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異世界インスタ  作者: 五寸
第1章 異世界インスタグラマー爆誕
11/117

10話

 黒イノシシを退治してしばらく。

 太陽はすでに顔を隠し、夕闇がゆるやかに農園を包み込んでいた。

 この世界には街灯がない代わりに、壁とかに設置された小さい松明に火をつけて明かりを確保している。


 長い戦いを終えたあーしたちは今、みんなで晩ごはんの準備を進めていた。

 コテージの近くに調理器具を持ち出して、気分は星空レストランってところかな。


「お肉の方はジョージさんにお任せするので、ミュールとアカネちゃんは私を手伝ってもらえるかしら?」

「うん」

「了解しましたー!」


 エリンさんに借りたエプロンを身に着け、女性三人で料理の下準備を始める。

 ちなみにゼルにはあーしのスマホで、この光景を動画撮影してもらっていた。


「なぁ、今日は俺けっこう頑張ったと思うんだけど」

「ゴメンゴメン。その代わり、飛び切りおいしいの作ってあげるから! それにあーしに出来ることやれって言ったのはゼルでしょ?」


 ゼルは無言でカメラに視線を戻す。

 あの戦いの後すぐに魔力切れを起こしたゼルは、エリンさんがもう一度ポーションを持ってくるまで身動き一つ取れなくなっていた。

 いわくあの魔法は魔力全ブッパが前提らしく、一分もたないんだそう。


 今はジョージさん共々、エリンさん作のポーションを飲んで全快。

 ジョージさんに至っては腕が折れてたのが嘘みたいに、ノリノリでイノシシの肉を捌いている。成分が気になるな。

 ただ、黒イノシシの方はギルドに提出しないといけないので、大きめの荷台の上に手足を縛って乗せてある。

 まぁ食べる気は全然しないんだけど。


「そういえば聞いてなかったんだが、メシは何作るんだ?」


 スマホを構えたままゼルが聞いてくる。


「ウチで取れるお野菜を使った品をいくつか。ゼルちゃんは嫌いなものとかありますか?」

「ウマけりゃ何でも食うぞ。あと、ちゃんは勘弁してくれ姐さん」

「うふふ。今日はシンプルに、野菜炒めにしようかと」

「俺は一匹まるまる使って、串焼きにでもしてやろうと考えてる」

「あーしはロールキャベツ作ろっかなって」

「お前さん料理できたのか。意外だな」

「意外いらないし!」


 調理場全体がどっと笑いに包まれる。

 うん、やっぱあーしは戦いよりこっちのが向いてるっぽい。






「かんせーい!」


 あーしの声に合わせて、ミュールちゃんが小さく拍手してくれた。

 テーブルの上にはあーしたちの作った料理がズラリと並んでいる。

 三人で作った肉野菜炒めに、ジョージさんの豪快さがあふれ出る串焼き。そしてあーし特製ロールキャベツ。さらに素材そのままの生野菜と、エリンさん特製スムージーまで。

 ヤバイ。ちょーおいしそう。


「あーもー、あーしおなかペコペコー」

「私もです。今日はかなり体を動かしましたし」

「ハッハ! なんせイノシシを蹴っ飛ばした訳だしな!」

「も、もう! お父さん!」


 笑いながらそれぞれが席に座っていく。

 ジョージさんの隣にエリンさんが座り、その向かいにあーしとミュールちゃん。ゼルはミュールちゃんの膝の上。もう自分から座りに行ってたし。


「あっ、みんなちょっとこっち向いてー」


 自撮り棒にスマホをセットして、みんなで囲んだ食卓が映るように調整する。


「何してるんですかアカネさん?」

「あーしの仕事! そのままこっち向いて笑ってー、OK!」


 撮った写真を少しだけ確認する。うん、いい笑顔。


「すいません邪魔しちゃって。それじゃ食べましょっか」

「そうね。それじゃあ皆さん。大地の恵みに感謝を」


「「「「「いただきます!」」」」」


 エリンさんの声に流れるように反応できたあーし。この文化こっちにもあるんだ。


「妖精さん、何食べたい?」

「俺は赤ん坊じゃねえぞ。肉取ってくれ、あの串焼き」

「ゼルはMVPだし、あーしが食べさせてあげる」

「ちょっ、あっづ! 止めろ! ちゃんと口に入れて下さい!」


 あーしたち三人でわいわいと騒ぐ中で、向かいのジョージさんたちは甘々な雰囲気でお互いにあーんをし合っていた。お熱い事で。


「んー! このお野菜ホント美味しー!」

「ハッハ! だろ? ウチで取れた自慢の一品よ!」

「こんなに旨いなら,イノシシに狙われても仕方ないな!」


 本当にそう思う。みずみずしくて、シャキシャキの食感が心地いい。流通数が少なくても高評価を得ていた理由が分かる。


「実際はお野菜も不調なんですけどね。大地の魔力が薄くなってますし」


 そういえば農園に来る途中にもミュールちゃんが同じこと言ってたような。このおいしさで不調なら、本来のポテンシャルだとどれだけ美味しくなるんだろう。


 笑顔で食卓を囲みそれぞれが料理を口に運ぶ中、誰にともなくあーしのスマホ、もといクラスの話題が上がった。


「そういえば、アカネさんのクラスってなんなんですか?」

「ん? あー、そういや何だかんだ説明のタイミング逃してたね」


 思い返せば、今の今までゆっくり出来る時間が無かったように思う。

 戦ったあとちょっと休んだと思ったら、ミュールちゃん一家はてきぱき夜ご飯の準備に入ったし。本当にたくましい。


「とりあえず、さっき撮った写真見せるね」


 スマホにさっき自撮り棒で撮った写真を表示して、皆に見えるようにテーブルの真ん中に差し出す。


「おお! 何だこりゃ!?」

「私たちの絵? ・・・じゃないわよねえ」

「すごいですアカネさん! 何ですかコレ!?」


 ギルドの酒場でやったやり取りを思い出しながら、ゼルと同じような感じで簡単に説明した。

 ついでに配布用で取っておいたインスタ記事を三人に渡しておく。フォロワーは一人でも多い方がいいし。


「で、ここにさっき撮った料理動画を上げれば、農園のお野菜の宣伝になると思うの! イノシシ退治の写真はもう上げたし、お客さんも増えると思う!」

「すごい! すごいですよアカネさん!」

「えぇ本当に。イノシシ退治だけじゃなく農園のフォローまで、ありがとうアカネちゃん」

「いやいや、あーしはただインスタやってるだけだし」


 この世界でインスタ出来るのがあーしだけだとしても、結局は内容が良くないと何の意味も無い。

 あーしはただ手伝いをしただけで、主役はこの農園の人たちが育てた野菜だ。魅せ方とかも色々あるんだけど、やっぱ主役がしっかりしてないとね。


 まぁそれはそれとして褒められるのは超うれしいんですけどね!


「オイオイ、俺様という超MVPを忘れてもらっちゃ困るぜ。んん?」


 あーしだけ褒められるのが面白くなかったのか、仁王立ちしながら褒めろアピールを振りまくゼル。

 ただ、ミュールちゃんの膝の上でやってるもんだから何か微笑ましい感じに。撮っとこ。


「大丈夫だよゼル。インスタで一番伸びてるのゼルの記事だから」

「ハッ! やはり俺様が最強というわけか・・・」

「それってさっきのすごく速い魔法の記事ですか?」

「え? えっと、その・・・うんそう」


 実はミュールちゃんにだっこされたゼルのツーショットなんだけど、黙っといた方がいっか。


「あんな魔法が使えるなんて、妖精さんのレベルはいくつなんですか?」

「俺か? 俺はレベル7だ」

「7!?」


 ミュールちゃん始め全員が驚いた顔でゼルを見ている。

 え、そんなすごいの? 


「レベル7っていやぁ、屈強揃いの王都周辺の冒険者ですら中々お目にかかれねえハズだが・・・」

「え? そんなすごいの?」


 思ってた事がそのまま口に出てしまった。

 まだまだこの世界の常識に疎いあーしに、ミュールちゃんがフォローを入れてくれる。


「えーっと、冒険者さんの多くはレベル3でだいたい打ち止めになります。名の売れた冒険者さんでレベル5。レベル7ともなれば、稀代の天才として国中に名前が広まっていてもおかしくないんです」


 えぇ・・・このチンピラ妖精が?


「おうアカネ。何か言いたそうな顔だな」

「言わなくてもわかるでしょ」


 この妖精は魔王を倒すのが目的じゃなくて、倒して名前を世界に知らしめたいってのが目標だったはず。

 だったら何で・・・?


「レベル7なのはプリーストのクラスだ。俺の愛するソーサラーはレベル4止まりだがな」


 ゼルは心底つまらなさそうに、吐き捨てるように言った。


「プリーストって事は、ゼルって回復とかそういう魔法使えたの!?」

「俺がというよりは、妖精種の得意分野だな」


 確かに妖精っていうと、癒しとかそういう清純なイメージがある。

 あーしはすっかり麻痺してたけど、やっぱゼルっておかしかったのか。


「俺たち妖精種は支援魔法の適性がトップで高いんだが、その代わりに攻撃魔法の適性が群を抜いて低いんだよ」


 そう言って、攻撃魔法と支援魔法の違いについてゼルが簡単に説明してくれる。

 支援魔法は穏やかな魔力を繊細に紡ぎ合わせるイメージ。

 攻撃魔法は荒ぶる魔力をそのまま外に解き放つイメージ。

 妖精の種族は体質的に繊細な魔力の扱いを得意とする分、攻撃魔法のような荒ぶる魔力の流れは苦手としているらしい。


 より簡単に言うと、手先が器用なヤツと力自慢のヤツみたいな違いだ、とのこと。


「確かに、妖精の方で攻撃魔法を主力にしている冒険者は初めて見たかもしれませんね・・・」

「というよりは、冒険者してる妖精自体珍しいよな。教会に勤めたりボランティアやってたり。大抵が回復魔法の輝く現場にいる」


 思い出すように語るジョージさんとエリンさん。

 悪いけど、その二つに勤めるゼルが全く想像できない。


「そりゃそうだ。種族的に妖精は戦いを嫌うからな」


 ケッと吐き捨てるように同族を語る目の前の彼は、本当に妖精なんだろうか。


「でも俺は違う。俺はな、ド派手な魔法をブチかまして喝采を浴びる冒険者になりたいんだ。適性が低いなんて関係ねえ! 低いなら低いなりのやり方で、てっぺん獲ってやろうってこった!」


 急に熱く語りだすゼル。


「いいじゃねえかゼル! お前の事が更に気に入ったぜ! 俺ァお前を全力で応援するぜ!」

「ありがとよ旦那!」


 盛り上がる漢達。

 あーしもそういう少年マンガみたいな展開は嫌いじゃない。


「そうなると、ますますあの魔法がなんなのか気になりますね」


 あの魔法というのは、黒イノシシを倒したロケットみたいな魔法の事かな。

 エリンさんも見た事ない魔法を、適性の低いゼルが使えるっていうのは確かに不思議ではある。


「あぁ、あれは一つの魔法じゃなくて、俺が考えたオリジナルコンボだ」

「オリジナルコンボ?」


 その場の全員が首を傾げた。


「さっきも言った通り、俺は支援魔法の才はやたら高い。だから体にありったけの防御魔法をかけて、それでぶん殴ってやればいいじゃねえかと考えた」

「はあ?」


 思わず言ってしまった。


「つまりだな、鋼鉄よりも体を固くしてぶん殴れば、それはもう攻撃魔法って言えるんじゃねえかって事だ」

「えらく思い切ったね」


 清々しいまでに脳筋なその考えに、思わずため息が出る。まぁゼルらしいっちゃゼルらしいけど。

 思考が似ているのかジョージさんはうんうんと頷き、エリンさんは苦笑いを浮かべていた。思ってたのと違ったんだろう。あーしもそうだし。

 見ればミュールちゃんも同じようにうんうんと頷いている。ジョージさんから受け継いだのは体の強さだけじゃなかったのかも。


「羽の付け根の辺りに魔法を出す器官があるんだが、そこから思いきり炎の魔法を噴射して、十分に加速した硬い体で敵に風穴を開ける。これがオリジナルコンボの正体だ」


 随分と体を張った魔法だこと。武闘派魔法使いとはこういう意味か。


「その説明もインスタに上げとこうか?」

「いや、これを真似されると俺が霞むからダメだ。つーか実践できるのは妖精種だけだし、肝心のそいつらには需要がないと思うぜ?」

「変なとこでみみっちいね、ゼル」


 まぁ本人が言うんだから仕方ないね。


「それに、あれはまだ試作段階だしな。一分もたんし風穴だって開けれてない。まだまだ改善の余地ありだ」

「でも、あの突進を真正面から止められたんですし、十分すごいと思います」


 そう言って励ましながら、ゼルを両手で優しく掴んで撫でまわすミュールちゃん。

 所有物みたいになっちゃってるなアレ。


「まぁ俺様は天才だからな。それに魔王をブッ殺すなら、種族の限界なんざ超えてかねえと話になんねえよ」

「その意気だぜゼル! 体を作る為にもどんどん食え!」


 ジョージさんに促され食事を再開するあーしたち。

 楽しい食事は夜遅くまで続き、眠りについたのは辺りが見えなくなるくらい真っ暗になってからだった。






「三人とも、忘れ物は無い?」


 翌朝、いよいよ馬車に乗り込もうとするあーしたちに、エリンさんがお母さんのように聞いてきた。


「私は大丈夫。荷物も全部あります」

「俺も問題なしだ」

「あーしも大丈夫! おみやげもアリガトです、エリンさん! ジョージさん!」


 エリンさんたちは報酬が少ないからと、農園のお野菜をたくさん譲ってくれた。つくづく良くしてばっかりで、頭が上がらないなあ。


「ハハッ いいって事よ! いつでも遊びに来てくれよな!」

「えぇ、歓迎しますよ」

「あ、そうだエリンの姐さん。魔力回復のポーションってもう残ってないか? あるなら買い取りたいん・・・」

「ダメです」


 思い出したように切り出したゼルの言葉を、エリンさんが食い気味に遮った。


「ポーションは便利な飲み物じゃありません。飲み過ぎると体に毒ですし、ゼルちゃんは昨日飲み過ぎてますから。あげられません」

「そんな!?」

「そうなの?」


 食い下がるゼルを尻目に、隣にいるミュールちゃんに聞いてみる。


「れっきとした薬ですからね。使いすぎると体本来の回復力が無くなっていくんですよ」

「あー、それはダメだわ」


 納得したあーしはゼルの体をわしづかみにして馬車に乗り込む。


「それじゃあジョージさん、エリンさん、また遊びに来ますねー!」

「ちょっ、アカネッ! 放せ!」

「行ってきまーす!」


 ミュールちゃんが馬を走らせ、二人との距離が空いていく。


「ありがとなー!」

「いつでも遊びに来てねー!」


 あーしたちにずっと手を振ってくれる二人を、農園の背景をバックに一枚撮り、それを今回のクエスト最後の写真として締めくくった。

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