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異世界インスタ  作者: 五寸
第5章 光の果て
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4話 前半

 なんちゃって隕石によって巻き上げられた砂煙が、砂漠を走る夜風に乗って徐々にそのベールを脱いでいく。

 しばらくスマホ越しにその光景を眺めていれば、うっすらと砂煙の中に二人のシルエットが浮かび上がり、ついにその姿を現した。


 隕石と化したゼルを真正面から受け止めたバルバディア。果たしてその結果は・・・!?


「って何で裸だし!?」


 砂煙が晴れて真っ先に飛び込んできたのは、すっぽんぽんの状態で仁王立ちしながら不敵な笑みを浮かべるゼルの姿だった。カッコつけてるんだろうけど、どう見ても変態にしか見えない。

 しかしそんな笑みを浮かべるだけの成果は出していたようで、視線の先にいるバルバディアの両腕は、あらぬ方向に曲がってプラプラと垂れ下がっていた。うっわいったぁ・・・。


 しかしバルバディアは、見てるこっちが痛々しいその状態でなお笑みを浮かべ、特に腕を気にした風も無く話し始める。


「やるなァお前。まさか俺が妖精に腕を折られるとは思いもしなかったぜ。ていうかさっきのアレだよな、ネクリアを倒した技だよな?」

「ほう、詳しいじゃねえか。その通り、この俺様が、あのクモ女を、完膚なきまでに叩きのめし、完全勝利に導いた記念すべき技だ」

「いちいちうるさいわよォ!!」


 わざとらしく一言一言強調して喋るゼルの下に、暗闇の中からネクの糸が怒声と一緒に這い寄って来る。

 まさかこの状況でケンカすんのと一瞬身構えたものの杞憂だったようで、ネクの糸はすっぽんぽんのゼルの上から覆いかぶさるように簡単な服を作り出した。なんだかんだ優しいねネクって。


「お、その声と糸はネクリア本人か? 相変わらず器用なことしてんな。ついでに俺のギブスも作ってくれよ」

「アナタそんなもの必要無いじゃないのぉ」

「ハッハ! まぁそうなんだけどなッと!」

「うぇっ!? 何それ!?」


 ネクの言葉に返しながらバルバディアが気合を入れると、ブラブラと折れ曲がっていた両腕が蒸気を発しながらみるみる内に治り始めた。

 ものの数秒で両腕は完璧に元通りになり、バルバディア自身が握ったり動かしたりして調子を確かめている。


「なに今の・・・魔法、には見えなかったけど」

「ご明察だ。今のは俺たちオーガ種の売りの一つ、超回復だ」

「超回復・・・!?」


 ドヤ顔でそう語ったバルバディアはそれ以上説明することなく、治した腕同士をバシバシと打ち鳴らす。

 さっきのアレと名前からして、骨折程度のケガならすぐに治せるってとこだろうか。マジで魔王軍版のゼルみたいになってきたな。


「さっきの技は中々だったが、そんな小手調べじゃこの俺には通用しねぇ」


 そう言いながらバルバディアは、傷だらけの上半身を見せつけるように体を動かす。


「俺を殺したいなら、治しきれねぇ傷をつけるくらいじゃねえとなァ・・・!!」

「上等だぜ・・・!!」

「ちょっと待ちなさいアナタ! 彼の挑発に乗っちゃ・・・」

「しらけること言うなよネクリア。むしろお前と、もう一人ルビーだったか? まとめてかかって来るでもしねえと、この俺は倒せんぞ?」

「空気読めクモ女」

「もうこの二人大ッ嫌いよォ!!!」


 砂漠の暗闇の中から、居場所が丸わかりになるほどのボリュームでネクの嘆き声が届けられる。気持ちは分かるけど抑えて抑えて。バレちゃうから。


 そして当然のようにネクの制止がゼルに届くことは無く、そのまま第二ラウンドが始まった。


「オォラアアアアアアアアア!!!」

「オォラアアアアアアアアア!!!」


 どっちがどっちか分からないほど似たような叫び声を上げながら、ゼルは岩の拳を、バルバディアは己の拳をそれぞれ魔法やスキルで強化し、更に猛烈な勢いを乗せた上で殴りつける。ぶつかり合った拳は砂漠を揺らす程の衝撃波と爆音を生み出し、お互いを大きく弾き飛ばした。

 そうして空いた距離を助走で埋めてもう一度殴り合い、弾き飛ばされては力比べのように何度も何度もぶつかり続ける。

 

「『バーストスマッシュ』!!」

「甘ェ!!」


 バルバディアから放たれた強烈な左ストレートをゼルがギリギリでかわすと、その背後にあった砂の山が風圧だけで跡形もなく吹っ飛んだ。威力おかしくない!?

 ビビるあーしに対しゼルはそのまま体を滑らせるようにしてバルバディアの懐へと入り込むと、超至近距離で魔法を唱え反撃を叩き込む。


「お返しだ! 『爆裂ナックル』!!」

「うごッ!?」


 カウンターとして打ち込まれた岩の拳は顎に直撃すると同時に激しく爆発し、バルバディアの首から上を黒煙で包みながら大きく吹っ飛ばした。

 ようやく生まれたチャンスにゼルはすぐさま追撃を仕掛け、吹っ飛ぶバルバディアの上を並行に飛びながら、今度は岩の大足を魔法で作り出す。 

 

「喰らえ! 『ロックストンプ』!!」

「甘ェなァ」

「っ!?」


 バルバディアは繰り出された岩の大足を難なく受け止め、そのままがむしゃらに振り回しながらゼルを地面へと叩きつけた。

 壁の魔法が間に合わなかったのかゼルは何度も何度も体から地面に叩きつけられ、最後はフルスイングで砂漠の彼方へと投げ捨てられる。


「今度は当ててやる、『バーストスマッシュ』!!」


 砂の山すら突き抜けながら地面と平行に吹っ飛ぶゼルに向けて、バルバディアがもう一度左ストレートを放った。そうして生み出された衝撃波は進行上の砂の山を蹴散らしながらゼルを追いかけていき、しばらくすると地平線の近くで大きな爆発とともに砂煙が舞い上がる。


「ゼルーーー!!?」

「手ごたえアリだ。こいつは決めちまったか? ・・・ぬおっ!?」


 ゼルを吹っ飛ばした方角を見て満足げに笑うバルバディアの足元から、突如としておびただしい数の糸が顔を出し、触手のように蠢きながらその全身に絡みつく。

 そうして体を固定されたバルバディアの目の前にルビーちゃんがぬるりと現れ、短く無駄のない動きでその首元に小刀を振るった。


 しかし。


「っ!?」

「オイオイ、舐められたモンだなァ」

「ちょっ、嘘でしょ!?」


 ルビーちゃんの小刀は、しっかりとバルバディアの首元に切り込んでいた。

 問題は、その太い首の表面に小刀がちょっと食い込んだだけで、それより先にはどれだけ力を込めても動かせないようだった。それどころか、バルバディアの超回復で傷口がどんどん治っていき、最後には小刀の方が押し出されてしまう始末。


「そんな細腕となまくらじゃァ、かすり傷にもなりゃしねぇぞ!!」

「危ないルビーちゃん!!!」

「くっ!?」


 さらにバルバディアは糸の拘束を力づくで引きちぎり、そのままの勢いで目の前のルビーちゃんにラリアットをかました。それをルビーちゃんはギリギリで回避したもののバルバディアの猛攻は止まらず、ひたすらに襲い来る攻撃をかわし続ける。

 

「オラオラどうした!! 避けてねえで打ってこいよ!!」

「なら、遠慮なく」

「っ!? ゴフッ!!?」


 バルバディアからの攻撃をルビーちゃんがバク転で回避したかと思えば、振り上げた両足をサイクロプスに変身させて相手の顎を打ち抜いた。

 極太の足によるカウンターにはさすがのバルバディアも仰け反ってしまい、その間にルビーちゃんはハイドで暗闇の中へと消える。


「・・・ッハァ!! やるじゃねえか・・・ってどこ行った?」

「ーーーーーこぉぉぉおおおおこだァアアアアア!!!」

「うぉっ!!?」


 カウンターを喰らわせるなり消えてしまったルビーちゃんの代わりに、地平線から間延びした声と共にゼルの強烈な突撃がお見舞いされる。

 二本の轍を残しながらバルバディアを押し退けて行ったゼルは、そのまま勢いに乗せてきりもみ状態になりながら上空へと飛び上がり、今度は空中へとバルバディアを放り出した。


「喰らえ! レイヤードマジック『キャニスターシェル』!!」

「くっ!?」


 ゼルと違って空中で自由の効かないバルバディアに向かって、ゼルの魔法を封じ込めた弾丸が連続で撃ち出される。

 直撃するなり火や水と色んな属性の魔法が破裂してバルバディアを弾き飛ばし、反撃を許さないまま砂の大地へとその体を突き落とす。


 しかしまだ、ゼルの攻撃は終わらない。


「ハァアアアアアアアアアア!!!」


 未だ上空に浮かんでいるゼルは頭上に超巨大な水の玉を作り出し、それを壁の魔法で無理やり圧縮してバルバディアへと差し向ける。


「レイヤードマジック『ハイドロスマッシュ』!!!」


 ゼルが必殺技を叫ぶと同時に圧縮された水が解き放たれ、もはやレーザーのようにも見える超高圧の水の魔法がバルバディアへと襲い掛かる。

 対するバルバディアはそれすらも真正面から受け止めたものの、あまりの威力に足場の方が耐えきれず、水しぶきを撒き散らしながら徐々に砂の中へと体ごと飲み込まれていった。


 しばらくするとようやく水の魔法も止まり、あーしは状況を確認しようとドローンを飛ばしてみると、水を吸って茶色く染まったクレーターの真ん中で膝をついているバルバディアの姿を捉える。


「あっ、アレ喰らって平気なのアイツ・・・!?」

「ちゃんとダメージは通ってるから問題ないわぁ。あとは回復される前に押し込むだけぇっ!」


 いつの間にか隣に来ていたネクが、あーしに補足しながらバルバディアに向けてもう一度糸を送り込む。するとドローンのカメラから、回復途中だったバルバディアが糸によって地面に磔にされる光景が送られてくる。


「トドメは任せたわよぉ!」


 バルバディアの回復を妨害しつつ体を固定しながら、ネクは今もゼルが待機している星空へと向かって叫ぶ。

 つられてあーしもカメラを向けると、しかしそこにゼルの姿は無く、代わりに大きな翼を広げたシルエットがバルバディアに向かって急降下している光景を捉えた。あれは・・・!


「ルビーちゃん!?」


 いつの間にかグリフィンに変身していたルビーちゃんが、その鋭く大きい鉤爪を突き立てバルバディアへと迫っていた。さらにその後ろではゼルが突撃魔法でスピードを底上げしていて、まさに炎の翼のようなシルエットを作り出している。おお! 星空に映えてカッコいい!


「コイツでトドメだァアアアアアア!!!」


 星空から迫る不死鳥のような姿から繰り出された一撃は、防御すらまともにできないバルバディアへと見事直撃し、途轍もない衝撃波や爆音を伴ってついには砂漠の地面に大穴を開けた。

 ドローンが見下ろした先では、アリ地獄のように中心の大穴へ向けて周囲の砂がゆっくりと流れ落ちていき、そのまま底の見えない暗闇の中へと吸い込まれていく。


 ドローン越しに映るその光景に鳥肌を立てていると、穴の中からゼルとルビーちゃんが飛び出し、あーしとネクがいる場所へと戻ってきた。


「おかえり二人とも! ケガとか大丈夫?」

「治したから問題ねぇ。残りの魔力がちょっとヤバいがな」

「一応聞いておくけど、手ごたえはあったかしらぁ?」

「手ごたえはあった。けど、相手はあのバルバディア様。正直予断を許さない」

「えっ・・・もしかしてアイツまだ生きてんの?」

「オーガ種でも最強の存在だものぉ。普通なら致命傷のダメージでも、彼なら復活しかねないし」

「えぇ・・・」


 ネクからの説明に心底ドン引きするあーし。あんだけの攻撃をまともに喰らって生きてるかもって、それもう化け物とかのカテゴリーに入るんじゃないの?


「とりあえず今は、万が一を考えてあの穴も塞いでおいた方がいい」

「そうねぇ。アナタも手伝いなさぁい」

「俺様に命令するんじゃねぇ」


 口ではそう言いつつも、今回は素直にネクと大穴へ向かうゼル。いつもこうだったらいいのに。


 穴は二人がなんとかするなら、あーしは放ったままのキャンプをどうにかしようかなと、ルビーちゃんを連れて廃墟の方へと振り返る。

 その瞬間、地獄の底から届けられたような叫び声が、この広大な砂漠全体を揺さぶった。

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