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第一章 25 『カイシンノイチゲキ』

ユーリが、水壁を作り出し、アイリの腰に手を回し抱きとめると重心を落とし、防御姿勢に入った。その瞬間、ピシッと言う音の直後熱を帯びた空気弾が影球を突き破り2人とその後ろで僅かに驚きを見せるミザールを飲み込んだ。水壁の表面は気弾に触れた瞬間に蒸発し、白い蒸気を周囲に撒き散らし、影球の壁は押し寄せた気弾の負荷に耐えられずに霧散した。


ユーリが作り出した水壁を挟んでその気弾を受けているユーリですらも火傷を負いそうな暑さを感じて、咄嗟の判断でアイリに水の保護膜を魔法で被せると、ちらりと後ろを確認するそこでは、先程までミザールの居た場所に大量の黒い靄が発生し、ミザールを保護していた。そんな姿が確認できたのも一瞬のこと、水壁が蒸発して発生した濃密な湯気で1メートル先もしっかりとは見えない状態に変わった。


「アイリ今のうちに逃げろ。」


ユーリの言葉にアイリはイヤイヤと首を横に大きく振った。


「そんなのダメ……逃げるならユーリもっ!!」


アイリならそういう様な気がしていただけに、ユーリはすぐさま言葉を返した。


「それじゃ、あの化け(ミザール)の足止めは誰がする!?俺が残るしかないんだ!!」


「でも、ユーリが……」


殺されちゃうと続けようとしたアイリの言葉を遮って、アイリの肩を力強く掴むと


「許容してくれなんて言わない。だからせめて、俺にお前との約束を守らせてくれ」


真っ直ぐにそう告げると渋々といった様子で


「そんな言い方、ズルいよ……絶対……追ってきてね?」


そうボヤいた。


「ああ、直ぐに追いつく」


ユーリの返事を聞いて、弱々しく頷くとユーリに背を向けて走り始めた。視界の悪い中、彼女が何度もユーリを振り返るのだけはわかった。そんなアイリを見送り、ミザールがいるであろう方に体を向けると、見計らった様に黒い影が蠢いて直後、風圧で一帯で視界を遮っていた湯気を全て払いのけた。


「おいおい……アルコルはどこいった?」


明らかに不機嫌そうなミザールの幾人もの声が重なった耳障りな複合音声がユーリの耳に届いた。


「一足先に合流ポイントに走ってもらってるとこだ。というわけで、お前にはここで、休憩して行ってもらう」


「ふんっ、面倒な事をしてくれたものだな」


そうごちると、ミザールはアイリを追う様に歩き始める。


「おい!?お前の相手は俺だって行ったつもりだったんだが?皮肉も通じないのか?」


「あ?ああ?お前、さっきので散々実力差を見せつけられて、まだやる気でいんの?身の程を知れ」


「じゃ、これでやる気になってくれるか?」


ユーリがそう零した刹那、ユーリを中心に40メートル程離れた地面から等間隔に大量の水が噴き出し、重力を無視する様に螺旋状に回り始め、直ぐに隙間が埋まっていく、さらには先程の影球の様に天井が塞がり5秒もしないうちに巨大なドームが完成された。そして、直ぐに地面から水が大量に染み出していく。


「内包の水壁……か……また、面倒くさいことしやがるな……はぁ……」


それを見たミザールは盛大に溜息を吐き出した。


「お前、もう魔力残ってなかったんじゃねーのかよ?」


「ああ、武器に使う魔力はなかったな。でもそれ以外の魔力なら漲ってるんだわ、これが」


「ふっふふふふふふ……まあいいだろう。退屈しのぎだ。遊んでやる!!」


その答えを聞いたユーリは湧き出してくる水を使って竜巻により竜を模した水柱を5本ランダムで作り出し、時間差でミザールに襲いかからせる。水が弾ける爆音とともに襲いかかる水竜をミザールはいとも簡単に避けながら当然の様に水の上を走り出した。多少の足止めにはなると踏んでいたユーリにとっては誤算だった。

足元を掬い上げるような動きをした水竜を高々と跳躍してかわす。ユーリはそこをすかさず、残った竜で4方から同時に襲いかからせる。しかし、これをミザールは体を大きく回転させると影をまとわせた腕で水竜をまとめて両断して見せた。すかさず、水竜を形作ったところで、ミザールが着地した瞬間、地面から水竜が湧き出した。それをまともに喰らいそうになったミザールは真上に跳躍してかわす。そこへ水竜が待ち受けていたように、少し離れた場所から口を開けると、氷の塊を吐き出した。真っ直ぐに飛来した4つの氷の球はミザールに当たる直線に漆黒のローブに防がれ砕け散った。その代わりにローブはボロ布に変わりミザールの身体から滑り落ちた。僅かに吹き飛ばされたミザールは


「はぁ、これは人間相手に使う魔法コンボじゃねーなー」


そう零した。それを聞き取ったユーリは咄嗟に

「化け物に遠慮なんて必要なのか!?」

と、叫ぶと、水竜の量を倍に増やした。


普通の生物であれば今ので、先程のローブのようにボロボロになるだろうに、目の前の男はカスって肉が裂けても血すらも出てこない。あんな身体はむしろ人間ですらない。


「まぁ、その通りだわな」


ミザールは納得しながらも態勢を崩すこともなく、危なげなく着地する。それを見計らったかのように足元から水竜が噴き出しミザールに絡みついた。それを合図に地面の水を大量に巻き込んで生まれた10体の水竜がミザールに襲いかかった。


水と水がぶつかり合って、破裂したことで、激しい音と真っ白い水しぶきが周囲に広がり、ドームの中を滝のような雨が降り始める。いつの間にか、増えた水によって水深は1mほどに到達していた。


これで決まった半ば確信のようなものがある。しかし、飛来した黒い槍が頬を掠め、その確信は打ち砕かれた。


「おいおい……嘘だろ?しぶといにも程がある……」


何かがボトリと落ちた。水の上に落ちプカプカと浮かぶそれをつい見つめる。そこに浮かんでいたのは左腕。左の肘から下だった。本体は何処に?そんな疑問は見上げた直後に無くなった。


収まり始めた雨と水しぶきの中心に左腕の欠損した。ボロ布の様な姿の男がそこに棒立ちになっていた。実際には空中でピタリと停止し、こちらを見下ろしている。身体に刻み込まれた無数の傷跡から黒い靄が身体を覆い尽くさんばかりに噴き出している。薄気味の悪い笑みを浮かべる顔の皮膚は激しい衝撃のせいか真っ赤になっている。取れかけた関節は皮一枚でぶら下がるところもある。

あれは果たして本当に生物だと言えるのか、少なくともまともとは程遠い。あれでは人の皮を被った悪魔だと説明された方がよっぽど納得できる。


「まるで、悪魔みてーだな、おい!?そんななって人間が動けるわけねーだろ」

化け物は何か答えようと必死に口を動かそうとして、


「……っ!?」


ボトッ……っと、何かが落下し、水飛沫を上げて何かが落ちた。今度落ちてきたのは下顎だった。

「あ……」

「………………」

「……………………」

「…………………………」


互いに沈黙のままどうしていいかわからないといった雰囲気を出して、たっぷり20秒ほど続いた沈黙を破る様に動いたのはミザールだった。


ミザールは右腕を前に掲げるとそれを合図に千切れた左腕から立ち上る黒い靄が吸い寄せられる様に集まり、靄の塊を形作ると塊が瞬時に細長く伸びた。

黒い槍?しまった……!?

攻撃の意思に反応して回避に移ろうとしたユーリに「なんか反応しろよ」というツッコミの意思が含まれていそうな表情を見せるミザールから渾身の力で槍が投擲された。

目にも止まらぬ早さで放たれた槍は途中で分裂を開始し瞬く間に増えユーリに飛来した時には20本になっていた。突然のことに慌てて回避したものの、左腕に突き刺さり、激痛をユーリに与えるとすぐさま、傷跡も残さず消えた。しかし、神経に刻み込まれた痛快が残り続けている。


今のは、幻影の槍……本来拷問、尋問の為に用いられるもので、殺傷能力自体はないが、痛みだけを刻みこめる為に、捕虜虐待を行ったとしても証拠が残らない。


影の槍が突き刺さることで脳が身体に穴が開いたと誤認して痛みを感じているのだろう。それだけに何発も受けていられない。いずれは脳がその負荷に耐えられずに壊れ始める。魔法領域のキャパシティの少ない人間が受ければ1から3発で脳がショートする。ユーリの脳はキャパシティが人の5、6倍はあるが、現状10発が限度だろう。

その前に方を付けないと、死ぬ……


そんな事を考えている内に、再び、左腕から靄を集めたミザールが槍を生成し、こちらに向けて投擲をしようとしていた。すかさず、ユーリもそれを妨害する様に、水竜の頭だけを6体作り出し、氷の球をミザールに向けて発射する。それに気が付いたミザールがプロペラのように槍を高速回転させると前後左右に振り回し氷塊を全て叩きおとすと、ユーリに向けてではなく、地面に突き立てる様に槍を真下に投げ落とした。


槍が地面に突き刺さると同時に水面を影が滑る様に広がり影の津波が水も全て巻き込みながら水竜の頭を消しとばしてユーリに迫った。ユーリは前方に飛び込んで2メートルほどになった津波を回避すると、波の通りすぎた地面に転がりながら着地した。突き進んで行った波は内包の水壁にぶつかると水もろとも霧散した。


戻って来ないか一瞬警戒したが、ちゃんと消えるのを確認して、一瞬安堵の息を漏らした。その隙を突かれた。直ぐにミザールとの距離を取る場面でそれを怠った。気が付いた時にはミザールの槍が降り抜かれ指を離れるところだった。前方に飛んだ為に先程の攻撃の時よりも15メートルほどミザールに近い位置にいる。それはつまり、到達までのタイムラグが短くなる事を指し、避けようと足が動いた時には、増殖した槍の切っ先がユーリの身体に届いていた。


右足、左肩、右胸、首を順に槍が刺し貫いた。


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあああああ!!!?ガハッ」


断末魔の叫びをあげ、幻の痛みにのたうち回り、血の混じる胃液を吐き出した。急所に2発この重さは想像以上だった。心臓はそれたものの肺を貫かれる感覚に身体が麻痺する。この痛みを心臓や脳に受けたら間違いなく即死する。嫌な汗が背中を伝い滑り落ちる。自分の身体の動きが明らかに鈍くなる様な重さを感じながら、なんとか立ち上がる。


思いもよらぬミスをして、思考が滑り始める。こうなって仕舞えば芋づる式にミスが出始めてしまう。

冷静に……冷静になれ……

恐怖に呑まれそうになる思考を必死で押さえつける。

こういう場合周囲に目を向けてみた方がよっぽどましだ。


沸騰する思考でありながらもそう判断して、ミザールを警戒して距離をとりつつ、周囲を見回す。先程から全く動いていないミザール。気にもしなかったが、内包の水壁に森の一部と中心の木も巻き込まれている。そして、20メートルほど後方に、それはあった。

その瞬間、光明が差した気がした。これが成功すれば、状況はひっくり返る可能性もある。


それを実行すべくユーリは地面から再び水を呼び出す様に足裏を通して魔力を送り出すと地面を前に出た。それとともに水がいたるところから噴き出し始めた。

ユーリの動きに反応する様にミザールが槍の投擲を再開した。間をすり抜ける様に駆け抜けミザールの真下をスライディングしながら通過する。その際、魔道剣の柄を地面に突き刺すと走り抜け、まだ噴き出し始めたばかりで少ない水を使って先ほどより一回り小さい水竜を作り出し、四方八方から襲いかからせる。それに対して、ミザールは全く動くことなく、影で水竜の攻撃を相殺すると、槍を準備するミザールに向かってターンすると、水で槍を形作り、同時に水払いをすると地面を目一杯踏みしめて槍をミザールに向けて全力投擲する。矢の如き速さでミザールに迫る槍を一瞥すると、前方に投げ出された体の勢いのまま、今度は先程来た方向に走り始める。スピードを落とさないまま、今度は魔導剣に触れて魔力のパスを繋ぐと、走り抜ける。


ある程度離れたところではしりながら後手に先程と同じ様に水竜を作り出し襲撃を開始すると、再び影が遮った。そこに、パスをつないだ魔導剣に最大出力で魔力を送り込んだ。青い光が膨れ上がった直後最大火力で放出した。間欠泉の様な勢いで吹き出された青い剣が、ミザールを襲う。

ギリギリのところで、防がれるが、ユーリはその間に目的の物を手にして反転すると、足元に水竜の応用で足場を作り出し間欠泉が噴き出し、ユーリの身体を押し上げた。ミザールへ向けて全力で水の足場を跳躍すると、ヘレンの斬馬刀を振りかぶると急速に近づくミザールに振り下ろした。水を切り裂く感覚とそれに遅れて実体のある物を確かに叩き切る感覚が手から腕に伝わっていく。これまでにない感覚を腕に感じながら、振り切った。グシャッという肉と骨が断ち切れる音が耳に聞こえた。身体は斬馬刀の重さと勢いに負けて落下し始めた。


それとともに、ミザールも共に落下する。ユーリは地面に叩き付けられ、数メートルバウンドしながら転がった。


「ぐっ……がっ……うぅぅぅう……」


骨が何本かいったのではないかという強い衝撃に一瞬意識が飛びかけるも、なんとか、意識を持ち続ける。もはや立ち上がることすらもできない。なんとかミザールの落ちた地点を見ると、確かにミザールの肉体を両断する事には成功した。しかし、そこからは大量の靄が噴き出していた。


「な……に、が……起きて……だ???」


「あははははははははは、面白い!!面白いぞ!!」


その声と共にミザールの肉体から靄が完全に抜け出し、ふた回りも小さな体を形成していく。黒い体に黒い羽を伸ばし鋭い手足が生えた一つ目の悪魔が不気味な笑みを浮かべた。


「何百年ぶりにこのシャドーアイの姿に戻ったか。たまには気分がいい!!その礼として、お前の皮を被ることにする」


「シャドー……アイ?だと?」


シャドーアイ、影の悪魔と言われその寿命は今の所来ていないという伝承が残されている。絶対数が少ないだけにほとんど、住処から出てこない。しかし、このシャドーアイに遭遇したら真っ先に逃げなくてはならないとされている。その最大の理由は、人の皮を被る能力に由来する。人を殺し被ることで、人間関係を破壊し尽くす。とも言われている。人類種の衰退の元となった化け物だった。


シャドーアイがスーッと空中を滑る様にして、ユーリに近づいてくる。魔力が切れて動くことのできないユーリを舐める様に見るミザールの巨大な一つ目に、ユーリの姿が映って見える。それ程に近い場所にいた。ミザールはニンマリと目で笑うと大きく見開くと目が縦に割れ口が大きく開かれ__


「そこまでです。ミザール」

少女の凜とした声が内包の水壁の中に響き渡った。どこかで聞いたことのあるその声がどうして、入ってこれないはずの水壁の中に響いたのか、なんてことはどうでもいい。


「あ?ああ……ちっ、ティトスか……」

小さく舌打ちをしたミザールが、声のした方向に目を向けた。それにつられる様にユーリもそちらに目を向けた。そして、驚きに目を見開いた。そこに立っていた人物をユーリは知っていた。長く煌めく金髪に人形の様に整った容姿。黒いワンピース、見たことがなかったのは、肩から羽織っている純白のローブだけだった。そう、そいつは____


「お、まえ……なんで……なんでここにお前がいるんだ!?マルティナ・アーガイル!!」


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