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目覚めたらそこは天界でした

「―――はっ。俺はどうしたんだ」


 唐突にブラックアウトした視界から復活した俺は、辺りを見渡し、状況の確認につとめる。

 体は大丈夫だ。何も問題はない。

 立ち上がることも出来る。

 だが、立っている場所に見覚えはなかった。

 さっきまで豪雨でじめじめした、真夜中の神社にいたはずである。

 しかし、今立っているここは、神社とは違い、どこか温かく、明るかった。まるで雲の上にいるかのように、地面はふわふわとし真っ白だ。

 日本のコンクリートとはわけが違う。人間が作れないような、そんなどこか常識を逸脱した場所に立っているということだけは分かる。


「おっ。やっと起きたか」


 すると、俺の前の方から声がした。

 俺が驚いて顔をあげると、さっきまで何もなかった場所に、黄金の椅子と共に、キツネ耳を頭に生やした、白髪のイケメンが姿を現したのだ。

 イケメンは、背もたれが異様に長い椅子に、偉そうに足を組みながら座っていた。

 その目はしっかりと俺を見ている。


「起きるのが遅いんだよ。もしかして、魂まで殺したんじゃないかって焦ったんだからな」


 踏ん反り返った状態のまま、俺のことを見つめながら、心にもないことを言ってのける。

 イケメンなのは認めるが、黄金の椅子と相まって、すごく偉そうなやつだった。

 しかし、だからといって、この場所ではこいつしか頼るやつがいないことも確かだ。

 俺は心底相手にしたくない思いをどうにか抑え込んで、イケメンに向き合う。


「心底相手にしたくないのはこっちも同じなんだよ」


 すると、キツネ耳イケメンは俺の心でも読んだかのように、話しかけてくる。

 なんだこいつ気持ち悪い。


「気持ち悪いとはよくも言ってくれたな」


 ほら、この通り。本当に俺の心でも読んでいるかのように……。


「つーか、心読んでるんだよ。いい加減気づけ」

「な、なんだと……!」


 俺が心から驚いた声を上げていると、イケメンは呆れたように、頭に手を当てている。

 心を読めるとか、こいつただ者ではない。

 俺は、いっそうイケメンに対して警戒心を強めた。


「はぁ~めんどくさ……」

「めんどくさいとは失礼な奴だな」

「ああ?」


 俺の言葉に、急にイケメンは目を狩りをする獣みたく獰猛に細めた。

 俺は、まるで蛇につままれた蛙のごとく、動けなくなる。


「それをいうなら蛇に()()()()蛙だ」

「……っ」


 冷静にツッコまれてしまった。

 やはりあまり知らない単語は使うべきではないなと思い、少し恥ずかしくなってくる。


「ってこんなことしてる場合じゃない。説明しなきゃいけないんだったな」


 イケメンはそう呟くと、首を振り気持ちを切り替えたようだ。

 真面目は表情になる。


「お前。確か、栗生(くりゅう)拓馬だったな」

「なんで俺の名前を知っている」

「なんだっていいだろ。その(くだり)、何回もやってこっちは飽きてるんだ」


 イケメンはよく分からないことを言って、俺の質問を受け流した。


「お前、何か俺に言いたいことがあるんじゃないか?」

「言いたいことか」

「たくさんあるだろ? 言いたいこと聞きたいこと……。何でもいい。今の俺は優しいから、お前の質問になんでも答えてやる」


 そう言って、イケメンは笑う。そこまでいい笑顔ではないにしても、顔がいいだけでこんなに絵になるのかと、少しだけムカついた。

 心を読めるイケメンにはこのことも聞こえていたようで、得意気にその笑みを深くした。本当にムカつくやつである。

 言いたいこと聞きたいことは山ほどあるが、今のを見て初めの質問は決まった。


「心を読まないでくれ。やりにくい」

「分かった」


 俺の要求を、イケメンは思いのほかすぐに了承した。

 俺の体に変わったことはない。本当に心を読んでいないのか分からないな。

 確かめよう。


(バーカバーカ。アホアホ)


 俺は自分でも思いつく限りの、罵詈雑言をイケメンを見て心で囁いた。


「ああん!?」

「やっぱり読んでるじゃないか! 騙したな!」

「読まなくてもお前の顔見れば、何となく分かるわ!」


 イケメンが怒ったように、耳をピンっと立てている。

 しかし、本当に心は読んでいないようで、俺の言った詳しい言葉まではイケメンは言ってこなかった。


「もういい。俺が勝手に説明する。お前に任せてたら時間がかかって仕方がない」


 イケメンは諦めたように怒りに逆立った耳を垂らし、淡々と状況を説明してくれる。


「簡単に言うと、お前は俺の落とした雷にあたって死んだ」

「はぁ……」


 突然のことに少しだけ、理解が遅れる。

 死んだか……死んだねぇ……死んだ!?


「おい! 死んだってどういうことだ! 俺は、神社で新しい年を迎えるのを待っていたんだぞ!」

「ああそうだ。そこに俺がイライラして雷を落としたってわけ。お前に向かってな」


 とんでもないことを、イケメンは何気ない口調で言ってのけた。

 表情は楽しそうに「ドーン」と言って、爆発した様子まで再現してくる。


「つまり、俺はお前に殺されたってことか!」

「そうだ」

「そうだじゃないんだよ! この人殺し!」


 俺はとにかく気持ちの続く限り叫び散らしたあと、疲れて地面に手をついた。


「つまりあれか? 俺は死んで、今ここは……」

「天界っていうわけだ。日本で言うところの『あの世』だな」


 イケメンのその言葉に俺はがっくりと項垂れる。

 どうやら本当に死んでしまったようだ。これが夢でしたー!ってオチならどれだけ救われることか。

 俺は右手で自分の頬を引っ張る。

 無常にも、体はしっかりと脳に痛覚を伝達してしまった。

 普通に痛い……。

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