11話
イセリア農園のクエストから数週間後。
あーしは街の裏通りに店を構える、小さなアパレル店に足を運んでいた。
扉に取り付けられた小さな鐘が、カランコロンと店内に来客を知らせる。
「あらぁ、いらっしゃいアカネちゃん」
「どうもですー、アリアさん」
ゆったりとした声で挨拶してくれた女性 アリアさんは、あーしがひいきにしているこのアパレル店の店主さんだ。
口元を隠すアラビアン風の黒いマスクに、黒いメッシュの入った白髪ウェーブヘア。そしてその奥で怪しく光る金色の瞳と、ぱっと見怪しさ全開のアリアさんだけど、話してみるとこれが意外に気さくでいい人だった。人を外見だけで判断しちゃいけないね。
「フフ、いつもありがとう。有名人のアカネちゃんのおかげで、この店も順調に売り上げが上がって来てるわぁ」
「いやいや、あーしインスタしてるだけだし。褒めても何も出ないよ?」
アリアさんの言う通り、あーしは駆け出し冒険者でありながらこの街の有名人になっていた。理由は言わずもがな、インスタのおかげである。
「謙遜しないのぉ。イセリア農園だって、アナタが色々記事を出したおかげで評判を持ち直してきたらしいじゃなぁい?」
「まぁそこはインスタグラマーだしね。むしろ何も変化無かったらあーしが死にたくなるし」
売り物の服を品定めしながら、アリアさんとの話に相槌を打つ。
あれからもちょくちょく農園に遊びに行っては、グルメ番組よろしく料理の記事を上げていた結果、農園の評判が上がって発注数が今まで以上に増えたらしい。
元々流通数には限りがあるから、うれしい悲鳴だとミュールちゃんが笑いながら言っていた。
それと、あの戦いが終わってからイノシシ騒ぎもパッタリ無くなって、大地の魔力も戻り始めているとか。まぁ十中八九あの黒イノシシが原因だったんだろうけど。
「ねーアリアさん、これ三着セットで安くならない?」
「アナタ・・・例の特別報酬で潤ってるんじゃないのぉ?」
「そうでもないよ。それに女の子は何かとお金がかかるものでしょ?」
「もぅ・・・」
渋々といった雰囲気を出しつつも、そこそこ良いラインまで値引きしてくれるアリアさん。この優しさに甘えるためにこの店をひいきしてるところもある。実際あーしの懐事情は潤ってはいるんだけどね。
というのも、例の黒イノシシを退治した特別報酬が、予想以上の金額になったからで。
ギルドでも未確認の個体だとの事で、生きていた頃が写っているあーしの記事と合わせて調べた結果、なんと魔王軍関連の可能性が出てきたという。
ロケットボアが自然にあそこまで巨大化する事は考えにくく、イセリア農園からの証言と、額に浮かんでいたクモの巣のようなマークが魔王軍幹部の一人が使うものに激似だった為に、この結論に至ったらしい。
その魔王軍関連の魔物を見事討伐したという功績で、なんと五百万ゴールド。これは農園のみんなを含めた全員で分けられることになった。それでも一人百万ゴールド。
結果、あーしの懐には百万ちょいのお金が入る事に。
これでしばらくはお金に困らないし、今後の事も視野に入れた上でゼルと相談して、数週間ほど街で準備を整える期間を設ける事になった。
考える事は山ほどあるんだけど、この世界に来てからずっと同じ制服着てたのもあって、着替えもかねてオシャレな服を探し歩く内に、このお店に辿り着いたというわけ。
「まいどあり~。今日も撮るのかしらアカネちゃん?」
「もちろん!」
このお店で服を買った後は、すぐに試着してそのままインスタに上げている。
大通り沿いで売ってる服は似たような物が多いのに対して、ここの服は全部アリアさんのハンドメイド。少し割高だけどオシャレで個性的なぶんコーデのしがいがあって楽しい。
最近はその成果が出てきたのか、あーしの上げたコーデを街でちらほら見かけるようになった。読者モデルになった気分でテンション上がる。
いや、もしかしたら実際そういうポジションになってたりするんだろうか。
そうだったらいいなあ・・・・・・。
「今日はその青いワンピースを着て帰るのね」
「うん、これ気に入った!」
「ウフフ、ありがとぉ。この後もお買い物かしら?」
「ううん。酒場でゼルと打ち合わせ。あーしも一応冒険者だからね」
「そう。次の記事も楽しみにしてるわねぇ」
「ありがとアリアさん。それじゃあね!」
フリフリと手を振るアリアさんに見送られて店を出たあーしは、ゼルと待ち合わせしているギルドへと向かった。
「おーい、アカネー!」
ギルドの中へ入ると、すぐに酒場の方から声をかけられた。
テーブルに座ったゼルが、妖精用の小さいジョッキを片手に、あーしへ手を振っている。
「おぉ、いいじゃねえかアカネ」
「ありがと。てかゼル、今日も昼から飲んでんの?」
「別にいいだろ。つか、冒険者なんて懐が潤えば皆こうなるぞ」
知りたくなかった冒険者の実情を聞きながら、あーしはゼルの向かいに座る。
ここ最近あーしが色々と準備をしている間、ゼルは特にやることも無いそうで、こうして昼間からギルドで飲んだくれているのだ。
買い物に誘ってみたりもしたけど、興味ないの一言でバッサリ。妖精の俺には荷物持ちは期待できんぞ、とダメ押しまでもらった。納得しちゃったけどさ。
まぁそんな愚痴を言っても仕方ないので、さっさと本題に入る。
「で、どう?」
あーしの問いに、ゼルは無言で首を横に振った。
「うそおぉぉ~」
力なくテーブルに突っ伏すあーし。
「そりゃまあ単純に考えて、こんなネタパーティに誰も入ろうと思わんわな」
ゼルはなぜか達観した様子で、クエスト掲示板横に併設されたパーティ募集掲示板を眺めていた。
あーしたちのパーティは、スマホ持った一般人と縛りプレイしてる妖精の二人だけ。
こんなんで危険渦巻く異世界の絶景スポット巡りなんて到底無理な話で、いくら装備を整えたところですぐに殺されてしまうだろう。
前回のイノシシ戦だって、ミュールちゃんたちが戦えたから何とかなっただけで、これが一般の農家さんだったら間違いなく全滅。運よく生き残っても農園の壊滅は避けられなかっただろうし。
前回前々回と痛い目を見たのもあって、せめて基本とされる四人パーティを組んでから冒険に行こうという話になり、酒場に入り浸るゼルに面接を任せていたんだけど・・・。
結果はこの有様である。ちなみに今日まで全敗。
「あーしたちって、ネタパーティって思われてんの?」
「逆に聞くが、そう思わない理由がどこにあるよ」
「・・・あーしもそれなりに有名になったし、ゼルだって魔法の記事伸びてるし」
あーしが全部言い終える前に、ゼルが深々とため息をついた。何よ。
「ハッキリ言うが、インスタグラマーの力は俺以外の冒険者にとって、全く需要は無いぞ」
「ウソッ!?」
予想外の答えに、あーしは思わず立ち上がって反応してしまう。
「単純に考えて、命懸けの仕事に写真撮るだけのヤツを連れて行こうと思えるかって話だ。依頼者ならともかく、報酬を分けるメンバーとして考えるなら論外だろ」
「そ、そんな・・・」
「まぁスマホ自体は索敵に使えなくもないが、それなら索敵スキル持ちで戦力もあるレンジャーを雇えばいい訳だしな」
「でもでもっ、冒険者の活躍とかを広められるのは、メリットになると思うんだけど! ゼルだってそうでしょ!?」
「それは命を懸けられるだけのメリットなのか?」
「じゃあゼルは!?」
「俺はその為に冒険者になったんだから例外だな!」
なぜかこのタイミングで披露したゼルの渾身のドヤ顔を見て、あーしはもう一度テーブルに突っ伏す。
忘れてた・・・この妖精は名前を広めるのが一番の目的だった・・・。
「組んだのがアカネで本当助かったぜ。俺もヒーラー放棄してアタッカーやってるから、あんまり周りにいい顔されねえんだわ。その点お前さんなら、そういう心配もないしな」
このエセ妖精、ホントどうしてくれようか・・・!
殺意を込めた目でゼルを睨んでいると、突然声をかけられた。
「あの、パーティ募集ってまだやってますか?」
あーしとゼルは二人そろって、勢いよく声のした方へ振り向く。
そこには、小柄で可愛らしい黒髪の女の子が、少しビクッとした様子で立っていた。




