第二章 prologue 『ラプラスの計略 Ⅰ』
星が瞬き、三日月が浮かぶ。微かな明かりに幻想的に照らし出される庭園。その中央に置かれている白いテーブルの上の鏡を眺める。これは天眼鏡と呼ばれる鏡で、多くの場合、通信や探し物に使われるが、使用者の能力によっては、末来視や空間視、果ては時空を繋げることもできる宝具。実態としては、この空間そのものが天眼鏡。その空間に鏡を置きさえすればすぐに見られる。だから私が眺めている置き鏡は外に持ち出してもただの鏡。
そんな鏡をチラチラと見ても自分の姿が映るだけ。自分で見ても明らかなほどに私はそわそわと落ち着きがない。もしかしたら違う展開が待っているかもしれないと、僅かな期待を胸に報告を待ち続ける。
しばらくして夜空に浮かぶ月が眠たげな眼を開くようにスーッと満ちた。
ちょうど満月になったところで、小さな置き鏡に私以外の姿が映った。鏡に映ったのは男。だけど私が求めていた人ではなかった。鏡の中で男が唐突に頭を下げた。
私はこの男がこれから何を言うか知っていた。
気まずそうな顔をした男の口から
『申し訳ございません……ユーリ・カルレスを見失いました』
男は一言一句たがわずにその言葉を口にした。その言葉に私は落胆したけど、それを見せないよう平静を装って、
「そうですか……わかりました。以後はあなたが指揮を執り、彼を探してください。状況がかわったら報告を……」
きわめて事務的な言葉を選んで話していく。
『かしこまりました。それと、定時連絡はいかがいたしますか?』
私の言葉に合わせる様に男も事務的な口調に切り替えて話し始めた。
「いつも通りに、国の情勢と他勢力の動きを報告してください」
『かしこまりました……姫。それでは、また後程』
「ええ、彼のことお任せします」
私がそういうと鏡の中の男は消え、そこには私の顔が映し出されていた。眉を顰めた顔はどこか悲しそうに見えた。
夜空を見上げると、満月は再び欠け、眠たげな眼をするように三日月へと戻っていた。
あの人が作り上げた宝具は意外にセンスがいい。個人的にはこの幻想的な雰囲気は気に入っている。ここでしか生きられない私にとって、残りの時間のすべてはこの中。人と人の物語の境界にあるこの場所。それだけに細部までこだわってくれた。風景も私の思い出の景色が再現されている。
来客が少ないことが少し不服ではあるけれど、静かに本を読むのは嫌いじゃない。それでもいつか帰れることを信じてる。
今日も私は本のページを捲りながら彼らが来るのを静かに待つ。そして、今日も扉が開かれる。体感にして3日ぶりのその姿を微笑みで出迎えて、
「おかえりなさい。お風呂にします?ごはんにします?それとも……」
そう言っいながら私は彼らが入ってきた扉とは違う扉に手をかけた。瞬間、三日月は満月に変化し、それを感じ取った彼らが慌て始める。
「「「ちょっま……」」」
その反応を見ながら彼らの返事を聞く前に満面の笑みを張り付けて、転移の扉を開いた。
「はい、御開帳」
「少し休ませてぇぇぇぇぇーーーーーー」
そんな断末魔と共に扉に吸い込まれ消えていった。
「前回、私をからかった報いを受けてください」
そして、はやく私を助けてあげてください……




