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差し出された手紙

 私は暗い部屋の中で、眠ることが出来ずベットの上で寝転がっていた。

 支部長室での振る舞いは覚えている。

 なにも言わずに勝手に出てきてしまったことは後悔でいっぱいだが、それでもあの場にあれ以上いることはできなかった。

 ステラさんの危険な目にあわせてしまった。

 それだけじゃなく、お姉ちゃんもリュウカさんにも、ミルフィさんにも迷惑をかけてしまった。

 お姉ちゃんは私を責めるし、リュウカさんは私を庇おうと必死にヘイバーン支部長に意見を述べてくれていた。

 嬉しかった。泣きそうだった。こんな私の抱える問題を知ってもなお、リュウカさんだけは守ってくれた。

 だけど、そんな態度をリュウカさんにさせている自分を思うとあまりにも耐えがたく、あんな行動に出てしまったのだ。

 言い訳するつもりはないが、どうしても1人暗い部屋の中で横になっているとそんなことを思ってしまう。

 あの時こうしていれば。もっと私が強い意思で断っていれば。

 後悔が出て出て仕方がない。

 お姉ちゃんの言う通りだった。私は家から出ちゃいけなかったんだ。

 もう守られるだけじゃ嫌だ。お姉ちゃんと昔の様に、一緒に並んで歩けるだけの強さが欲しかった。

 そんな一心でアイリスタに来たけど、結局私のその浅はかな行動は1人のおばあちゃんの大切な家や庭を壊し、命まで奪いかねなかった。

 バカだ。リュウカさんはかばってくれたけど、全部私のせい。

 悪魔憑きの私が悪いんだ。

 私なんていなければいい。そうすればお姉ちゃんはなにも気にせず生きていけるし、リュウカさんをあんな悲しい表情にすることもなかった。

 ひいてはステラさんが家を失うこともなかったのだ。

 私が関わってしまったからこんな結果が起こってしまった。

 ステラさんになにを言われるだろうか。呆れられるか怒られるか。両方なのか。もしかしたらもっとひどいかもしれない。

 死ねと言われても仕方がないだろう。だって私はステラさんの大切な、依頼まで出しても守りたかった花畑を壊してしまったのだから。

 あの温厚なステラさんの怒った顔は見たくない。

 だけど、それは無理なことだ。全部話さなきゃならない。私の事情も、なんでこんなことになったのかも。全ては私が悪いんだと。そう言わなければならない。

 胸が痛い。苦しい。

 嫌だな。嫌われるのは慣れてるはずだったのに、こんなにも痛く苦しいなんて。

 誰かに助けを請いたかった。助けてもらいたかった。

 だけど、そんなのは無理で。こんな私を助けてくれる人なんていなくて。1人で向かっていかなければならない。

 手が震える。唇も上手く動かない。

 寒気もしてきた。

 ベットの上、毛布を体に巻き付けながら目をつぶる。

 このまま眠れればどれだけ楽だろうか。寝ているときだけが私が休まるときだ。なのにそれさえも叶わない。

 体は震え、立ち上がることもままならない。

 お腹が空いていたけど食欲はないし、今出ていってしまえばきっとリーズさんに泣きついてしまいそうだ。

 それだけは避けないと。もう誰にも迷惑はかけないと誓ったから。

 ステラさんになにを言われるのか。それになにより、ステラさんは目を覚ますのだろうか。気が気ではならなかった。

 どこまでも繰り返される後悔に苛まれているなか、不意に部屋の扉がノックされた。

 コンコンコンッ。

 軽い音だったが私にはそれがまるで悪魔の到来を思わせるかのようなほど、大きな音に聞こえる。

 なにか言わないと。そう思って声を上げようするが、唇が正常に動いてくれない。

 コンコンコンッ。

 また同じようなノックが鳴る。

 すると今度は扉の先から声がかけられた。


「大丈夫?」


 声の主はリーズさんだった。

 突然帰ってきた私をむかえてくれたリーズさんに、私は目もくれずに部屋に入っていってしまったのだ。

 それを心配してのことだろう。

 これ以上心配かけてはならないと思い、私はなんとかベットの上から起き上がると、座りながら声を出した。


「だ……だいじょうぶ…です……」


 弱弱しい声に聞こえただろうかと少し不安になるが、すぐにリーズさんの返事がきた。


「そう? ならいいんだけど……もう夕食の時間はきているからいつでもおりてきていいからね」

「はい……ありがとうございます……」


 リーズさんのいつもと変わらない態度に、私は少しだけ安心した。

 しかし、そんなリーズさんとももうこれっきりかもしれない。そう思うと悲しさがこみ上げてくる。

 ステラさんが目を覚ましたら、謝って今後の身の振り方を考えなければならない。素性がばれてしまった以上アイリスタにいることはできない。なによりも、私によくしてくれた人と顔を合わせるのが辛い。

 それにだ、もう未来はないのかもしれない。ステラさんに死ねと言われればそうするつもりでいる。それが悪魔憑きの私の責任だから。

 大丈夫。誰も悲しまない。だから……。

 しかしそう思えば思うほど、リュウカさんの笑顔が、リーズさんの笑顔が頭をよぎり、声が出そうになる。

 またリーズさんの食事が食べたいな。リュウカさんと話がしたいな。

 そう思って扉を見るが、すぐにいけないと目をそむけた。関わらないと決めたはずだ。ここで1階に降りるわけにはいかない。甘えてしまう。

 そんなことを思ってベットに潜り込んだ私だったが、すぐに床にあるさっきまでなかったはずのある物に気づき、体を起こした。

 扉の隙間。そこに1枚の紙が挟まっていた。

 リーズさんのものかなとも思えた。

 私はなんとか立ち上がると、その紙を手に取り内容を目にする。


『やっほー。シャルロット。元気?……なわけないか。だよね。仕方ないと思うよ。

 シャルロットが悪魔憑きって呼ばれてるなんて、まったく知らなかった。耳がかわいいなんて言ってごめんね。でもかわいいのはほんとだから。それだけは勘違いしないでよ。

 悪魔憑きのこといろいろと聞いた。大変だね。辛いよね。1人だって思ってるかもしれない。だけどさ、忘れないでよ。

 なにがあっても私はシャルロットの味方だから。仲間なんだから当たり前でしょ。アーシャさんがなに言おうと、誰がなに言おうと私は今回の事シャルロットのせいなんて思ってないよ。不幸な事故が重なっちゃっただけ。

 まぁ、ステラさんのことを考えると、こんなこと失礼で言えないけどさ。それでも私は知ってるよ。シャルロットが本当にステラさんのこと大好きで、大事に思ってたの。じゃなかったら、あんな必死に依頼をこなせないもん。それはきっとステラさんも分かってる。

 ステラさん自身が悪魔憑きに対してどう思ってるかは分からないけどさ、悲観し過ぎない方がいいかもよ。いや、ええっと、これもどうなのかな。

 ステラさんに対して失礼極まりないのかもしれないね。ごめんね。

 だけど忘れたらダメだよ。シャルロットには私がついてる。私は絶対にシャルロットを見捨てたりしない。

 言ったでしょ? かわいい女の子を助けるのは当たり前って。

 きっとシャルロットは部屋に行っても応答してくれないと思って手紙を書いてみた。

 いやはや、扉の下に隙間があって助かったよ。シャルロットのおかげで知れた。

 ありがとう。

 あとさ、回復したら私の頭に治癒魔法かけてよ。お姉ちゃんにチョップされちゃった。まったく、アーシャさんのチョップは痛いんだから、勘弁してもらいたいよね。

 じゃあね。お休みシャルロット。


 シャルロットの仲間 リュウカより』


 そんな手紙を読み終わった私は、その場に崩れ落ちた。

 涙で前が見えない。

 どうしてここまで、こんなにもリュウカさんは優しいのだろうか。ずるい。ずるいですよ……。

 こんなこと言われちゃ、泣きます。泣いてしまいます。

 まだ責めてくれた方がよかったのに。楽だったのに。

 リュウカさんはそれでも頑なに、味方だと主張してきた。仲間だと言ってくれた。


「あぁああ…………」


 私はこれでもかと涙を流した。

 声も抑えきれずに。

 優しい。こんな人初めてだ。普通悪魔憑きだと知ったら離れていくのに、リュウカさんは離れてくれようともしない。

 ステラさんが襲われて倒れて目も覚ましていないのに、こんな私にこんな手紙。

 バカで、呆れて、能天気でそれでいて今の私にとっては最高に―――心強かった。

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