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部活勧誘編 Ⅰ

 家に帰ると父さんが既に帰って来ていた。


「ただいま、早かったね。母さんは?」


「おう、今日は情報のすり合わせだけだったからな。母さんは夕飯の買い出しだ」


 制服から部屋着に着替え、リビングに行く。普段ならそのままMirrorの世界にレッツゴー!なのだが、今日は先ほどのモヤモヤが残り、やる気にならない。


「ん?どうした珍しいな、紅葉がこっちに来るなんて」


「失礼な、まあいいや」


 スマホで叶屋 真凛について調べてみる。この1ヶ月でメディアに取り上げられ始めた謂わば新人で、ネットで人気となり、ここ最近有名になり始めているらしい。


「おっ、叶屋 真凛じゃねぇか。紅葉がMirrorかダンジョン以外の調べ物なんて、明日は雪が降るか?」


「父さん知ってるの?」


「前に仕事で一緒になってな、珍しくダンジョンに興味があるみたいでな」


「ダンジョン……」


 ダンジョン、叶屋 真凛、うーん、あと少しなんだが……


「なんでも最近登録したばっかで一ッ星冒険者の、ままなんだと」


 一ッ星?ダンジョン、冒険者、冒険者カード?


「あっ!やっと思い出した!」


「な、なんだよ急に……思い出したってなにが?」


「いや、その叶屋 真凛って人が高校の先輩でさ、どっかで見たことあるような、聞いたことあるようなって思ったら、前に話したダンジョンで助けた女性っていうのが叶屋 真凛だったっていう」


「はぁ!?お前、そんな分かりやすい事忘れていたのか?それに学校の先輩?てか、ネット見れば名前とか出てこないか?」


「全く」


 父さんは額に手を当て上を向いた。


「お前はMirrorとダンジョンにしか興味ないもんな……」


 反論したいが、全くもってその通りのため言い返せない。


「で、なんで会ったんだ?」


「部活勧誘で、ダンジョン研究部っていう部活に所属してるぽかった」


「ほぉー、今時の高校は凄いねぇ。よしっ!もしお前がそこに入るなら俺も協力してやるぞ!プロ冒険者日向 西嶺が指導してやる!」


「俺は帰宅部志望だから間に合ってます」


「お前はそんなんでいいのかっ!?」


「いや、だって元々ダンジョン攻略しにっていうか、冒険者の為に東京来たわけだし、Mirrorもしたいし」


「まぁお前の好きにやればいいさ。でも、もしなにか手伝って欲しいことがあれば言えよ?」


「……りょーかい」


 その日、Mirrorでモンスターをボッコボッコに叩きのめした。













 次の日、学校に行くと既にダイが座っていた。


「おはよう、朝早いな」


「まあ朝練があるからな、っと、そういや連絡先交換してなかったよな、って事で交換しようぜ」


「そうだな」


 親族にダンジョン関係者、中3のクラスメイト以外の始めての連絡先追加だ。

 ……って、この1ヶ月で7割ほど増えたんだけどな。

 その後、授業という名の校内探索があり、あっという間に昼休みになった。


「紅葉は食堂派?弁当派?ちなみに俺は弁当派だな、食堂だと量が足りないし、お金がな……」


「俺は弁当時々食堂かな。今日は弁当だ」


「じゃあ今日は教室でいっか」


 弁当箱を開き、美味しそうな卵焼きを口にしようとした瞬間、クラスがザワッとなった。

 皆の視線の方角、ドアの方を見てみると、そこには学校のヒロイン叶屋 真凛と、ダイの姉の青薙 光がいた。

 教室に入って来ると、そのままこちらに向かって来た。


「ダイ、日向君、良かったらお昼一緒に食べない?」


 光先輩に急にそう言われ、困惑する中ダイと顔を見合わせ、アイコンタクトで「お前に任せた」と送った。


「光姉ぇ、それはいいけど……どこで?」


「そうね、部室でいいんじゃない?あそこならお茶とかも出せるし」


「よく分かんないけど、紅葉行こうぜ」


「うん」


 開いていたお弁当箱をしまい、飲み物と一緒に持ちながら教室を出る。

 その時にかなりの注目を集めていた事に気がついた。

 気にしないようにしながら、付いて行った先は3階にある一室だった。

 中に入ると、会議室の様なイスや机が並び、棚にはさまざまな種類のダンジョンに関する資料が入っている事が分かった。


「適当に座って」


 未だ一言も喋らない叶屋先輩を謎に思いながら、ダイと一緒に座る。

 光先輩がお茶を淹れて来てくれて、目の前に置き向かい側の席に叶屋先輩と一緒に座った。


「んで?ここまで連れて来るってことは、なにか話があるって事か?」


「さすが我が弟、話が早い。話っていうか要件というのは……ほら、真凛」


「え、えっーと……ゴホンッ!その、日向君にお願いがあります」


「お願いですか?」


「ダンジョン研究部に入って貰えませんでしょうか?」


 半ば想像ついていた内容だった。


「えっと、何故でしょうか?叶屋、先輩?光、先輩?」


「呼び方は好きな呼び方でいいですよ。それで何故というのは、日向君は真凛と一度会ったことがあるそうですが覚えてますか?」


 ダイがこちらをぐるりと向いて見て来る。そういや、思い出したこと言ってなかったなぁ……


「えぇ、昨日会った時は分かりませんでしたが、帰ってから思い出しました」


「私たちが日向君をここに連れて来たのは、冒険者という事を他の人に知られたくない可能性があると思ったからです」


 再びダイがこちらを見て来る。チラッと見てみると、驚きの表情をしているのがわかる。


「まぁ……そうですね。隠してるわけじゃないですけど、無闇矢鱈に知らせる事でもないですし」


「真凛から聞いた話によると、日向君は相応の経験があると思っていて、その力を貸していただけないかと」


 部活か……正直に言って乗り気がしない。……が、何も知らずに判断するのは下策だしな。


「その返答は、保留、という事で、とりあえずダンジョン研究部についてはあまり分からないので、見学程度なら」


 そう言うと、叶屋さんが嬉しそうに笑っていた。そしてその笑顔を見て、光さんもまた笑っていた。


 ……そんなに人数が足りないのだろうか?昨日あんなに大盛況だったけど。


 その後はダンジョン研究部、通称ダン研の話を聞いたりしながらご飯を食べた。

 ちなみにダイは空気だった模様。


「それでは、また」


「待ってます」


「えっと、またね、日向君」


 先輩2人と別れた後、ダイが命を吹き替えしたように怒涛質問責めをしてくる。


「紅葉どう言う事だよ?全部教えろ!」


「まあつまり、〜〜と言う事だよ」


「分かるかっ!〜〜って何にも話してないだろ!」


 そろそろ可哀想になって来たので、ダイにダンジョンで助けた事を話した。

 するとダイは納得した表情で「だからあの表情、あの態度なのか、分かりやすいな、納得した」と言っていた。


「何が納得したの?」


 と聞いても、


「関係性が、だ」


 としか答えてくれなかった。関係性ってなんだろう?

 昼休みはその時点で終わり、午後の授業となっていった。














 放課後、部活があるダイと別れて玄関ホールに向かうと、昨日と同じく勧誘合戦が行われていた。

 朝の時点では、帰ってからちょっと運動でもしてMirrorをする予定だったが、昼休みに見学なら、と言ってしまったのでダン研を覗いてみる事にする。


「ダンジョン研究部です!あなたも一緒に青春の1ページを作りませんか?」


 初手から行きたくない。……もしかしたらこの人だけがアレなのかもしれないしな。


 チラシを配っている人から一枚貰い見てみると、活動内容と活動時間が書かれ、気になる一文が載っていた。


「すいません、ちょっと良いですか?」


 ダンジョン研究部と書かれたポスターが貼ってある机に座っていた男子生徒に声を掛ける。


「ん?なんだい?」


「この、Mirror部との協力してますって、どういう意味何ですか?」


「それはね、冒険者は毎日ダンジョンで探索できる訳ではないのは知ってるかい?」


 もちろん知っているので、頷いておく。


「それで、戦闘感というのは時間空けると鈍ってしまう、なので仮想空間、つまりVRMMOでそれを養うって訳だね。Mirrorの理由は、人気だしダンジョンで手に入るスキルと似たようなものがあるから……だった気がするな。ごめんな、確信持って言えなくて」


「いえいえ、気にしないでください」


 それ確か父さんの友人の元冒険者が、誰かの体験を元に書いたって言ってた『冒険者の道』とかいう本に載ってた内容だな。

 ダンジョン探索をやりたくて、Mirrorをやるとはなんとも、まあ……


「どうだい?体験や見学だけでも良いから、今日良かったら?」


 見学するって言ったその日に帰るのはあれだしなぁ……


「じゃあ、見学だけなら……」


「ほんと!?じゃあ、今日は……第2グラウンドで、演習を行うんだけど、場所分かる?」


「ええ、大丈夫です」


 お礼を言ってその場を立ち去る。この学校って、何気にお金使ってるんだよなぁ……

 第2グラウンドって芝生だし、VR機器だってかなり数あるし、それに『自由』だからって事でどんな部活もちゃんと部費出てるし。

 そう考えると、この高校って中々良い高校だよな。

 そんな事を思いながら第2グラウンドに向かうと、既にそれなりの人数がそこにいた。

 なので、近くにいる新入生に少し聞いてみる。


「ここにいるのって、全部一年生?」


「ああ、そうみたいだぞ。でも、ダンジョンじゃなくてほとんどの男子は叶屋って人目当てらしいけどな。俺は違うが」


「ありがとう」


 少し離れたところにある、台に登り上から見てみると、新入生っぽい人数は30人程で、芝生の上で防具を付けて、木剣のようなものを使い模擬戦を行なっていた。

 ほとんどの人が目の前で行われている迫力ある戦いに目を奪われている。


(剣の腕のレベル的には20前後ってところか?いや、わざと大袈裟にやってる感あるから、パーフォマンスって事か)


 大きめの木剣を持った生徒の攻撃を、盾と剣というスタイルの生徒が受け止める。カウンターで右手に持っている剣で攻撃、それを後ろに飛び退いて躱す。


「とりあえず、こんなところかな。みんな、拍手ー!」


 パチパチパチパチッ!


 新入生は大きく分けて3つに分かれている。今の上級生のような戦いに憧れているもの、逆に恐れているもの、あんなの簡単だと笑っているもの。


「もし良かったら、やって見たい人いるかな?その場合武器は安全性重視の、このスポンジで覆われたやつを使うよ」


 するとすぐに1人の手が上がった。

 それは先程声をかけて、教えてくれた男子生徒だった。


「やってみていいですか?」


「もちろん!使いたいやつはあるかな?」


 地面にはスポンジで覆われた剣、槍、大剣、盾、刀、が置いてあった。当然全部木製だ。


「じゃあこれで」


 男子生徒が手にしたのは槍だった。


「それじゃあ、新海君頼めるかな?」


「お任せください!」


 上級生の1人が元気に返事をしながら前に出てきた。その間に一年生の男子生徒は簡易防具を身に付けていた。


「準備はいいかい?……始めっ!」


 勢いよく一年生が突きを放つ、それを新海が持っていた剣で弾き、槍の間合いから剣の間合いへと移動する。


「くっ!」


 一年生は慌ててバックステップをして、下がるが徐々に詰められ、簡単に剣を胴体に当てられてしまった。剣道だと一本っ!となっているだろう。


「お疲れ〜、どうだった?」


「……思ったより難しいですね。どうしたら良いか分かんなくなってしまいました」


 あの様に素直に負けを認めるのは案外珍しい。大概はまぐれだの、フライングだの、靴紐がほどけていたなどと言って言い訳をする。

 あれだけ素直で、尚且つ悔しそうなら伸びる可能性が高い証拠でもある。


「うんうん、分からないと焦っちゃうよね。この後本当は部室に行って、ダン研の説明をしようかと思ってたんだけど、天気も良いし人も多いからここでやろうか」


 すると、上級生2人が慌てて校舎の方に走っていった。他の上級生はプリントを配っている。

 今いる場所は少し離れているため、近づいてプリントを貰いに行く。


「はい!」


「ありがとうございます」


 笑顔でお礼を言いプリントに目を向ける。玄関前ホールで配っていた簡単な説明ではなく、数枚に渡って詳しい情報が載っていた。

 部費の使い道や、去年のスケジュール、冒険者資格登録のバックアップなども載っていた。

 すると、ガラガラと音を立てながら、先ほどの上級生がホワイトボードを持ってきていた。


「じゃあ簡単に説明して行くね。あっ、先にさっきの模擬戦について話そうか、6ページを見てみて、そこに各武器の特徴が載っているでしょう?それではーー」


 さっきの模擬戦の解説や、どうしたら良かったのかを話しているが、俺はそれよりも違うところを見ていた。


 冒険者資格を取得するには8万円という大金がかかる。高校生にこの金額は大きいだろう。

 本来なら武器や防具も掛かるのだが、部活なので貸し出しが出来るようだ。

 金銭の貸し借りは禁止のようで、ダンジョンに関するアルバイトを紹介すると書いてある。

 それでダンジョンの知識とお金を手に入れるという訳だ。しかも日替わりで上級生も一緒にやるのだから、部活の一環として、ダンジョンに関する研修(賃金付き)という訳なのだろう。


 週間スケジュールも書いてある。

 1週間のうち、土曜日がダンジョン探索で、月金がMirror、水曜が運動、火木日が休みだそうだが、筋トレなどは個人の自由と書いてある。

 つまり、毎日筋トレなどはした方が良いが、強制はしないということだろう。


 俺は基本的に水曜と土曜にダンジョンに行き、毎日ランニング、時たま他のスポーツ、毎日Mirrorというスタイルとなっている。

 ……改めてみると、酷いなコレ。


 としても、うーん……損得勘定で考えるのは良くないとしてもメリットがなぁ……

 出来るだけ習慣は崩したくないしなぁ……







 その後説明が終わり、その日は解散となり考えながら歩いていると、叶屋さんと光さんがいた。

 2人はこちらに気づいたようで、こっちに向かってくる。


「また会ったね、日向君。もしかして見学行ってくれたのかな?」


「そうですね、光さん。見学行ってきましたよ、凄い人数でしたね」


「あはは、あそこからどれだけ残るかって事だからね。ダンジョン探索は想像以上に大変だからね、って日向君は知ってるか」


 光さんと話していると、叶屋さんがなにやら慌てふためいている?


「?どうかしましたか?叶屋さん」


「にゃ……なんでも、ない、です」


 噛んだ事は触れない方が良いだろう。

 すると、先程説明していた女子生徒と、その補佐の男子生徒がこちらに歩いてきた。


「お疲れ真凛ちゃん、光ちゃん。相変わらず2人がいるといないとでは、人数が違うよ……っと?君は、先程説明を聞きに来てくれていた生徒だね?」


「分かるんですか?凄いですね」


「なんせ、君だけ私の説明には目もくれず、1人で資料とにらめっこしていたようだったからね!」


 ニコっとしてきた、ぐぬぬぬ……変な覚えられかたをしてしまった。


「改めて自己紹介をしよう、私はダンジョン研究部部長、3年の長谷部 葵だ。よろしく」


「1年の日向 紅葉です。入るかは分かりませんがよろしくお願いがします」


 お互いに自己紹介が済むと、長谷部さんが叶屋さんと光さんに話しかけた。


「2人は日向君と知り合いなのか?」


「私は弟のダイを通じて、真凛の方は……」


 チラッと見てくるが、了承の意を込めて頷く。まあ、隠すようなことでも無いしな。


「この前1人で野良パーティと一緒にダンジョンに行き、危うく死ぬところを助けてくれたそうです」


「ちょっ!?光!?なんで言っちゃうの!?」


「ほほう、気になることがあるがとりあえず、真凛の方から片付けようか……」


「ご、ごめんなさーい!!」


 謝罪の言葉が校内に響き渡った……

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