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高校入学編 Ⅰ

 VRMMO『Mirrorーミラー』


 全世界2000万人の登録者数を誇る、世界一のVRゲーム。

 人気の由来は他のVRMMOに比べて豊富なジョブの種類、千を超えるというスキルの数、なによりリアリティが高い。


 Mirrorの世界は大きく分けて5つに分けられる。


【アジア】【ヨーロッパ】【アフリカ】【北アメリカ】【南アメリカ】【オセアニア】


 地球となんら変わりない広さを持つMirrorでは地理的状態は現実そのままとなっている。

 その中のアジアの中の1つ、日本サーバーでは42の都市と5つの五大都市が存在する。


 日本サーバー最大の都市、五大都市の一つ【東京】

 他には【大阪】【名古屋】【福岡】【札幌】が五大都市となっている。


 Mirrorの世界が地球と同じ形状をしていたとしても、中身まで一緒ではない。

 例えば、日本の白神山地があった場所は【カミシロ大森林】という名前の高難易度エリアとなっている。



















 •


 2020年3月29日


 日本サーバー【札幌】




 未だ寒い時期が続き雪が深々と降り積もる中、大勢のプレイヤーが東西南北にある街の門の前で待ち構えていた。


 ドドドドドドッ……


 凄まじい地響きと共に門に向かってくるのは、緑色の体色で身長100センチ程度でボロボロな武装したモンスターであるゴブリン。

 数にして2,500にも登り、それが4()()()からやってくる。敵の総数は10,000、先頭はゴブリンの上位種であるゴブリンジェネラルが務め、遥か後方に指揮官たるゴブリンの王である、ゴブリンキングの巨体が小さく見える。


 銀を基調とした鎧を身に纏った青年が【札幌】の防壁の上から[将軍]のスキルである《勝負の掛け声》を使い、南門を守る500のプレイヤーに声を掛ける。


「敵は2,500を超えるゴブリンだが恐るるに足らず!我がギルド『銀の守護者』、そして『紅の鳳』のギルド連合にかかれば負けはない!」


『オォー!!!』



 北と西も同じような状態になる中、東だけはやけに静かでゴブリン達の足跡のみが響いていたのだった。



 Mirrorでは運営開催のイベント以外にもイベントは存在する。それはダンジョンにおけるスタンピードだったり、異常繁殖したモンスターの移動などだ。

 Mirrorは基本的にプレイヤーによって決まる為、プレイヤーの行動次第においてはスタンピードなどといった行為は止めることが出来る。


 スタンピードというのはダンジョンからモンスターが溢れ出て近く村や街を襲うといったものだが、事前にダンジョンのモンスターを狩っていればスタンピードが起こることはなくなる。


 今回のゴブリンの異常発生はゴブリンエンペラーの誕生によるもので、すでに数々の村や街が襲われている。

 村や街では安全なログアウトが可能なのだが、モンスターなどにより破壊されるとその効果は失ってしまう。なにより住民、つまりNPCは逃げたり死んでしまったりするのだ。

 ミラーでは住民の蘇生は基本的にあり得ない。超レアな蘇生アイテムや[死霊魔術師]によるアンデット化などの例外はある。


 今回狙われたいるのは五大都市の一つでもある【札幌】、もし落とされでもしたらその後の影響は計り知れない。


 本来なら大勢のプレイヤーが集まり守護するのだが、運悪く他の都市でも似たようなイベントなどがあり集まったのが1,500人程度であった。

 1,500人で4つの門を守るにはいささか人数が足りなかった。


 しかしあるプレイヤーがいたお陰で3つの門に500人ずつ、そして東の門には1()()のプレイヤーが配備された。


 そのプレイヤーは日本サーバーで最強と言われるプレイヤーの1人、名前を『コウヨウ』といった。












「はぁー……どうしてこうなったんだか」


 コウヨウが1人で東門を担当することになった理由は1時間少々前にさかのぼる。






















 ・





 2020年3月29日 東京 とあるマンション



 一人かと思っていたらまさかの仕事で両親も東京行きという、サプライズを受けてから、はや約2週間。

 東京での家は2LDKの立派なマンションだ。一高校生には過ぎた家だが、今後東京での仕事を増やすとのことで、いつでも両親が泊まれるようにらしい。


 広々したリビングに、眺めの良い50階の景色、さぞ高かったろうマンションを一括払い出来るのだから、うちの親は稼いでいるのだろう。

 警備面も万全で、登録されてる人、もしくはその人に許可された人しかマンション内に入る事は出来ない。

 更に駅は徒歩5分の距離であるため、交通の便も完璧だ。


 今日は本当なら引っ越し祝いで両親が来るはずだったのだが、仕事関係で1日遅れるということで1人先に東京に来た。


「という事で、Mirrorでもやりますか」


 引っ越し荷物中から真っ先に設置したVR機器を着用し、ゲームを始める。

















 目を開けるとそこは、ゲーム内の拠点にしているいつもの場所だった。

 木の温もりを感じ、シンプルな家具がある自慢の家だ。


 ここは【札幌】で、今日はダンジョンでの戦闘を確認する為、『都市間転移門』を使い適当な場所で戦闘する予定だった。


 しかし、予定通りには行かずゴブリンの大群がこちらに向かっているため、プレイヤーは集まっているらしい。

 いつもなら見て見ぬ振りをするところだが、人数が足りておらず、この本拠地がある【札幌】が危機にあるのなら話は別だ。


 プレイヤーが集まっているという場所に行くと、たしかにこの手のイベントにしては人数が少なかった。

 適当に配置されるのを待つか……そう思っていた時だった。


「あ、あの!もしかしてコウヨウさんですか!?」


 1人の新人っぽいプレイヤーの大きな声により、注目が集まってしまい、中堅的なプレイヤーによりすぐにバレてしまった。


「マジか……もしかして勝てるかもしれないぞ!」


「コウヨウって、日本鯖最強のソロプレイヤーの?」


「なら、弱い俺たちは居ない方がいいんじゃ無いか?」


「そうか!1つの門を任せた方が楽なのか!」


(おいおい、1人でやるなんてそんなめんどくさい事やるわけ……)


 断ろうとして居たその時だった。


「でも、本当に1人で出来るのかな?」


「バカ言え!コウヨウさんだぞ!?出来ない訳あるまい!」


「日本鯖最強だぞ!?ゴブリンなんてあっという間に決まってるさ!」


 なんとも断れない雰囲気が漂って来た中、指揮官らしきプレイヤーが近づいてきた。


「コウヨウさん、とお呼びしてもいいでしょうか?」


「あ、はい」


「あのー東西南北どれの門か決めていただいて構いません!残る3つを500人ずつで守りますので!」


 その場の視線を独り占めしてる中ついつい言ってしまった。そう、「じゃあ、東で」と。















 目の前には緑の絨毯が広がり、刻々と近づいてきている。


「ってか、1人どうにか出来るってなんで思うんだろう……出来るんだけどさ」


 コウヨウは腰に差している二本の刀を抜き出し、インベントリから蒼碧の結晶を取り出す。


「出番だぞー、ウロ」


 ウロと呼ばれたそれは体長5メートルは越すだろう、巨大な狼、フェンリルだった。

 運営開催のイベント報酬である『幻獣召喚石』、今まで育ててきたパートナーの一体である。


「ウロ、逃げ出さないように進路を東門(こっち)に限定してその後は、自由にやってよし」


「ウォン!」


 一瞬にして姿が消え、次の瞬間にはゴブリンの群れが横には移動出来ないように氷の壁が左右に作られていた。そしてウロはゴブリンジェネラルに向かって飛びかかっていた。


「じゃあ俺もやりますか」


 走り出し向かってくるゴブリン達を一刀のもとに次々と倒していく。後ろには一匹たりとも倒さず、向かってくるゴブリン達を一撃で倒し続ける。

 それはホブゴブリンやゴブリンジェネラルといった存在も例外では無い。


 そうして30分程経った後、ウロが帰ってきた。口にはゴブリンキングからドロップする『小鬼王の金冠』を咥えていた。


「お疲れー、こっちももう少しで終わるから待っててーってか、手伝ってくれていいんだよ?」


 ウロは『小鬼王の金冠』をコウヨウに渡すと、走り去って行きゴブリン達を挟撃してくれていた。


 その5分後、ゴブリンは一匹残らず居なくなった。残っているのは道を示す氷の壁だけ。


「グキャギャギャギャ!!」


 森の奥から今までのゴブリンとは格が違うゴブリンがやってきた。


「ったく、なんで1人なのにこっちにゴブリンエンペラーが来るかなぁ……」


 ゴブリンエンペラーとはレイド級モンスターであり、今回のイベントだと、最も最初にゴブリンの軍勢を倒した方向から現れらようになっているはずだ。

 つまりコウヨウは1人なのに関わらず、500人で迎えている北、西、南門より殲滅が早かったのである。

「ガウッ!」……1人と1体にも関わらずに訂正します……


「こいつにはスキルが必要だよな……《進撃の一撃》《戦国舞踊》そして……《一閃・飛翔》!!」


 一撃の攻撃力を増加するスキルを使用し、特殊なステップにより回避能力が上昇し、飛ぶ斬撃を行う。

 ゴブリンエンペラーは持っていた剣で斬撃を向かいうつ。そうして巨大な剣を振り回す。


「げぇー……強化斬撃を打ち消すとかマジかよ。ウロ、自由に攻撃して良し、ただし範囲攻撃は無しだぞ」


「ウォン!」


 勢いよく飛びかかるウロに見習い、両手で刀を一本持ち斬撃を浴びせる。

 最初はカッコ良いという理由から使い始めた刀。今ではゲームでも現実でもメインウェポンとなっている。

 相手の攻撃を受け流し、躱しながら着実に攻撃を与え体力を削っていく。








 半分を削った頃から、動きが変わった。ゴブリンエンペラーの体からは赤黒いオーラが立ち上り、威力、スピードが上昇している。


「《三連撃》」


 コウヨウは慌てず冷静にスキルを使いながら攻撃していく。どんな相手にも冷静に対応しなければ、命を失う。それが、ダンジョンで、ゲームを通してコウヨウが知った事だった。


 コウヨウはこの戦いが始まってから、一度も被弾していない。それは《攻撃予測》のお陰でもあるが、他のプレイヤーが、《攻撃予測》を使ったとしてもそうはいかないだろう。



 ーーーーー『超反応』それがコウヨウがこの世界でトップレベルになれた秘訣だ。


 つまりはPS(プレイヤースキル)なのだが、コウヨウは見てから動くまでが異常に早い。コウヨウならば打ち出された銃弾すらかわすことが出来、音速まで撃ち落とす事ができるとも言われる。

 更に、コウヨウは《空間把握》と言われるスキルがある。これは現実のダンジョンにも存在し、効果内の空間内にあるものならば把握することが出来る。

 コウヨウは常に発動させているので、不意打ちでスナイパーライフルでの狙撃も超反応と合わさり、躱すもしくは撃ち落とすが可能なのである。

 それが『無傷』のコウヨウと呼ばれる理由である。


「これで終わりにしろっ!《星落とし》!!」


 大きくジャンプし、上から刀を大きく振り落としゴブリンエンペラーの頭に衝突させる。

 そうしてゴブリンエンペラーは消えていき、インベントリにはアイテムが大量に入っていた。


「あー……1人でレイド級モンスター倒したのいつぶりだろう、今日は疲れた……もうログアウトしよう」


 ウロにお疲れと言い、召喚石に戻してインベントリから『本拠地鍵』を取り出し、使用するとそこは数時間前に居た家だった。


「まじかー、こんなに時間経ってたよ。調整のつもりが何故ソロでイベントの4分の1とボスをやっていたんだ?まあ、レベルも上がったしいいか」


 こうしてコウヨウの伝説?にまた新たな1ページが刻まれたのである。


『1人で万を超えるゴブリンの大群を倒し、ゴブリンエンペラーを無傷で倒した』と。



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