13話
ダンジョン。
ゲームとかそういうのに詳しくない人でも、名前くらいは聞いたことあると思う。かくいうあーしもその一人。
今回はルビーちゃんを入れた三人・・・実質二人パーティでの戦いを練習するために、ラクティスの近くにある地下迷宮ダンジョンへとやってきた。
内装は石レンガのような壁がずっと続く、良くも悪くもイメージ通りの地下迷宮って感じ。
定期的に冒険者が来てるおかげか一定間隔で松明が置いてあり、ある程度の距離までは道が見えている。
まぁ迷宮って言っても完全攻略ガイドがあるし、迷う要素はないんだけどね。ファンタジーとしては台無しだけど。
「ねぇ、この『スケルトン』ってなに? 出てくる魔物一覧表に書いてあるやつ」
「骨の魔物だ。ダンジョンでくたばったヤツのなれの果てだな」
「えっ!?」
ゼルの一言で背筋が凍りつく。
「このダンジョンって駆け出し用で安全じゃないの・・・?」
「そんな保証ねえよ。どんなヤツだって油断すりゃぽっくり逝っちまう。駆け出しならなおさらな。お前さんも気を付けねえと、仲間入りする羽目になるぜ」
「ちょっ、止めてよ~。ねぇルビーちゃん?」
後ろの注意を任せていたルビーちゃんの方へ顔を向けると、ガイコツの顔が視界に飛び込んできた。
「いぎゃあああああああああああ!!?」
「下がれアカネッ! ・・・お?」
倒れそうになりながらゼルの方へ慌てて後ずさると、目の前にいたガイコツは身動き一つしないまま、顔の上半分がゆっくりとズレ落ちていく。
半分になった頭が地面に落ちると同時に残った体も粉々になり、その向こうから小刀を逆手に構えたルビーちゃんが現れた。
「ごめんなさい。驚く前に始末するつもりだったんだけど」
「いぶし銀な仕事ぶりだな。気に入ったぜ」
「・・・・・・あ、ありがと。ルビーちゃん」
正直びっくりしすぎて、しばらく何が起こったのか分からなかった。
これはヤバイ。お化け屋敷なんかとはレベルが違う。・・・って本物なんだから当たり前か。
「漏らすなよアカネ」
「しないから! てかセクハラだし!」
「私は気にしない」
「そういうフォローも求めてないから!」
ダンジョンに潜って数十分。
初めてのダンジョンにあーしは精神をガンガン削られていた。
いくらガイドがあるとはいえ、魔物の出てくるタイミングなんて誰にも分からない。わざわざ人をビックリさせるように魔物が出てくるもんだから、ダンジョンの半分にも辿り着いていないのに満身創痍になっていた。・・・あーしだけ。
まぁでも、収穫はあったんだけどね。
「声も出ねえくらい疲れてんのに、撮影は止めねえのな」
「・・・これまで止めちゃったら、いよいよあーしただの一般人だし」
「大したガッツだ。じゃあ次の撮影もよろしく頼むぜ」
ゼルの言葉を聞いて前を向けば、ガイコツの魔物 スケルトンが三体、こっちに向かってきていた。
剣を持った二体のスケルトンがカランコロンと音を立てて接近し、残りの一体が後ろで弓を構えている。
「パーッとやっちまいてぇんだがなぁ・・・『アーマーライズ』!」
ゼルが魔法を唱えると、白い光が小さな体を包み込む。
そのゼルに向かって、先に近づいてきたスケルトンの一体が剣を振り下ろした。
狭いダンジョンの中に、物が砕けたような音が響き渡る。
「さすが俺様。支援魔法も一級品だな」
ゼルは振り下ろされた剣を避ける事もせず、真正面からそれを受け止めてみせた。
本来なら肉を切り裂いたであろうスケルトンの剣は、小さな妖精の体に傷一つ付けられずポッキリと折れてしまった。見てるこっちが気持ちいいくらいそれはもうポッキリと。
今回ゼルには、攻撃魔法をなるべく控えるようにと約束していた。
ルビーちゃんとの連携確認の為に来てるんだから、早々にガス欠になってもらっても困るし。
ちなみに本人はめっちゃ渋ってたけど、支援魔法だけで切り抜けるのってカッコよくない? と言ってみたら面白いくらいノッてくれた。なんとなくゼルの扱い方が分かってきたかも。
「お返しだぜ、そらッ!」
がら空きの顔面に向かって放たれたゼルの右ストレートが、これまた小気味良い音を立てて頭蓋骨を打ち砕く。
「スカスカじゃねえか。牛乳飲め牛乳」
「ガイコツに言ってもしゃーないでしょ」
そんな漫才をやっている間にも、もう一体のスケルトンがゼルに向かって剣を振り下ろしてくる。
「しゃらくせえ!」
ゼルは剣ごとスケルトンを殴り抜け、つまらなそうに最後の弓持ちスケルトンの方を見た。
視線の先では、矢をつがえたスケルトンがゼルに向かって狙いを定めている。
そんなスケルトンの死角から、染み出す様に現れる黒い影。
「っ」
黒い影 ルビーちゃんは小刀を一振りすると、矢をつがえていたスケルトンの首が、風に吹かれたように転がり落ちた。
そしてようやく自分が倒されたことに気づいたように、残った体もバラバラに砕け散っていく。カ、カッコいい・・・!
「いい仕事ぶりだルビー。連携もバッチリだな」
「ゼルさんこそ」
打ち合わせ通りの流れに満足がいった様子の二人。
うっすら疎外感を感じたので、会話で輪の中に入り込んでいく。
「ルビーちゃんの隠れっぷりスゴイね。あれってアサシンの能力?」
「『ハイド』、アサシンのスキル」
「味方が敵の注意を引くほど、風景に溶け込み易くなるスキルだ」
「なるほど、確かにゼルと相性良いかもね」
「それ褒めてるんだよな?」
褒めてるよ。目立ちたがり屋と相性抜群ジャン。
ジト目で睨んでくるゼルをスルーして、あーしは攻略ガイドの付箋を付けたページをめくる。
「たしかこっから先って、罠が出てくるんだよね」
「あぁ。嫌がらせから即死モンまでバラエティーたっぷりだ」
「なんで駆け出し用ダンジョンに即死トラップがあんの?」
「知るか。作ったやつに言え」
「作ったやつって?」
「知らん」
「えぇ・・・」
「いつ誰が何のために作ったのか。学者たちの研究対象の一つになってる」
「あぁー、そういうミステリーあーし好きかも」
さっさと先へ進むゼルの後ろで、ルビーちゃんとミステリー談議に花を咲かせる。この世界でも女の子はそういうの好きみたい。
なんて油断してたのが運の尽きだったのか、ガコンと石が押し込まれたような音が耳に入る。
「・・・あっ」
その次に聞こえてきたのは、ルビーちゃんのやっちゃった感あふれる呟きだった。
何か対策を取る暇もなく、先に進んでいたゼルとあーしたちが柵のようなもので分断される。
「ちょっ、何コレ!?」
「オイちょっと待て。こんな罠知らねえぞ。どうなってんだ」
「えっ!?」
急いで攻略ガイドをめくる。
確かに、この罠については何も書かれていない。というか、罠が出てくるのはもう少し先のはず。どうなって・・・?
とにかくヒントはないかとページをめくりまくっていると、何か大きなものが落ちてきたような音が、地響きと共に伝わってきた。
嫌な汗が流れる。まさか・・・。
顔を上げた先では、お約束とでも言わんばかりに道を埋め尽くす大きな玉が転がって来ていた。
ゼルのいる方で。
「俺の方かよ!?」
「どっ、どうしたらいいのコレ!?」
「落ち着け、まずはあの玉ッコロだ。『ロックハンズ』!」
ゼルが魔法で岩の腕を作り出し、転がってきた大玉を打ち砕く。
「ハッ! この程度・・・」
「ゼル! 前見て前!」
「あん? ・・・二個目!?」
一個目の大玉を砕いた先から、二個目の大玉が転がって来るのが見える。なんか殺意高くない!?
「コノヤロッ!」
二個目を砕いた先に映るのは、案の定というか三個目の大玉。
「なんかそんな気はしてたぜ」
「言ってる場合じゃないし!」
もしかしたらこの罠は、ゼルが死ぬまで大玉が転がり出てくる仕組みなんじゃないだろうか。だとすれば、燃費の悪いゼルだとそう長くはもたない。早く解決策を見つけないと!
「罠を止めるのってどうすればいいのルビーちゃん!?」
「一度発動した罠は止められない。なんとかしてやり過ごすしか・・・」
「そんな!?」
何も解決の糸口が見えないまま、三個目の大玉がゼルに迫る。
そのゼルはと言えば、なぜか岩の腕の魔法を解き、何の構えもとらずに立ち尽くしている。
「ちょっ、ゼル! まさか諦めた訳じゃないよね!?」
「誰が諦めるか! 俺様はこんな所で死ぬタマじゃねえっての!」
「じゃあ何を・・・」
「まぁ見とけ。・・・・・・『シェル』!」
魔法を唱えたゼルを中心に、半径五mほどの周囲をうっすらと甲羅模様の入った透明な壁が包み込む。
その壁に激突した大玉は大きな音を立ててビタリと止まり、その後ろからも似たような音が連続して聞こえてきた。たぶん後ろに続いていた大玉が玉突きになったんだろう。
「どうよ?」
渾身のドヤ顔をこっちに向けてくるゼル。それがなかったらカッコいいのに。
「そんな魔法があるなら言ってよー。心配して損したじゃん」
「見せる予定無かったんだよ。これもプリーストの魔法だしな。で、どうよ? いい絵撮れたか?」
「撮れたけどムカつくから上げない」
「オイそりゃねえだろ!?」
柵越しにギャーギャーと騒ぐゼルとは対照的に、さっきから一言も喋っていないルビーちゃん。
どうもさっきの魔法がすごかったのか、信じられないといった表情でゼルを見つめていた。・・・ドン引き寄りの表情なのがちょっと悲しいけども。
あの後、ゼルの使う壁の魔法の範囲を広げて、無理矢理柵を弾き飛ばすという力技で脱出したあーしたちは、他の駆け出し冒険者の為にもギルドに戻って今回の報告をすることにした。
ざっくりした情報はすでにインスタに上げておいたけど、それが少しくらいは役に立ってるといいな。
ちなみに今は酒場で夜ご飯を兼ねた反省会。
「ごめんなさいゼルさん。私のせいで」
「気にすんなよ。ダンジョンは謎が多いからな」
「今回のアレは、まだ未発見の罠があったってこと?」
「多分そうだとは思うが、そこはギルドの調査待ちだな。やたら殺意が高いのが気になったが」
「あ、それあーしも。念の入り用がすごかったよね」
今でこそ笑い話になってるけど、これがあーしだったらと思うとぞっとする。まだまだあーしはこの世界に対する認識が甘かったみたい。
「あの、ゼルさんってプリーストも掛け持ちしてるの? 記事には載ってなかった」
「ん? あぁ、俺が載せないようにアカネに頼んだからな」
「あくまでソーサラーとして目立ちたいんだって」
「そう・・・」
合点がいったという風で視線を落とし、何か考え込むようにボソボソとつぶやき始めるルビーちゃん。
何考えてるんだろう? ・・・気になるけどまぁいいか。
「ていうか今サラっと言ったけど、クラスって掛け持ちできるの?」
「出来るぞ。まぁやらねえヤツのが多いが」
「何で?」
「器用貧乏になるのがオチだからな。剣の素振りに弓の的当て、魔法の練習と掛け持ちしてみろ、どれも中途半端な出来になるのが目に見える」
「じゃあゼルは?」
「俺様は天才だからな!」
「あっそう」
ワンチャンインスタグラマーと掛け持ちで何か出来るかと思ったけど、やっぱりこの世界は世知辛かった。
「今回で連携の確認も出来たし、明日は何か討伐にでも行くか?」
「別にいいけど、あんまり危ないのは止めてよ。安全第一で行って今日のアレなんだから」
「でもインスタ映えするなら?」
「多少は目をつむる」
「私も問題ない」
「決まりだな」
「反省会は終わったかァ~!?」
見計らったようなタイミングで、顔を真っ赤にした冒険者が会話に入り込んできた。
「なっ、なに?」
「大丈夫だよルビーちゃん。酒臭いけどみんないい人だから」
「三人だけで飲んでもつまんねえだろ。みんなで楽しくパーッと盛り上がろうぜ!」
そう言ってゼルが分かりやすく酒場のみんなに声をかけると、待ってましたとばかりに散らばっていた冒険者が集まってくる。主にルビーちゃんに向かって。
「ヒュー! 写真でも可愛かったが実物は更にかわいいな!」
「ルビーちゃーん! こっちで一緒に飲まない?」
「バカヤロテメ俺が先だって!」
「ちょ・・・待って・・・アカネさん?」
助けを求めるようにあーしを見つめるルビーちゃん。ゴメン、どっちかっていうとあーしは原因の方なんだよね。
「いやーゴメンね。ルビーちゃんの写真インスタに上げたらめっちゃ評判良くってさ。一枚だけでも記録更新しちゃったから上げまくっちゃった」
「ええっ!?」
「なんだと!?」
ルビーちゃんとなぜかゼルまでビックリしている。
「何で、私が・・・」
「フッフッフ。かわいいは正義なんだよ、ルビーちゃん」
「私が・・・そんな、分からない・・・」
顔を真っ赤にして俯くルビーちゃん。これも撮っておく。
「あっ!」
「フフ。あーしのパーティに入るって事は、こういうことだよ」
「うぅ・・・」
「なぁ俺は!?」
「そういうとこだよ」
アサシンのルビーちゃんは、多分見られる事に慣れてないんだろう。
でも、あーしのパーティに入ったからにはそうはいかない。
徹底的にかわいい写真を撮りまくり、あーしのインスタに貢献してもらう。フッフッフ・・・。
ギルドを挙げて開かれたルビーちゃん歓迎会は、例によって夜遅くまで続く。
ダンジョンよりもこっちの方が疲れると、満身創痍でルビーちゃんは語っていた。
それもインスタに上げちゃったけどね。




