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異世界インスタ  作者: 五寸
第5章 光の果て
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5話

「よいしょっとぉ」

「お疲れネク。はいお水」

「ありがとアカネちゃん」


 あーしのポーチから取り出した水筒を受け取ったネクは、一仕事終えた風にそれをくいっとあおる。

 その足元には簀巻きにされたバルバディアが寝転がっていて、弱点の大角を粉々に砕いたからか体のサイズは元に戻ったものの、未だその目は白目を剥いたまま気絶している。


「あれを喰らってくたばらねえたァ、どういう体の作りしてやがんだコイツは」

「フィジカルに限るなら、彼は間違いなく世界最強だものぉ。むしろここまで追い込めたことを誇るべきねぇ」


 珍しいネクからのフォローにも、ゼルはどこかスッキリしない表情を浮かべている。

 

 見ての通り、あーしたちはどうにか魔王軍幹部であるバルバディアを倒し、こうしてようやくの休憩にありついていた。徹夜で魔王城行きになんなくて本当に良かった。

 今はバルバディアの身柄を引き渡すために、風の谷からの応援を待っているところ。・・・っと、なんて考えてる間に。


「皆さぁーん! ご無事ですかーー!?」

「っ! この声って!」

「げっ・・・姉貴かよ・・・」


 あーしは柔らかい、ゼルは苦々しい表情を浮かべて声の方へと視線を向ければ、風の谷方面から数人の兵士や冒険者たちがやってきた。そこから距離が縮まるにつれ体の小さな妖精のシルエットもはっきりし始め、声の主であるゼルのお姉さん、エルさんもちゃんと見えてくる。


「本当にお疲れ様です皆さん、ゼル。お怪我はありませんか?」

「俺様を誰だと思ってる。ケガはねえから魔力回復のポーションを寄越せ」

「ハイハイ。ゆっくり飲みなさいね」


 ゼルのチンピラ絡みに一切怯むことなく、エルさんは慈愛に満ちた目でゼルにポーションを手渡す。なんか反抗期の子供と母親みたい。

 対するゼルはやり辛そうな表情でポーションをひったくり、明後日の方を向いたままポーションを一気飲みし始めた。おぉ、珍しいなゼルのこういう反応。ていうか何気に姉弟の絡み始めて見るかも。


「っぷァ! テメェらを呼んだのは、とっ捕まえた魔王軍幹部を引き渡す為だ。さっさと引き取って帰れ」

「ちょっ、ゼル! そんな言い方ないんじゃないの!?」

「いいんですよアカネちゃん。ゼルもありがとう。風の谷を守ってくれて」

「おいっ、ちょっ!? 撫でんな頭を!!」


 鬱陶しそうに手を払いのけるゼルに対し、エルさんはそれでもゼルの頭を優しく撫でまわす。おぉすごい、あのゼルが押し込まれてる!

 後ろの兵士や冒険者たちもそれを生暖かい視線で眺めながら、簀巻きにされたバルバディアを抱えて風の谷へと戻り始めた。


「ええい放せ! ていうかお前も帰れ! 俺たちゃ先進まねえといけねえんだよ!」

「ふふっ、やる気満々ね。頑張ってゼル」

「ったりめーだっつの!」


 そんな微笑ましいやり取りを終えて、エルさんはうっすらと名残惜しそうな表情浮かべながら風の谷へと戻っていった。

 残ったあーしたちはニヤニヤとゼルを見つめながら、とりあえずキャンプを張っていた廃墟へと足を運ぶ。

 しかし。


「残ってる訳ないよね・・・」

「最後の最後に迷惑だけかけていったわねアイツ・・・」


 あーしたちの目の前にはキャンプはおろか最早廃墟すら無く、ゼルとルビーちゃんが開けたものと同じような大穴がゆっくりと砂を飲み込んでいた。考えるまでも無く、さっきの戦闘で吹き飛ばされたんだろう。


 当然ながら今のあーしたちに代えのキャンプセットなんてある訳が無く、ざっとドローンで見回してみても砂漠の風を凌げそうな場所はどこにも見当たらない。・・・どうしよこれ。もう風の谷に帰るのもアリかな。


 なんてネガティブ思考全開になってるあーしとネクに対し、ゼルとルビーちゃんの方は特に深刻そうな様子も無く、何故か確かめるように穴の先を覗いている。何してんの?


「やっぱ同じ場所っぽいな」

「間違いない」

「ねぇ、二人は何話してんの?」

「ん? あぁ、そういや言ってなかったな。俺たちで開けた穴の先なんだがな、けっこう広めの空間っつーか、遺跡みたいなとこに繋がってたんだよ」

「えっ、マジで!?」

「そこなら砂漠で寝泊まりするよりはマシだと思って。それに万が一にも魔王軍に見つかる危険性も低い」


 二人の話を聞いたあーしとネクも小走りで大穴へと近づき、一応安全確認のためにドローンを先に大穴の中へと送り込む。

 ドローンが発する謎の後光によって照らされた穴の先は、確かにゼルの言った通り石造りの遺跡のような光景が広がっていた。さらにぐるっと見回してみれば、ゼル達が開けたと思しき大穴から月の光がうっすらと差し込んでいるのも確認できる。


「すごい・・・こんなとこがあったなんて・・・!」

「そもそもさっきの廃墟に下り用の階段があったんだよ。砂で埋まって使えなくなってたがな」

「てことは、あの廃墟自体がこの遺跡に繋がってたってこと?」

「そうなるな」

「分析は後でいいじゃなぁい。とりあえず降りてみましょうよぉ。早く寝ないと明日に響くわぁ」


 ネクのごもっともな意見に押され、あーしたちは糸を伝ってゆっくりと大穴から謎の遺跡へと降りていく。

 地面に着いてから改めて周囲を見回してみれば、長い年月を感じさせる朽ち果てた石造りの柱や、砂ぼこりでうっすらと白く染まった建物なんかが目に入る。

 たぶん本来は地下の暗闇にだけ包まれていたんだろうこの場所は、それを優しく照らし出す月明かりと、光を受けて空中で輝く砂粒とが合わさり、とても神秘的な光景に仕上がっていた。


「ほぁ~・・・! なんか雰囲気あるね~・・・!」

「ここなら寝泊りしても問題ないはず。ネクさん」

「はいはぁい」


 ネクは手ごろなスペースを見繕うと、そこに簡単なテントとハンモックを自分の糸で作り出す。


「アタシはこのハンモックを使うから、アナタたちはそっちのテントで寝なさいな」

「えーずるい。あーしもハンモックで寝たーい」

「えぇ? まぁアタシはいいけどぉ」

「体にくっつかねえよなコレ」

「アナタのだけそうしてあげましょうかぁ?」

「あァ?」


 ようやく戦いも終わって休めるからか、ここにきて早くも仲良しを始めようとする二人。もういいや、ケンカ疲れしてそのうち寝るでしょ。

 あーしはヒートアップしていく二人にほぼ無視を決め込み、寝るまでの暇つぶしがてらドローンを使ってこの遺跡を探索してみた。


 思った以上にスペースの広いこの遺跡は、今の今まで砂漠の地下に隠されていたからか割と綺麗な状態が保たれていて、進んだ先々には立派な彫刻や壁画らしきものまで残っている。

 そんなドローン越しの冒険に一人ワクワクしていると、ふとあることに気づいた。


「あれ、これって・・・?」


 一つの壁画が目に留まり、あーしはそこにドローンをゆっくりと近づけていく。


 そこにはモンテローエの坑道ダンジョンで見つけた地下神殿と全く同じ、四大精霊を示す内容のものが描かれていた。

 しかも向こうの地下神殿と比べて状態も良く、あそこでは見れなかった壁画の続きもしっかりと残っている。


「ねっ、ねえみんな! これ見て!」

「どうしたのアカネさん?」

「ふぁ?」

「ふぁい?」


 あーしの少し慌てた声に、ルビーちゃんの澄んだ声と残り二人の間抜けな声が返ってくる。ほっぺのつねり合いて、かわいいな。

 そうして怪訝な表情浮かべて近寄ってきたみんなにスマホの画面を見せると、一様にあーしと同じようなリアクションを取った。


「こいつは、モンテローエの地下神殿と同じやつか」

「たぶんそうだと思うけど」

「内容は前に見たものと同じ、おそらく四大精霊と光の魔法を示すもの。だけど今回は続きがある」

「続きには何が映ってるのぉ?」

「えーっと・・・橋、かな?」

「橋?」


 四人でぎゅうぎゅう詰めになりながら覗き込むスマホの画面には、光の魔法を示しているらしい祭壇の絵の隣に、光り輝く橋のようなものが描かれていた。橋の先には一人で祭壇に立つ人らしき絵と、そこから続く緑豊かな大地や文明を感じさせる建物の絵が続いている。・・・なんだろコレ?


「橋っていうと、やっぱ黄金橋なのかな?」

「仮にそうだと仮定するなら、黄金橋の先には文明のある世界が広がっている、という意味?」

「そんな単純な話かしらぁ。第一これまでの歴史上で橋が架かってた頃なんて一度も無いのに、なんでその先が描いてあるのよぉ」

「確かに・・・」


 この世界の歴史に詳しい二人が腕を組んでうんうんと考え込む。

 確かにネクの言い分はもっともだ。なんで誰も知らないハズの黄金橋の向こう側が描いてあるのか。そもそもこれ自体黄金橋を示す内容なのかもハッキリしていない。全部妄想の域だし。


 そんな結論に至ったのは、あーしだけじゃなかったようで。


「んなもん考えんのは学者どもの領分だろ。余計なこと考えてねえでさっさと寝るぞ」


 そう言い残すなりゼルは自分のテントに入り込み、ものの数秒もしないうちに寝息を立てた。勝手な予想だけど、考えるのがめんどくさくなったんじゃないかと思ったり。

 

「そうだね、あーしたちも寝よっか」

「ん」

「そうねぇ」


 ゼルに言われたからかあーしたちも考えるのが面倒になり、そうすると途端に眠気が襲ってきて、あーしたちはもぞもぞと自分の寝床へと入っていく。

 おぉ、ネクのハンモック寝心地いいなぁ。今度からこれで寝ようかな。






「はぁっ・・・ふぅっ・・・やっと着いた」


 謎の遺跡で夜を明かし、砂の大海原で波打つ山をいくつも越えて幾許か。あーしたちはようやく砂漠を抜けて固い大地へと足を踏み入れ、ついに目的地の黄金橋近辺に辿り着いた。


 膝に手をのせて息を整え、そこからゆっくりと視線を上げれば、人類と魔王軍の境界線に建つ砦付近で戦火が上がっているのが目に入る。

 今まさに、あそこでルークさんやシルヴァさんたちが戦っているんだろう。


「おーおードンパチやってんなァ。俺様も混ざりてぇところだが、今回ばかりはそういう訳にもいかねえな」

「陽動は成功。後はここを一気に駆け抜けて、魔王軍領に入り込む」


 あーしの隣では特に息を乱した様子の無いゼルとルビーちゃんが、それぞれ真剣な面持ちで先の光景を眺めている。

 そう、ここから少し進めばついに魔王軍の領地に入る。ついにここまで来たんだ、あーしたち。


「気合十分なところ悪いけど・・・ちょっと休憩しない・・・?」


 そんなゼルとルビーちゃんの逆隣りでは、今までよりはマシなものの、大きくゼエゼエと息を吐いて膝をつくネクの姿が。いやこっからが本番だよ、何言ってんの。


「大丈夫ネクさん、ここから魔王軍領までは私がみんなを運ぶ」

「よぉし、さっさと行きましょうかぁ」


 一瞬で元気を取り戻したらしいネクは、チーターっぽい姿に変身したルビーちゃんにいの一番に跨る。現金だねほんと。

 なんてツッコんでる時間も惜しいので、あーしも素直にネクの後ろに跨り、一応索敵のためにドローンも飛ばしておく。待ち伏せがないとも限らないしね。


「どう、アカネさん?」

「今んとこ敵は見当たらないかな・・・ん?」

「どうしたアカネ」


 一応魔力温存のためにルビーちゃんの頭に座っているゼルが、不意に発したあーしの声をすかさず拾う。


「あぁゴメン、敵じゃないんだけど・・・黄金橋が、伸びてる」

「なに?」

「えっ?」

「ほんとぉ?」


 作戦とは関係ないために恐る恐る報告したあーしに、メンバー全員の顔が集まる。あれっ、けっこう気になる感じ?

 実際あーしのスマホに送られているドローン越しの景色には、前に見た時よりも確実に面積が増えた黄金橋がバッチリと映り込んでいた。

 前は数歩進めるくらいしか無かったのに、今では軽いテントを張れるくらいにはスペースがある。


 もっとも、その先の深い霧には全く届いていないけど。


「これ、何気に歴史上初めての事なんじゃ無いのぉ?」

「えっ、マジで!? そんなに!?」

「今までの黄金橋関連の情報において、橋の面積や体積が増えるという報告は聞いたことが無い。どうしていきなり・・・」


 どうやら目の前の出来事は、あーしが思っていた以上に大きいイベントだったらしい。歴史上初めてって、何でこのタイミングで・・・?


 そうして思い出されるのは、昨晩見つけた遺跡の壁画。

 これまた示し合わせたように黄金橋っぽい絵が描いてあったけど、あれに何かヒントでもあるんだろうか。


 なんて考え事のループに陥りかけたところで。


「止めろ止めろ! お前らここに何しに来たのか忘れたのか」

「ハッ!? そうだった!」


 ゼルが強めに張り上げた声のおかげで現実へと戻って来る。危ない危ない。時間が惜しいって言っときながら何してんだか。


「んなもん帰ってからいくらでも調べられんだろ。さっさと行くぞ」

「わ、分かった」

「了解」

「はぁい」


 ゼルの言葉に全員が返事をしたところで、ようやくルビーちゃんが魔王軍領へ向けて動き出す。

 その間際であーしは一枚だけ伸びた黄金橋の写真を撮り、すぐに索敵へと戻らせた。


 正直まだちょっと気になる所はあるけど、これから先は魔王軍の領地。そしてその先の魔王城にはエイミス様がいる。そう、ここからが本番だ。

 あーしは気合を入れるために両頬を叩き、迫る魔王軍領へと視線を移した。

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