終える頃には、辺りは完全に真っ暗闇になった。

 今はみんなで焚火を囲んで、お互いが見える範囲に留まっている。

 そんな空間を、シチューの芳醇な香りが包み込んでいく。


「ぉぉ~・・・!」


 完成したシチューを見ながら、小さい声で興奮するルビーちゃん。

 口数が少ない代わりに目がキラキラと輝いていて、見ていて大変微笑ましい。


「いい匂いだな、腹減ってきた」

「ふふん。あーしの得意料理の一つだからね。じゃあ二人とも、お皿持ってきて」


 三人それぞれのお皿にシチューをよそって、椅子に座って手を合わせる。


「「「いただきます」」」


 二回目の星空レストラン、開店。


「うん、寒い外で食うとなお旨いな」

「あーし鍋とかやりたくなってきた」

「あーいいな。酒もあったら最高」

「ゼルそればっかじゃん」


 なんて二人で談笑しながら、ちらりとルビーちゃんの方を伺うと。


「ほぁ・・・」

 うっとりとした表情で、シチューの入ったお皿を見つめていた。


「どう、ルビーちゃん? お口に合ったかな?」

「うん、おいしい」


 返事はするものの、相変わらず恍惚とした表情で、シチューから目を離さない。ヤバい。超かわいい。


「お前さん、シチューは初めて食ったのか?」

「うん」

「今まではなに食べてたの?」

「缶詰とか」


 おぉ・・・。

 何とも言えない表情になってしまったあーしとゼル。おかわり分までシチュー作ってて本当に良かった。


「ルビーちゃんてさ、あーしたちのパーティに来る前は何してたの?」

「・・・・・・」


 答えづらい質問だったのか、スプーンを持つ手すら止めて俯くルビーちゃん。

 やばい、地雷踏んだ?


「あーごめん。言いたくないなら無理して・・・」

「違うの。その・・・アサシンの修行で、外界と離れた所に居た。内容は言えないけど」

「本格的だな。そりゃハイドの技術も上がる訳だ」


 既にシチューを平らげたゼルが、おかわりをよそいながら感想を述べた。それを見たルビーちゃんは、慌ててシチューをかき込んでいく。


「そんな慌てなくてもまだあるから」


 あーしは苦笑しながら自分のシチューをスプーンで掬う。

 こんなに喜んでもらえるなら、他にもいろいろ作ってあげたくなっちゃうな。かわいい写真も撮れるし、ウィンウィンってやつ。


「そういや聞いてなかったが、アカネは何してたんだよ」

「え、あーし?」


 ルビーちゃんからあーしへと話題が流れる。

 どうやらルビーちゃんも興味があるようで、両目はあーしを見つめながら、器用にシチューを口に運んでいた。


「あーしはJK・・・学生やってたよ。この世界がすごいインスタ映えするって聞いたから来たの」

「どこから来たの?」

「日本っていう・・・遠い国かな」


 別に言ってもいいんだけど、説明とかめんどくさいし、適当にぼかしておく。

 まぁ嘘は言ってないしね。


「じゃあ次ゼルね」

「ほほう、気になるか。天才であるこの俺様の過去が」

「やっぱいいや。はいルビーちゃん、あーん」

「・・・ぁ、あーん」

「・・・」


 なんて、いつも通りの他愛のない会話をしながら、あーしは異世界初キャンプで味わう夜ご飯を存分に堪能した。






「ンー、ンフフフフ」

「きめえ笑い方だなオイ」


 失礼な羽虫は無視しながら、あーしはインスタ記事をスクロールしていく。

 画面の中では、長身のお姉さんや小さな少女など、バリエーション豊かな女の子たちが右から左へと流れていく。

 もちろん彼女たちは全て、ルビーちゃんの変装である。

 明日原因を探す事にしたとはいえ、それでも今日のあーしの欲求不満は解消されない。

 だからその分、ルビーちゃんを思う存分堪能させてもらいました。


「あーもー、ルビーちゃん大好き! あーしの職業と相性良すぎでしょー!」

「・・・ありがと」


 あーしのありったけの愛情をハグで表せば、ルビーちゃんも赤くなりながら答えてくれる。

 ちなみに今のルビーちゃんは、最初の黒髪少女に戻っている。あーしはこのルビーちゃんが一番好き。


「ホラ見てこれ! ルビーちゃんについた『いいね』の数! すごくない!?」

「・・・うん。うれしい」

「盛り上がってるとこ悪いが、そろそろ寝ねえと明日きついぞ。山ん中動くんだからよ」

「えー、もうちょっとくらい大丈夫でしょ」

「俺は構わんけどよ。一番きついのは多分お前だぞアカネ」

「うぐっ・・・そうだけどさ」


 今のあーしはいわゆる、修学旅行の夜状態になっているのだ。ここで素直に寝るのはなんかもったいない気がする。


「あっそうだ! まだみんなで集合写真撮ってないじゃん!」

「まだ撮るのか・・・」

「だってそれが仕事だし」


 呆れた様子のゼルを他所に、あーしは立ち上がって辺りを見回す。

 安全も考えて、ルビーちゃんの写真は全部焚火の近くでしか撮れなかったんだけど、さすがにちょっとマンネリ気味。

 せめて思い出の集合写真くらい、特別な一枚にしたい。


「うーん・・・」


 荒涼な山頂の景色の中で目に入るのは、やはり氷桜・・・と呼ばれる枯れ木。


「ねえゼル。あれなんとかならない?」

「ここまでひでぇ無茶振りは初めて聞いたぜ」


 文句は言いながらも、まんざらでもない表情で隣に来るゼル。


「まぁ、何とかできん事もない」

「ほんと!?」


 ダメ元でも聞いてみて良かった。ゼルはなんだかんだ頼りになる。


「自然の魔力で生まれるものを、どうにか出来るの?」


 ルビーちゃんも若干驚いた様子でゼルに尋ねる。

 もしかして、意外とすごい事だったりするんだろうか。


「俺様を誰だと思ってやがる。物事ってのは応用力がモノを言うんだ。俺様のオリジナル魔法だって、その賜物だしな」

「ネタ扱いされてるけどね」

「やかましい」


 なんとか出来るというゼルの言葉を信じ、あーしたちは松明を持って氷桜へと近づく。


「ねぇ、どうやって氷桜を咲かせるの?」

「回復魔法の応用だ」

「?」

「なるほど」


 あーしはちんぷんかんぷんのままだったけど、ルビーちゃんの方は合点がいったみたい。いや回復魔法の応用とか言われても、基礎すら知らんあーしには意味不明なんですけど。


 頭にハテナマークを浮かべている間に、氷桜の目の前までやってきた。

 そのうちの一本の前まで来たところで、先頭を進んでいたゼルがくるりと振り向く。


「回復魔法の基本として、魔力を相手に流し込んで新陳代謝を促す魔法がある。そいつをあの枯れ木に使ってやろうって訳だ」

「なるほど!」

「でも、魔力が足りないんじゃ・・・」

「俺様を誰だと思ってやがる。・・・二回目だなコレ」


 決め台詞を言ったつもりが、若干滑ってしまうゼル。これぞゼルクオリティ。


「何度も言うが、俺様はレベル7のプリーストで妖精だ。不服ながら得意分野なんだよ」


 そう言ってゼルは木の幹に触れると、その体が光りだし、氷桜へと伝わっていく。

 見た目からして、今まさに魔力を送っているんだろう。


 すると、何も付いていなかった枝の至る所から、白いつぼみのようなものが現れる。

 テレビなんかでよく見る早送りした植物の成長シーンのように、生えてきたつぼみは次々と花開き、月の光を受けて美しく幻想的な輝きを放つ。

 薄い水色を含んだ白銀の花びらは、まさに氷桜の名にふさわしい様相だった。


「っだはぁああああああ! あー、しんど・・・・・・」


 一本の氷桜が満開になった所で、ゼルが声を上げながら羽を失くして墜落する。

 それを素早くキャッチして、改めて氷桜へ向き直る。


「すっごい・・・」


 花びらの一つ一つが放つ宝石のような輝きに、思わずうっとりしてしまう。

 隣ではルビーちゃんも、同じような表情を浮かべて見つめていた。


「見惚れてるとこ悪いが、そう長くはもたんぞそれ」


 あーしの胸の中でぐったりしているゼルが、あーしたちを現実に引き戻す。


「ありがとゼル! ルビーちゃん、ちょっと持ってて」

「う、うん」


 ゼルをルビーちゃんに渡して、あーしはスマホの内側カメラを起動し、自撮り棒にセットする。


「よし。ルビーちゃん、もっとこっち寄って」

「こ、こう?」


 おずおずと近づいてくるルビーちゃん。


「もっとこっち! ホラ!」

「ひゃっ」


 強引に抱き寄せて、あーしとルビーちゃんの頬をくっつける。

 画角を合わせるために見ているスマホの画面の中では、笑顔でルビーちゃんに頬を寄せるあーしと、それで赤くなるルビーちゃん。そしてその下で目を閉じながらも、ピースサインを掲げるゼルが写っている。

 背景には、砕けた花びらの舞う氷桜。

 いいじゃん! これぞファンタジーのインスタ映えスポットってカンジ!


「準備はいい?」

「おう・・・」

「うん」

「んじゃいくよー。ハイチーズ!」


 パシャっと、シャッター音が鳴ると同時にフラッシュが光る。


 そしてそれを掻き消すほどの轟音が、山頂付近に響き渡った。


「キャッ!? なにっ、何なの!?」

「これは・・・!」

「あー・・・・・・?」


 轟音は鳴り止まないまま、地響きと共に地面が割け、ボコボコと地中から何かが盛り上がってくる。


 とりあえず逃げないと・・・!

 しかしそうしようとしても、地響きのせいで立っているのがやっとで、思うように身動きが取れない。


「ル、ルビーちゃん! 転移のスクロールは!?」

「キャンプだから、無理」

「そんなぁ!」


 そうこうしている間に、盛り上がる地面を突き破り、巨大な影が姿を現した。

 あれは・・・。


「・・・・・・ゴーレム」

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