14話
「今日のクエストはこれ。もう決定」
ルビーちゃん歓迎会からの翌朝。
ギルドの大扉の前で待ち構えていたルビーちゃんから、クエスト記事を突き出されて宣言された。
「えっと・・・ゼル、これって?」
「知らん。職員が言うにゃ誰よりも早く来て受注を済ませたんだと」
「あの、ルビーちゃん。理由を聞いてもいい?」
「昨日みたいにもみくちゃにされるのは、もう嫌」
そう言ってほっぺをぷくっと膨らませるルビーちゃん。これも撮りたいけど撮ったら怒るんだろうな。
さすがに耐性の低いルビーちゃんに昨日の歓迎会はきつかったかぁ。
ただでさえカワイイのにあーしがインスタに写真を上げたもんだから、いつも以上の人数がルビーちゃん目当てでギルドに押し掛けた。そりゃこうもなるよね。ちょっと反省。
「で、何のクエストを選んできたの?」
「平原に現れた、ゴブリンの討伐」
「まぁ無難だな。でも次はちゃんと待っとけよ。俺たちのパーティに入った以上は目立つのは避けられん。てか目立つのが最優先まであるからな」
「・・・わかった」
「じゃあ行こっか。場所も近いし、食べ歩きしてこ」
「小旅行じゃねえぞお前」
朝ご飯のおかずクレープを食べながら、平原の道を歩くこと十数分。
澄み渡る青空の下で、ひたすらに広がる緑の上を歩いてご飯を食べるというのは、これだけでもう冒険感が溢れて良いカンジ。
「お昼ご飯も持ってきたから、今日は外で食べようよ」
「ピクニックか。まぁいいけどよ」
「ふぁんふぇい」
「食いながら喋るんじゃねえ」
珍しくツッコミに回るゼル。
何でも売ってる街の大通り沿いの商店だけど、まさか冒険者向けのお弁当まであるとは思わなかった。
ほとんどが力の付きそうなお肉たっぷりのお弁当だったんだけど、もしかしてとミュールちゃんのお店に行ってみれば、予想通りヘルシーなお弁当が売ってあった。イセリア農園も商売上手だね。
今食べているおかずクレープも売り物の一つ。まさかこの世界にもあるとは。
「それで、ゴブリンってどの辺にいるの?」
「恐らく、街道沿いで身を隠せる場所」
「アイツらの獲物は商人なんだが、その前にルートを下見して計画を練る。つまり商人を襲うならどの辺がいいか考えれば、自ずと場所は絞れるって訳よ」
「なんか考え方が危ないんですけど・・・」
でも理には叶ってるので黙ってついて行く。
しばらくすると、ルビーちゃんの足が急に速くなり、先頭を切って歩き出した。
「どうしたのルビーちゃん?」
「恐らくこっちにいる」
「アレだな。アサシンだからその手の考えが読めるんだろ」
「もうちょっと言い方あるでしょ」
「その通り」
「ルビーちゃんも否定して」
あーしのツッコミが空しく響く中、ルビーちゃんが足を止める。
「いた、あそこ」
「うわっ、ホントに緑色なんだ」
「今は撮るなよ。バレたら面倒だ」
「わかってるし」
スマホのカメラを応用して、敵の様子を探る。
フレームの中に映るのは、イメージ通りに耳と鼻が長い緑色の小人たち。正確には小鬼って呼ばれてるらしいけど。
数は四体。各々武器を研いだり、よく分からないものを食べたりと自由にしている。少なくとも警戒してる様子はなさそう。
「じゃあルビーちゃん。お願いね」
「分かった」
「俺様の分も残しといてくれよ」
あーしたちと短く言葉を交わすと、ルビーちゃんはアサシンのスキルで風景に溶け込んでいく。・・・比喩でも何でもなく、マジで風景に溶け込んで見えなくなった。この青空の下で。
「えっ、アサシンってこんなガッツリ消えるもんなの?」
「いや、普通は物陰に潜んでから使うモンのハズだが・・・やるなルビーのやつ」
あーしたちがルビーちゃんの実力に感動していると、いつの間にか移動していたルビーちゃんが、一体のゴブリンの背後から染み出すように現れる。すごいなアレほんと。
音を立てずに腰の小刀を引き抜き、そのままゴブリンの首を一閃。
そして転がり落ちたゴブリンの首から噴き出たのは、赤い血ではなく茶色い砂だった。
「なっ!?」
「えっ、砂ッ!?」
「どうなってる、ゴブリンじゃねえのかあれ!?」
急いで飛び出したゼルの視線の先では、残った三体のゴブリンがルビーちゃんを捉えたところ。
「『ロックハンズ』!」
ゼルは岩の腕で水平に薙ぎ払い、ゴブリンを三体まとめて攻撃する。
すると意外というか予想通りというか、ゴブリンは吹っ飛ぶ事もなく砂をまき散らして崩れ去った。
もしかしてこれって・・・。
「!? おいルビー!」
慌てるゼルの言葉を聞いてルビーちゃんの方を見れば、土に変わったゴブリンの体に組み付かれ、地面に引きずり込まれる姿が。
「ゼル!」
「わかってッ・・・!? 何だ!?」
急いで助けに向かおうとしたゼルの道を塞ぐように、ひと際大きい土の塊が地面から這い出して来る。それはいつか戦った、ブラッドグリズリーの姿に少し似ている気がした。
しかも一体だけじゃなく、二体三体とゼルを囲むようにどんどん這い出して来る。
「もしかしなくても、これってクレイマンだよね!? なんでバリエーション増えてんの!?」
「土くれが俺様の邪魔すんじゃねえ! 『シェル』!」
ゼルは小さく作った壁の魔法を勢いよく拡大し、周りの土グリズリーを弾き飛ばす。
しかし次にあーしたちの視界に入ったのは、ルビーちゃんが完全に土に飲み込まれる瞬間だった。
「・・・・・・うそでしょ?」
「諦めんじゃねえ! 埋まったら掘り起こしゃいいだろ!」
ゼルの言葉に倣ってルビーちゃんが飲み込まれた地面に近づいていくと、その地面から小さい手が這い出した。
「! 良かった、ルビーちゃ・・・ん・・・?」
ゆっくりと這い出してきたのは、ルビーちゃんのシルエットをした土人形。
顔のパーツもなくただ周りをなぞっただけのようなその土人形は、似せる気も無い外観に対して異様に機敏な動きで土の小刀を抜き、ゼルに襲い掛かった。
「ちょっ、いきなりかよ!?」
本物と同様流れるような刀捌きでゼルの首を狙う土ルビーちゃん。
ゼルは焦りながらもその攻撃を交わし、何とか反撃の機会を探る。
・・・なんで土ルビーちゃんだけ動きがリアルなんだろう?
「ねえゼル! その中にルビーちゃんが入ってたりしないかな!?」
「あり得そうだな。つーか入ってようが無かろうが、まずはコイツを倒さんとなァ! 『アーマーライズ』!」
体を固くする魔法を唱えたゼルを、白い光が包み込む。
ダンジョンの時と同じように被弾上等で殴り掛かったゼルは、刀の攻撃をものともせず土ルビーちゃんを殴り飛ばす。・・・土とはいえ遠慮ないなぁ。言ってる場合じゃないんだけどさ。
殴り飛ばされつつも受け身で衝撃を逃がした土ルビーちゃんは、攻撃力が足りないと踏んだのか、そこら中の土を集めて体をいびつに巨大化させる。さすがにルビーちゃんの形は保てないのか、元のクレイマンのような不気味な見た目に戻ったものの、黒イノシシばりに巨大化した分パワーは上がってそうな雰囲気。
・・・ここ駆け出しの集まる街だったよね?
「でかくなりゃ勝てるってか? 甘えッ!」
ゼルは不敵に笑うともう一度岩の腕を作り出し、巨大化して動きの鈍ったクレイマンの鳩尾目掛けて思いきり殴り掛かる。ただ、向こうも防御力が上がっていたのか、土を殴ったような音が空しく響くだけ。
もちろん巨大クレイマンは気に留めることなく、おかえしとばかりにゼルに向かって土の拳を振り下ろす。
「ゼル! 危ない!」
「問題ねえ! しっかり撮ってろよ!」
ゼルは岩の拳を巨大クレイマンに押し当てたまま、更に魔法を唱え始める。
すると、腕の一部分が飛び出す様に拡張して、そこからジェット噴射のように炎が噴き出し始める。
「見せてやるぜ、俺様のスペシャルコンボその2! 『ロケットパアァァァーーーーーンチッ』!!!」
ゼルの気合の入った叫びに合わせて、名前の通りロケットの如く発射された岩の腕が、巨大クレイマンにめり込んだまま空高く飛んでいく。
「砕け散れッ!」
ある程度の高さまで飛んだのを見計らったゼルは、自分の小さな拳をグッと握りしめる。すると連動するようにしてロケットパンチが強く発光し、巨大クレイマンもろとも爆発した。
パラパラと焦げた土の雨が降りしきる中、ゼルは拳を上げたまま静かに呟く。
「決まったぜ・・・!」
「いやそれどころじゃ無いから! ルビーちゃん落ちてきてるから!」
逆光で少し見づらいけど、気を失った様子のルビーちゃんが土の雨と一緒に落ちてくる。
あれこれ考える前に体が動いていたあーしは、多少もたつきながらも滑り込むようにしてキャッチした。
「ハァッ・・・ハァッ・・・ギリギリセーフ」
「いや、アウトだ・・・」
振り向いた先では、魔力切れになったゼルが地面に墜落していた。
良かった、ご飯と一緒にポーションも買っておいて正解だったみたい。
「んっ・・・・・・」
「あっ、起きた?」
あーしが膝枕していたルビーちゃんが、ようやく目を覚ます。
無言でむくりと起き上がると、きょろきょろと周囲を見渡してからあーしとゼルの顔を交互に見て。
「・・・どうして、逃げなかったの?」
「えっ?」
「開口一番それかい」
意表を突かれて言葉が出なかったあーしは、ゼルのツッコミに続いて頷く。
「クレイマンに飲み込まれた時点で、助かる保証なんてなかった。ゼルさんには限界もある。どうして・・・」
「そんなもん」
「ルビーちゃんが大事だからに決まってるじゃん!」
ゼルに食い気味で被ったあーしのセリフを聞いて、ルビーちゃんの白銀の瞳があーしの顔を映し出す。
「大事・・・?」
「そうだよ。ルビーちゃんはパーティの大事なメンバーなんだから!」
「・・・探せば代わりくらい見つかる」
「あのなぁ・・・」
妙に自分を軽く見るルビーちゃんに、ゼルが呆れた様子で語り掛ける。
「今までお前さんがどういう生き方してきたかは知らんが、自分の命を軽く見るもんじゃねえぞ。俺たち冒険者は理由はどうあれ命のやり取りで成り立つ仕事だ。そこを軽んじるやつに冒険者やる資格はねえ」
めずらしく真面目に説教を始めるゼル。ただ、チンピラ妖精と言われる割には諭すような優しい声音。
・・・なんだろう、ゼルが初めて妖精に見えてきたかも。
「互いに命を預け合うのが冒険者パーティだ。捨て駒みてえに考えるより先に、地べた這いつくばってでも生きようとする根性を身に着けろ」
「それにさ、ルビーちゃんを大切に思ってるのはあーしたちだけじゃないよ」
あーしはルビーちゃんに肩を寄せて、インスタを開いた画面を見せる。
そこに映るのは、膝枕中に撮ったルビーちゃんの寝顔写真と、それに付けられた三ケタ越えのいいねの数。
「ほら見て、これだけの人がルビーちゃんのこと『いいね』してくれてるんだよ。他の写真にも、ほら」
「っ・・・こんなに・・・・」
「ルビーちゃんが思ってる以上に、ルビーちゃんのことを大切に思ってくれる人が居るんだよ。その証拠に、ルビーちゃんの記事だけ上げた瞬間すぐ伸びるし。他のじゃこうはいかないよ」
「えっ、マジで?」
なぜかルビーちゃんじゃなくてゼルが素で反応してくる。何気にショックなんだろうか。
ルビーちゃんはルビーちゃんで頬を染めたまま画面を見つめて動かない。かわいいなもう。
「あー、天気も良いし着替え持ってくればよかったかなぁ。そろそろ普通にかわいい服とかも着せてみたいし」
「俺たちゃ討伐クエストに来たんだがな。まぁピクニック気分で出発してる時点で今更だけどよ」
呆れ顔でため息をつくゼル。まぁこれがあーしたちのパーティってことで。油断しすぎるのも反省しなきゃだけどね。
「・・・着替えが見たいの?」
「え?」
しばらく黙っていたルビーちゃんが、唐突に切り出す。
「私の、他の姿が見たいの?」
「そりゃもちろん! 絶対伸びるし!」
「・・・・・・分かった」
そう言うや否や、ルビーちゃんはハイドで姿を隠してしまった。え? どういう事?
いきなりの展開に困惑していると、数秒もしないうちに再び姿を現す。
「お? おおぉぉおおおお!」
くるりと一回転しながら現れたのは、薄青のドレスを身に纏った、金髪ツインテールの美少女だった。
・・・・・・あれ?
「・・・えっと、ルビーちゃん・・・・・・でいいんだよね?」
「うん」
「・・・ぇええええええ!?」
「こいつは驚いた・・・」
いやいやいや、ちょっと待って!
あまりの出来事にあーしは撮影すらほっぽりだし、ルビーちゃんのいたる所を触ってチェックしていく。
「な、なに?」
「うそ・・・地毛じゃんコレ・・・。カラコンも使ってないし」
「からこん・・・? なに?」
あーしだって、だてにJKやってない。メイクの目利きには自信がある。
でも、目の前に居るルビーちゃんは話が違う。髪質や髪の色、果ては瞳の色すらも、全てが本物だった。
しかもそれを、さっきの一瞬で。
「何コレ・・・ルビーちゃん変身でも出来るの?」
「ちっ、ちがう。これはアサシンの『変装』スキル」
焦りながら返答するルビーちゃん。
いやコレ変装の次元超えてるでしょ。恐るべし異世界。
「それより、その・・・どう?」
少しあーしと距離を取ったルビーちゃんが、上目遣いでもじもじしながら聞いてくる。
「あ、うん。すごい似合ってるよ!」
「ほぼ別人の見た目だし、反応に困るなコレ」
わかる。試着室にいって別人が出てきたら、どういう反応するのが正解なんだろうか。本人なんだけどさ。
「一応言っとくがよお前さん。アカネは服を着せ替えたかったんであって、人相丸ごと変えたかった訳じゃないと思うぞ」
「えっ」
心底驚いたような表情を浮かべるルビーちゃん。これはいわゆる、職業病ってやつなのかもしれない。
「服だけ変える事も出来るけど、した方がいい?」
「うーん・・・逆にルビーちゃんて、どこまでなら変身できるの?」
「変身じゃなくて変装」
こだわるのねそこ。
「一度見たものなら何でも。ただ、極端に大きいとか小さいとかは無理」
「ルビーちゃんって、すごい事サラっと言うよね」
「そ、そう?」
アサシン業界では当たり前なのかもしれないけど、パンピーのあーしからすれば十分すぎるほどすごい。ていうかこの辺は元の世界よりスゴイし。
本当に今日はルビーちゃんにびっくりさせられるなぁ。
「うん。折角だし色々変えて撮ってみよっか。服だけならあーしも用意できるし」
「分かった」
「んじゃ昼メシは俺が処分しとくわ」
「あっズルい!」
姿は変わっても食い意地はそのままなようで。
お嬢様然とした格好のまま豪快にお弁当をかき込むルビーちゃんを、あーしはひっそり写真に収めておいた。
うん、やっぱあーしたちのパーティにルビーちゃんは必須だわ。




