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いざ、最初の街へ

 何とかという思いで、アーシャさんとミルフィさんの追及をやり過ごした俺は(というかほとんどアーシャさんの勘違いだが)決まった名前と設定をどうにか守るために、いいとこのお嬢様のような落ち着いた振る舞いを見せながら、この後のことを2人と相談していた。


「リュウカはこれからバルコンドに帰るのか?」

「えっと……」

「まぁ、どっちにしろここからは直接帰れないからな」

「ええそうね。一度アイリスタに戻ってからじゃないとどうしようもないわね」


 アーシャさんとミルフィさんが俺をおいて話を進めていく。

 これは助かるが、またもや出てきた知らない単語に俺は首をかしげるしかない。


「あの……アイリスタとはなんですか?」

「リュウカちゃん知らない?」

「は、はい……」

「お嬢様だから自分の国の外に出ないんだろう。知らなくても仕方ない」


 アーシャさんが勝手に解釈してくれる。

 お嬢様という設定がここまで便利だとは思わなかった。ほんと、勘違いしてくれてありがとうございます! アーシャさん最高っす!


「それもそうね。リュウカちゃん、アイリスタって言うのはこの拠点の一番近くにある街よ」

「街ですか」

「ああ。魔界に一番近い街として、主に私達のような通称『ギルドメンバー』と呼ばれる戦士たちが多く暮らしている街だ。とにかくアイリスタに行かなければどうしよもない。ここには、このテントぐらいしかないからな」

「そうなんですね」


 俺は努めて冷静に答える。

 しかしまぁ、魔法といい武器といい、さらにはギルドまで出てくるとは。まさしくファンタジー。いや、どちらかというとゲームに近い。評価ランキング1位だけあってか、憧れるような王道の世界観だ。


「ちょうど、そろそろアイリスタへ行く定期便がくる。それに乗っていけばアイリスタまで送ってくれるぞ」

「ああはい分かりました。……ちなみに」

「どうした?」

「その定期便って言うのは『馬車』ですか」

「ああそうだが。なにを言っている。当たり前のことだろ」

「……ええ。そうでしたわね」


 やっぱりだ。この世界は一言で言ってしまえば剣と魔法のファンタジー。つまりは、科学の類はいっさいない。そんな世界で車や電車といったものはないに等しい。

 魔法でなんでもできるのに、なぜだか乗り物系は発展の兆しを見せないところまで、ゲームのような世界だ。これは今後が楽しみになってくるな。

 そんなどうでもいいことを考えているうちに、なにやらミルフィさんがアーシャさんに耳打ちしている。

 アーシャさんが頷くと「そうだな」と小さく言った。


「私達も一緒に行こう」


 アーシャさんが突然提案してくる。


「リュウカちゃんはアイリスタのことは何も知らないのよね」

「はい」

「そんなリュウカちゃんを1人で行かせるわけにもいかないし、よかったらアイリスタまで案内するわよ」

「いいんですか?」

「ああ気にするな。どっちにしろ、私達も街へと戻ろうと思っていたところだ。ダメか?」

「いえそんな。ダメなことないですわ」


 俺にとってはこの提案に断る理由なんてなかった。

 むしろ、1人にされたらどうしていいか分からなかったぐらいだ。なんたって、この世界に来てまだ1日も経っていない。

 神様の声が聞こえなくなったことは、神様に頼ることもできない。

 ならば、俺が頼れるのは今の状況ではこの2人しかいないということになる。

 これほど都合のいい……いや、嬉しい提案があったとこだろうか。

 俺の返答を聞いたアーシャさんとミルフィさんは、微笑みを浮かべながら立ち上がる。


「じゃあ、行こうかリュウカ」

「もうすぐ馬車も来るわ。さぁ立って」


 ミルフィさんが俺に手を差し伸べてくる。

 俺はその柔らかな手を握ると、ふわりと優しい力を感じ立ちあがる。

 いやはや、どうしてこう女性の手は柔らかいのだろう。少しドキドキした。


「っとと……」


 立ち上がった俺はまだ慣れない体のバランスに苦戦し、転びそうになる。

 それをそっとアーシャさんとミルフィさんに支えられた。


「大丈夫か?」

「まだ疲れが残っているのかもね。もうちょっと休んでいく?」

「……いえ、大丈夫です」


 2人が心配して俺を気遣ってくれるが、俺はそれを断った。

 体の疲れは、ミルフィさんと恩恵のおかげで全くない。まさか、慣れない胸のせいでバランスを崩しましたなんて言えるわけもなく、すぐに2人の支えを解くと、なんでもないかのように歩いてみせた。


「ふふ。問題なさそうね」

「だな」


 2人も納得してくれて、俺はそのままテントから外に出た。

 オークもいない。性格の悪い神様もいない。俺の近くには2人の頼れるお姉さんがいる。

 さぁ、今度こそ第二の人生の始まりだ。

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