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異世界インスタ  作者: 五寸
第5章 光の果て
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6話

 人類と魔王軍との領地が隣り合う境界線。まさにその場所で繰り広げられる大激戦を視界の隅に捉えながら、あーしたちはわずかに生えた草むらや岩陰に身を隠しつつ、危なげなく魔王軍領へと入り込む。といってもあーしたちはチータールビーちゃんに跨ってただけだけど。


 戦力を集中させているのは魔王軍も同じなのか、一度領地に入った後はほとんど見張りに出くわすことも無く、スムーズにその先へと進んで行くことが出来た。

 しばらくは人類領と同じように枯れ木や岩肌だけが広がる荒れ地が続いていたものの、意外にもそこから更に進めば緑豊かな森林地帯が顔を出した。

 そこへ迷いなく突き進んだルビーちゃんは、なぜか整備された道を通らずに青々とした茂みの中を駆け抜けて行く。


「あれっ、何で道通らないのルビーちゃん?」

「この森は存在自体が魔王軍のセキュリティになっている。迂闊に進めば見張りや罠に捕まる」

「つーか敵地ド真ん中の道を進むバカがいるかよ」

「う、うっさいし!」


 いーじゃん別に聞くくらい! 何でかなって思ったんだもん!


「安全なルートは大体見当がついてるけど、それでも油断はできない。周りを注意しててほしい」

「おう」

「了解よぉ」

「わ、分かった」


 まぁこんな敵地ド真ん中で怒っててもしょうがないので、言われた通りあーしはドローンを操作して後ろの方を警戒する。しかしルビーちゃんのルート選びが良かったのか、ひたすらに森の景色が流れるだけでカメラのピント機能には何の反応も出なかった。

 それでもと周囲を注意深く観察するうち、不意に心の内に浮かんだ言葉が口から零れ出る。


「にしても、何かちょっと意外だなー」

「何がだ?」

「いや、魔王軍の領地ってこう、もっと荒れ果ててヤバイイメージを想像してたから」

「あー、なるほどな」


 あーしの独り言を拾ったゼルが、その考えに共感してくれる。やっぱそう思うよね。

 しかしそこで元魔王軍の二人が会話に参加し、その結論に待ったを唱えた。


「前から思ってたけど、どうして人間たちってそんなイメージを持ってるのかしらぁ」

「えっ、どういうこと?」

「魔王軍領を見た人間って、大体似たような感想を言うのよねぇ。もっと危なっかしいとか汚い場所をイメージしてたって。勝手な妄想を押し付けないで欲しいわぁ」

「ご、ごめん」


 ふんすと鼻を鳴らして物申すネクの言葉に、ルビーちゃんも静かながら強く頷く。魔王軍側からするとけっこうな風評被害なんだろうか。


「確かに魔物は種族ごとに趣味趣向が違うけど、それは人間も同じじゃなぁい。第一魔王軍だからって、荒れ地だとか溶岩地帯だとか、わざわざそんな不便な環境にする訳ないじゃないのぉ」

「言われてみればそうだね・・・」


 確かにそうだ。いくら魔物だからって、わざわざ極限環境で好き好んで生活はしないだろう。それこそそこに城を立てる意味があるかも分からない。

 まぁあーしの場合は元の世界のファンタジー知識、いわゆるフィクションから来てるからツッコむのは野暮なんだけど、こっちの世界の人も同じ感想なのは何でなんだろう?


 その疑問には、こっちの世界の人類を代表してゼルが答えてくれた。


「そりゃあれだろ。人類側のイメージ操作の賜物だろ」

「イメージ操作?」

「単純な話だ。魔王は悪い奴なんだ、だから住んでる所も危ないんだっつー、素敵な教育って訳だな」

「なんか、嫌な話聞いたなぁ・・・」

「人類ってどうしてこう陰湿なのかしらねぇ・・・」

「テメェが言うか」


 いやでもネクの感想には結構共感できるかも。よく言われるじゃん、一番汚いのは人間だって。そんなとこまでファンタジー世界でやんなくても・・・ホント汚いとこはしっかりしてるわこの異世界。


「となると、魔王軍の領地はけっこう普通の場所なの?」

「ん~、そう言われるとどうかしらぁ」

「見た方が速いと思う」

「そうねぇ。一回ドローンを飛ばしてみなさいな」

「えっ、いいの?」

「一度上から状況を把握しておく必要もある。そのついでに」

「分かった!」


 大義名分を得たこともあり、あーしはすぐにドローンを操作して大空へと舞い上げる。大きく広がった木の葉の傘をすり抜けて魔王軍領を見降ろすと、驚きの光景がスマホの画面に送られてきた。


「なっ、何これ!?」

「アカネさん、静かに」


 思わず飛び出した大声をルビーちゃんに短く諫められる。ごめん。

 だけど正直これは大声出ちゃってもしょうがないと思う。それくらい意味不明な光景がドローンの眼下に広がっていた。


 画面に映るのは、あーしたちの居る青々とした森に続き、広大な湖や霧深い森と、ここまではいい。そこから鋭い岩場やちょっとした砂漠、果てはさっき話題に上がった溶岩地帯までもが、魔王城らしき建物を中心に点在していた。どうなってんのコレ?

 ほとんど無言で説明を求めると、元幹部のネクがそれに答えてくれる。


「期待に応えられなくて悪いけど、アタシが物心ついた時にはこうだったわぁ」

「上に同じ」

「えぇ・・・? いや、いくら魔法あるからって、こんな無茶苦茶な環境ある?」

「この場を治めるのが、カオスロードでもある魔王様だものぉ。混沌の力で成し得ているのかもしれないわねぇ。おかげで色んな魔物が生活できてる訳だし」


 そんな力技で環境を変えたって事? ヤバくない魔王? いや十分すごいロケーションだったわ魔王軍の領地。


「ちなみにいつ頃出来たとかは分かる?」

「それがその辺りの事が文献に載ってないのよねぇ。城の建設と同時期なら、初代魔王様が生み出したか、それとも元からこうだったのか・・・いたっ!? 何するのよォ!?」

「考え込んでねぇで索敵しろや」

「うるさいわねぇ! 分かってるわよぉ!」

「ネクさん、静かに」


 あーしと同じように諫められたネクは、それ以上何も言えなくなってすねたようにプイと顔を背けた。なんかごめん、あーしから聞いたのに。

 

 にしてもすごいなこの場所。最初はびっくりしたけど、いわばここはファンタジースポットを詰め込めるだけ詰め込んだようなものだし、そう考えるとかなり魅力的に見えてくる。魔王軍の領地だけど。

 いつか機会があったら回ってみたいなぁ・・・ネクが魔王になったらいけるかな? ・・・ん?


 あれ、そういえば。


「あのさ、仮に魔王を倒したら、魔王軍はその後どうなるの?」

「あん?」


 唐突に飛び出したあーしの疑問を、さっきと同じようにゼルが拾う。打倒魔王を掲げてるしそれで耳に入ったんだろう。


「いや、魔王を倒したとして、もちろんエギルも倒すつもりだけど、そのなるとその後は誰が継ぐんだろうって思って。それとも無くなるかんじ?」

「単純に考えりゃ征服するんじゃねえか」

「せっ、征服・・・」


 まぁでもそうなるのかな。魔王軍だって同じような目的で動いてる訳だし、その逆もしかりと。・・・それでもあんまり気持ちの良い言葉じゃないなぁ。


「ネクたちはどうするの?」

「こいつは魔王のキ〇玉取るのが目的だろ」

「誤解を生む言い方は止めてもらえるかしらぁ!?」

「静かに」

「~~~っ!!!」


 もはや名前すら呼ばれずに怒られてしまい、頬を膨らませてめちゃくちゃ悔しそうにゼルを睨みつけるネク。頭脳戦でもやってんの二人は。


 しかしそんな表情や考えも、移動を止めたルビーちゃんから伝わる異変を感じて鳴りを潜めた。

 一瞬で全員が静かになり、ルビーちゃんの声に耳を傾ける。


「前方に見張り。種族はオーク。数は五。戦士三、レンジャー二。」

「えっ、見張り?」

「迂回して通れねえのか」

「ここ以外だとトラップ地帯を抜ける羽目になる。ここを通るのが安全」

「安全って、どうやって通るの?」

「そりゃお前、強行突破に決まって」

「ない。作戦は考えてある。協力してほしい」


 意気揚々と語ったゼルの考えをバッサリと斬り捨て、全員を集めて短い作戦会議が始まる。こういうのはルビーちゃんの専門分野だろうし、おとなしく従う方がよさそう。ていうかここに来るまでもそうするべきだった。


「よし、んじゃまずはあーしから」


 会議を終えて全員が散らばったのを確認してから、あーしはドローンをワザと見えるように操作する。

 すると木の上に陣取っていた見張りの一体がそれに気づき、他の四体にも身振り手振りを交えてそれを伝えた。何言ってるかは分かんなかったけど。


 鬼にもブタにも見える、二足歩行で筋骨隆々のオークと呼ばれたその魔物は、遠くで後光を放ちながら揺れ動くドローンを見据えたまま、刺の付いたこん棒を握って近づいていく。

 その間も木の上で弓でのフォロー体制を整えているオークの下に、ゆっくりと白い糸が蛇のように這い寄っていた。


 音も無く近づいていた糸は一気にオークを木の幹へと縛り付けると、その手から弓矢を滑り落とし、木の根に当たった音を聞いて残り三体のオークたちが一切に振り返る。そこへ。


「っ!」


 ハイドで隠れつつ下半身を蛇に変身させていたルビーちゃんが、一体を腕で、もう一体を蛇の下半身で締めあげた。

 仲間の二体が泡を吹いてタップしている中、最後に残ったオークはほぼ一瞬で部隊が壊滅したこの状況に右往左往していると、わざわざその目の前にゼルが仁王立ちで姿を現す。


「よぉ、初めましてだな」

「っ!?」

「俺様はゼルってんだ。よろしくなッ!!」


 なぜかいきなり自己紹介をかましたゼルは、そのまま勢いよく一礼をオークの脳天にブチ込み、見事にノックアウトを決める。何その斬新な攻撃。

 その間にはルビーちゃんもオーク二体を締め落とし、ネクも木の上のオークたちを簀巻きにして回収していた。


「ふぅ、うまくいったね」

「正直俺様は物足りんがな」

「どうせこの後魔王城に行くんだから、それまで我慢しなさいな」

「それで、倒したはいいけどこの後はどうするの? ほっといたらバレるんじゃ?」

「ウフフ、アタシの技術を忘れてなぁい?」


 そう言ってネクは得意げに糸をオークに這わせると、その体をマリオネットのように操ってみせた。


「魔王軍での立ち振る舞いなら知ってるし、しばらくは騙し通せるでしょう」

「なるほど!」 

「つってここでうだうだやっててもバレるだろ。さっさと先行こうぜ」

「ここから先は防衛網の間隔が狭くなってくる。慌てず私について来て」


 とりあえずは操ったオークたちを元の配置に戻し、あーしたちはそこを抜けて更に先へと進んでいく。

 木々の間にうっすらと映り込む魔王城らしき建物は、歩く度にそのデティールをハッキリとさせ始め、いよいよ魔王軍の本拠地が近づいてきたことを感じさせる。


 たぶんもう少しで魔王城に着くだろう。待ってて、エイミス様。

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