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3日後

 それから3日後。

 俺たちはまたしても馬車に揺られながら、ステラさんの住む家へと向かっていた。

 あの後、帰ってから報酬の件をギルドの職員、あの受付のお姉さんに伝えたところ、すぐに了承してくれて馬車の手配も裏でしてくれた。

 おかげで、なにもすることなく今回は宿舎に着くと同時にステラさん宅行きの馬車に乗り込んだ。

 前と同じ運転手の人が俺たちを連れていってくれる。

 馬車に揺られながら、シャルロットはまたステラさんに会えるのが嬉しいのか、終始笑顔だった。

 ついつい、俺もつられて顔がほころぶ。

 しばらく馬車に揺られた後、そろそろかなと思っていると、急に馬車が動きを止めた。

 突然のことに俺もシャルロットもバランスを崩しかける。


「ご、ごめんなさい」

「いえ、私たちは大丈夫ですけど、なにが……」


 運転手の人はある方向を見ながら止まっている。

 

「あの……着いたには着いたんですよ。けど……」


 絞り出すような声の運転手に俺はその視線の先を見つめた。

 そして、あまりの光景に目を見開く。

 視線の先。ステラさんの家があったところが―――荒れ果てていた。

 なにかが暴れたように地面が抉られ、きれいな花畑は踏み荒らされ見るも無残な光景だった。

 家も火事でもあったのかと思うぐらいに崩れ落ち、煙をあげていた。

 俺は馬車から飛び出した。

 シャルロットもついてくる。

 ステラさんが心配だ。

 俺は家に近づくと叫ぶ。


「ステラさん! ステラさーん!」


 声が出る限り叫ぶ。

 嫌な予感が頭に浮かぶがすべて否定する。

 まさか、そんなことない。


「ステラさん!」

「いたら返事してください!! お願いですから!」


 俺とシャルロットの声が静かな草原に悲痛にも響き渡る。

 頼むから返事をしてくれ。嫌だぞそんなこと。くそったれ!

 俺は焦りながらも崩れかけている家の中に飛び込もうと足を踏み出した。

 そんな時。

 

「入るな!」


 誰かの鋭い声に止められる。

 

「そうよリュウカちゃん。危ないわ」


 聞きなれた声が響く。

 足音がする方を見ると、家の裏からアーシャさんとミルフィさんが姿を現した。

 なんでこの2人がこんなところに……。


「アーシャさん……ミルフィさん……」

「いつ崩れるかも分からないところに入るなんて、お前でも危険だぞ」


 アーシャさんがステラさんの家を指さしながら、目を見開いている俺に近づいてくる。

 俺はハッとした様に2人に詰め寄った。


「だけど中にはステラさんが!!」

「ステラ?」

「それって、この家の人?」

「そうです! なにがあったか分かりませんけど、ステラさん足が悪くて! 車いすでしか動けないんです! だから早く中に行って」

「その必要はない」


 俺の言葉をアーシャさんは無情にも遮った。

 冷たい一言に、嫌な予感がよりくっきりと形を成していく。


「必要ないって……」

「だから、今から行っても手遅れだ」

「そんな……」


 俺は膝から崩れ落ちた。

 なんで、どうして。こんなことって……。

 おかしいだろ。まだ報酬もなにも貰ってない。また会いましょうって約束しただけなのに、こんなこと。

 ミルフィさんが俺の顔を見つめてくる。

 膝をおって優しい女神の微笑みを俺に向けてくる。


「手遅れ。だってそのおばあちゃん。今はアイリスタにいるもの」

「へ……?」


 笑顔のミルフィさんの言葉に、俺の頭は置いてけぼりをくらう。


「今なんて……」

「だから、この家の人、ステラさんは今アイリスタにいるのよ。今から行ってもリュウカちゃん達が危険なだけ」

「じゃあ、死んでは」

「当たり前だ。なにを言っている」


 アーシャさんが呆れたように嘆息する。

 俺の体から力が抜けていくのが分かる。後ろに倒れ。荒れ果てた地面に寝転がった。ふわっと残っていた花弁が舞う。


「よかったー……!!」

「ふふ。本当ね」

「まったくアーシャさんは意地悪ですね。あんないい方したら、勘違いするじゃないですか。やめてくださいよ」

「? なんのことだ」

「とぼけたって無駄ですよ。ドッキリにしてはたちが悪すぎます」

「いや、別に私は事実を言っただけなんだが……」


 困り顔のアーシャさんは放っておこう。

 まったく紛らわしい。

 助ける必要はないとか手遅れだとか、普通に聞いたら最悪の方を思うじゃんか。

 実際この状況ではもしかしてって思ってたからなおさらさ。

 趣味悪いよ。天然も状況を読んでいただきたい。

 俺は寝転がったまま、シャルロットの方を見る。

 フードを力強く握っているが、下から見るその顔は少しだけ安心したようだ。

 俺と目が合うと、複雑そうでも笑顔を向けてくれた。

 俺もそれに返す。


「でも、まさかリュウカ達だったとはな」


 アーシャさんが俺に手を伸ばしながらそう言う。

 手を取り地面に座り込んだ俺は、アーシャさんの言った言葉に対して答えた。


「なにがです?」

「いやな。そのステラとかいうおばあちゃんを助けたときずっと呟いてたんだ。明日、大切な人が来るって」

「そうなのよ。でもその後、煙を多く吸い込んじゃった影響で意識を失っちゃって、それが誰なのか分からずじまい」

「それで私たちが来るであろうおばあちゃんの大切な人を待ってたわけだ。調査も兼ねてな」

「そうだったんですか……それで」


 2人はここにいたということか。

 なんかどっと疲れた。

 俺ははーっと息をはくと立ち上がった。


「ありがとうございます。ステラさんを助けていただいて」

「別に助けたってわけじゃない。ただな、昨日の夜、1人で修行をしていたら、たまたま遠くの方から明かりと一緒に煙が上がってるのを見て、嫌な予感がしただけだ」


 顔をそむけている感じを見ると、純粋な賛辞を向けられてアーシャさんは照れているみたいだ。


「ちょうど私もアーシャちゃんを迎えに行く途中だったから、走っていくアーシャちゃんを追ってったってわけなの。そうしたら火事になってる民家があって。もうそれから大変」


 ミルフィさんがため息をこぼした。


「アーシャちゃんは火の中に飛び込んでいくし、火はどんどん勢いを増していくのよ。だから私が何とか魔法で火を消したの」

「仕方ないだろ。体が勝手に動いたんだから」

「まぁ、おかげでステラさんを火の中から助けられてんだけどね」


 ミルフィさんはにっこりと笑った。


「ふふっ」


 すると、俺の後ろにいたシャルロットの口から笑い声が響いてきた。

 ステラさんの無事を聞いて安心したんだな。笑える余裕まで出てきたことはいいことだ。


「ほーら。アーシャちゃん笑われてるわよ~。無鉄砲なことするから」

「う、うるさいなぁ」


 顔を赤らめているアーシャさんを見て、より一層シャルロットの笑みが増す。


「そんなに笑わなくてもいいだろ」

「ご、ごめんなさい……つい……」


 アーシャさんの言葉にシャルロットはなんとか笑い声を抑える。

 それでも顔はずっと笑っていたのを俺は見逃さなかった。

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