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キングウォーター

「どうしてこんなところに……」


 現れた巨大ウォーターにシャルロットがわななくように声を上げた。


「なにこれ? 巨大なウォーター?」

「違います。こいつはキングウォーター。ウォータですけど別物の魔物です」


 密着しているシャルロットの身体が震えているような気がする。

 そんなに強力な魔物なのだろうか。いまいちかわいい見た目そのままなので、よく分からない。


「なんで、どうして……」


 しかし、下を向くシャルロットの様子に俺はなにも言えない。

 斬撃が効かないと分かっていても、俺はシャルロットから身を離し、いつでも動けるようにエターナルブレードを握る。


「ステラさんは窓を閉めて家の中に! リュウカさん。私たちはステラさんと家を巻き込まないように離れた場所までキングウォーターを誘導しましょう」

「分かった! じゃあ、さっきみたいに水の魔法を」

「いえ必要ありません! 走りますよ!」


 そう言ってシャルロットは俺の手を掴むと、家とは反対方向に走り始めた。

 俺たちを追うようにキングウォーターも動きだす。

 のっしのっしとゆっくりな動きにもかからわず、体が大きいため俺たちとの距離は変わらない。

 すると、キングウォーターの口から水鉄砲が発射される。

 ウォーターと全く同じ攻撃。しかし、その規模は桁違いだった。

 人2人など軽く覆ってしまうほどの大きくてでかい水量の水鉄砲は、そのまま俺たちを捉えきれず地面に当たる。

 ドンという音と共に地面が抉れ、土部分が見えてしまっていた。

 規模だけじゃなく威力まで変わっている。

 ただ濡れただけのウォーターの攻撃とはもう別物だ。


「キングウォーターはその体自体、多くのウォータの集合体です。攻撃パターンもなにからなにまでウォーターと同じ。でも、まったく同じというわけではありません」


 キングウォーターの攻撃に圧倒されている俺の手を引っ張りながら、シャルロットは比較的冷静に走り続けていた。

 

「攻撃の威力もさることながら、一番変わっているのはその特性。ウォーターとは違い動くもの全部を敵だと認識し攻撃してきます。獰猛な獣と変わりありません」

「だから、走るだけでいいと」

「はい。そういうことです」


 走りながらキングウォーターの攻撃をよけ、シャルロットは頷く。

 

「でも、その特性ならステラさんも危ないんじゃ」

「今は大丈夫です。キングウォーターは仲間を倒され、私たちに標的を絞っているようですから」

「あちゃー。つまり、仲間のかたき討ちの対象に私達がなっちゃったってことか」

「はい」

「そりゃあ、執拗に追っても来るよね」


 俺はこんなピンチな状況でもいまいち緊張感のない声で話していた。

 いや、あれだからね。確かにピンチだけども、ほら俺って死なないからさ。シャルロットとのテンションの差があっても仕方がない。


「でもなんで逃げてるの? 戦えば」

「無理です! キングウォーターは普通こんな草原にいません。魔界の、それも奥深くに巣くう強力な魔物なんですよ。私だけでは勝てませんよ!」


 それを聞いて、シャルロットの体が震えていたことを思い出す。

 そっか、なるほどね。だから、あの時あんなにも怯えていたのか。

 にしては、ずいぶんと逃げる判断が早いな。普通、こんなトラブルに見舞われたとき、人間はパニックを起こす。俺だって、その知識をもっていたらなおさら、キングウォーターにうろたえてたと思うもん。

 でも、シャルロットはすぐに自我を取り戻し、ステラさんに窓を閉めるよう指示した後、とっさの判断で家から離れることを決断した。

 まるで、不慮のトラブルに慣れているような感じだ。


「ごめんなさい」


 すると不意に俺の手を引くシャルロットが謝ってきた。

 俺は不思議に思いながらも、聞いてみる。


「なんで謝るの?」

「こんなことになったのは私のせいなんです。全部私のせい。きっと私がこの依頼に関わらなければこんなことにはならなかった」


 フードに隠れた表情は分からない。

 ただ、掴んでいる手には悔しさを感じさせるほどの力が込められていた。

 俺は確信する。

 シャルロットには何か秘密がある。この事態を引き起こしてしまったのは自分のせいだと思うなにか特別な理由が。 

 それが、依頼をお願いした時に頑なに断っていたことにも関係しているのだろうか。そこまでは分からない。

 シャルロットもそこまで言ったところで続きを話してくれようとはしなかった。

 そこで話は終わり、無言のままの逃亡劇が始まる。

 キングウォーターは未だ、執拗に俺たちを狙っている。

 このままいけば、シャルロットの体力が尽きてしまう。

 ここはアイリスタから馬車で半日ほどの距離にあるのだ。走ってアイリスタまで着こうにも無理がある。

 勝ち目はない。

 それに、ここでもし俺たちが逃げ切れたとして、キングウォーターが元の場所に戻ってしまえばアウトだ。

 今度は間違いなくステラさんが危ない。

 俺はシャルロットに悪いと思いながらも、無理やり足を止めシャルロットの手を離した。


「え……リュウカさん、なんで」

「ごめんねシャルロット。シャルロットだけでも逃げてよ」

「そんな、でも……」

「依頼の内容はウォーターの討伐。キングウォーターを倒すのは依頼じゃない。だから、シャルロットは戦う必要ないよ」

「それだったらリュウカさんも」

「だね。うん。確かにそうだけど、ここで逃げたら面白くないじゃん」

「面白くない?」

「そう。面白くない」


 言いながら俺は体を回転させエターナルブレードを後ろに振り下ろす。

 迫っていた水鉄砲を真っ二つにすると、切られた水が俺とシャルロットの両脇の地面を抉った。


「大丈夫。安心して。なにがあっても私だけなら大丈夫だから」

「なに言ってるんですか!? 大丈夫なわけが」

「ううん。大丈夫なんだよ。これが。だって、私、死なないから!」


 そのまま俺はキングウォーターに飛びかかった。

 もう魔物との追いかけっこはこりごりだ。何回やったと思ってるんだよ、まったく。さぁ、反撃開始と行こうじゃないか!

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