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作者の想像世界

言霊

作者: パーミテンション

言霊というものがある。


食べ物や花に、馬鹿、と言うと通常よりも早く腐ったり枯れたり、逆に頑張れやありがとうと言えば、長持ちするというアレだ。


科学的な根拠は多分ない。しかし、言葉には何らかの力があり、それを人は言霊と呼んだ。


そして、それは言葉を発することができる僕たち人間ならば、誰もが持っている一つの力。


そして、僕にはそれが通常の何百何千倍と強かった。


僕が頑張れと言えば、言われたそいつは過労死するほど頑張る。


もちろん過労死させるつもりで言ったわけではない。純粋に頑張って欲しかったからそう言った。


僕のこれは言葉で発するに留まらない。


SNSアプリなどの文字でも適応されるようだ。


試しに、明日は月曜日だけどみんな頑張ろうな、と言ってみた。


拡散速度は、光速を超えたと思う。


日本の裏側の人からメッセージを受け取ったときは心底怖くなった。


もしも本気で、頑張ろうなと打ち込んでいれば、おそらくこれを見た人は過労死していたに違いない。


そう、弱める方法はある。心の底からそれを言わなければいい。いわゆる、『心を込め』ないで言葉を発すればいい。SNSはそれのおかげで過労死するほどのものはいなかった(と思う)。


とにかくそんなわけで、僕は無口になった。当たり前だ。無意識で人を殺したくないし、『心を込め』ないで人と話すだなんて嫌だ。


なるべく人目を避け、殻に閉じこもった。


けれど今、長く閉ざしていた口を開かないといけない時がきた。


こんな日が来るなんて思ってなかった。


こんなめちゃくちゃな計画を思いつくだなんて思っていなかった。


2020年東京オリンピック当日。世界中のメディアがここに集まる。生放送で日本の映像が外国へ、世界へ発信される。


そんな日に、巨大隕石が降ってくるだなんて、なんて最悪なタイミングであり、最高のタイミングだろうか。


某国のミサイルだなんてもろともしない程の隕石。


まさに地球最後の日。


これを知っているのは極一部。故に人は、今オリンピックで話題が持ちきりなのだ。


僕はそれを、極一部の人間である父親から聞いた。父親はもちろん僕の言霊の恐ろしさを知っている。隕石にどうにか言ってくれないかと言ったのだ。


はっきり言って無理だ。隕石は生きてない。心無いモノに言葉は通じない。


しかし僕は、ある作戦を思いついてしまった。この日がもしもオリンピックの一週間前とかならばできない芸当だった。


選手でもないのに僕は、新国立競技場グラウンドの真ん中に立っている。


世界中の視線が僕に集まっていることだろう。それでいい。それがいい。


すうっと息を吸い込み、マイクを片手に叫ぶ。心の底からの言葉を発す。



「力を貸せっ!」



次々と、人々から力が抜けて倒れていく。

実際に口に出して言うほど、文字に感情を込める方法はない。百パーセントの感情は文字では伝わらない。


頑張れと言えば過労死するほどに頑張る。そんな力はどこからくる?


全ては言霊からくる。


言霊は、あの言葉を聞いた人から力を借りて、僕のところへ戻ってくる。


世界人口70億以上。その力が今、僕にある。


目視できるほどの距離まで迫ってきたそれに向かって、跳んだ。


足場となった地面はえぐれ、ものすごい勢いで隕石へと向かって行った。


ぐっと拳を握りしめ、隕石に突きつけ、押し返す。



「ぶっ飛べっ!」



隕石に言葉は通じないが、叫んだ。


破壊しなくていい。地球の軌道から逸れてくれるだけでいい。


隕石は、投げられたボールみたいに、はるか彼方へ飛んで行った。


一方僕は、重力に任せて地面へと近づいて行った。


体から力が抜けていく。言霊が僕から、力を返せ返せと、力を抜いていく。


隕石を押し出した後のことは考えてなかったし、時間もなかった。


何人分の力が返せるだろうか。


しかし返せずとも、少しの力は残っているだろう。しばらくすれば元気になるはずだ。


ずんずんと遠のいていく空。


だんだんと近づく地面。


きっと助からない。どれだけ跳んだと思ってる。


思えば短い人生だった。


まあ、これからは発言に気にしなくても済みそうだ。


「ありがとう」


ただ一言、僕はそう言った。

読んでくれてありがとうございます。

感想等書いてくれたら泣いて喜びます。


また、よかったら他の作品も読んでみてください。

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