プロローグ
(神様〜 どうか、どうか、来年こそは俺に彼女を!! そして、あんなことやこんなことを、夢見るピンク色の世界を俺にみせてください)
俺は目の前の神社に向かって、必死に手を合わせていた。
たが、俺の願いはこれでは終わらない。いつかなにかのテレビ番組で見た記憶によると、神頼みはアバウトではダメなのだと。詳細に語らねばならないと。そんなことを、神社にも詳しいと豪語するどこかの芸能人が、得意げに話していたように思う。
俺はその記憶を頼りに、さらに欲望にまみれた願い事を告げた。
(黒髪ロングで、優しくて、胸の大きい、自分よりも少し背の低い、スタイル抜群の女の子を彼女に! そして、来年こそはその子で童貞を卒業させるんだ! お願いしますよ神様。高望みはしませんから)
と、そこまで心の中で言い終えてから、俺はやりきった達成感に満たされ、賽銭箱の前からどく。
朝から降り続けている雨が、いっそう強くなってきていた。
俺は手に持った傘をゆっくり、他の参拝客に水滴がかからないよう気をつけながら開くと、多くの人が押し寄せる神社の境内で、あまり人が立ち寄らないところを探す。
境内の端、提灯の灯りの届かない薄暗い場所を見つけると、すぐにそこに陣取り、時間の確認のためポケットに入っている携帯を取り出した。
今日は12月31日。年末。
現在の時刻は23時55分。
何とか年越し前に、願い事を済ませたことにほっとひと安心して携帯の画面を消すと、ポケットに戻した。
『チッ………』
どこかの誰かがイライラしているのだろうか。
鋭い舌打ちが、豪雨の音にかき消されることなくはっきりと俺の耳に届いてくる。